A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ 作:赤川島起
答えを出す時がきた。
全員がそれを感じ取っていた。
プロデューサーの担当アイドル達。
シンデレラプロジェクトの14人。
絶叫し、悲痛な様子のシャドウアイドル。
不完全な宝具展開。
ここは、――――――
アイドル達と共に、サーヴァントになる為の試練。
――――――――――
あの戦闘から、一言も発しないプロデューサー。
苦しそうな、でも真剣な表情で思考している。
考えて、考えて、考えて。
必死に答えを探す。
「今は声をかけないほうが良い。あくまで、これは試練であり試験。彼が答えを探し、
と、マーリンは語った。
助力することは出来る。
励ますことも出来る。
しかし、代わりに解答をすることは出来ない。
「先輩……」
苦々しい表情で、周りを見るように促すマシュ。
結界に綻びが出始めた。
元々、此処はたった一人のサーヴァントが展開している固有結界。
世界の干渉を受けない『無』の空間とはいえ、長時間は維持できない。
回答の時間は迫っている。
「…………。」
もくもくと、ただ運転するちひろ。
彼女もまた、固有結界によって召喚されたサーヴァント。
プロデューサーをサポートし、助けるアシスタント。
ただ、彼女自身がプロデューサーの代役にはなれない。
時間は無い。
一緒に推理し、力になった。
カルデアでのアイドル達の話で励ましもした。
ここからは、彼だけで答えを出さなければならない。
――――――――――
車を降りる。
到着した場所、その建物を見上げる。
プレートには、――『346プロダクション』。
彼ら彼女らにとっての日常。
苦楽を共にする、シンデレラ達の居場所。
少女の理想、夢へと至る偶像の城。
そのシンデレラ城の前に、立っているシャドウアイドル。
「――――――。」
「――――――。」
「――――――。」
ライダー、本田未央。
アサシン、渋谷凛。
キャスター、島村卯月。
いや、「ニュージェネレーションズ」だけではない。
『――――――。』
合計14人。
今まで対峙した、シンデレラプロジェクトのシャドウアイドル。
声は聞こえない。
ただ幽鬼のように佇んでいるだけ。
「………………。」
カツ、カツ、カツ。と、足音が無人の大都会に響く。
一人で前へ、彼女たちの傍へ。
→「がんばれ…………!」
小言で祈るマスター。
結界は縮小した。完全に消え去るまで、もう長くない。
そんな中、彼は己に秘めた思いを告げる。
さあ、解答の時間だ。
『ぷろでゅーさー――――――ナンデニゲタノ?』
『ドウシテ?』
『ワタシタチノコト、チャントミテナカッタノ?』
ガラガラした声で、流暢に話しかけてくるシャドウアイドル。
話の内容は、恨み。
プロデューサーを責めるためだけに述べられた言葉。
『コワカッタ』
『ニゲタカッタ』
『クルシカッタ』
『ナンデ、タスケテクレナカッタノ?』
立て続けに述べられる怨念。
恨み辛みを、プロデューサーに吐き出していく。
苦しそうな表情で、しかし目を逸らさずに向かい合うプロデューサー。
そんな彼に、シャドウアイドル達は容赦なく罵声を浴びせる。
「ワタシ、あいどるニナンテナラナケレバヨカッタ!!」
その一言が、彼にとっては決定的だった。
「あなたたちは――――――、」
目を閉じる。
ここに来て、初めてアイドルから目を外した。
アイドル達にではなく、――――己自身に語りかける為に。
「島村さん達ではありません」
それは、シャドウアイドル達への否定の言葉。
アイドルの形をした影達が、一歩たじろぐ。
それを見て、解答が正解であることを悟った。
プロデューサーである彼の解答。
この結界にアイドル達は召喚されていない。
「かつて、私のせいで辛い思いをさせてしまいました」
「力不足で、考えが足りなくて、大事なことに気付けなくて」
「アイドルの皆さんに何度も助けられて、教えてもらいました」
「私のせいで、アイドルを辞めさせてしまった人がいました。シンデレラプロジェクトだって、消滅しかけたこともありました。アイドルを、辞めさせてしまうかも知れませんでした……」
「でも、……皆さんは乗り越えて、途中で立ち止まっても、最後まで歩き続けた!」
「どんなに辛くても、
彼女達は、普通の女の子たちだ。
泣いて、笑って、困難にぶつかって、それを乗り越えてきたアイドル達だ。
アイドルを辞めようと思っても、期待に押しつぶされそうになっても。
彼女達は――――、アイドルになったことに、後悔はしていない。
「貴方達はシンデレラ・プロジェクトの皆さんじゃない!
