A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ   作:赤川島起

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第3章 shadow_enemy

 現状の確認を行った彼らであるが、話題はこれからのことについてシフトしていた。

 特異点の異変がこの結界にあるとわかった以上、以前のブリーフィングの決定は無意味となる。

 内容は当然、結界内の探索ということになった。

 

「任せてください!私、このあたりはよく知っているので」

 

 →「頼もしいよ」

 

『さて、探索するにあたってだが、まずは何処を見るかだね』

 

「でしたら、まずはこの建物内がよいのではないでしょうか?安全地帯として利用していますが、思わぬ伏兵が潜んでいるやも知れません」

 

「ジャンヌの言うとおりだな。気を抜いたところで、背中から刺されては目も当てられない。無論、そう簡単に許すつもりはないが、可能性は潰したほうがいいだろう」

 

「問題は、この建物の敷地があまりにも広いことですね。今は存在しなくとも、潜入される可能性がありますから」

 

 アルトリアの言うとおり、アサシンのシャドウサーヴァントなどが潜入、暗殺を目論んだらマスターや卯月の危険は大きい。

 しかし、だからといって探索しないほうが愚作だろう。

 建物の構造を理解しておくのは、兵法の常識。

 三人とも戦を経験しているサーヴァントである為、見解は一致しており反対意見はマスターを含めゼロだ。

 まあ、ここまでのやり取りも衣装姿であるため、威厳は半減しているが。

 ともかく、一向はプロダクション内を捜索することに決めたのだった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「……建物として充実しているのは見て取れました。しかし、中身の豪華さに私の時代とのギャップを感じずにはいられません。アーチャー、この建物の設備はビルという形状であれば一般的なのですか?」

 

「まさか、私としても驚いているくらいだ。衣裳部屋やレッスンルーム、撮影会場はともかく、豪華な入浴施設にスパ、カフェ、間違いなく企業の福利厚生としては最上級だよ」

 

「私は、もともと城や宮殿というのには疎い人間でした。現代に精通しているエミヤや城を保持していた騎士王がそういうのであれば、ここの設備は恵まれているのでしょうね」

 

 建物の設備について歓談する英霊達と、中を案内する卯月。

 そのすぐ後ろで一人、考え込んでいるマシュ。

 必然、マスターたる立香が話しかける。

 

 →「どうしたの?」

 

「いえ、少し、今の私の状態について考えていました」

 

 →「かわいいよ?」

 

「あの、えっと、……そういうことではなくてですね。私は本来、戦える状態にはありませんでした。しかし、卯月さんの宝具によって、戦える状態に戻っているんです。先輩の力になれるのはとてもうれしいのですが、正直何がどうなっているのか……」

 

『ずばり、その質問にお答えしよう』

 

「ダ・ヴィンチちゃん!?」

 

『霊基を調べた際にわかったんだけど、マシュが戦えている原因は魔術回路を使っていないからなのさ』

 

→「魔術回路を?」

 

『そう、マシュは卯月ちゃんの宝具によって霊基が継ぎ足されている(・・・・・・・・・・・)

 

「それは、以前のスカサハさんによる霊基の変質とは違うのですか?」

 

『微妙に違う。スカサハは霊基を変えていた。が、今回はマシュの霊基はそのままに、シンデレラの霊基の一部が追加されている。丁度、マシュの身体を覆う形でだ。マシュが使っている力は、あくまで表面上のものでしかないのさ』

 

「ですが、表面上の力にしては強すぎると思うんです」

 

『それは簡単さ。立香君、卯月ちゃんの宝具については確認したね?』

 

→「うん」

 

『彼女の宝具は、善性の人物に対して効力が増す。実際、マシュ、アルトリアとジャンヌ、立香君、エミヤの順番で強化に差ができている。彼女の宝具との相性と性別の影響だろう。特にマシュは宝具が同じ対悪宝具だ。もっとも強く影響を受けたんだろうね』

