すっかり天候も秋めいて、学園祭の準備も佳境に入ろうかというある日、学園内にトラブルが起きた。
「どう? 直りそう?」
「あ~、これ無理だわ」
学生寮内にある大浴場、その給湯機が故障した。それだけなら、まだよかったが、作成中の屋台の稼働テストによる流れ弾で、給湯パイプまで破損。
急ぎ業者に連絡を取ったが、替えの部品を現在切らしており、今からでは、どれだけ急いでも修理は、明後日以降になるという話だ。
普通なら諦めるが、しかしここIS学園。ならばと、整備課の生徒達が道具や部品を持ち寄り、給湯機と配管を囲み、あれやこれやとやり始めたのが、今より一時間前。
そして、やはり無理だと
「いやまさか、おでん屋に偽装した、警備用の出張セントラルステーションが暴発するとハ……」
「傭平ってよ、たまに日本語がおかしくね? そこんとこどうよ」
「どうよと言われてもな。……マイルドに言えば、文化の違いだろう」
風呂を、自室のシャワーで済ませる者が多い中、世界でもたった三人の男性操縦士達は、IS学園がある学園都市島内にある、二十四時間営業の銭湯〝永世ひまわり〟へと向かっていた。
「まあ、更識の常識ですからネ」
「その一言で、全てを済ませるな」
賑わう学園都市、来月には学園祭、この島の書き入れ時が近付いてきている。
日本各地、世界各国から、人が入り乱れる数日間は、宿泊に食事、土産等、学園都市島の運営費を稼ぐ、絶好の機会だ。だから、学園でイベントがある前には、大量の物資の流入があり、その為に少しでも古い物資は、処分する為にセールが開催される。
この時期は学生にとっても、安く食料品などを手に入れられる嬉しい時期だ。
龍母 ¦『一夏、帰りに牛乳と卵お願い。あ、あとバニラエッセンスも、いや、バニラビーンズの方が香りが良いかしら?』
一季 ¦『お、何だ? なに作るんだ?』
龍母 ¦『カスタードプリン、簪が食べたいって駄々こねてるわ』
一季 ¦『俺も食いたい』
龍母 ¦『はいはい、全員分作ってあげるから』
雇われ¦『すみません、凰さん。ボスがご迷惑を……』
龍母 ¦『いいのよ。簪はこれから忙しいんだし、今は甘やかしてあげるわ。というか、傭平。あんたも明日から忙しいんじゃない』
雇われ¦『明日から本番ですヨ。まずは三組を黙らせまス』
右の拳を強く握れば、僅かに腕全体に引き攣りがあった。前回の武装テストから、右肩はまだ完全には回復していない。
だが、傭平は仙波、更識の右腕だ。この程度、試合に支障は無い。
「傭平、あまり無理はするなよ」
「これは無理じゃないですヨ」
「ま、俺達はやれる事をやるだけだ。けどよ、傭平。あまり、シャルロット泣かすなよ?」
「……善処しまス」
進んだのやら、進んでいないのやら、誠一郎と一夏は顔を見合せ、仕方ないと肩を竦める。
傭平もシャルロットも、互いの距離の詰め方が、下手というか独特というか、中々進まない。
しかし、それはそれで、いいのかもしれない。
「色々話はあるが、まずは風呂だ」
浮かぶ向日葵を看板にした銭湯〝永世ひまわり〟、学園都市島の地下ボイラー施設より、発生する熱を配管利用し、二十四時間営業を可能としている。
他にも同様の施設はあるが、一番設備やサービスが充実しているのがこの〝永世ひまわり〟だ。
三人は番台で代金を支払い、受け取った鍵の番号のロッカーへ向かい、服を脱ぐ。
利用者は三人だけ、この時間帯ではまだ客は来ないのだろう。
広い湯船に、やけに歯を剥いた笑顔の向日葵の絵が、壁一面に描かれている。
かけ湯をし、体を洗ってから湯船に浸かれば、少し熱目の湯が疲れた体に沁みた。
「あぁ~……、ほんっと、疲れる……」
「一年は残り三組と五組、これは実質消化試合だが、二年三年がな……」
「この人格と文化のごった煮の中、二年三年と過ごした人達ですから、並大抵じゃ敵いませんヨ」
三人が疲れを吐き出す様にして、深く吐息する。IS学園は世界中から人材が集まり、この狭い島内でそれぞれの文化が展開される。
それはある意味で、宗教戦争や民族紛争の体を擁している。そんな中を、二年三年と過ごして、更に海千山千の教員を相手にしていれば、癖のある人間の一人や二人では済まなくなる。
「まったく頭が痛い話だ。これから忙しくなるのに……」
「ははは、誠一郎。やっぱり十二月か?」
「ああ、十二月二十五日前後だろうよ。入ってくる情報を整理するが、そこら辺が連中の限界点でもある」
「反対意見、出ますよねぇ……」
また一度、三人揃って深く吐息する。
無言、湯の揺れる音と、蛇口からの滴りだけが、浴室内響く。
「……そういやよ、誠一郎。箒達とはどうなんだ?」
「どうとは?」
「上手くいってんのかって事だよ。そこんとこ、どうよ」
ふむ、と誠一郎は顎に手を当て、一夏にどう答えるか考える。実質、誠一郎の現状は一般社会では、二股をかけている状態だ。
一夏、誠一郎、傭平の三人は特例として、一夫多妻が認められているが、現代日本の常識で育った者には、あまり快くないものだろう。
誠一郎はその辺りは割り切って、一夏は鈴音以外に興味は無く、傭平に至っては、どうにも理解しているのかいないのか。
「まあ、そうだな。今の所は目立つ何かは無いか」
「お、そうか。箒は幼馴染みだし、誠一郎だから大丈夫だろうが、少し気になっててな」
「安心しろ。俺は責任は取るし、二人共娶る覚悟と準備はある」
「いやはや、凄い話ですネ」
気の抜けた返事を、傭平がする。一夏は、お前もどうだと聞きそうになるが、今の傭平にそれを聞いて、期待する答えが返ってくるとは思えない。
だから、一夏は違う話題を振った。
「なあ、傭平。俺にもあの腕くれよ」
「ヘカトンケイレスですカ? あれに関しては、早瀬クンに言った方がいいですヨ」
「あれ絶対、白式が嫌がるぞ」
「なんとかならんかー」
「ならんだろうよ。……雪片弐型に機能を増やすなら、何とか了承するだろうがな」
「あれか、納得するやつなら、増やせるな。加速用のスラスターは受け入れたしな」
「じゃあ次は、ブレード飛ばしますカ?」
傭平の提案に、一夏は目を見開いた。
「いいな! 飛ばそう!」
「スペツナズ雪片弐型、一回飛ばしたら終わりだぞ?」
「白式、了承するか?」
「せんだろう」
「ワイヤーで繋ぎますカ」
「鎖鎌ならぬワイヤー雪片、……ありか?」
「止めとけ止めとけ。絡まって自爆する未来しか見えん」
だよなー。一夏が湯に沈む。
三人の中で、一番体格の大きい一夏が、湯船に沈めば、その分湯が溢れた。
気付けば、大分長い時間湯に浸かっていた。
「そろそろ帰るか」
「ああ、買い物もあるしな」
「ボス、待ちくたびれて、何か食べてますヨ」
絶対と言えば、違いないと二人が同意する。
近付く学園祭、そこでまず一つの事が決まる。
IS学園の〝未来〟だ。