そもそも概念礼装とは一体なんだろうか?
大雑把に言ってしまえば人や物、魂や魔術といったもの。それらの概念を抽出したもの、らしい。その歴史は古く、遺跡からはメダル型や指輪型など様々な形の物も見つかっている。
自分は魔術師として未熟ゆえにその程度しか知らない。が、それくらい知っていれば十分だ。
要は積み重ねてきた事や意味を、サーヴァントの霊基に組み込めるような力にしたものであり、なおかつ扱いやすいようにカード状の形を与えたものだ。
そして、このベルトはそれらを人の扱える力に変える能力を持つ。
ーー先程手に入れた
人が人のまま人の積み重ねた力を纏い戦う。その為に行う儀式。それが
ーーーー変身ーー
completeという機械音。薄く青白い光を放つ人造霊基のラインが全身を駆け巡るのと共に制服がカルデア戦闘服へ変換され、膝や肩などにパッドが装備されていく。
その中でも一際目立つのは顔全体を覆うように装備されたヘルメットだろう。
だが変身は終わりではない。ベルトに手をかけ、スキャナーを起動する。
ーー概念ライド【リミテッド ゼロオーバー】ーーー
スロットにセットされた
左半身に霊基によって擬似的に再現された魔術刻印。袴風の脚部パーツ、冬木の熱風を受け靡く羽織り。そして一振りの日本刀を腰に携える。
地獄のような風景を切り裂くように、変身の余韻で大気に溢れた魔力を右手で払う。蒼い風が冬木の地を駆ける。
「先輩…….その姿は…?」
希望だよ。
「希望…?」
夢を守り皆を守る。変身したからには、自分は最後の希望にならなきゃいけないのさ。
そうして格好つけたところで、すぐ側に矢が着弾し、崩れかけだった廃墟が更に崩れる。
アーチャーからの攻撃だ。崩れゆく廃墟から所長を連れて脱出するようにマシュに指示を出し、自分はアーチャーへ向かって走り出す。
ーーーーーーーーーー
「てっきり逃げ出すものかと思ったがね」
正義の味方が逃げ出したらお話しにならないとは思わないだろうか?
「正義の味方なら、か…くくっ確かに」
廃墟から飛び出した自分を待っていたのは浅黒い肌の東洋人だ。その手に弓を持っている事からアーチャーだと分かる。
「しかし先ほどのような油断は良くないんじゃないか?」
いいや。あれは油断ではない。
矢が飛んで来ているのは認識していた。しかし避ける必要がないと判断しただけだ。
「ほう?私が外すと思ったのか?」
そうではない。貴方は“必ず初弾を外す”。次から当てると言わんばかりに当ててこないのだ。
「フハハ!見破られていたか!あまりに未熟なマスターだと侮り過ぎたか。その通り、少し戦場を教えてやろうという老婆心さ」
ひとしきり笑ったアーチャーは、その顔から笑みを消し弓を構える。
「ではここからは本気でいくぞ。貴様が正義の味方だと言うなら私を超えてみせろ!」
言われずともそのつもりだ。
さぁ、ひとっ走り付き合ってもらおうか!
駆け出すのと矢が放たれるのは同時であった。
人間であれば視認する事も出来ないであろう速度で放たれる矢。しかし変身し、概念礼装を纏う事で擬似的にサーヴァントと同等の能力を持つに至ったこの身ならば捌くことは容易い。
腰に下げた日本刀を抜刀し、矢を斬りはらう。
続けて2、3射と放たれる矢も斬りはらい走り続ける。
アーチャーとの戦いでは懐に入った方が有利になると言うのが常道だ。
あのアーチャーがどこの英雄なのかは知らないが、接近戦の方が勝機はあるはず。
「ーー我が骨子は捻れ狂う」
瞬間全身が危険を捉える。アーチャーの放った矢から強い魔力を感知したのだ。
あれは斬り払えない…!
即座に腰のホルスターから概念礼装を1枚取り出し、スロットにセット、スキャン。
ーー概念ライド【月霊髄液】ーー
足元から吹き出した水銀が周囲を囲みドーム型の壁を形成する。しかしこの形態では防ぎ切れないと判断し、あの矢の着弾点に集中防御させる。
そこまで行ったところで着弾。水銀は飛び散り焼け焦げ、その量を減らしたが自分は無傷。そのまま走り続ける。
「カラドボルグを防ぐとはな!」
軽い驚きを含みながらも矢を放つ手を止めることはしない。
先の矢に比べれば威力は低いが、当たれば大きなダメージになるだろう。
だが今なら残った月霊髄液が矢を防いでくれる。
今のうちに距離を縮めるべきだろう。
そう判断し、更に概念礼装をスキャンする。
ーー概念ライド【先制】ーーーー
羽織りと袴に人工霊基のラインが走り、概念が追加される。
走る脚がこれまでより強くアスファルトを蹴る。
時に矢を払い、時に避け、時に月霊髄液で受け、ついにアーチャーに肉薄する。
30メートル。人間にとっては決して近くはない距離だが、サーヴァントにとっては一足で埋められる距離だ。
「まさかたどり着くとはな。手加減したつもりは無かったが……」
自分だって死にものぐるいなのだ。そう簡単に死ぬつもりは無い。
そう言って刀を正面に構える。
アーチャーは不敵に笑うだけだ。
何か秘策があるのか……?ここまで防御させていた月霊髄液は既に使い切った。それでも退くという選択肢は無い。
覚悟を決めて飛び込む。刀の軌跡はアーチャーの首を狙う。弓兵の彼に防ぐ手段は……ないはずだ。
しかし次の瞬間キーン、と金属同士がぶつかる高い音が辺りに響く。遅れて鈍い衝撃が握る手に伝わってきた。
振り下ろした刀は、アーチャーの手にした双剣によって防がれていた。
弓兵なのに剣術だと!!?
鍔迫り合いの向こう側でアーチャーは薄く笑っていた。
アーチャー の くせ に なまいき だ !