一季 ¦『しかし、何だってあんなロマン武装を?』
あまり聞きたくない系統の、激突音の連続をバックに、一夏が誠一郎に問うてきた。
あの装備を搭載する事を決定したのは、誠一郎ではなく簪であり、一応はシャルロットも後押ししている。
だが、それにはある理由がある。
御曹司¦『ある種、宣伝だな。一夏、今現在の四組の認識は知っているか?』
一季 ¦『んあ?』
御曹司¦『その様子だと知らんな』
一季 ¦『し、知ってるし! ほら、あれだ、生徒会長の妹が率いるクラス』
御曹司¦『当たらずも遠からずだ。実際、俺達一組二組は、実情を知っているからそうでもないが、三組や五組、他二三年生は侮っている。……企業から見離された落ちこぼれと、ISを動かせるだけの犬だとな』
セシー¦『聞いていて、あまり気分のよい話ではありませんでしたわ』
兎軍人¦『事実と言えば、そうである部分もある。だが、些か悪意的に歪められているな』
首領飾¦『なに、気にする事はない。……絶対許さん。ガチでトラウマ刻むまで、ミサイル撃ち込んでやる』
弾薬庫¦『簪、簪、文が前後で繋がってないよ!』
騒がしくなってきたタブレットの、画面から目を離し、視線をアリーナ内部へと向け直す。
相手は〝小暴龍〟凰・鈴音。並の相手なら、既に十回以上は叩き潰され、下手をしなくても機体は全損している。だが傭平は、確かにダメージこそあるが、機体損傷は想定内に収め、先程から叩き付けあっているヘカトンケイレスも、傷一つ無く稼働している。
「良いわね! あんた、その腕正解よ!」
「それはどうモ!」
と言っても、傷一つ無く稼働してもらわなければ、困るのだ。
多目的武装腕〝ヘカトンケイレス〟は、設計段階の時点で、人が人に使っていい武装ではなく、人が何か強大なものに打ち勝つ為の武装だった。
設計したのは、父の同期らしいが、頭イカれていたのだろうか。いや、イカれていたのだろう。
ISのパワーアシスト、パイロット保護機能をフルに活用して、それでも人体に掛かる負荷は尋常ではなく、振り回す為に休まず動き続ける肩の負荷は、少しでもアクシデントがあれば、そのまま腕を引き千切りかねなかった。
だから、搭載を決めた簪と誠一郎は、まず最初にヘカトンケイレスから、不要な機能を外す事から始めた。
現状必要の無い、もしかすると事故の元になりかねない。そんな機能を次々と外し、時にスペックを落とし、そして、〝核〟とも言える武装をオミットし、漸く今のヘカトンケイレスに落ち着いた。
弾薬庫¦『よし、負荷も想定内。いっちゃえ傭平……!』
首領飾¦『鈴カーちゃんに目にもの見せてやれ!』
あまり、そういう事を言わん方がいい。観覧席の誠一郎が、苦笑混じりにそう思った時だった。
先程まで互角だった傭平と鈴音に、変化があった。
「ぬぅっ……!」
「ほら、どうしたの? 私はここよ!」
力負けし始めた。否、これも想定内だ。相手はあの鈴音なのだ。
しかし、想定より早い。ヘカトンケイレスの重量は、高機動型にセッティングしたテンペスタと、そう変わらない。それを振るう機体の出力も、それ相応の出力に調整している。
それだけの重量を叩き付ければ、流石の鈴音もと思っていたのだが、そう上手くはいかなかった様だ。
「くっ」
「あら、そんな豆鉄砲で私を止められると思ってんの……!?」
掌部分にある砲口を向け、対IS用ガトリングで弾幕を張る。だが、鈴音はそんなものは関係無いと、鋼の弾幕の中を突き進んでくる。
「ほら、まだテストは続いてるわよ!」
「っ……!」
鈴音の右フックを武装腕で受けるが、いとも容易く弾き飛ばされ、体勢を崩される。
ならばと、崩された体勢を利用して、体を回し、武装腕を鈴音目掛けて横薙ぎに振るう。ヘカトンケイレスの重量と、右フックを放った直後の体勢なら、あの鈴音でも幾らか食らう筈だ。
だが、
「苦し紛れは、感心しないわねっ!」
「嘘でショ?!」
その一撃は易々と受け止められ、傭平は軽々と宙に放り投げられる。眼下には膝を曲げ、今にもこちらへ飛び掛からんとする鈴音。ガトリングでは止められない。
なら、これならと、傭平は再び掌部を鈴音へと向ける。
射線は直線、鈴音の性格から避ける事はしない。
身を撓ませ、必殺の右拳を固めた鈴音。あとは、溜めた力を宙の傭平に叩き付けるだけ。テストとはいえ、これでは少々味気無い。しかし、ここで手を緩めても、傭平の為にはならない。
だから鈴音は、傭平の武装腕を破壊するつもりで、地を蹴った。そして、一瞬で眼前に迫った光に直撃した。
首領飾¦『イエエエエエェェェッ! 仕込み熱線砲直撃ィィ!』
弾薬庫¦『簪、あれ危ないから外したやつじゃん!?』
首領飾¦『威力は抑えたからノーカン。そう、ノーカウント……!』
御曹司¦『お前なぁ……』
