A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ   作:赤川島起

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魔神柱戦における特殊効果

「影英霊の援軍」 毎ターン敵に固定ダメージ


第3章 shadow_enemy 2

 影の魔神柱との戦闘。

 シャドウサーヴァントたちの援護も入り、順調に切り崩していく。

 やはり”シャドウ”であるためか、通常の魔神柱と比べ確実に劣化している。

 

「魔神柱の魔力低下!もう少しです、先輩!」

 

 劣化した魔神柱の戦闘能力は低い。

 具体的には、戦闘型サーヴァントが複数いれば余裕を持って勝てるだろう。

 消滅間際の魔神柱。

 次第に影の形が崩れていき、形を持った魔力の崩壊が大きく音を響かせる。

 その音は、彼の者が終わりを告げる声なき断末魔。

 

 しかしてそれは、彼”ら”にとっての警笛であった。

 

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

 

 

 攻撃とは別に、新たに地面が揺れる。

 

 

 

 →「また!?」

 

「先ほどより揺れが大きいです!?」

 

 

 

 地面を貫き、新たに出現した影の魔神柱。

 総数にして8体。

 先ほどの魔神柱を含め、合計9体の魔神柱討伐という難題に気圧されかけたマスター。

 

 

 

 一瞬怯んだマスターを横に、サーヴァントが魔神柱に向かって駆け抜ける。

 しかし駆け抜けた英霊というのは、シャドウサーヴァントであった。

 影だろうと偽者だろうと、我ら英雄の誇りに偽りなし。

 とでも言うかのような、勇猛果敢な突撃であった。

 その最中、ジャンヌのシャドウサーヴァントがこちらを向いた。

 影であるため、表情は判らず声もない。

 

(私たちが活路を開きます)

 

 カルデアの面々、とりわけマスターである立香は、まるでそう言っているかのように思えた。

 

「やれやれ、シャドウサーヴァントに鼓舞されるとはな。マスターを守るのを優先して遅れたなど言い訳にもならない」

 

 皮肉気に自虐するエミヤ。

 その手の白黒の双剣を握る手が強まる。

 

「同感です。純粋なサーヴァントに劣る彼らが魅せてくれたのです。私たちがしっかりしなければ英霊として立つ瀬がない」

 

 魔力放出を強め、エクスカリバーの輝きが増す。

 ドレスの優雅さは損なわれず、しかして鋭き力強さが両立している。

 

「影の私に負けてはいられません。この旗に誓って、彼らの誇りに報いましょう」

 

 旗に付く刃がきらりと光り、まるで宝石のように威圧する。

 クルクルと舞うように回転させ、そして戦いへ向けて構える。

 

「私も、皆さんのお手伝いできるなら。島村卯月、がんばります!」

 

 両の手を握り締め、目をそらさずに前を向く。

 影であるため軽減されているが、醜悪な魔神柱相手に一歩も引かない。

 スキル「絶えない笑顔EX」。

 彼女は挫けず、勇気を持って仲間を助ける。

 

「引き続き、対魔神柱戦行きます!皆さんの背中は、私が守ります!」

 

 ドレス姿でありながら、勇ましさや頼もしさを感じるさせるマシュ。

 美しい姿とギャップを感じる彼女の武装が地面を鳴らす。

 この結界に入るまで、久しく使用していなかった大盾が歓喜を叫ぶように音を鳴らす。

 

 →「もうひと踏ん張り、がんばって!」

 

 マスターの声援を合図に、一斉に駆け出すサーヴァントたち。

 卯月はあまりマスターから離れ過ぎない位置で、宝具とスキルを使って支援する。

 彼女の援護を受け、さらに勢いを増すシャドウを含めたサーヴァントたち。

 今の彼らにとって、目の前の魔神柱もどきなど恐れるに足りなかった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 戦闘終了。

 味方であるシャドウサーヴァントたちも動きを止め、魔神柱の崩壊を確認する。

 掻き消えるように消滅し、残ったのは自陣の味方と破壊の跡。

 東京の都市に残る爪あとは、無人の空間ならではの空虚な場所となっていた。

 

『魔神柱討伐、お疲れ様。……いや、あれほど劣化しているのなら別の呼び方が必要だね。魔神影柱(まじんえいちゅう)とでも呼ぼうか』

 

 →「純粋な魔神柱ほどじゃなかった」

 

「そうなんですか?私はもうへとへとですぅ……」

 

 初の魔神柱、いや、魔神影柱戦で緊張の糸が切れたのか、ぺたんと座り込む卯月。

 疲労の色は見て取れ、玉のような汗が額に浮かんでいる。

 援護やスキル、宝具による消費魔力も大きいからだろう。

 

「いや、ちょっと待って下さい。私たちの衣装変化(きょうか)はまだ続いています。卯月さん、魔力の消費は大丈夫なんですか!?」

 

 マシュの疑問も当然だろう。

 午後十二時少しすぎから今まで、変身と強化は続きっぱなしである。

 時間にして約五時間。

 変身だけならともかく、強化までこの長時間続けるには相当量の魔力が必要だ。

 ましてや、前半は仮契約無しであった為、カルデアからのバックアップを受けていない。

 さらに、卯月の宝具はA+ランク。

 強化の相性による上下を無視したとしても、明らかにカルデアが消費した魔力に釣り合っていないのだ。

 

