「一体、どういう事? IS学園の設立も独立自治権も、全部国連が認めたものじゃない」
グレイシアが声を挙げれば、周囲もそれに合わせて疑問を投げる。
彼女の言う通り、学園の設立と学生主導による独立自治権は、国連により認められたものだ。
「一つは日本政府、正直な話をすると、IS学園は日本にとって有り難くもあるが、かなり迷惑な存在でもある」
管理費や運営費を負担し、よく分からない施設が、自国領内で発展している日本からしてみれば、多大な利益を得ているとしても、正直手離したいものだろう。
「手離したいが、得られる利益は得たい。勝手な話だが、当たり前な話だ」
「まあ、それはそうよね。喉元にナイフが突き立ってる様なものだし」
「だが、何で国連が、という話である。……君達は、何を隠しているのかね?」
国の為ではなく、自分の生まれ故郷の為に、代表候補生になったマルファが、お国柄というべきか、疑いの目を誠一郎達に向ける。
「言い訳になるが、隠していたつもりは無かった。というより、言える立場になかった」
「つまり今は違うという事?」
「ああ、今は説明しなくては、信は得られん。国連の狙いは学園と、学園が保有している無人機のオリジナルコア。……そして、あともう一つ」
「まだあるの?」
誠一郎は頷く。本音を言えば、この事実を知る事で、否応無く巻き込まれる事になる。だが、言わなければ、今とこれからを失う。
箒とセシリアを、一夏と鈴音にラウラ、シャルロットと簪に傭平を見る。全員が頷きを返し、誠一郎を後押しする。
「あともう一つ、最後の狙い、寧ろこれが、連中の最大の狙いだ」
「それはなに? 私達も知っているものなの?」
「知っている。知らなければおかしい。嘗て、この世界に確変を起こし、そして今なお色褪せない、絶対の栄光を冠するもの」
「待て待て待て。いくらなんでも〝アレ〟が狙いだとしたらおかしい」
気付いた京極の言葉に、周囲も次々と答えに行き着いていく。そう、おかしいのだ。国連という機関が欲しがるには、あまりに象徴的過ぎる。そう、事実を知るまで、誠一郎を含めた誰もが思っていた。
「〝暮桜〟、それのオリジナルコアが、奴らの最大の狙いだ」
IS学園生徒なら、ISに関わる全員が知っている。最初期の機体にして、いまだ破られる事の無い栄冠に輝く機体。
学園最奥部に安置されているとされている機体、それのオリジナルコア。それが狙いだというのなら、理由は一体何なのか。
「理由としては、昨今形骸化し始めている、国連の権威奪回だ」
「いや、それで暮桜のコアはおかしいわ。確かに、IS業界にとっては象徴よ。でも、IS業界にとっての象徴でしかない」
「そう、俺達もそう思っていた。だが、事実は違った。……あのコアには秘密があった」
「……何かねそれは?」
テーブルの上にあったカップを手に取り、唇を湿し喉を潤す。飲み慣れたセシリアの紅茶だった。
やはり、怯えの様なものがあったのか。だがそれも止まった。
誠一郎は一度、息を吸い、正面を見据え、そして秘密を言い放った。
「暮桜の秘密とは、あれが全ての始まりだという事であり、全てのISコアは暮桜に繋がっているという事だ」
「いやそれがどういう……」
京極の言葉が止まり、周りも同じ様に停止する。その停止は、何か気付きたくないものに気付いてしまった。それに対する恐怖か、それとも理解したくないという拒絶か。
しかし、そのどちらも事実を否定出来ない。
暮桜が全てのISコアの始まりであり、全てのコアに繋がっているという事は、つまりはそういう事なのだ。
「まさか、暮桜を手に入れれば、全てのISコアを支配下に置けるとか?」
冗談めかしたグレイシアの口調、きっと冗談であってくれと、淡い願いを込めていたのだろう。
だが、現実は冗談ではない。
