マイボス マイパートナー   作:ジト民逆脚屋

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勝とうとする意思は不屈の表れである


だからこそ

IS学園に所属するという事は、それだけでIS業界に於ける一種のステータスとなる。

この学園に所属するだけで、この業界では一目置かれる存在となる。

選りすぐられた者達、その中から更に選ばれた代表候補生、そして、その名を以て選ばれたクラス代表という立場は、はっきり言って軽くない。

重い。両肩に背に掛かる重さは、選ばれなかった者達の、嫉妬や怒り、羨望に悔恨、期待と希望。

そうだ。重いのだ。そう簡単に、この重さを否定させられない。

そう、この重さを否定するという事は、己を選んだ全てを否定するという事だ。

 

連続する激突、金属音を幾重に積み重ねて、幾度と交差する。己達が纏う機械の鎧は軽く、速度と機動性を重視した機体。

それを更に、機動性を重視した設定に調整し、己だけが駆れる機体とした。

この愛機と己の技を以て、相手を否定し、己を肯定する。否定し肯定し、己達の重さを証明し続けた。

他者を蹴落とし続けた。だからこそ、軽くなってはいけない。

その責任を背負い、ただひたすらに強く重くあらねばならない。

 

だからこそ、

 

「お前達には負けられない……!」

 

一年三組代表〝アメリア・ヌベス〟は吼えた。駆るは嵐の名を冠する機体〝テンペスタ〟、コアはオリジナルに及ばないエコノミーだが、その動きはオリジナルに劣らない。アメリアの技術の高さを証明する、滑らかな動きが手繰る大型振動ナイフ。

そして、それと激突を繰り返しているのは、異形の巨腕。

体を独楽の様に回転させ、ナイフを押し切って振り抜かれる巨腕を回避し、返す刀で視界の端に、隠れ潜んでいた刃を受ける。

甲高い、連続に連続を繰り返し、最早一体となった擦過音が響く。

 

「ごめん、抜かれた!」

「気にしない! 次来るわ!」

 

速い。長柄物は手繰るのに、ある程度の範囲が必要となり、それに伴い、操作にある一定以上の練度が必須となる。

重く、範囲も威力も有り、長い柄による多彩さも持ち合わせるが、その分動作は遅れ、動作範囲の更に内側に入り込まれれば、途端に無力と化す。

アメリアも今まで、そうやって長柄物の使い手を潰してきた。だが、違う。目の前の相手は違う。

 

「……これ程の腕がありながら、何故今まで」

「答える必要が無い」

 

更識・簪、日本の国家代表候補生の一人にして、専用機を与えられなかった専用機持ちと、嘗ては揶揄され、他代表候補生達から下に見られ、軽んじられてきた。

専用機が与えられなかった理由は、当時の日本の状況を、詳しく知らないアメリアでも、容易に想像出来る。

 

――自分より、価値のある者が現れたから――

 

この業界は可能性に満ちている。だが、満ちている分シビアだ。

少しでも、意にそぐわない、及第点に届かなければ、簡単に捨てられる。

嘗てのアメリアが、本国で実力ではなく適性値で負け、所属する派閥が政治に負け、専用機を与えられなかった様に。

 

突如、現れた男性操縦士である、織斑・一夏の専用機開発の為に、更識・簪の専用機開発が、半ば破棄当然に中止されたという噂があるが、日本は本国とは違う筈だ。

その様な身勝手な事が、更識・簪という個人の功績を認めない。そんな事がある筈がない。

だからアメリアは、簪の実力が足りなかったから、専用機開発が中止された、と考えた。ただ単純にタイミングが合ったから、あんな根も葉もない噂が流れたのだろう。四組副代表である仙波・傭平に関しても、同様だ。更識の名に、世界でも三人しか居ない、男性操縦士の立場に甘んじ、不相応な専用機を得た。

アメリア・ヌベスは、この試合が始まるまで、そう考え、更識・簪と仙波・傭平を下に見ていた。だが、結果はどうだ。

 

「四組代表……!」

 

実力が無い? 否、断じて否だ。過去の己を殴り飛ばしてやりたい。

見ろ、この動きを、この連携を、不相応に得たものなど、何一つ無く、相応に培い得たものに他ならない。

 

「アメリア!」

「注意引き上げ! 本気で行く!」

 

どちらの機体も中近距離仕様、厄介なのは簪の薙刀と、傭平の武装腕。どちらも攻撃範囲が広く、今の設定のテンペスタでは、一撃が致命傷へと繋がりかねない。

さあ、どうするか。豪腕と刃を潜りながら、気付けば笑みを浮かべていた。

 

「アメリア笑ってるよ」

 

仕方ない。こうも圧倒されたのは、二組代表との試合以来だから。

アメリアは笑みを得たまま、己の身と技に任せて、嵐の中へと突っ込んだ。

 

 

御曹司¦『ラウラ、どうだ?』

兎軍人¦『まあ、良くも悪くも拮抗しているな』

御曹司¦『勝てそうか?』

兎軍人¦『勝てるか勝てないかで言えば、勝てるだろうな』

一季 ¦『お、いい感じか?』

龍母 ¦『悪くない感じね』

 

 

さて、いいか悪いか。ラウラは観戦席にて、アリーナでの戦いを見ながら、少し思案を巡らせる。

三組代表のアメリアは、典型的な近接重視型。兎に角、機体の設定を己の体の動きを再現出来る様、細かくセッティングしている。相棒である副代表も、近距離仕様だが、アメリアに比べて中距離仕様となっている。