 

ダ・ヴィンチちゃんの補足に納得をするマシュとマスター。

ジャンヌとアルトリア、マシュの属性は「善」。

立香は不明だが、おそらく「善」。

そしてエミヤは「中庸」だ。

加えて性格や気質、宝具との相性があるなら間違いなくマシュが一番だ。

そこで立香は考える。

マシュと卯月の相性がいいのだとしたら、もしかしたら、マシュはアイドルに向いているのかもしれないと。

なんとなくそう思うのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「下がってください」

 

警戒を飛ばし、マスターの前にでるサーヴァントたち。

廊下を歩く最中、警戒していた出来事が現実となった。

目の前にいるのはシャドウサーヴァント。

数は2体。シルエットから清姫とエリザベートのものだと推測される。

 

「……おかしいですね」

 

「ああ、私も同感だ」

 

アルトリアとエミヤの言葉の通り、カルデア一同は違和感を感じ、困惑している。

立香は、何処となく理解できていた。

戦闘経験の乏しい卯月ですら、なんとなく感じ取っていた。

 

 

 

目の前のシャドウサーヴァントからは、およそ敵意と呼べるものが全く感じられない。

 

 

 

襲い掛かってくることもなく、ただ廊下を歩くようにこちらへと向かってくる。

 

一歩

 

二歩

 

三歩

 

→「ちょっと待って」

 

迎撃体制をとっていたサーヴァントたちを制止し、おもむろにシャドウサーヴァントに近づく立香。

いかに卯月の宝具で強化されようとも、劣化と言えどサーヴァントを前にすればただではすまない。

間違いなく悪手と言えるその行動に、影の清姫が急に速度を上げた。

やはり罠かと、サーヴァントたちがマスターを助ける間もなく

 

 

 

立香は清姫(影)に抱きしめられた。

 

 

 

→「…………はい?」

 

前に出ていた立香でさえ、唖然とする中、エリザベート(影)がおもむろに近づき、清姫(影)に対して抗議するようなジェスチャーをする。

シャドウサーヴァントは喋れない為、サイレントムービーを見ているかのような寸劇が繰り広げられている。

抗議に反応してか、立香から離れた清姫(影)はエリザベート(影)とのキャットファイトを繰り広げる。

 

「これは、どういうことなのでしょう?」

 

ジャンヌの言った事は、この場全員の共通する感想であった。

 

『ふむ。これはなんとも奇妙な画だね。まるで、カルデアの彼女たちを見ているかのようだ。これはあれだね、一言で言うのならば”昨日の敵は今日の友”。この結界のシャドウサーヴァント達は倒すことで仲間にできる、と言うことかな?』

 

ホームズの推理は、カルデアの面々の腑に落ちた。

倒したり、戦った相手と時に友誼を結び、仲間となる。

声こそないが、目の前の出来事は彼らの旅、聖杯探索(グランドオーダー)の足跡を見ているかのようだった。

 

 

 

 

 

346プロダクションを探索した結果、彼らが倒した15体のシャドウサーヴァント。

そのすべてが敵意なく自由に過ごしていた。

シャドウサーヴァントは、いうなれば英霊の現象(・・・・・)に近い。

まるで、カルデアの様子を現象として再現しているかのようだった。

 

「これはあれか。このプロダクションは擬似的なカルデアとでも言うような場所なのか?」

 

「本当のところはわかりません。ウヅキ、貴女の所属するプロダクションのアイドルたちはどんな方たちなのですか?」

 

「えっと、たとえばですね……」

 

アルトリアの質問に対し、卯月の知る限り様々なアイドルたちについて語っていく。

自身のユニットのメンバーたちを始め、他にも個性豊か過ぎるアイドルたち。

彼女が語るアイドルたちを聞くほどに、彼らはこう思っていた。

 

カルデアと同じくらい強烈な場所だ、と。

 

