Side 追手
時は黒歌が追手の悪魔に目潰しをしたところまで遡る。
「クソがぁっ!!あの小娘ぇ、よくも俺の目に土なんぞをっ!!ただじゃおかないぞっ」
「くっくっく、小娘ごとき1人で十分だとか宣っていた割には随分な有様じゃあないか、プレスティード?」
「うるせぇぞ!!バルディア!!」
黒歌によって目潰しをされた『兵士』の転生悪魔、プレスティードは激昂していた。
たかが妖怪の、それもレアな種類のモノとはいえ所詮は子供、まさか自分に噛み付いてくるなどと毛ほどにも思っていなかった彼は彼女の突然の反撃に咄嗟に反応できず、無様な姿を晒し、その上自身が毛嫌いしている同僚、『騎士』のバルディアに見られたからだ。
「ちぃっ、屋敷に連れ帰ったらあいつをあの妹の前で徹底的に辱めてやるぞっ!!!!」
「よせよせ、そんなことしてみろ。主の怒りの矛先が我らにも及んでしまうではないか。ただでさえ、彼奴らの脱走を許してしまった衛兵どもに主はご立腹だといのに」
「黙れ!!てめぇを今この場で爆殺してやろうか!!?」
「よしなさいな、2人とも、今はそんな下らないケンカをするよりもしなければならないことがあるでしょうに」
プレスティードとバルディアが言い争っていると、彼らの頭上から女性の声が響く。
「おや、てっきり飽きて帰ってしまったのかと思っていましたよ、ナターリア」
「うふふ、そうね、本当ならこんな疲れることしたくないんですけれど、あの可愛らしい子猫ちゃんたちを伯爵公認で虐めてあげることが出来るんですもの。それを見逃す手はないわ」
彼ら2人の前に降りてきた女性、『僧侶』のナターリアは黒歌と白音を屋敷に連れ帰るまでのこの『狩』を存分に嬲る腹積りでいたのだ。
ナターリアは黒歌たちの苦しむ様を妄想して頰を朱く染め、どこか淫靡な表情を浮かべていた。
「やれやれ、また彼女の悪趣味が表に出てきましたねぇ。これがなければ良い同僚と言えるのですがねぇ」
バルディアがどこか疲れたような気配を漂わせながら言うと・・・
ズシン・・・ズシン・・・
と何かとてつもなく重い何かが大地を震わせて、ゆっくりとバルディアたちの元に近づいて来た。
『おぉぉい、まってくれよぉぉぉ!おまえらぁ、はぇぇよぉぉ!!』
そして『それ』はバルディアたちの前に現れた。
『それ』は4Mを優に超える背を持ち、二足歩行をしながらのっそのっそと歩く・・・
・・・・・・カバだった。
「ふむ、ようやく追いつきましたか、メーヴィ」
『おでは、おまえたちと、ちがって、おもいし、せがたかいから、まちを、あるくのが、むずかしいんだぁぁ!!』
メーヴィと呼ばれた二足歩行のカバは息を切らしながら、人間には不快なつんざくような声音でそう弁明していた。
「不快な声を、出すんじゃねぇよ!!!ブチ殺すぞ!!!!」
既にイライラしていたプレスティードは遅れてやってきたノロマが耳障りな釈明をしているのを聞いてより機嫌を悪くしていた。
「俺はあの小娘どもの追跡を再開する。てめぇらはそのノロマと一緒に来い!!ジャマしたら容赦無く爆破するぞ!!」
「はいはい、でもあの子猫ちゃんたちは私も虐めてあげたいから程々にね」
『あぁい、おで、つかれたから、すこししてから、いくよぉぉ』
「やれやれ、主から言われたことをしっかり守ってくださいよ、プレスティード?あなたはいつもやり過ぎてしまうんですから」
