「ちょっといいかね?」
「どうぞ、五組副代表」
五組副代表〝マルファ・ノブツカヤ〟、単純な実力で言えば、今季の代表候補生の中でも上位に入る。
しかし、本人が前に立ちたがらない性格の為、成績は目立たず、本人の顔色の悪さも相俟って、幽霊の様な印象を持たれている。
だが今、誠一郎に問おうとしている彼女からは、その様な弱々しいイメージは感じない。
「まず一つ、君達の問題というのは、四組代表の専用機に関する事かね?」
「ああ、そうだ。これに関しては学園祭で、けりを着ける」
「詳しくはどの様にかね」
「デモンストレーション、倉持技研所属パイロットとの試合を計画中だ」
「内容は」
「五対五の三本先取」
ふむ、とマルファは考える。確かに、それなら自分達が関わる必要は無い。だがしかし、彼は最悪自分達で何とかすると言っていた。
つまり、こちらを頭数として数えてはいるという事だ。
だが、試合内容は五対五の三本先取。つまり、出場選手は専用機組で賄える。なのに、こちらを頭数として数えているのは、一体どういう意味なのか。
マルファが考えを巡らせていると、隣から手が上がった。
「ねえちょっといい」
京極だ。彼女は何時もと変わらず、途切れない言葉を一気に送り、問い掛けとした。
「何で倉持とのデモンストレーションが四組代表の抱える問題の解決方法なの?」
「それは打鉄弐式、この機体がIS学園で完成したと、そう世界に知らしめる為だ」
だが、誠一郎のその答えに、京極は首を傾げた。
「話が話が見えない。何で打鉄弐式が学園で完成したと知らしめる必要があるの?」
「それは、大体予想がついている筈だ」
突き放す様な答えだが、京極もマルファも、倉持技研と更識・簪に纏わる噂は耳にしている。
織斑・一夏の専用機開発を優先する為に、更識・簪の専用機開発を中断したという噂。
半信半疑ではあったが、今この場で誠一郎が肯定した。
つまり倉持技研は、簪達の功績を横取りしようとしているという事だ。
「国有企業の闇であるね」
「情けない話が本当だったという訳ね」
「何とかなる話は、どうだっていいわ。一組副代表、もう一つ、来年には今の学園が無くなるという話を聞かせて」
自国の恥に頭を抱える京極と、あまり興味は無さそうなマルファをどかす様に、アメリアが先を促す。彼女だけでなく、他の生徒もそれに頷いている。
「……では、まず最初に、IS学園とは、他国他機関等による干渉を受けない独立機関であり、その運営は基本的に学生主導によって行われている」
誠一郎の言葉に、全員が頷く。
IS学園とは、特殊な条件と立地によって成り立つ、
その為、外部機関や国から、運営の為に大人を招き入れれば、その国の独断だと、ならば我が国からもと、必ず喚き始める。
それならば、運営費や管理費を負担している日本が、政治的な窓口となり、派遣される教員や職員と共に、学生達に自治を任せればいい。
半ばやけくそ気味に決まった事だったが、かの〝ブリュンヒルデ〟織斑・千冬を初めとした第一期生から、〝銃央無塵〟山田・真耶の第二期生、続く第三期第四期と、学園島は世界各国からの留学生や、職員達の要望を叶える為に発展を続け、今の学園都市島となった。
「そうね。自由だからこそ、こうして世界中から人材が集まる訳よね」
「学費も、この規模と待遇からしたら安いしね」
「その分、要求される成績が辛い辛い……」
「でも、私達のやりたい事が出来ていいよね」
そして今、学園は学生達が各々にプロジェクトを立ち上げ、自由に実験や開発を行える環境が揃っている。
その環境を求めて、世界中から人材が集まり、有益な実験や開発を行う為に、寄付という金銭が豊富に集まっている。
「IS業界では、今の学園は金と人材の集まる木だ。そして、絶対不干渉という権限の鎧に守られてもいる」
ここでアメリアは、何か違和感を感じた。隣を見れば、グレイシアも同じく首を傾げている。誰もが知っている当たり前の事、それを今更言う理由。
