モンスターハンターワールドのPV見てたら書きたくなりましたので、思いきって書いてみました。
「あいつの頼みを受けるんじゃなかった…」
1人小さく呟く青年、シダル・スプロット。
ダルそうな言葉とは裏腹にその目は真剣そのもので鋭い。
草原の中にある背の高い草花に隠れ腹這いになっているシダルはブツブツ言いながらも、真剣な目はただ一点を見据えていた。
緑広がる草原に青と黒の鮮やかなストライプ模様のついた何かが辺りを見渡している。
赤いトサカを持ち、黄色いくちばしのような口からノコギリのような鋭利な歯が僅かに見える。
小型の鳥竜種である『ランポス』。
体高約2㍍、全長は5.8㍍程。鋭い爪を両手両足に持ち群れで行動する。腕には大した力は無いことから、立派な爪で獲物を攻撃することは出来ず、しかし代わりに発達したその脚力による跳躍で両の爪を突き立てる。
気配に敏感で臆病。傷を負うと相手がケルビのような草食獣でも逃げることがある。
仲間意識が強く、特に群れのリーダーがいる場合は相手が飛竜であろうと戦う。
もう一度言おう、小型モンスターである。
ハンター育成所で座学として学び、訓練所で実際戦い、この草原広がる平原地帯でも何度も戦ったランポス。
大したことはない。特段強い訳でもない。数が揃うと厄介なだけで、油断や不意を突かれなければ問題なく狩れるモンスターだ。
「3匹ってことは、群れもそこそこの大きさの筈…。それがこんなところまで出てきているとなると」
はぁ…。とため息をついた。
一般的にランポスのような小型の鳥竜種は、群れの大きさによって行動する数や作るグループの多さが比例する。
一昨日からの調査で3匹1グループが4。群れのリーダーの取り巻きを考えて、大体20近くの群れであることが判明した。
大抵はそんな大所帯は平原地帯ではなく、森丘や密林等といった獲物が多く生息する場所にテリトリーをつくる。
そして現在、大所帯がそのテリトリーを放棄せざるをえない状況になったと考えなければならない。
つまりランポスよりも上位の存在。分かりやすく言えば飛竜などに追い払われてこの平原地帯にいるのだと。
「アオアシラとかなら何とかってところなんだがなぁ…」
大所帯のランポスの群れは、アオアシラ程度の牙獣種であれば基本テリトリーを奪われることは無い。むしろ逆にアオアシラがテリトリーを追われるのだ。
なので、場合にもよるがランポス掃討の依頼は高ランクになることもある。
シダルは最悪の事態にならないように、1人で密かに祈り始めた。
ードンドルマハンター訓練所ー
「しっかり振れバカモノ!飛竜は止まってはおらんぞ!」
クロオビシリーズを纏った初老の男が、太刀を振るうシダルを含めた6人に怒鳴り付ける。ちなみに6人はハンターシリーズである。
「いいか!飛竜と戦うに当たって先ずすることは、あの強固な甲殻を剥がすことだ!何故だか答えろ!シダル・スプロット!」
問われたシダルはすぐさま素振りを止め、王国騎士団さながらの見事な敬礼。声を張り上げるため、大きく息を吸う。
「はい!武器の消耗を抑え、効率良くダメージを与えるためですオセオン教官!」
「そうだ!貴様らは去年体感しただろうが、基本的に飛竜の甲殻に太刀では効果が薄い。それどころか弾かれたり、食い込んで抜けなくなってそのまま殺される。それを防ぐための今やっている鱗斬りは必ず修得しろ!出来ない者は太刀を扱う資格はない!」
鱗斬りとは文字通り、太刀で鱗・甲殻を切り落とす技の事だ。切り落とすとは言っても鱗と鱗の隙間に刃を滑らせて、肉と鱗の接合部を剥がすが正しいので実際は斬らない。
オセオンの言う体感したというのは、訓練生達が去年ハンターナイフ片手に闘技場へ放り込まれて、両脚を切断されてバタつくことしか出来ないイャンクックに一太刀入れろという一種の度胸試しである。
ちなみにその時油断した一部の訓練生はイャンクックのブレスである火炎液を受けて40人中3人が重傷、1人は再起不能になる程の火傷を負った。
「勿論です!」
教科書通りの回答をしたシダルにオセオンは満足そうに頷いた。
「いいか!ハンターが扱う武器は一種類だ!貴様ら太刀組は太刀が己の腕と見間違うまで振るい続けろ!」
様々な武器種があるなかで、ハンターは1つだけを選ばなければならない。シダルが選んだのは太刀。一番人気が無い。
一番人気があるのは大剣で、次にハンマーである。
女性はほとんど弓とライトボウガンである。理由は簡単、筋肉を付けたくないからだ。
