A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ 作:赤川島起
「影英霊の援軍」 毎ターン敵に固定ダメージ
影の魔神柱との戦闘。
シャドウサーヴァントたちの援護も入り、順調に切り崩していく。
やはり”シャドウ”であるためか、通常の魔神柱と比べ確実に劣化している。
「魔神柱の魔力低下!もう少しです、先輩!」
劣化した魔神柱の戦闘能力は低い。
具体的には、戦闘型サーヴァントが複数いれば余裕を持って勝てるだろう。
消滅間際の魔神柱。
次第に影の形が崩れていき、形を持った魔力の崩壊が大きく音を響かせる。
その音は、彼の者が終わりを告げる声なき断末魔。
しかしてそれは、彼”ら”にとっての警笛であった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
攻撃とは別に、新たに地面が揺れる。
→「また!?」
「先ほどより揺れが大きいです!?」
地面を貫き、新たに出現した影の魔神柱。
総数にして8体。
先ほどの魔神柱を含め、合計9体の魔神柱討伐という難題に気圧されかけたマスター。
一瞬怯んだマスターを横に、サーヴァントが魔神柱に向かって駆け抜ける。
しかし駆け抜けた英霊というのは、シャドウサーヴァントであった。
影だろうと偽者だろうと、我ら英雄の誇りに偽りなし。
とでも言うかのような、勇猛果敢な突撃であった。
その最中、ジャンヌのシャドウサーヴァントがこちらを向いた。
影であるため、表情は判らず声もない。
(私たちが活路を開きます)
カルデアの面々、とりわけマスターである立香は、まるでそう言っているかのように思えた。
「やれやれ、シャドウサーヴァントに鼓舞されるとはな。マスターを守るのを優先して遅れたなど言い訳にもならない」
皮肉気に自虐するエミヤ。
その手の白黒の双剣を握る手が強まる。
「同感です。純粋なサーヴァントに劣る彼らが魅せてくれたのです。私たちがしっかりしなければ英霊として立つ瀬がない」
魔力放出を強め、エクスカリバーの輝きが増す。
ドレスの優雅さは損なわれず、しかして鋭き力強さが両立している。
「影の私に負けてはいられません。この旗に誓って、彼らの誇りに報いましょう」
旗に付く刃がきらりと光り、まるで宝石のように威圧する。
クルクルと舞うように回転させ、そして戦いへ向けて構える。
「私も、皆さんのお手伝いできるなら。島村卯月、がんばります!」
両の手を握り締め、目をそらさずに前を向く。
影であるため軽減されているが、醜悪な魔神柱相手に一歩も引かない。
スキル「絶えない笑顔EX」。
彼女は挫けず、勇気を持って仲間を助ける。
「引き続き、対魔神柱戦行きます!皆さんの背中は、私が守ります!」
ドレス姿でありながら、勇ましさや頼もしさを感じるさせるマシュ。
美しい姿とギャップを感じる彼女の武装が地面を鳴らす。
この結界に入るまで、久しく使用していなかった大盾が歓喜を叫ぶように音を鳴らす。
→「もうひと踏ん張り、がんばって!」
マスターの声援を合図に、一斉に駆け出すサーヴァントたち。
卯月はあまりマスターから離れ過ぎない位置で、宝具とスキルを使って支援する。
彼女の援護を受け、さらに勢いを増すシャドウを含めたサーヴァントたち。
今の彼らにとって、目の前の魔神柱もどきなど恐れるに足りなかった。
――――――――――
戦闘終了。
味方であるシャドウサーヴァントたちも動きを止め、魔神柱の崩壊を確認する。
掻き消えるように消滅し、残ったのは自陣の味方と破壊の跡。
東京の都市に残る爪あとは、無人の空間ならではの空虚な場所となっていた。
『魔神柱討伐、お疲れ様。……いや、あれほど劣化しているのなら別の呼び方が必要だね。
→「純粋な魔神柱ほどじゃなかった」
「そうなんですか?私はもうへとへとですぅ……」
初の魔神柱、いや、魔神影柱戦で緊張の糸が切れたのか、ぺたんと座り込む卯月。
疲労の色は見て取れ、玉のような汗が額に浮かんでいる。
援護やスキル、宝具による消費魔力も大きいからだろう。
「いや、ちょっと待って下さい。私たちの
マシュの疑問も当然だろう。
午後十二時少しすぎから今まで、変身と強化は続きっぱなしである。
時間にして約五時間。
変身だけならともかく、強化までこの長時間続けるには相当量の魔力が必要だ。