「……その通りだ。暮桜は現在、全ISコアネットワークの中枢となっている。オリジナルもエコノミーも、全て
暮桜から始まっている。あのコアさえ掌握してしまえば、全てのISコアを支配出来る」
呆然、現実についていけない。
今現在の社会は、ISコアの高い演算能力と、エネルギー生産能力に頼っている部分がある。そしてこれらは、ISコア自体が持つ、独自のネットワークにより支えられている。
ネットワークにより繋がり、相互干渉を繰り返し、本来持つ演算能力を高めている。そのネットワークが、もし切断されれば、ISコアは自身の演算能力でのみ、今までの計算を全て行う事になる。
ISに搭載されているコアは、まだ機体からのサポートがあり、演算範囲も機体とその周辺のみで問題は無いに等しい。
しかし、その他の用途に使われているコアは違う。
「今はIS技術の発展期だ。コアはISだけでなく、その高い演算能力を用いて、医療や災害救助、エネルギー問題等、様々な分野に進出している。だが、そんな中でこの事実が発覚した」
「……国連は優位に立ちたいという訳ね」
「そうだ。これからのIS産業を牛耳る。どれだけの利益を得るだろうな」
ISコアネットワークを断たれれば、要求される結果に、次第に演算が追い付けなくなり、その不足を補う為に必要無い機能を制限し、また追い付けなくなり制限しを繰り返す事になる。
そして遠くない時間、限界が訪れたコアは停止する。
医療、災害救助は、まだ人が長い歴史で培ってきた技術で何とかなるだろう。だが、エネルギー生産やライフライン管理が停止すれば、大混乱が起きる。
予想だにしない内容に、全員が停止したまま、各々に思案を巡らせる中、早くに復帰していたアメリアが手を挙げた。
「話は壮大だけど、まあ分かったわ。だけど、それがどうして今のIS学園の消滅に繋がるのかしら?」
「確かにそうだよね。国連が欲しいのは暮桜のコアであってそれを保持する学園じゃない。今の話だとそうならないかな?」
「……今のIS技術は発展期だ。そして、実験には場所が必要だ」
「まさか、IS学園を国連の実験場にするつもりだと?」
「そのまさかだ。このままだと、来季には今のIS学園は消え、残るのは学園とは名ばかりの、国連の実験場となる」
「つまり、今までの自由な開発や研究は全く不可能となり、これからは国連のやりたい開発研究のみ認可されるという事?」
「事実どうなるかは分からん。だが、そうとってもらっても構わんだろうな」
さて、これからどうしたものか。アメリアとグレイシアの二人は、特に開発に関わっていないので、自由な開発研究に関しては、そこまで興味はない。
新しい環境が気に入らなければ、早々に見切りをつけて、本国に帰ればいい。
グレイシアはそう考えている。だが、親友であるアメリアの性格上、そうはならないと結論を出していた。
「一組副代表、どうやって勝ち取るつもり?」
「待ち給え、三組代表。君は戦うつもりなのかね?」
「あら、北の大国の代表候補生は、思ったより負け犬なのね」
「なに?」
アメリアは大人が嫌いだ。スラムで育ち、
だから、子供が大人の言いなりなると、そう思っている大人には、徹底的に逆らう。
「私は戦うわ。ただ、大人の言いなりになるなんて、それこそ死んだ方がましよ。ねえ、グレース」
「ああ、もう、アメリアったら、話が早いってば。……皆はどうする? 多分、ここで逃げても、誰も何も言わないと思うし、というかそれが普通だよ」
グレイシアが振り向いて、そう言えば、幾人かは俯いて、しかし一度頷くと、強くグレイシアに視線を返した。
「代表、三組は代表についていくよ」
「ま、ヌベスさん達を代表にしたのは私達だし、私達逃げるのは、ちょっとねえ?」