「うーんと、その、……魔力って言うのが、私はまだ感覚として分かっていないんだと思います……。その、すいません」

 

 しょぼんとする卯月だが、彼女に非はないだろう。

 彼女はサーヴァントとしては成り立てどころか、一般人がいきなりサーヴァントになっただけである。

 今まで全く関わってなかった事柄を、彼女に説明しろというほうが酷だろう。

 

「いえ、卯月さんは悪くないですよ。魔力消費で疲労しているのか心配しただけですから……」

 

『一先ず、このことは検証していくとしよう。魔力消費を何処からかで肩代わりしているのか、他にも仮説はあるだろうが証拠はないからね』

 

 ホームズが一度話題をリセットし、これからの動向へと話を変える。

 疲労困憊といったマスターと卯月。

 必然、拠点であるプロダクションへの帰還を考慮する。

 

『現在の時刻は、六時前だね。安全地帯が確保できた以上、そろそろ仮眠も必要だ』

 

「はい、これ以上の無理な探索は危険です。もし、新たな魔神影柱と遭遇したら先輩たちが持ちません」

 

 →「マシュも無理しないで」

 

『そうだよ、マシュだってデミ・サーヴァント。睡眠は必要なんだ、無茶は禁物だよ』

 

 ダ・ヴィンチちゃんの言の通り、マシュも久しぶりの戦闘で肉体と精神の疲労は無視できない。

 満場一致で帰還することに決定した面々。

 疲れた足取りで、プロダクションへと歩みを続ける。

 そんな彼らを、東京に似つかわしくない星々が明るく照らす。

 

 

 

 

 

 夏休みの午前六時近く、結界内は朝日の無い深夜のままだった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 結界の中で、時と星は動かない。

 

 深夜でありながら、足元がはっきりと見えるほどに月と星があたりを照らす。

 

 時間は再びやってくる。

 

 彼らにとってはあずかり知らぬ事。

 

 この結界は時限式(・・・・・・・・)

 

 そのリミットは、――――ちょうど、六時間。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 ゴーン、ゴーン、ゴーン。

 結界内に響く鐘の音。

 これは何処からともなく聞こえてくる、時計塔の奏でる音色。

 突如聞こえてきたその音に反応するよりも早く、――――味方のシャドウサーヴァントが掻き消えた。

 

「先輩!これは!」

 

 シャドウサーヴァントだけではない。

 周りの建物、あるいは空間そのものが揺れ解けていく。

 この現象は、鐘の音とリンクしている。

 音が響くたびに、結界が解けるスピードが増す。

 島村卯月(シンデレラ)がいるからか、このイメージが頭をよぎる。

 

 

 

 鐘の音が告げる、魔法が解ける合図。

 シンデレラにかけられた魔法は、今この時を持って終了すると。

 

 

 

「あ……れ……?」

 

 

 

 イメージを払拭したいが為か、卯月に対してみんなが振り向く。

 彼女の体は、鐘の音と共に薄くなっていた。

 

 →「卯月ちゃん!?」

 

 マスターが叫ぶ。

 今の彼女は生霊がベース。

 ここで消えようが、本体である彼女の命に別状はないだろう。

 ただし、ここまでの六時間の記憶がどうなるかは不明である。

 

 それはつまり、彼女とのつながりが消えるかもしれないということを意味する。

 

 

 

 

 

「きっと大丈夫ですよ、マスターさん」

 

 

 

 

 

 彼女は微笑む。

 自身が消えていくというのに、不安が表情に見えない。

 それは彼女が、信じているから。

 

 

 

 

 

「忘れたんですか?今の私は、――――マスターさんのサーヴァントなんですよ」

 

 

 

 

 

 かくして卯月は結界から姿を消した。

 しばらくすれば、カルデアのメンバーもはじき出されるだろう。

 しかし、卯月はまた会えると信じている。

 それは、サーヴァントとしてのつながりがあるから。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 景色が変わった。

 目の前にあるのは窓越しの東京。

 朝日は既に昇っており、街では朝早い人たちが活動を始めている。

 今、そばにいるのはエミヤだけ。

 おそらく、隣の部屋ではマシュ達がいるだろう。

 まるで、一夜の夢であったかのような印象さえ受ける。

 

 

 

 しかし、確かな記憶として。

 彼らの記憶には、島村卯月の名前が刻まれていた。

 

 

 

 

 

『しんみりしているとこ申し訳ない。ダ・ヴィンチちゃんからのアドバイスを伝えよう』

 

 

 

 

 

 その後に続く言葉に、マスターはあっけに取られた。

 サーヴァントであるならば、マスターとの間にある確かな絆であり必須項目。

 

 

 

 サーヴァントとは念話が可能である(・・・・・・・・)

 

 

 

 そんな当たり前にして、確かなつながりを。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

『もしもし、島村卯月です。――――――えっと、マスターさん……ですよね?』

 

 

 

 

 


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