弓とライトボウガンは金がかかるが、装備自体は軽い。弓は改良を重ねられ、一定の位置までは軽く引くことができ、それ以上引くと弾かれるように矢が飛んでいくのだ。
ライトボウガンはヘヴィボウガンのように甲殻を貫く火力は無いが、様々な状態異常を引き起こす特殊な弾を扱うことを主としている。
ので、比較的安全に立ち回ることができるのだ。
男性のトップである大剣やハンマーは、勿論他の武器と比べて圧倒的に攻撃力が高いからである。攻撃力はロマンとまで言われるので、その人気はとてつもなく高い。
意外と男も女も単純なものである。
太刀に人気が集まらないのは、見た目以上の重量に中途半端な攻撃力と、大剣のように楯として機能しない点、そして密林や洞窟内での取り回しにくさは大剣と変わらない。
つまりデメリットが大剣以上、そして大剣以上のメリットは多少軽いことのみ。
そんな認識の太刀は人気が少なく、パーティーを組む際も敬遠されやすい。
「ふー…。今日も疲れたな。今日で卒業だってのに言うことやること全く変わらないのなあのジジイ」
湯に浸かり、シダルのそれとなく溢した言葉。しかし、耳敏い残りの5人はうんうんと大袈裟に首を振っている。
最後の訓練が終了し、太刀を振るっていた6人は汗を流しに訓練所内にある温泉に来ているのだ。
ともあれ、明日から新米とはいえハンターである。
彼らの顔は分かりやすいほどに嬉しそうだった。
ある者は鉱石採掘メンバーとして、ある者は薬師の助手として、そしてある者は栄光を求めてハンターを目指す。
そう。ハンターとはモンスターを狩る者として人々から見られるが、実際は人と自然のバランサーで、モンスターを狩ることは主目的ではない。ありとあらゆる分野において自然と密接な関係のある仕事にハンターの存在は必要不可欠なのだ。
「なぁシダル」
「なんだドルニク?」
シダルへ声をかけたのは、短髪で群青の髪に6人の中でも抜群に体格の良い青年だった。
ちなみにこのドルニク、栄光のためにハンターになろうとした。
「今度弓組の女の子達と合コンすんだけど、人数足らねーから来てくんね?」
「断る。それにお前来週から平原地帯の調査依頼受けてるただろ?2~3日じゃ戻ってこれないのにどうするつもりだ」
ドルニクはあっ!?と声をあげる。そうだったと言わんばかりの反応にシダルは前もって告げる。
付き合いは短くないため、次の言葉が容易に想像がついたからだ。
「シダル!たの「断る」…お願いだ!今回の合コンには弓組一番のリーシャちゃんが来るんだよ!やっと漕ぎ着けたんだ、こんなチャンス二度と来ないんだよ!なぁ頼むよシダルー!」
「風呂に入ってる時にベタベタくっついてくるな!」
裸同士でくっついていると気持ち悪いのは、シダルは勿論他の4人もでげんなりしている。男と男の過剰なスキンシップなど毒でしかないのだ。
引き剥がそうにも体格の差でそれが出来ず、イエスと言うまでしがみついてくるドルニクに寒気を感じたシダルは渋々ドルニクの頼みを聞き入れた。
すなわちドルニクの調査依頼の代行である。
「さっすが親友!快く引き受けてくれると思ったぜ!リーシャちゃん以外なら紹介してやるからな!」
シダルの肩をバシバシ叩き、ドルニクは風呂を後にした。
女性に興味がない訳ではないが、ドルニクのようにあそこまで貪欲にガツガツはできない。
シダルはため息をついてもう一度体を洗い直した。
風呂から上がりインナーに着替えながらシダルは愚痴を溢しそうになる口をつぐみながら、夕食を食べていないことに気が付いた。
自由時間はまだ残っている。シダルはストレス解消もかねて街へと繰り出した。
蛇足だが、ドルニクの栄光のためにハンターに、という文言の後には女の子にモテモテになるから、という一文が加わるのを忘れてはいけない。
ワイワイと賑やかな飲食店街を横目で見ながら目的の場所を目指す。
どこもかしこも酒を飲んでは食い、飲んでは食いを繰り返す。余所の者から見れば祭りか何かと勘違いするかもしれないが、ドンドルマではこれが普通なのだ。その日1日1日に感謝を込めて、また明日もこうでありますようにと願いを込めて、彼らドンドルマの人々は今日もお祭り騒ぎである。
そんな飲食店街から少し離れた場所にあるのは、馬鹿デカイ屋敷。ドンドルマでもトップクラスに大きいこの屋敷はハンター専用の酒場である。数百人のハンター達が集まるにはこの大きさが必要なのだろう。
訪れたハンターズギルドの酒場の扉を開く。
木製の丈夫な素材であるユクモの木で作られた特注品らしい。
シダルは強烈な酒の臭気が満ち満ちた中を、酔っぱらい達を掻き分けながら歩いて行く。
