マイボス マイパートナー   作:ジト民逆脚屋

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前半のネタのせいで、次回に続きます。

今回のネタは終わクロから、ほぼそのまま持ってきてます。あの流れが好き。


なら、真ん中に居るのは 配点¦(大体変な奴)

「いや~、織斑君頑張ってますねー」

 

そう言えば、大剣を振るう白と、それに追われる鈍色があった。

 

「北条相手にあれじゃ、これからはちっと厳しくないか?」

「え、まだまだこれからですよー」

 

何がと、画面に視線を戻してみると、機殻(カウリング)された大剣が、次第にその勢いを増していた。

 

「漸く調子が出てきましたよー」

 

間延びした口調を見れば、何時もと変わらぬ顔がある。

 

「先生が教えてますから、あれくらい当然ですよー」

 

嗚呼、忘れていた。この忘れ物と遅刻の常習犯も、〝銃央矛塵〟と謳われた第一期生(キチガイ)の一人なのだ。

 

「加速が乗り出した織斑君は、中々に面倒ですよー」

「なら、いいんだがね」

「あれあれ? 榊原先生、やけに織斑君の肩を持ちますね?」

 

何やら勘繰る様な視線が向けられるが、他意などある訳も無く、しかし腹が立つので、顔面を掴んで絞り上げる。

 

「いたたたたたっ! ち、ちょっと、先生出ちゃいます……!」

「喧しい、珍しく警務課の訓練に顔を出したと思ったら、デスクワーカーは良いよな。気楽で」

「あああああ、でも実はそんなに気楽でもー、って、ほああああ! ほああああっ!」

 

叫ぶ余力があると判断し、握力を緩めないまま、訓練計画に目を通し直す。

計画自体は順調であり、多少の個人差はあるものの、問題は無いに等しい。今は、教官役のマリア・道明寺に、要訓練とされた者達が、規則正しく並んで立っている。

 

何故か、スーツにネクタイと革靴という重装備でだ。

 

榊原が何事かと、右手の握力を一気に絞っていると、銀縁眼鏡の位置を直し、ネクタイを締め直したマリアが、〝たのしいランニング〟と書かれた教本を脇に抱えて、

 

「では、生徒の皆様。本日より国連公認特殊独立教育機関IS学園警務課は、秋期特別訓練期間に入らせていただきマス。(ワタクシ)、毎度恒例訓練教官を務めます〝マリア・道明寺〟と申しマス。先生、難しい事は何一つ言いまセン。先生が何かを言ったら、はい先生(イエス・ティーチャー)と答えなサイ」

はい先生(イエス・ティーチャー)

 

返事に道明寺が頷くと、中の一人が手を上げた。

秋とはいえ、例年の異常気象とやらで、まだ少し夏の暑さが残る中、籠った熱で額に浮かんだ汗が、一筋流れ落ちた。

 

「はい先生! 質問宜しいでしょうか!」

「……御質問は認めていませんが、最初だけですカラネ?」

はい先生(イエス・ティーチャー)! ――何でスーツ着て、不気味敬語なんですか? 馬鹿かよテメエって言っていいですか!?」

 

対する道明寺は、汗一つ流すどころか、その気配すら見せずに、また一つ頷いた。

 

「実は、昨年の富士山~樹海往復合宿で、私は嘗て所属しておりました部隊方式の訓練を行いマシタ。樹海では罵詈雑言を浴びせかけ、富士山ではエロソングを皆で楽しく輪唱しながらマラソンしていましたところが、現二年の水色が不必要な反骨心を溢れさせマシテ」

 

吐息して、

 

「まあ、完膚なきまでにのしましたら、ちょっと上からお叱りを受けた訳デス。……そこで私は反省して、私の落ち度を省みた結果」

 

眼鏡の汚れを拭き取り、掛け直す。

 

「なので今、訓練は生まれ変わりマス。ワイルドかつヤンキーから、スマートに知的に行儀良く! 訓練フォーエバー!!」

「…………」

「おや、御返答がありまセンネ?」

「……はい先生(イエス・ティーチャー)

「御声が小さいデスネ?」

はい先生(イエス・ティーチャー)!」

「ではもう一度」

「ぅはい先生っ!!」

「はい、じゃあ、お~おき~なこ~へえでぇ~、さん、ハイっ!!」

「は~いぃ~先~生~!!」

「良く出来マシタ! では皆様、これから学園を五周ほどランニングで回りマス。一列になって、遅い人が先頭デス。……ランニングのコツは知っていマスカ?」

「はい先生」

「言えマスカ?」

「はい先生!」

「実は知りまセンネ?」

「はい先生!」

 

正直で宜しい、道明寺はもう一度眼鏡の位置を正し、

 

「ランニングのコツは、イ・カ・レ、デス。イは急げのイ、カは加速のカ、レは連続ダッシュのレデス。護らないと、また明日もこの流れをしますカラネ?」

「はい先生! ちゃんとイカレます!」

「では、まず先頭はそこの貴方から一列ニ」

「はい先生!」

 

答えたスーツ姿が、逃げる様に猛然と走り出した。次のスーツが慌ててついていけば、次も次もと走り出した。

そして、最後に道明寺が走り出し、

 

「では皆様、連帯感を高める御歌を歌いましょう。先生の後についてきて下さいね」

「はい先生っ!」

「咲~いた~。咲~い~た~。ターゲットのぉ花がぁ~」

「咲~いた~。咲~い~た~。ターゲットのぉ花がぁ~」

「並んだ~。並んだ~。ア~カ、黒服~、白装束~。どーのー花見ても~Yeehooー!」

「並んだ~。並んだ~。ア~カ、黒服~、白装束~。どーのー花見ても~Yeehooー!」

 