さらにすごいのが、古今東西あらゆる時代の英傑たちが集うのではなく。

魔術に関わらない、現代人の集ったアイドル集団でありながら、カルデアと同等クラスのキャラクターがそろっているのが奇跡的といえるだろう。

 

閑話休題(はなしをもどす)

 

先ほどホームズが語った内容が現実味を帯びてきたと言えるだろう。

結界の効果や意図は分からない。

が、このプロダクションが擬似的なカルデアと呼べるのならば、卯月がサーヴァントになっていることにも関連性が見えてくる。

おそらく、この事象は無関係ではない。

 

「これまでの状況を総合した仮説、倒したシャドウサーヴァントが戦力として味方になる。ならば、確認する方法は単純だ」

 

→「外のシャドウサーヴァントを倒せばいい」

 

「そうですね。アイドルたちとこの結界に関連性がある可能性も出てきた。ならば、ウヅキ以外のアイドルたちが召喚されている可能性がある」

 

「もしそうだとしたら、私……助けに行きたいです!」

 

「もちろんです。貴女は仮とはいえマスターのサーヴァント。貴女の仲間は私たちの仲間。仲間に危険が迫っているかもしれないのなら、助けに行く。そうですよね、マスター」

 

→「ジャンヌの言うとおり」

 

「方針は決まりましたね」

 

指針はプロダクションにおける仮説の検証及びアイドルたちの捜索。

目的を定めた一同は、プロダクションの外へ向かう。

彼らは強い。

こと助けると決めたときは特に。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

シャドウサーヴァントが跋扈する静寂な街。

幾分か戦闘をこなしてきたところであるため、周りに敵であるシャドウサーヴァントはいなくなっていた。

そう、あくまで敵であるシャドウサーヴァントは。

 

「まさか、付いてきたシャドウサーヴァントが味方になってくれるとはな」

 

エミヤの言ったとおり、ここにはプロダクションから付いてきたシャドウサーヴァント達が好き勝手に過ごしていた。

先ほどまで、カルデアの味方として戦っていたのだ。

卯月を助けるときよりも、多くのシャドウサーヴァントが立ちふさがったが、危なげなく勝てたのは彼らのおかげだろう。

 

『これは、ホームズの推理に真実味が帯びてきたかな?となると、あのプロダクションにおける安全地帯としての信用性が増してきたね』

 

『私とて、根拠なく推理していたわけではないからね。そして、実際この推理が当たってしまった』

 

眉をひそめ、苦言をこぼしたかのようなホームズ。

それはまるで、――――嫌な推理が当たってしまっているかのようだった。

 

『気をつけたまえ。もしかしたら、もう既に――――』

 

 

 

ホームズが言い切る前に、大きな揺れが彼らを襲う。

 

 

 

→「地震……じゃない!」

 

立香の言うことは正しい。

現実とは乖離した結界である以上、大陸プレートの揺れである地震など起こりえない。

 

であるならば、原因は彼らの近くにあるであろう――――巨大なナニカであるだろう。

 

 

 

 

 

かくしてソレ(・・)は現れた。

巨大な姿。

黒々とした色。

今までの旅路で、彼らを幾度となく苦しめた敵。

 

 

 

 

 

「魔神……柱……」

 

 

 

 

 

否、かの魔神柱はここまで黒くなかった(・・・・・・・・・・)

目玉があるはずの場所は、丸い凹凸があるだけだ。

色に変化がなく、明らかに今までの魔神柱と一線を画している。

 

その姿、シャドウ魔神柱とでも言えばいいだろうか。

まず、本物ではないだろう。

しかし、魔神柱に敵意がないはずはなく。

 

 

「っ。魔神柱、来ます!」

 

→「戦闘準備!」

 

「はい!対魔神柱戦、行きます!」

 

 

 

偽りの魔神柱は、彼らに襲い掛かってきた。

 

 

 

 

 


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