「いや、まったくはしゃいでたな」
「まったくだ」
数多くの機材が埋め尽くす一室に、二人の男女が紙コップ片手に黄昏ていた。
「くあー、やってらんねえな」
「まさか、ここまで早いとは、目を付けられてたかな?」
「私らは天下の篝火技研、目の上のたんこぶ、獅子身中の虫だ」
女が言えば、男が眼鏡の奥の目を見開き女を見る。
「あ? なんだよ?」
「お前、そんな難解な言語を発音出来たのか」
「どういう意味だ、コルァ!」
女が叫び、男が零れたコーヒーを避ける。
白い床に黒の染みが広がり、女が羽織っている白衣にも散っていた。
「あ、テメ! なんて事しやがる!」
「自業自得だろ」
「こ、この野郎……!」
女が呻き正拳を突き出すが、男はそれも避ける。
女と男の身のこなしには差がある。仮に女が本気なら、男は回避出来ない。
それだけ、二人の身体能力には差がある。
「鹿島、一体どうするよ? これは、良くない話だぜ」
「熱田、どうするもない。手詰まりだ」
女は熱田、嘗ては〝剣神〟と謳われ、〝世界最強〟織斑千冬と肩を並べた事もある選手であり、織斑千冬が一線を退いた今、日本最強とも名高い。
「良くない、良くない話だぜ?」
「確かに、だが、手詰まりなのは確かだ」
「この機体を嗅ぎ付けてくるとはな」
二人の前には、フレームが露出した機械の鎧が鎮座していた。
素人目に見ても、共通する規格は無く、悪い言い方をすれば寄せ集めのスクラップ、良い言い方をすれば手製のフルスクラッチ。
そんな機体を見ながら、鹿島と熱田は残ったコーヒーを飲み干した。
「偽装は二重三重にやってたんだがなあ」
「誰かチクったんじゃねえの?」
「例えば?」
「取引先、倉持に干されたら、半年保たねえ会社もあんだろ?」
熱田が指摘しているのは、鹿島が偽装に使った会社の事だ。
反倉持か、倉持と手を切りたがっている企業、若しくは倉持傘下で冷遇されている者達。
そういった者達を無作為に選び、鹿島が必要としていたブランドのパーツを、篝火班に搬入させていた。
だが、フレームまで組み上がったところで、倉持技研から待ったが掛かったという話だ。
何処からバレたのか。
あまり、犯人探しをするつもりの無い鹿島は、溜め息を一つ吐いて、未完成のフレームに手を付く。
「今なら見逃す。って話かな?」
「ああ、そうだな。そういう話だろうさ」
「やめるか?」
「私はどっちでも。つっても、お前が打った刀以外は振る気になれねえな」
「剣神のお墨付きとは、恐れ入るな」
「思ってもねえ癖に」
熱田が肩を回し、首を左右に鳴らす。
熱田の感覚ではあるが、鹿島が造る機体と武装は他よりも〝馴染む〟。
特に馴染んだのは、織斑千冬との一騎打ちでのあの一振り。
――ありゃ、よかった。ああ、良い話だ――
ISコアは、パイロットの操縦ログや武装の好みから、ワンオフアビリティを構成するらしい。
熱田は特に興味も無かったので、よく覚えてはいないが、中にはパイロットの〝名前〟から、ワンオフアビリティを構成するコアもある。
熱田と千冬がそれだ。
熱田は〝剣神〟
千冬は〝零落白夜〟
千冬のそれは弟のそれとはまるで違う。
――あいつ、下手すりゃ〝雪片〟要らねえからな――
弟が同じアビリティを発現しているのは、名字が同じだからだろう。
でなければ、まるで違うあの零落白夜は説明が出来ない。
同じ名字で違う技、コアが名前からアビリティを構成するとしたら、鹿島にも適用されるかもしれない。
そんな有り得ない事を考え、鹿島の名に連なる意味を思い出す。
熱田は剣神、暴風神
鹿島は軍神、刀工神
鹿島は男でISには乗れない。だが、織斑一夏という例外が現れたという事は、もしかしたらもしかするかもしれない。
ISコアが、刀工神としての鹿島を引き出し、剣神としての熱田に相応しい刀を打たせている。
「馬鹿な話だな」
「どうした? まさか、自分の脳の限界に気付いたのか?!」
「るせぇ! つか、またそれ見てんのか」
「お? お前も興味あるのか。ほら、この間掴まり立ちにチャレンジしたんだぞ。あ~、転んだ。可愛い~」
「キメェ、果てしなくキモいぞ、鹿島」
二人が騒いでいると、部屋の扉が開き、薄暗かった部屋に廊下からの明かりが差す。
「暇だね」
「断言かよ」
「篝火所長」
「二柱が黄昏て、縁起でもないから、この篝火ヒカルノ様が良い話を持ってきてやったよ」
扉を開けた女、篝火ヒカルノが鹿島に一組の資料と鍵を渡す。
鹿島が何かと目をやれば、彼の動きが止まった。
そして、篝火を見た。
「所長、これは……!」
「ああ、所長権限でね。引っ張って隠してたのさ」
「あ? また、骨董品隠してたのか」
「は、刀振るしか能の無い奴の為だろ?」
鹿島が持ち熱田が覗き込む資料には、ある文字が並んでいた。
「まだ、残っていたんですね……」
「残してたのさ。日本産ISの祖をね」
資料には〝鹿島工業〟の社名と
「これを元に、そのチャンバラバカの機体を仕上げればいい」
「いいんですか?」
「いい、手は回してある」
「良い話だ。こいつは良い話だぞ、鹿島」
「まさか、帰ってくるか」
〝
嘗ての祖の名が刻まれていた。