A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ 作:赤川島起
車の中で、無言の状況が続く。
話しかけづらい雰囲気の原因は、プロデューサーの表情だろう。
苦々しい顔で、必死に頭を回転させている。
それが空回りかどうかは定かではないが。
→「アイドル達の様子……やっぱり変だった」
マスターが切り出す。
プロデューサーも顔を上げ、話を聞く姿勢になる。
「前提として、シャドウサーヴァントの会話能力はまちまちです。喋れる固体とそうでない個体の両方が今まで確認されてきました」
「シャドウアイドルサーヴァント、―――長いから便宜上シャドウアイドルと言おうか。彼女達の叫び、先の戦闘の終盤では僅かではあるが発音が確認できた」
→「でも、……アイドル達らしくは無かった」
マシュ、マーリンの言に付け加えるマスター。
経験上、シャドウサーヴァントの意思疎通の是非は個体によって異なる。
暴走、洗脳の類であれば別として、シャドウであれど意思はあくまでサーヴァント本人のものだ。
だとすれば、シャドウアイドル達の叫ぶ様子はカルデアでの姿とは似ても似つかない。
「『座』を介した事による『英霊シンデレラ』の方の意思なのか……。いえ、あの様子では違うでしょうね……」
ここで仮契約によるサーヴァントマテリアルで判明した、プロデューサーの宝具について補足する。
通常、アイドルサーヴァントは彼女達が生存している年代でしか召喚できない。
「座」が高次元にではなく、現世に存在しているのが原因だ。
しかしこの結界は世界の狭間。
今も昔も存在しない閉じられた世界。
故に、彼の宝具「
プロデューサーは彼自身が「英霊の座」からの分霊を得ている。
そのため、彼によるシンデレラの召喚は「英霊の座」を経由する。
「英霊シンデレラ」からの分霊を受け継ぎ、アイドル達は擬似サーヴァントとして呼び出される。
アイドルサーヴァント達の召喚制限を受けず、宝具によって自在に召喚が可能。
ただし、彼が直接呼び出せるサーヴァントは自身がプロデュースしたアイドル、または「シンデレラの御者」のみである。
なお、アイドルサーヴァント達の召喚宝具「
カルデアのバックアップがあれば、シンデレラとプロデューサーの違いである召喚制限の有無はあまり関係ないことなのだ。
アイドル達らしからぬ悲痛な叫び。
プロデューサーを責めるような彼女たちの様子は、一人ひとり異なる。
「英霊シンデレラ」の叫びであれば、特色など無く似たような様子となるだろう。
「なら、アイドルたちの様子は彼女たちの本心なのでしょうか……」
弱弱しく、プロデューサーが独白する。
暴走や外的要因を考慮しないのであれば、その可能性は否定できない。
通常、どんな人間にも弱く、脆い一面は存在する。
『私、アイドルやめる!』『信じてもいいと思ったのに……』『何にもない…、私には何にも……!』
彼女たちアイドルは、鋼の精神の持ち主ではない。
スポットライトの当たらない部分では、暗い負の側面が存在した。
苦悩し、道に迷い、挫折した過去がある。
→「きっと、皆なら大丈夫だよ」
立香は、アイドル達の過去を伝聞以上には知らない。
マスターとして、今カルデアに居るアイドル達のことなら知っている。
→「皆、弱くないよ」
生まれながらに不動の精神を持たずとも、鍛えることは出来る。
サーヴァントとなったアイドル達には、その経験がある。
その心は鋼であらずとも、決して脆弱ではない。
「そう、ですか」
プロデューサーの知らない、サーヴァントとしてのアイドル達。
カルデアの一員として、時に遊び、時に働き、時には戦う。
普通の女の子たちが英雄達と肩を並べ、背中を預ける。
その様子は、少し想像し難い。
「皆のカルデアでの生活、お聞きしてもよろしいですか?」
運転しながら、ちひろが質問する。
ちひろは、アイドル達のウワサや日常の一コマには詳しい。
が、プロダクションの外。ましてや外界から隔離された秘密組織、カルデアでの様子は気になるのだろう。
その気持ちは、プロデューサーも同様だ。
→「もちろん」
当然、マスターは快諾する。
マシュと共に、時折マーリンが合いの手を入れながら話していく。
短いながらも、アイドル達と過ごした時間は濃密で話題には事欠かない。
彼らの雑談は、
――――――――――
→「見つけた……!」
今回のシャドウアイドル達との遭遇は、カルデアの方が先に発見した。
だが、そのメリットは活かしきれ無いだろう。
「しかし……これは……」
「待ち伏せだね、間違いなく」
フィールドは、狭い通路の路地。
ちひろの『馬車』ではスピードを出すのも難しく、出したところで直線しか走れない。