ふと目を移せば、ランクごとに振り分けられた依頼受注掲示板があり、ランク3を中心に人だかりができている。
依頼の受注は勿論、報酬の受け渡しもここで行われるが、当然ながら酒場としても大いに繁盛している。
それはこの酔っぱらい達を掻き分けながら進まなければならないことから察せられるだろう。
そしてハンターがこぞってこの酒場に集まる理由は2つ。
1つ目。ハンター達はギルドの経営する店では割引してもらえる。それは単にハンターの贔屓等ではなく、一般人との無闇な争いを避けるというのが一番の理由だ。ハンターと一般人では持っている常識があまりにも違うのだ。
2つ目はハンターが多く集まっていると情報が集まりやすい。酒場でばか騒ぎをしている連中ばかりだが、他のハンターの会話などを細かく聞き取っているのだ。そこで気になれば更なる情報のために直接話しかけて交渉する。交渉のやり方は様々だ。荒くれものが多いのがハンターだとわかれば自ずと想像できる筈である。
とはいっても、モンスターを討伐したりする怖いもの知らずで荒くれものの彼らでも、キチンと序列が組まれている。
それがハンターランクと呼ばれるものだ。
1が最低ランクで7が最高ランク。訓練生であるシダルはまだランクが2だ。
ちなみにランク4で一人前。5で天才。6で化け物と言われている。最上位の7だが、これは伝説上とまで呼ばれる古龍の討伐を行ったなどの1国を救うようなハンターのみで、あのココットの英雄レベルでなければ、そのランクは釣り合わない。
空いてるカウンター席に腰をかけ、メニューを片手に受付嬢兼店員を呼んだ。
「あら、シダルくん。遅めの夕食ね?」
現れたのは濡れ羽色の美しい髪が特徴の受付嬢ジェシカ。
妖艶な色気を醸し出すこの女性は、この酒場の責任者でありハンター人気No.1の看板娘である。
「ええ、めんどくさいのに絡まれまして。お陰で来週の予定が丸々潰れましたよ。養殖アプトノスのステーキとハチミツサワーお願いします」
「ふふ、相手がモンスターじゃないだけマシよ。狩り場で1ヶ月サバイバルなんて穏やかじゃないわ。あ、霜降りトマトがあるからオマケしてあげる」
さらっととあるハンターのとんでもない話を混ぜてきたジェシカ。
ちなみにだが、受付嬢は基本的にドンドルマを拠点とするハンターほぼ全ての顔と名前を覚えている。
ドンドルマを拠点としているハンターは数百人。シダルを含めたヒヨッコハンターでさえも網羅しているので、その記憶力がとんでもないことは言うまでもない。
「ありがとうございます」
「いいのよ。腐らせたら勿体無いでしょ?」
シダルは養殖アプトノスのステーキが来るまで、ハチミツサワーを飲みながら明日からの平原地帯調査では何事もないことを願った。
「霜降りトマトが食べたい…」
数日前の瑞々しい霜降りトマトの味が恋しいシダルだが、先程から観察していた3匹のランポスが、シダルに気づくことなく何処かへ行ってしまったのを確認すると立ち上がった。
ハンターシリーズについた土をはたき落として、肩にかけた鉄刀を背負い直し歩き始める。
向かう先は平原地帯の更に奥、森丘。
のどかな雰囲気で、貴族などはよくケルビの狩猟場として使用する地域でもある。
しかし、奥に進むにつれて木々が生い茂り、一部は太陽の光がほとんど入らないような状態である。しかもシンボルのように目立つ、細く空に延びた岩山は中が空洞になっており、度々飛竜の巣として使われているのだ。
なので、森丘では飛竜と遭遇する可能性が低くないのである。
飛竜観測隊という特殊な調査隊が各狩猟場から、1週間ごとに報告が上げられるが現在はその報告は上がっていない。が、あくまでもそれは1週間前の報告であり今はどうかなど分かるはずもない。
草原以外ほとんど何も無いなかを二時間ほど歩くと、草原地帯と森丘地帯の境目に辿り着いた。
近くの手頃な岩に腰を下ろし、持ってきた地図を開く。
「え~と、まずはどうするかだな。とりあえずアプトノスの群れの調査して、それから飛竜の水呑場として使われてそうな北と南西の池を調査。最後に気が進まないけど中央の岩山を見て終わりだな」
広げた地図に回るルートを書き込み、皮袋に飲み口を着けた水筒で水分を補給する。
これはルドロスというモンスターから取れる海綿体を、皮袋の中に入れることで、見た目より多くの水を持ち運び出来るようになったハンター御用達の水筒である。
さらにファンゴの干し肉を幾つか食べて腹ごしらえをし、鉄刀を抜いて軽く振る。
ヒィン…
と音をたてる愛刀に問題がないことを確認してシダルは森丘に向けて足を進めた。