「言われなくても解ってらぁ!!」
プレスティードは忌々しげに彼らを一瞥するとすぐに森の中へと走り去っていった。
「さて、10分もしたら出発しましょうか。その頃にはプレスティードがあの子たちを補足して無力化していることでしょう」
「『はーい』」
3人はこれからの予定を軽く打ち合わせた後、束の間の休息をとるのであった。
Side プレスティード
「もう逃げ場はねえぞ、クソガキども!!」
プレスティードは3分も経たないうちに黒歌たちを補足することに成功した。
そして彼は爆破の魔法を使いながら崖の方へと姉妹を誘導することにも成功し、彼女たちをとうとう追い詰めたのだ。
「今投降して屋敷に戻るってんなら、さっきの事は鞭打ち100回で許してやるぞ!!」
「ふざけるな、誰が戻るもんか!!勝手に私たちをこんなところまで攫ったくせに!!」
「はん!!そいつぁ俺らの主に目を付けられるようなレアな種族に産んだ親を恨むんだなぁ!!」
彼は追い詰められてヤケになった黒歌の軽いテレフォンパンチを躱しながら彼女の鳩尾にキックを喰らわせた。
「かはっ!!?ぐっ・・・げほっ、げほっ!!」
「姉様!!?」
鳩尾にキックを食らって軽い呼吸困難になり、地面に蹲る黒歌の前に白音が駆け寄る。
「もういいだろ?俺ももう疲れてんだ、帰ろうぜ?お前は良く頑張ったよ、その年のガキがてめぇより幼いガキを連れて狩人の俺からここまで逃げきったんだ、自分を誇っていいぜ」
プレスティードは彼女、黒歌を賞賛していた。
なぜならば、彼女は自分に補足されてからここまで15分に渡って逃げ続けることに成功していたからだ。
彼は目潰しをして、醜態を晒させた黒歌に対して激しい怒りを最初は抱いていたが、彼女は小細工をこそ弄してはいたが、6割くらいの実力を出していた彼との鬼ごっこから崖の上に追い詰められるまで、見事に逃げ続けられていたからだ。
まぁその賞賛もその潜在能力の高さから彼女は自分にとって良い手駒になってくれるだろうという打算から来ているのだが。
「げほっ、はぁ・・はぁ・・、あんたたちみたいな他人を虐げてもなんとも思わない、それどころか愉しんでさえいるクズどもなんかに・・・好きにされてたまるかぁ!!」
「・・・はぁ、めんどくせぇなぁ・・・もう、寝ろ」
ドォォォォォォン
プレスティードは黒歌の拒絶の言葉を聞いて、心底怠くなり、気絶させるつもりで爆破の魔法を彼女たちの前の地面に放った。
勿論、プレスティードは彼女たちが爆風でさっきのように吹っ飛んでしまわないように注意を払って、かつ彼女たちが爆音などでスタンする程度の威力を持った爆破を放った。
しかし・・・
ピシィッ・・
と、彼女たちは爆風でこそ吹き飛びはしなかったものの、彼女たちの足元は大きな亀裂が入り・・・
ピシ、バキバキバキ、ドォォォォォォン
彼女たちがいた地面は崩落し、深い崖の下へと落ちていった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やべ」
しばらくの間を置いてプレスティードは現実を認識したのだった。
Side ???
そして時は現在に至り、白髪の少女の懇願を拒絶した少年は改めて2人を観察した。
(・・・・こいつらを治療するのはまぁ、問題ない。この際だ、僕の練習台になってもらおう。・・・だが、それよりも解せないのは、こいつ何故僕を認識している?)