動きも互いに入れ替わり立ち代わり、相手に捕捉させない様に動いている。

良いコンビだ。下に見ていた筈の簪達に対し、驕りを感じない。

 

簪達も同様だ。

元より、二人のコンビネーションは文句のつけようがない。傭平が前に立ち、簪が隙を刺す。武装腕を得て、機体が完成した二人は、更に磨きがかかっている。

 

――ふむ、スカウトしてみるか――

 

あれだけの逸材、正しい評価を下せず、燻らせる南米の小国には勿体ない。

ドイツに軽く連絡をしてみれば、すぐに条件が飛んできた。能力によっては、オリジナルコアを使用した専用機開発も、視野に入れるそうだ。

この試合が終われば、すぐにでも話を持っていこう。ついでに副代表もスカウトしてみるか。

ラウラが条件を纏めていると、試合に動きがあった。

 

傭平が武装腕の強度任せに、アメリア達を分断した。

ヘカトンケイレスは機体ではなく、あくまで武装でしかなく、これを攻撃しても傭平にダメージは無い。

傭平は副代表を釘付けにし、簪はアメリアとの一騎討ちに入る。

薙刀とナイフ、凶刃が交差し、甲高い快音を連続させる。

 

「四組代表、何故今更になって、前へ出てきた」

「やる事が出来て、その力を得たから」

 

鍔迫り合いながらの問いに、簪は答える。

そう、簪にはやるべき事がある。

 

「その為には、貴女達の力が必要」

「……ここ最近の専用機組の動き?」

「試合が終われば、全て分かる」

「そう……、なら!」

 

簪は握る薙刀が、一気に重量を増した様に錯覚した。事実、物体の重量が急激に増加する事は無い。錯覚だ。

鍔迫り合うナイフを鋏の様に交差させ、薙刀の柄に寄り添う様にして、アメリアは簪の懐へと入り込む。

柔らかく滑らかな動き、ISという機械の鎧を身に纏っているとは、とても思えない。簪は驚愕しながらも、腰部に搭載された荷電粒子砲を展開、アメリアを敬遠する為に、無理矢理射撃する。

 

「……貴女を負かして、目的を聞きましょう」

 

言葉と共に、荷電粒子砲の砲口が撥ね飛ばされた。斬られたのだ。石突きでアメリアを突き離す。

同時に、右の荷電粒子砲をパージする。展開アームも破損し、砲口すら無いのでは、盾代わりにもならない。

薙刀を握り直し、一気に警戒を引き上げる。

 

――まったく、これだから天才と謂われる類いの連中は――

 

アメリアの今の動きで、分かった事がある。彼女は体を動かす天才だ。生まれや、人種による身体的な特徴もあるのだろう。軟らかく強靭な関節に、しなやかな筋肉と優れた反応速度。

だが、それを抜きにしても、アメリアは天才だ。

己の限界を理解し、体がどう動くか、どう動けば、限界を越えた動きを負担無く出来るか。

簪が持ち得ない天賦の才、まったく羨ましいものだ。その欠片くらい、こちらに分けてほしかった。

 

「だけど……」

 

その必要は無い。己はその才は無かった。だが、代わりに、その才を持つ〝彼〟が現れた。

 

「アメリア避けて……!」

「っ……!」

 

体勢を崩した副代表が、アメリアに激突した。絡む様にして、空中を転がる二人が目にしたのは、急速に離れる簪と、巨腕を振りかぶり、こちらに向かってくる傭平だった。

失態、そう感じたアメリアが、予想外な方向に投げ飛ばされたのと、副代表の笑顔を見たのは同時だった。

 

「……アメリアなら勝てるよ」

「グレース……!」

 

瞬間、傭平の武装腕から弾けた爆発に飲み込まれ、副代表グレースが見えなくなり、行動不能を示すブザーが鳴り響いた。

パイロット保護機能により、ゆっくりと降下していく親友を眼下に、アメリアは構え直す。

二対一、損傷消耗有り、極めて不利な戦況。しかし、アメリアは諦めを見せなかった。

 

この二人は強い。最早、勝ち目は無い〝かも〟しれない。だがそれは、〝かも〟でしかない。

アメリアが負ける〝かも〟しれない。だが、勝てる〝かも〟しれない。

否、勝てる。己は親友に、そう言われたのだから。

だからこそ、

 

「勝ちにいこう」

 

アメリアは前進した。

アメリアはナイフを投射した。

ナイフは巨腕に弾かれた。

アメリアは巨腕を掻い潜り、傭平の脇腹を斬りつける。

アメリアは止まらない。

振り抜かれる薙刀を、巨腕を、次々に避け、

斬り、

また避け、

また斬る。

繰り返し、繰り返し、繰り返す。

何度目か、ふと体に熱を感じた。

喉が、肺が、焼ける様に熱い。

視界が歪み、頭が重い。

だが、体は、意思は止まらない。

 

幾度目か、硬質な快音が響き、薙刀が二つに別れ、簪の胸部装甲に傷が走った。

そして迫る武装腕に、刃こぼれたナイフを突き立て、弾き飛ばされる。

アラームが鳴り響く機体を、無理矢理動かし、己が立ち向かう敵を視界に納める。

 

「ああ……」

 

己は勝ちにいった。相手も勝ちにきた。

だからこそ、満足のいく結果だ。

これが終わったら、存分に目的を教えてもらおう。

全方位からの照準警告(ミサイルアラート)を耳に、アメリアは親友の様に笑みを浮かべた。




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