セシー¦『一応、レーザーや熱線系統の技術は、イギリスの得意分野なのですが……』
侍娘 ¦『セシリア、強く生きろ』
兎軍人¦『というより、あれマズくないか?』
一季¦ 『ラウラの当たりだ。お前ら準備しろ』
カタパルトに一夏が着き、何時でも飛び出せる様、準備を進める。アリーナ内は熱と衝撃により、配水管に亀裂が入り、一時的な霧が発生し、様子を伺い知る事が難しい。
だが、一夏には解った。
一季¦ 『鈴のスイッチが入った』
着地し、熱線砲のカートリッジを排莢しながら、傭平は、撃ち落とした鈴音へと警戒を強める。
鈴音がこの程度で終わる訳がない。周囲の騒がしさから、確実に来る。
傭平は、今までの人生で、体に刻み付けてきた仙波の技術を総動員して、動かない鈴音に集中する。
集中していた筈だった。
「……勝ったつもりなら、それは自惚れよ」
咄嗟に上げた武装腕で防いだ一撃、それは受けに入った傭平を、軽々と弾き飛ばし、機体と身体に軋みをもたらした。
機体による緊急復帰で、空中で無理矢理体勢を立て直す。
だが、立て直した体勢は意図せぬ力が加わり、再び崩され、傭平はアリーナへ叩き付けられた。
「急に軽くなって、どうしたのかしら?」
「は、はは、滅茶苦茶ですネ……」
盾代わりにしたのか、熱線により焼け焦げた衝撃砲を、引き剥がした鈴音が、膝をつく傭平の目の前に立っていた。
疲れた様子すら見せない鈴音に、傭平はつくづく自分との違いを再認識する。肉体、生物としての格が違い過ぎる。
自分は只人、相手は傑物。覆し様のない事実が横たわり、諦めを囁いてくる。
「さあ、どうしたの? もしかして、テストは終わりかしら」
だが、右腕から伝わる重さが、その囁きを捻り潰す。
「いやいや、まだヘカトンケイレスの腕はありますヨ」
「そう、なら来なさい。全部、受けてあげる」
この右腕に取り付けられた武装は、只人が傑物を打ち倒す為に作られた。そして、この腕はそれを必要とする
なら、ただ負ける理由は無い。
「今は次が最後でス」
「そ、さっき言ったでしょ。全部受けてあげるから、気にせず来なさい」
大きく両腕を広げる鈴音に対し、傭平は武装腕を引き、四本のクローを握り締める。
御曹司¦『取り敢えず、スイッチは入ったが、何とかなったな』
一季 ¦『傭平が銀の福音になるかと……』
侍娘 ¦『笑えんぞ』
首領飾¦『なったらなったで、慰謝料一夏に請求するから』
弾薬庫¦『よ、傭平は負けないよ! 僕は信じてるもん……!』
首領飾¦『……さて、諸君。何かこう、自分の薄汚れた面を目の当たりにした私に、何か言う事は?』
約全員¦『簪、強く生きろ』
首領飾¦『イエエエエエエエエェェェッ!』
よく解らんノリだ。ラウラは空間投影されたウィンドウから、アリーナへ視線を戻す。
ラウラも鈴音との戦闘経験はあるが、あれは参考にはならない。卓越した技術も、埒外の力の前には無力だと、そう実感した。
その点、傭平はよく渡り合っている。ヘカトンケイレスという、武装腕の性能もあるだろうが、それよりも傭平の身体操作と、仙波の技によるところが大きいだろう。
「さて、傭平。お前はその龍を、どう越える?」
激突に次ぐ激突、あの鈴音の力に対し、ヘカトンケイレスは十分に保っている。だが、自分が保たない。
右肩から感じる熱が、痛みに変わり始めている。この負荷は改善の余地がある。
「ふぅ、傭平。そろそろ限界みたいね」
「はは、では、これで……」
連続した激突の熱で、僅かに陽炎が立ち始めた、武装腕を振りかぶり、鈴音に叩き付けた。
「最後でス!」
瞬間、武装腕の手首部分にあるリングが打ち込まれ、内部に装填された〝灰の鱗殻〟に仕様される炸薬を、四発分圧縮した特殊炸薬に着火。掌部の砲口を捌け口とし、圧縮された爆轟が、絶対の破壊力となり鈴音を飲み込んだ。
弾薬庫¦『よし、大当たりぃぃっ!』
約全員¦『おいいいいいいぃぃぃっ?!』
一季 ¦『おま、鈴が爆発で消えたぞ!』
セシー¦『アリーナが揺れましたわ……』
兎軍人¦『やり過ぎだ』
侍娘 ¦『え、なに? まさか、あれを学園でもやる気か?』
首領飾¦『これなら、あの鈴カーちゃんでも……!』
龍母 ¦『ところがどっこい、そうはいかないわ』
首領飾¦『うっそだろ、お前』
御曹司¦『ああ、そうだ。地下アリーナでの武装実験だ。大城全部長? ……適当に処理しろ』
アリーナを揺らす爆発、その爆炎の中から悠然と鈴音が姿を現した。
「で、傭平。テストは終わりかしら?」
「……ああ、はい。これでヘカトンケイレスに搭載された、武装のテストは終了でス」
「そ、最後の爆発は良かったわ。あれなら、大体の奴は黙るわね」
一季 ¦『え? 永遠に黙らす気か』
武装腕から排莢された薬莢が、アリーナに落ちる音を合図に、武装腕〝ヘカトンケイレス〟の稼働実験は終了した。