空中戦でもないので、マーリンの支援による空中走破もうまみが少ない。
こちらの長所を殺す布陣。
こうなると馬車を降り、地上戦で戦う必要がある。
対して、シャドウアイドルの面々。
バーサーカー、諸星きらり。
アーチャー、三村かな子。
ランサー、多田李衣菜。
セイバー、新田美波。
アサシン、アナスタシア。
こちらと人数では同じ。
しかしこちらの一人は非戦闘員であるマスター。
防御役であるシールダー一人、キャスター二人、騎乗物に頼るライダー一人。
対して相手は、パワーで勝るバーサーカー、三騎士であるセイバー、アーチャー、ランサー、伏兵であるアサシンと隙が少ない。
戦闘員という意味では、こちらが数で不利。
カルデアの方に三騎士は無く、近接戦闘を専門とするのはマシュのみ。
火力に秀でたライダー、ちひろの強みを生かせないことで、状況はかなり不利になる。
「私が前に出ます、皆さん支援お願いします」
宝具である『馬車』を解除し、言葉と共に突撃するちひろ。
自由度が求められる戦場で、味方を一まとめにするのは効率が悪い。
故に降ろす他無いが、その場合ちひろの騎乗スキルの関係上『馬車』の能力が落ちてしまう。
そのため、『馬車』による突撃を諦め、白兵戦で応対する。
ライダーは本来、その性能を宝具に頼る場合が多い。
不足する白兵戦能力を補うように、多量の宝具という手札で戦う。
千川ちひろも、その例に漏れない。
だがしかし、マスターはその様子を無謀とも破れかぶれとも思わない。
なぜなら、ちひろなら出来るという確信と信頼があるからだ。
「はああぁぁ!!」
ギイィィン!!という金属音が響く。
セイバーである美波のシャドウアイドルに、鍔迫り合いからそれを弾くように距離をとる。
ちひろの今のその姿、まるでセイバー。
事務服から一変し、華やかな緑のバトルドレスと一振りの剣。
衣装が変化しただけではなく、明確な剣気も感じ取れる。
これがちひろの持つ固有スキル、『コスプレ・パーティーEX』。
衣装によって能力そのものを変化させ、技術すら獲得する評価規格外スキル。
『シンデレラの御者』に由来せず、ちひろの個性が元となっている。
本当のセイバークラスのサーヴァントには及ばないが、シャドウサーヴァントに対する武器としては十分有効だ。
「■■■―■■―■―■■■!」
ただ、思ったよりも相手の圧力が強い。
マスターが後方に回っている為、前衛の人数に差ができる。
「くっ――――!」
そして、シンデレラのキャスターは肉弾戦が不得手である。
体格は兎も角、プロデューサーにも『シンデレラの魔法使い』にも戦闘技能は無い。
支援に秀でたサーヴァントの宿命か、直接的な戦闘力は低い。
同じく近接戦闘を不得手とするアサシン、アナスタシアに苦戦している様子からも明らかだ。
話しかけ、説得する様子も見えるが効果は無いようだ。
「やああぁぁ!!」
マシュが、バーサーカーであるパワーファイターのきらりを押さえる。
一撃一撃が重く、思わず足を止められる。
「おっと、そっちはダメさ!」
一対二をこなすマーリンは、一番負担が大きい。
不可視の武器には慣れているからか李衣菜のエアギターをいなし、かな子の射撃を魔術によって迎撃する。
冠位の魔術師であり、アルトリアの剣の師匠である彼ならではの芸当だ。
「プ―■■■■―ヲ―■■■!」
彼女たちの慟哭に、発音が時折混じる。
その音数に比例するかのように、彼女たちの攻撃は苛烈さを増す。
このままではジリ貧。
今の状況を打破すべく、マスターが札を切る。
→「令呪を持って命じる!ライダーよ、その身を強化せよ!」
莫大な魔力リソースがすべてちひろに集約され、その身を強化する。
宝具を封じられてもなお、スキルを駆使して戦力足らんとする彼女にマスターは全力でバックアップする。
今、彼女が突破口だと判断したゆえの令呪。
「美波ちゃん、ごめんね!!」
攻撃力を増し、その剣閃でシャドウアイドルを吹き飛ばす。
飛ばした先に居るのは、アサシンのアナスタシア。
折り重なる二人。
その彼女達は、地面に吸い込まれるように溶けていった。
→「――――――これはっ!?」
周りを見ると状況を不利と感じたのか、逃げるように地面に吸い込まれるシャドウアイドル。
一人、又一人と姿をくらませる。
その中で。
「ぷろでゅーさー――――」
ノイズまみれの、しかし聞き取れる声で彼女は声を発した。
「シンジデタノニ――――」
その内容は、底冷えする怨嗟の声だった。
コスプレ・パーティーEX
自身のバスター性能アップ&アーツ性能アップ&クイック性能アップ〔Lv6〕(3T)
+自身の防御力をアップ(3T)[CT7]