ましてや、前半は仮契約無しであった為、カルデアからのバックアップを受けていない。
さらに、卯月の宝具はA+ランク。
強化の相性による上下を無視したとしても、明らかにカルデアが消費した魔力に釣り合っていないのだ。
「うーんと、その、……魔力って言うのが、私はまだ感覚として分かっていないんだと思います……。その、すいません」
しょぼんとする卯月だが、彼女に非はないだろう。
彼女はサーヴァントとしては成り立てどころか、一般人がいきなりサーヴァントになっただけである。
今まで全く関わってなかった事柄を、彼女に説明しろというほうが酷だろう。
「いえ、卯月さんは悪くないですよ。魔力消費で疲労しているのか心配しただけですから……」
『一先ず、このことは検証していくとしよう。魔力消費を何処からかで肩代わりしているのか、他にも仮説はあるだろうが証拠はないからね』
ホームズが一度話題をリセットし、これからの動向へと話を変える。
疲労困憊といったマスターと卯月。
必然、拠点であるプロダクションへの帰還を考慮する。
『現在の時刻は、六時前だね。安全地帯が確保できた以上、そろそろ仮眠も必要だ』
「はい、これ以上の無理な探索は危険です。もし、新たな魔神影柱と遭遇したら先輩たちが持ちません」
→「マシュも無理しないで」
『そうだよ、マシュだってデミ・サーヴァント。睡眠は必要なんだ、無茶は禁物だよ』
ダ・ヴィンチちゃんの言の通り、マシュも久しぶりの戦闘で肉体と精神の疲労は無視できない。
満場一致で帰還することに決定した面々。
疲れた足取りで、プロダクションへと歩みを続ける。
そんな彼らを、東京に似つかわしくない星々が明るく照らす。
夏休みの午前六時近く、結界内は朝日の無い深夜のままだった。
――――――――――
結界の中で、時と星は動かない。
深夜でありながら、足元がはっきりと見えるほどに月と星があたりを照らす。
時間は再びやってくる。
彼らにとってはあずかり知らぬ事。
そのリミットは、――――ちょうど、六時間。
――――――――――
ゴーン、ゴーン、ゴーン。
結界内に響く鐘の音。
これは何処からともなく聞こえてくる、時計塔の奏でる音色。
突如聞こえてきたその音に反応するよりも早く、――――味方のシャドウサーヴァントが掻き消えた。
「先輩!これは!」
シャドウサーヴァントだけではない。
周りの建物、あるいは空間そのものが揺れ解けていく。
この現象は、鐘の音とリンクしている。
音が響くたびに、結界が解けるスピードが増す。
鐘の音が告げる、魔法が解ける合図。
シンデレラにかけられた魔法は、今この時を持って終了すると。
「あ……れ……?」
イメージを払拭したいが為か、卯月に対してみんなが振り向く。
彼女の体は、鐘の音と共に薄くなっていた。
→「卯月ちゃん!?」
マスターが叫ぶ。
今の彼女は生霊がベース。
ここで消えようが、本体である彼女の命に別状はないだろう。
ただし、ここまでの六時間の記憶がどうなるかは不明である。
それはつまり、彼女とのつながりが消えるかもしれないということを意味する。
「きっと大丈夫ですよ、マスターさん」
彼女は微笑む。
自身が消えていくというのに、不安が表情に見えない。
それは彼女が、信じているから。
「忘れたんですか?今の私は、――――マスターさんのサーヴァントなんですよ」
かくして卯月は結界から姿を消した。
しばらくすれば、カルデアのメンバーもはじき出されるだろう。
しかし、卯月はまた会えると信じている。
それは、サーヴァントとしてのつながりがあるから。
――――――――――
景色が変わった。
目の前にあるのは窓越しの東京。
朝日は既に昇っており、街では朝早い人たちが活動を始めている。
今、そばにいるのはエミヤだけ。
おそらく、隣の部屋ではマシュ達がいるだろう。
まるで、一夜の夢であったかのような印象さえ受ける。
しかし、確かな記憶として。
彼らの記憶には、島村卯月の名前が刻まれていた。
『しんみりしているとこ申し訳ない。ダ・ヴィンチちゃんからのアドバイスを伝えよう』
その後に続く言葉に、マスターはあっけに取られた。
サーヴァントであるならば、マスターとの間にある確かな絆であり必須項目。
サーヴァントとは
そんな当たり前にして、確かなつながりを。
――――――――――
『もしもし、島村卯月です。――――――えっと、マスターさん……ですよね?』