「やる内容によっては、逃げるかもだけど……」
「……という訳で、三組は参戦するわ」
「感謝する」
隣の二組から、微かな吐息が聞こえた。恐らく、この会合が破談した場合、一組、二組、四組で何とかするつもりだったのだろう。
無謀な戦いだと、理解している証拠だ。
「ねえマルファ」
「同志京極、このクラスの代表は君だ。君が決め給え」
それが出来たら苦労はしない。
京極・すみれは代表候補生でもなければ、これといって何か才能があるという訳でもない。ただ、人の倍以上近い肺活量を持ち、中学の頃は水泳で、全国大会まで進出した事があるだけ。
しかしそれも、足の怪我で結局駄目になった。
IS学園に進学したのも、偏差値的にも範囲内であり、卒業後の進路に困らない。そして何より、自分の同級生が一人も進学しないというだけだった。
「代表……」
「……」
だから、そんな目で見ないでほしい。自分は君らみたいに、才能も無ければ、意思も無くこの場に居るのだ。
「……皆は……皆はどうしたい?」
卑怯な問い掛けだ。
だが、力も無ければ知恵も無い。そんな自分が何を決めて、何をどう出来るというのだ。
誰かが居なくては、京極・すみれは何も出来ない。
「代表はどうしたいの?」
「え?」
「私達は、今の五組が好きだよ。だって代表、私達の好きにさせてくれるじゃん」
「そうそう、代表が私達の中で一番弱いのに、何でか代表の言う事には、誰も反論しないよね」
「だって、
「じゃ、私も」
「私も私も」
賛同の声が重なっていく。ただ間に合わせの代表、口が上手いだけの無能、上級生や一部の教員から、そう言われている事は知っていた。
だから皆、同じ様に思っている。そう思っていた。
「さて、同志京極。どうするかね?」
「私は……」
どうしたい。
どうすればいい。
逃げればいい。
戦わなければいけない訳ではない。
だが、逃げればまた無くす。
また繰り返すのか。
「代表、逃げるなら、私達は皆一緒だよ」
「……分かったよ」
京極は一度目を閉じ、息を吸い込んだ。肺の中身を入れ替え、新たな言葉を一気に吐き出した。
「行こう皆。私達は強くないし賢くないけどただ負けるだけじゃないって事を見せてやろう。だけど私だけじゃそれは出来ないからお願い手伝って……!」
「決まりであるね。一組副代表、五組も参戦である」
これで一年全員が参戦する事になった。
これからの戦いに、意気揚々とした歓声の中、誠一郎が安心の吐息を吐けば、隣から声を掛けられる。
「お疲れ様、誠一郎」
「箒、流石に疲れたよ」
「ふむ、なら今日は私が労ってやろう」
さて、何をしてもらおうか。
考えるが、まだやる事は山積みだ。自陣営の強化に二年三年への協力要請、そして倉持とのエキシビションマッチと、周辺機関や国家への根回し。
政治に関しては、〝HAI〟や学園の大人達が何とかするだろう。
「一組副代表、話がある」
「マルファ・ノブツカヤか、国か?」
「そうである。国連が知っていて欲しがるという事は、他の国も同様ではないかね?」
「家の出向技術者がな、何やら〝偶然〟不思議なファイルを見付けて、そして〝偶然〟それを開いて、〝偶然〟中身を見たら、何故か〝偶然〟こちらへ送信して、そしたら〝偶然〟家の担当官が〝偶然〟知らせてくれてな?」
「米国かね?」
中々鋭い。恐らくだが、近い内に何かしらの動きがある筈だ。それまでに、やれる事はやっておこう。
だが今は
「鈴、準備は?」
「済んでるわよ」
「なら、これより結成式として、学園祭のメニュー試食会を行う。経費は〝HAI〟持ちだ。好きに飲んで食え!」
子供らしくばか騒ぎをしよう。悩むのは、明日からだ。
誠一郎は箒とセシリアに手を引かれながら、子供らしく笑った。
次回?
一夏、自由の複数形を踊る
アメリア強化
小暴龍VS剣神