A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ   作:赤川島起

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IF最終章 3つめのスキル

魔神影柱の猛攻が、広範囲へ波及する。

狭い結界内での範囲攻撃は、マスターにも小規模ながらダメージが入る。

その小規模でさえ、エーテル体とはいえ人間である立香には危険だ。

故に、いつだって頼りになってきた後輩、マスターの最終防衛ライン、――――マシュがいる。

 

「やああぁぁぁ!!」

 

大盾を振り回し、攻撃を弾き返す。

ピンクのティアラが燦然と輝き、シンデレラの霊基に恥じぬ美しさをもって戦っている。

 

「ふっ!」

 

剣を振るい、猛攻を見せるのは前衛を任されたマーリン。

キャスターであるが、この場で最も戦闘技能を持つため前衛に配置されていた。

魔術による防御と中距離攻撃、剣術による近距離攻撃を駆使して戦っている。

加えて、マシュやちひろに対しての補助魔術も同時並行しており、その技量の高さを存分に発揮していた。

 

「援護します!」

 

そんなマーリンを、さらにサポートするプロデューサー。

もとより、彼に戦闘技術は一切無い。

彼はあくまでプロデューサーであり、シンデレラの魔法使い。

自身ではなく、他者をプロデュースするのが彼の本領。

それを象徴するのが、スキル「プロデューサーA+++」。

最高ランクで獲得されたサポート系スキル。

 

「ありがとう。助かる、よ!!」

 

先ほどより、機敏に剣が動くマーリン。

目に見えて、強化されたのが分かる。

マーリンだけではなく、マシュやちひろに向けてもサポートを切らさない。

本物には劣るとはいえ、戦闘型サーヴァントを複数そろえて戦うべき魔神柱を相手取っている以上、彼のスキルによる援護は生命線とも言うべき状況だ。

 

「チーちゃん!ユーくん!頑張って!」

 

己の使い魔にして、シンデレラの友である白馬(ネズミ)に激励を飛ばすちひろ。

カルデア側における最大火力である彼女は、マーリンとプロデューサーの補助もあって空中を疾走している。

突進により少なくないダメージを与えるが、決め手にはならない。

役割柄、肉体的負担が最も多く、ちひろや白馬達にも疲労とダメージが見える。

 

 

 

→「令呪を持って全サーヴァントに命じる、負った傷を回復せよ!」

 

 

 

令呪を使用し、サーヴァント達のダメージをリセットするマスター。

対象を散らした為に効果は薄まるが、『負った』傷を回復するという命令の為、ダメージの多いサーヴァントに効果が集中することで活用した。

 

 

 

→「さらに令呪を重ねて命ず、――――――皆でこの試練に合格しよう!!」

 

 

 

さらに、最後の令呪を魔力タンク代わりに使用する。

踏ん張りどころであると判断し、もう一押しのための力に変えた。

 

「はい!」

 

「了解だよ」

 

「分かりました!」

 

「もちろんです!」

 

サーヴァント達が気合十分に返事をする。

魔神影柱は、彼らにとって倒せない相手ではない。

戦闘に秀でてなくとも、そのポテンシャルをもって影の魔神を押し返す。

前回のような、複数の魔神影柱が相手であれば話は違っただろう。

だがしかし、此度の相手は一柱。

増援も、援軍も、魔神影柱には無かったのである。

 

 

 

「――――――――――!!」

 

 

 

魔神影柱が崩壊を始めた。

令呪をも武器にした戦力に、勝利の天秤がカルデアへと傾いている。

後一押し。

最後の一撃はシンデレラのライダー、――――千川ちひろに託された。

 

 

 

「これで、――――幕引きです!!」

 

 

 

白馬が嘶き、馬車が込められた魔力によって光を纏う。

かぼちゃの馬車は、シンデレラの為にある。

使い魔の白馬達は、友の為に全力で走る。

彼女の騎乗スキルが最大限機能するのは、シンデレラを乗せ、かぼちゃの馬車の形態になった時。

千川ちひろの最強攻撃。

四月限定特別舞台(シンデレラドリーム・エイプリル)を発動し、使い魔に騎乗しての突進攻撃。

 

そして、さらに威力を底上げする為、最後の切り札が発動する。

 

 

 

 

 

令呪を持って命じます(・・・・・・・・・・)――――――――」

 

 

 

 

 

令呪が輝き、そのリソースがちひろへと宿る。

だがしかし、マスターの令呪は既に無い。

三画の令呪は、先も含めた激闘の中で使い切った。

サーヴァントへの絶対命令権は、マスターしか持たない。

 

だがここに、とある称号(・・)を持つ者が存在する。

 

 

 

 

 

「千川さん、――――勝って下さい!!」

 

 

 

 

 

莫大な魔力が迸り、速度と威力が増していく。

これがプロデューサーの3つめの固有スキル、「アイドルマスターEX」。

アイドルにのみ有効な三画の令呪を保持する評価規格外スキル。

ルーラーの最高特権、クラススキル「神明裁決」と同種の――――――令呪を行使できるスキル。

 

 

 

→「いっけええええぇぇ!!」

 

 

 

突撃が炸裂する。

シンデレラの従者達による、協力の一撃。

 

 

 

令呪という願いを乗せたかぼちゃの馬車は、――――――魔神影柱を貫いた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

→「………………勝った……?」

 

「の、でしょうか?」

 