かつてのトラウマ。
己から離れ、去っていったシンデレラ達。
その彼女たちと、シンデレラ・プロジェクトのメンバーを重ねてしまった姿。
彼の宝具「
それが、シャドウアイドルの正体。
そもそも、この結界にアイドル達は召喚されていないのである。
『■■■■■■■■■■■■!!』
悲鳴を上げるシャドウアイドル。
それは、演じられた恨みではなく、突きつけられた正答への慟哭。
プロデューサーの感情そのものである影達は、もはやアイドルの姿すら保てずグズグズに溶けていく。
→「やった!!」
「先輩!!プロデューサーさんが、見事正解しました!」
結界が狭まる。
己の弱さと向き合い、アイドル達を信頼して出した答え。
アイドルをプロデュースする者として、彼はその資格を得た。
役割を終えたためか、結界は消滅へと進めていく。
しかし、――――――結界の消滅は、突如に停止した。
「これは…………?」
346プロダクションを中心に、中途半端に結界が残った。
消えていくビルは途中欠け。道路も不自然に寸断されている。
広くもないが狭くもない。
人間からすれば十分広いが、町とも区とも呼べない空間。
大きさにしてドームぐらいだろうか。
目算だが、大きく外してはいないだろう。
そして気づく。
グズグズに溶けたはずの影が、集まり、形を作り上げていく様を。
ボコボコと、沸騰するかのように容積を増していく。
14人の少女たち程の体積などではない。
巨大で、そして見覚えある姿へと変貌していく。
その姿、魔神影柱。
「なんなんですか、あれは……」
見覚えのないちひろが、そう言葉を漏らす。
深夜の結界舞台にしか居なかった筈の、魔神柱の再現である影。
だが、魔神影柱を元々生み出したのは――――他ならぬプロデューサーである。
「深夜結界の名残、感情の叫びから共鳴した残響。プロデューサー君の恐怖から生まれた影達が、かつての深夜結界舞台の情報を元に体裁を整えただけ、魔神柱の
トラウマを、完全に払拭するなど簡単な事ではない。
アイドル達と同じく、等身大の人間であるプロデューサーには。
故に、プロデューサーの感情の具現たるあの影は、簡単には消滅しない。
負の感情は、正の感情を否定する。
こちらに向けられた確かな敵意。
これが、サーヴァントになる為の最終試練。
シンデレラの助けになれることを、戦いをもって証明せよ!
「皆さんの笑顔を咲かすために――――、『
全員の衣装が変わる。
戦意は十分。もはや迷いは微塵もない。
やるべき事がはっきりした。
いまなら、魔神影柱だろうと怖くはない。
→「皆、行くよ!!」
マスターの号令をもって、最終試験のベルが鳴る。
魔神影柱との再戦が始まった。
――――――――――
シンデレラのキャスターであるプロデューサーの宝具。
女性にアイドル属性を付与し、その仲間たちに恩恵を与える効果を持つ。
発動には、対象の了承を得なければならない。
例えば、先の戦闘では恩恵こそ得ていたが、ちひろにアイドル属性は付与されていなかった。
これは、ちひろがマシュというシンデレラをアシストすることに集中していたためである。
そう、あくまで彼女はアシスタント。
主役ではなく、シンデレラを輝かせる役目を全うする従者の一人。
「これは、あの時の
だが、もしも――――
「誰も知らない私の姿」
ちひろが
「輝きましょう。
それは、このような姿になるのだろう。
「――――綺麗…………」
→「…………うん」
思わずため息が漏れる。
一新したちひろの姿に、思わず目を奪われる。
スターリースカイ・ブライト。
シンデレラたちの白いドレス。
アシスタントであるちひろが、アイドル達と同じ衣装を身に纏う。
そうでいて、彼女の『馬車』は白馬と共に健在だ。
対己宝具、
プロデューサーと同種の宝具である、自身を強化し、
千川ちひろ。
彼女は「御者」と「シンデレラ」両方の特性を持つサーヴァントなのである。
「ブルルッ!!」「フシュゥ!」
使い魔である『チーちゃん』と『ユーくん』が気合も十分に足を鳴らす。
白馬の「御者」で「友達」のちひろを乗せて、かぼちゃの馬車は走り出す。
千川ちひろという、シンデレラを乗せて。
――――――――――
この世界は直に終わる。
勝敗に関係なく、結界は消滅する。
シンデレラの仲間達は、己の役割を貫く為に戦う。
影の魔神、感情の化身を倒すことで。
自身の存在を肯定する為に。
宝具:シンデレラに変える魔法(パワー・オブ・スマイル)
コマンド:Arts
味方全体の弱体状態を解除
+味方全体の最大HP(lv1)
+味方全体のアーツ性能をアップ(3T)<オーバーチャージで効果アップ>
+味方全体の女性サーヴァントに〔アイドルサーヴァント〕属性を付与(バトル中永続)
宝具:四月限定特別舞台(シンデレラドリーム・エイプリル)
コマンド:Arts
自身に〔アイドルサーヴァント〕属性を付与(3T)
+敵全体に強力な攻撃〔Lv1〕
+スターを大量獲得<オーバーチャージで効果アップ>