シャルロット¦乙女回路がたまに変なところに駆け抜ける。
傭平¦多分、ちょっとした切っ掛けで壊れる。
簪¦
まあ、ゼーズール探して、ジョニー・ライデン専用ザク買ったんですが、君は赤い彗星から桃色の彗星に改名してはどうかね?
シャルロット・デュノアは、見上げる日本家屋を再び訪れていた。
更識家、ここを訪問するのは二度目だが、それでも慣れない。
「ようこそいらっしゃいました。シャルロット・デュノア様」
「咲山さん」
細面のオールバックの男が、胸に手を当て頭を下げる。
「貴女様のまたのご来訪、皆心待ちにしておりました。お荷物は此方でお預かり致しましょう」
柔和な笑顔を浮かべた咲山が、シャルロットから荷物を預かる。
デュノア家もかなりの良家であり、家令やメイドが屋敷には居たが、咲山程自然に動き、不自然を感じさせない者は、シャルロットの記憶の中でも数える程しかないなかった。
純和風な日本庭園を通り抜け、以前通された更識家の屋敷ではなく、少し奥にある屋敷に通される。
「此方が、仙波家の屋敷となります」
更識家と見比べても遜色の無い日本家屋が、敷地内に鎮座していた。
シャルロット、シャルロット・デュノアも世界に名だたる大企業の娘であり、デュノア家の屋敷も所謂豪邸と呼ばれるもの。
だがしかし、屋敷の敷地内に同規模の屋敷がもう一つあるとか、ちょっと意味が解らない。
「どうかなされましたか?」
「い、いえ、なにも……!?」
「左様で御座いますか。では、こちらへ」
咲山が案内する屋敷からは、何やらヒソヒソと話し声が聞こえてくる。純和風な邸内の雰囲気と合間って、中々の恐怖を演出してくるが、少し耳を澄ましてみると、
『兄ちゃん兄ちゃん、ほらあの娘だよ』
『おう、仲良くするんだぞ? 俺もお前も、この家に拾われたんだからな』
『判ったよ兄ちゃん! ちょっと尻鉄の九十年で仲良くなって……!』
そこまで聞こえた時、何かを貫く音に声が途切れた。
ふと、前を見ると、咲山が貫手で襖を貫いていた。
シャルロットが、未知の状況に固まっていると、咲山は襖から腕を引き抜き、軽く頭を下げた。
「お見苦しいところを、お見せしました」
「え、あ、いえ、よくありますよね」
ーーくあー! よくあるってなにが?ーー
シャルロットは内心で頭を抱えた。確かに、壁や床、天井を、誰かがぶち抜いてくるのは、学園ではよくある事だ。だがそれが、一般常識でない事をシャルロットは知っているし、理解もしている。
むしろ、壁や床、天井をぶち抜いてくる一般常識があるなら、是非御教授願いたい。実際にこんな事を言えば、簪が独自の理論を用いて、一般常識として語り出しかねないので言わないが。
「では、ここで仙波家当主と奥様がお待ちです」
通された部屋には、和装の二人の男女が座っていた。
二人共、そう大柄ではなく、どちらかと言えば小柄、筋の通った綺麗な背筋、目鼻立ちがはっきりとした凛々しい雰囲気、シャルロットは疑問を感じた。
「あ、今日は、お、お招きいただき有難う御座います」
「構わない。座りなさい」
「あ、はい……」
先代楯無とは違う、固い態度。むしろ、こちらが正解で、あのダブル楯無が間違っているのかもしれない。
「シャルロット・デュノアさん」
「は、はい!」
「そう、畏まらないでくださいな。呼びつけたのはこちらなのですから」
「はあ……」
二人の内、女の方がコロコロと笑う。
隙の無い笑み、シャルロットの継母が意地悪をする時に浮かべる笑みに、よく似ている。
日本の宝塚が大好きな継母は、シャルロットに男装をさせようと、あの手この手で意地悪を仕掛けてくる。
そして最終的には、力押しのごり押しで男装させられる。
「さて、デュノアさん。傭平はどうかね?」
「ど、どうとは?」
「あら? 咲山から、傭平と近しい関係と聞いていたのだけれど」
「あ、いや、それは……」
さて、困った。まさか、これ程までに距離を詰めてくるのは、予想外だった。
シャルロットが返答に詰まっていると、仙波夫婦が口を開く。
「咲山から聞いた話だと、唯一君だけ、名前で呼んでいたそうだ」
「え、ああ、はい」
「ふむ、成る程、あの傭平が……」
夫婦で顔を合わせ、何やら話し出す。
何故だか、あまりいい印象が無い。
まるで、何かを隠している様な、こちらにそれを伝えない様に、口裏を合わせている様な、そんな印象がある。
いや、印象ではなく、実際にそうしているのだろう。
シャルロットの中の疑問が、また強くなっていく。
ーーやっぱり、似てないよね?ーー
仙波夫婦と仙波傭平、シャルロットの感覚ではあるが、三人は似ていないのだ。
傭平は瞳を見せない糸目、しかし二人ははっきりと開いた切れ長の目と、垂れ気味の目。
体格も似てないと言えば似ていない。シャルロットの気のせいかもしれないが、だがやはり、二人は傭平とは似ていないのだ。
「デュノアさん、一つ聞かせてほしい」
「なんでしょう?」
「……傭平とは、普段どの様に過ごしていますか?」
困った、また困った。傭平〝は〟ではなく、傭平〝とは〟だ。確かに簪の他でなら、己が傭平と一番身近に過ごしている。その自覚は確かにあるし、それは自惚れではない。
ならば、この質問にどう答えるべきか。その答えは決まっている。
「とりとめの無い話、同じ機体を扱う者同士、そんななんでもない話から始まりました」
ゆっくりと、しかし間を置かず、シャルロットは一音一音噛み締める様に、言葉を続けていく。
「本当になんでもない話を日々繰り返し、訓練を重ね、お互いに隣に立ち、日々を過ごしています」
出来る限り誤魔化し、出来る限りで納得出来る内容を言うしかない。
シャルロットはそう判断し、嘘偽り無く、しかし真相を僅かにぼやかし、二人に伝える事にする。不誠実と言われようと、嘘は言っていないのだ。
「デュノアさん、実際どうなの?」
「え、実際ですか?」
「あらあら? ぼやかしても無駄よ。簪御嬢様から聞いてますもの」
まさかの伏兵に固まるシャルロット。否、これは予想出来た筈。今回の事を伝えてきたのは簪、二人に話が通じているのは当然と考えるべきだった。
シャルロットは、咲山がいつの間にか出してくれていた茶を一口飲み、唇を湿した。
そして、
「では、何から話しましょうか」
開き直って、最初から始める事にした。
次回
シャルロさん、傭平の過去を知る。