声と足音が遠ざかっていく。はて、あんな訓練を組んだかと、榊原は首を傾げるが、まあ、どうでもいいと、動きの無くなった右手に注意を戻す。

 

「おぉう、お花畑見えましたよ……」

「常日頃、頭の中そうだろうに」

 

右手を離し、空間投影ディスプレイに再び目を向ければ、ついに北条の秘密に気付いた様だ。

 

「ほらほら頼むぞ。こんなユルい職場、無くす気は無いんだ」

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

「……うん? やっぱり少し面倒だね?」

 

北条が刀を鞘に納め、肩を回す。まったく、面倒な話だ。

 

「……成る程、つうか、やっぱか。」

 

最早、使い古された手品でしかなく、何度も繰り返せば、当然バレる。

 

「ま、流石は俺ってところか」

「いやいや、それは言い過ぎじゃないかな?」

 

ゆるりと、何時もと変わらぬ足で、間合いに入り込む。

まだ余力は有りそうだが、脳天にこれを落とせば、流石の大男も、機体の保護があっても気を失うだろう。

そう思い、北条は変則の居合いを、一夏の脳天目掛けて放つ。体を半身に、肘を落とす軌道で、ヘッドセットごと額を割るつもりの一撃。

手品の種は割れても、技は割れていない。〝北条〟の技はいまだ健在だ。

 

「……本当に面倒だね?」

「手品って言うには、ちょっとあれじゃね? そこんとこどうよ?」

 

言い切るか否かというタイミングで、再び納刀、と同時に抜刀。しかし、断てない。

幅広の白の大剣は、確かにこちらの刃を受け止め、最早隠されていない隠し種も、同様に受けられた。

何の事は無い。北条の隠し種は、ただ半具現化させた大型実体剣を、己の動きに合わせて射出するというもの。

 

「倉持製準第三世代特殊武装〝富嶽百剣(ふがくひゃっけん)〟、専用武装持ちだったって話か」

「……私が勝負を仕掛けてきた時点で、気付いていた癖に、白々しいね?」

「確認と言質は大事だって、副代表に言われてるもんでな」

 

北条の背後から、僅かばかりに紫電を放ちながら、左右三対、合計六個のコンテナが姿を見せた。しかし、それはただのコンテナではない。

〝富嶽百剣〟の名が示す通り、コンテナの前面部には、大小様々な刀剣が納刀されている。

 

「後、それだけじゃねえだろ?」

「なんでそう思うのかな?」

「射出された刀剣を、PICで制御しているだけにしては、何回かやけに重たい一撃が飛んできてた」

「あの刀かもね?」

 

北条が親指で指し示す刀剣は、機殻された雪片弐型と同等の刀身を持ち、確かに一夏が言う重い一撃を放てるだろう。

だが、一夏は首を振り、それを否定した。

 

「違うな。あれは撃ち出した一撃じゃない。明らかに振り抜いた一撃だ。そこんとこどうよ?」

「……〝百鬼石燕(ひゃっきせきえん)〟」

 

霞の中から帳を突き抜ける様に、鎧に覆われた腕が、刀を抜き打ち、一夏を狙う。

直撃すれば危うい、しかし一夏は回避せず、歯を食い縛り雪片を振り抜いた。

激突、破砕に近い金管を纏めて、叩き付けた様な音が響き渡る。

鍔迫り合う一夏に、北条は目を見開き、彼はそれに笑みを返す。

 

「驚いたね?」

「どっちの意味か、ちょっと分かんねえ。けどよ、こちとら鈴の拳を受けてんだ。この程度で、負けるかって話だ……っ!」

 

そこまで言ったところで、北条の動きに変化が現れた。のらりくらりとした動きから、一変してこちらの首を取りに来る。

 

「そっか? じゃあ斬らないとね?」

 

変化は動きだけではない。高速の居合いと刀剣射出、それに加えて、北条の背後に現れた下半身の無い鎧武者が、一夏に両断の刃を浴びせてくる。

顔が無い、というより簡略化された、何処か髑髏に似た模様が刻まれ、体も鎧から見える中身は、ほぼフレームだけだ。

 

「ああ、そうだ? 勝った時の条件を決めてなかったね?」

「俺が勝ったら剣道部は従う。負けたら剣道部は従わない。じゃあないのか?」

「そうだね? じゃあ、私が勝ったら更識・簪の専用機、権限を破棄してもらおうかな?」

「それは……!?」

 

一夏が息を詰め、北条が力無く肩を竦める。

 

「まあ、私も所属は倉持だしね? 派閥は篝火だけど、ちょっと色々立場があってね? これくらいの旨味は欲しいかな?」

「おいおい、ちょっと待てって……!」

「待たないよ?」

 

 

首領飾¦『私は構わない』

雇われ¦『ボス?!』

弾薬庫¦『ちょっ、簪いいの?!』

首領飾¦『元々、北条先輩に負ける様じゃ、これから先は無理。だから一夏、ただ勝て』

 

 

振り下ろされた大太刀の腹を、殴り付ける様に雪片を叩き付ければ、簡単に砕けた。

どうやら、刀身の強度そのものは、それほど高くはないようだ。

ならばと、一夏は歯を剥いて笑った。

 

「悪いな、北条先輩。あんたの立場ってのが、一体どんなものなのか、俺は知らん。だけどな、勝てって言われちまったからには、勝つぜ」

「そう、そうか? なら、来なよ? 百鬼百剣、富嶽背負う武者髑髏、越えられるなら越えて見せなよ?」

 

再び居合いの構え、違うのは背後に浮かぶ剣林と、身を持たぬ鎧の武者髑髏。

分厚い壁だと、一夏は大剣を肩に担ぎ、正面から突っ込んだ。


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