動きが止まり、大きな風穴の開いた魔神影柱。

それを成した馬車に乗るシンデレラ(ちひろ)は、マスター達の方へと帰還する。

皆、疲労の色が濃い。

だが、この戦いはカルデアの勝ちで決着である。

もはや、あの影達は形を保つことすら不可能なのだから。

 

 

 

 

 

「――――――――――!!」

 

 

 

 

 

魔神影柱が発狂する。

形を保てないなりの、魔神影柱最期の足掻き。

もとよりあれらは、プロデューサーの恐怖(かんじょう)の具現。

その感情が昂ぶり、風穴を中心に影が集中する。

 

 

 

「これは!?残った魔力が暴走している!このままじゃ、ここも無事では済まない!」

 

 

 

溢れ切った感情は、文字通り爆発しようとしている(・・・・・・・・・・・・・・)

シャドウサーヴァントの影が溶け、渦となって加速する。

溶けた影が集まって、一つの球体に――――爆弾になった。

 

 

 

「――――――――――!!」

 

 

 

始まった暴走。

制御できない感情の爆発へのカウントダウン。

その破壊力は、根本の燃料であるプロデューサーの感情の強度に比例する。

彼の信念、アイドル達への想いが強いために威力も規模も格段に大きい。

 

 

 

ザッ。

 

 

 

マシュが無言のまま、庇うように前に出た。

爆発(アレ)を防げば全てが終わる。

出来なければ、エーテル体とはいえマスターと共にその魂が砕かれるだろう。

この結界における最後の役割。

完全勝利の為の全身全霊の防御。

それらが全て、あどけない少女の肩に圧し掛かっている。

 

 

 

「…………マシュさん」

 

 

 

プロデューサーが令呪を構える。

彼の宝具によってアイドル属性を付与されているマシュもまた、令呪の恩恵を享受できる。

 

 

 

「笑顔で居てください」

 

 

 

一画、令呪が消えた。

それは、マシュへ向けたアドバイス。

 

 

 

「――――はい!」

 

 

 

満面の笑み。

頭を過ぎったのは、カルデアに居るアイドル達。

彼女たちの笑顔は、いつだって皆の力になっていた。

自分だってそうだ。

なら、――――――自身もそうでありたいと思う。

 

 

 

「それと――――アイドルに、なってみませんか?」

 

 

 

一画、最後の令呪が消える。

彼の言は、もはや命令ではなく。

だがそれは、どんな命令にも勝る願い。

 

 

 

「――――――こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

 

 

二画の令呪がマシュに宿る。

プロデューサーから、新人のアイドルへ。

新たなシンデレラガールズに彼の宝具、シンデレラに変える魔法(パワー・オブ・スマイル) が反応した。

 

 

 

 

 

「これは少女の理想」

 

 

 

「夢へといたる偶像の城」

 

 

 

「共鳴せよ!」

 

 

 

 

 

乙女よ永久に(キャッスル・オブ・)――――偶像の城(シンデレラ)!!」

 

 

 

 

 

城が、現れた。

キャメロットが白亜の城であるならば、そのシンデレラ城は純白の城。

屋根の色はカラフルで、ピンクとブルーとオレンジ色。

その城は本来何処にも存在せず、偶像としてのみ人々(ファン)の心に刻まれている。

少女達が夢見る、偶像であり虚像の城。

 

 

 

「はあああああぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

爆発を受け止める。

一歩も引かず、宝具を展開し続けるマシュ。

彼女が獲得した、シンデレラ時限定宝具『乙女よ永久に偶像の城(キャッスル・オブ・シンデレラ)』。

夢を守る特性を持つ防御であり、他者から守られる(・・・・)宝具でもある。

いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)』は精神の守り。

 

己の心が壊れなければ、その盾は決して壊れない。

 

乙女よ永久に偶像の城(キャッスル・オブ・シンデレラ)』は、ある意味ではその逆。

誰かに夢を与え、またその誰かから力を貰う。

 

他者の夢が砕かれぬ限り、その盾は決して砕かれない。

 

ファンからの応援、信仰心、届けられた希望がそのまま力になる。

それは、この場にいない『誰か』からも。

今までの旅路、関わってきた人たち。

マシュを応援したいと想う人々の心が、彼女の宝具を強化する。

 

 

 

その姿はまさに、紛れも無いシンデレラの形。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

短い時間、従者たちとの試練は終わりを迎える。

 

最後の爆発も防ぎ切り、ここに新たなサーヴァントが2騎誕生した。

 

シンデレラ達に寄り添う、二人の従者。

 

アシスタントとプロデューサー。

 

彼と彼女は走り始める。

 

『アイドルマスター』の名に恥じない為に。

 

そして何より、アイドル達のために――――――。

 

 

 

 

 




マシュ・キリエライト[深夜の舞台衣装]時のスキル・宝具が開放されました。

真のアイドル(偽)B+++ 自身のHPを回復〔lv1〕+毎ターンスター獲得状態を付与〔lv1〕(5T)[CT9]

焦がれ歌う少女の盾 味方全体の攻撃力&防御力アップ〔lv1〕(3T)[CT7]

一会を心に夢幻の守り 自身にターゲット集中状態を付与(1T)+自身の被ダメージ時のNP獲得量アップ〔lv1〕(1T)[CT7]



宝具:乙女よ永久に偶像の城(キャッスル・オブ・シンデレラ)

味方全体に強化解除耐性をアップ<オーバーチャージで効果アップ>
+味方全体に無敵状態を付与(1T)
+味方全体の防御力をアップ〔Lv3〕



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