まるで確かめる様にして、誠一郎は言葉を続け、そして止まった。話した内容は、本当に誰もが知っているIS学園に纏わる話。
何が言いたいんだと、僅かな苛立ちすら見え始めた中、誠一郎は二本、指を立てた。
「まず一つ、春のクラスマッチ。そしてもう一つ、無人機の暴走」
「それがどうしたのかしら?」
――おぉう、気が短いよ、アメリア――
本国からの長い付き合いのグレイシアは、アメリアの限界が近い事を悟った。所謂、スラムで生まれ育ち、二人で実力だけでのしあがってきた。だから、アメリアの事はよく解る。
初めに結論ありき。回りくどいやり方を苦手とし、結論のみで判断する事が多々ある。搦め手ばかりのスラムで、生きてきた経験から、理由や建前よりも何が言いたいのか、そこで話を聞くか聞かないかを決める。
今は勝負に負けたという、条件があるから大人しいが、そろそろ限界だ。
「私的には、早く答え欲しいなぁって」
「割りとデリケートな話だからな。もう少しだけ、付き合ってくれ」
苦笑しながら言われる。まあ、顔が良いから許そう。
適当に皿に取ったサンドイッチを齧りながら、グレイシアがアメリアに珈琲を渡す。
「そして、これらにはあるタブーが隠されていた」
「何かね、それは」
「通常、というより絶対に、無人機にはエコノミーコアが使用される」
「ISはパイロットとコアの深層意識の共通が必要でオリジナルコアは意識の無い無人機を認識出来ない。だから無人機にオリジナルコアを乗せても起動しない」
「そうだ。そして、その逆に疑似人格の無いエコノミーコアは、そういったミスマッチを起こさず、無人機を起動出来る」
「なら、暴走と何が関係するのかね? 起動しないのであれば、暴走しようがないではないか」
「それにはもう一つ、最近開発が進んだ技術が関係する。……イメージインターフェースだ」
「どういう意味であるか?」
「では、そこは私が説明致しますわ」
マルファの問いに、セシリアが挙手して、前に出る。そして、ホワイトボードの前まで行くと、非常に簡単な図を描く。
人と何か機械の絵だ。
「イメージインターフェースとは、簡単に言えば人のイメージ、意識を用いて、ISという機械を動かす機能の事です」
「ええ、それは知ってるわ」
「では、一気に進めましょう。オリジナルコアは意識の無い機械を、人とは認識出来ず、無人機は起動しない。なら、人の意識が通った無人機はどうですの?」
「嫌な、嫌な話になりそうであるが、まさか……」
「そのまさかですの。暴走した無人機は、オリジナルコアを搭載した遠隔操作型。起動にのみ、人の意識を使用し、後の操作はオリジナルコアの演算によるもの」
「つまり、無人機にオリジナルコアを搭載して、遠隔操作技術で無理矢理起動した無人機の暴走だったと?」
言えば、セシリアに箒やセシリア、他専用機組が頷いた。マルファは椅子に深く座り込み、乱雑に頭を掻く。髪が痛む事も気にせず、頭を掻き回し、隣と周囲を見れば、唖然としている者と、何かに気付いた様子の者に別れている。
京極は唖然としているが、彼女は代表候補生でもない一般生徒だ。人当たりの良さと柔和な性格で、代表に選ばれた。
だから、今の状況に着いていけなくても、それは当然と言える。
だが、ここで疑問が湧く。
「少しいい? それ、どこの国のコアだったのかしら?」
アメリアの言う通り、オリジナルコアは世界主要各国に、均等に配分されている。
つまり、あの無人機の暴走は、オリジナルコアを所有する、どこかの国が起こした事件という事だ。
もし、発覚すればただでは済まない。分かりきっている事だ。
生徒全員の顔に緊張が走る。これからの答え次第では、自分達の国が糾弾されるかもしれない。
緊張が走る中、誠一郎は首を横に振った。
「……国ではない」
「まさかだが、そのまさかであるかね?」
「国ではなく、IS学園以外に、オリジナルコアを所有する機関がある。……国連、それが件の犯人であり、IS学園を欲しがっている
知らしめよう。これが私達だと