少年は驚愕していた。
何故ならば彼がテントを張った周囲には彼が展開した認識阻害の結界があったからだ。この結界にいる彼は本来、誰も認識することなどできないからだ。
しかし、それにもかかわらずこの白髪の少女、白音は彼に助けを求めた。そう、求めたのだ。
そして彼が驚愕している間に事態は進展していく。
「ちっ、結構な高さから落ちちまったようだが、死んでねぇだろうな」
彼が黙考していると上空から声が聞こえてくる。
(ふむ、この地の悪魔、か)
蝙蝠のような翼を広げた男、プレスティードが上空からゆっくりとこちらに向かって降りて来た。
やがて彼は地面に着地すると、倒れている黒歌を見つけ、ゆっくりと彼女のもとに近づいた。
「・・・黒猫の方は見つけたが、ちっ、死にかけだな。早いとこ連れて悪魔に転生させないとめんどくさいことになるか・・・。・・・・・・白猫の方は・・・いねぇ、逃げたか?」
プレスティードは白音の痕跡を探るため周囲を見渡して、そして発見した。
「・・・?痕跡は見つけた。だが、何故途中で途切れてる?」
白音の痕跡を発見したプレスティードは困惑していた。
何故ならば、体を引きずったような跡が途中で突然ぷっつりと消えているからだ。余りにも不自然に。
「・・・と、すると考えられるのはぁ・・・爆ぜろ!!」
プレスティードは痕跡が途絶えてる地面に目がけて爆破の魔法を放った。
すると・・・
「がぁっ!!!?」
プレスティードの足元が突然爆発した。
Side 白音
・・・私は正直もう死ぬんだなって思っていました。
私たちを追いかけて来た悪魔が空から降りて来て、姉様を見つけた後、私を見つけるために周囲をキョロキョロと見始めました。そしてあの男と目が合ってしまったので咄嗟に目の前の少年にしがみつきました。
恐怖と姉様が居なくなってしまった喪失感から目の前の暖かい男の子にしがみついていないと私の中の何かが壊れてしまうと思ったから。
そして背後の悪魔がこちらに手を翳したので、恐怖から強く瞼を閉じ、これから私たちを襲うだろう衝撃から身を強張らせながら少年にしがみついていると・・・
「がぁっ!!!?」
突然背後で爆発しました。
私はびっくりしました。
だってあの悪魔が自分の魔法で吹っ飛んでいったのだから
Side プレスティード
(な、にが、お、きたんだ?)
俺は今にも途絶えそうになる意識を必死に繋げながら、痕跡があった場所を見る。
・・・そこには何もなかった。何の異常も。俺が吹っ飛ばされる前と同じ光景のままだ。
(ど、ういうこ、とだ?俺が魔法をミスっただけ、か?それ、とも誰かから攻撃を?)
プレスティードは理解できなかった。彼は悪魔に転生してからそれなりに長い時間を生きて来た。
確かに転生したての頃、生前使ってなかった魔力を使うことで暴走し、自爆することは多々あった。
だが、それももう昔の話だ。今の自分は未熟だったあの頃とは雲泥の差がある。今更魔法をミスる事などないと自信を持って言える。
だが現実は実際に自身の足元が爆発したのだ。彼は混乱の極みにあった。
こんな魔獣以外いないような場所に自分以外の悪魔がこの森にいて、あまつさえ、領主の眷属である自分に牙を立てるこの地の悪魔なぞいるわけないからだ。
彼は近くにあった木を支えに立ち上がると、周囲を警戒した。
万が一今の爆発が他の悪魔からの攻撃だった場合、すぐに対応できなければ死ぬ可能性があるからだ。
そして・・・
なにもなかった筈の場所から白音が現れた。
(!!?なん、だと!?)
「姉様!!」
白音は黒歌の側に近寄り、彼女を抱き抱え、彼女を引きずりながら移動を始め、そしてまた消えた。
(・・・つまりこいつは認識を阻害する結界が目の前にあるって事だな?それはまあいい、理解できる。だが解せないのはあの小娘にそんなもんを張れるような力は少なくともまだない筈だ。ならば、あの結界の中には、他にも悪魔か何かがいるって事だ!!)
「そこにいるのはわかってる。出てこい!!俺はヴォルドームスカ・バルバトスが『兵士』プレスティードだ!!今の爆破魔法は明確な敵対行為だぞ!申し開きがあるならば、大人しく姿を見せろ!!」
果たして、結界があるであろう位置から現れたのは・・・
・・・・・・濡羽色のコートを身に纏い、同色の羽根付きの帽子を目深に被り、そして目元には舞踏会などで貴族がつけるような白い仮面を付けた、全身黒尽くめの少年が現れたのだ。