マイボス マイパートナー   作:ジト民逆脚屋

33 / 52
長いよ


それを越える意味 配点¦(越えなきゃ赤点ですよー)

まるで、姫武者だな。

城塞の如き剣林に囲われ、百鬼を振り払う武者髑髏に護られ、しかし己も剣を振るう。

 

「ほらほら、何とかしないとじり貧だよ?」

 

判ってはいるが、手が足りない。

富嶽百剣の刀剣射出による弾幕に、それに紛れて放たれる百鬼石燕の一撃、そして北条自身の居合い。

その何れもが必殺の威力を持っている。受け続ける雪片弐型の機殻(カウル)にも、深々と傷が刻まれていく。

 

「さあ、どうするのかな? このままだと、私は楽だけたどね?」

 

 

首領飾¦『勝てと言ったが、流れマズくないかな?』

セシー¦『流れ変わりませんの?』

侍娘 ¦『一夏が負けたら、次は誠一郎か』

御曹司¦『一夏、勝て。頼むから、今はこれ以上仕事を増やしてくれるな……!』

龍母 ¦『何か切実なのがきたわね』

兎軍人¦『しかし、どうする? 白式では、少しばかり相性が悪いぞ』

弾薬庫¦『強引にでも斬り込む? 一夏と白式なら、耐えられる筈だよ』

雇われ¦『いやそれだと、鎧の一撃に耐えられませんヨ』

 

 

白式は近接型の機体で、装甲は厚くないが、その強度は高く、SE(シールドエネルギー)も他の機体に比べて多い。機動力も、水準以上のものを持つ。

だがそれでも、北条の連撃の前では意味を為さない。

北条の剣撃は、線でも点でもなく、面となって襲ってくる。

 

――さて、どうするよ。俺――

 

中遠距離の装備は、白式には無い。あるのは大剣型に機殻した雪片弐型のみ。

対する北条は、刀剣射出による広範囲、武者髑髏の巨躯による中距離、そして本人の近距離と、同じ刀剣だけでも多様な戦い方を見せてくる。

 

「うん? どうしたのかな? もしかして、降参だったりするのかな?」

「まさか、今に待ってろって話だ」

 

 

一季 ¦『よし、何かいい案頼む』

約全員¦『他人任せかよ!』

一季 ¦『いや、そうは言うけどよ。あれ、どう崩すって話だよ』

御曹司¦『手応えはどうだ?』

一季 ¦『正直、薄い。振り回してるこっちの手が痺れる』

侍娘 ¦『振り抜き様はどうだ?』

一季 ¦『刀一本ならやれるが、後ろのコンテナから何本飛んでくるか分からねえ』

セシー¦『後ろの髑髏もですわ。北条先輩の動きに追随するタイプの様ですが、果たして本当にそうなのか』

あめり¦『でも、離れていては、一組代表に手はないわ』

Oまり¦『あれだね、もう斬り込むしかないね』

 

 

結局、剣一本しかない一夏では、突っ込むしかない。それしか勝ち目は無い。

だが、一夏は何か違和感があった。

それは北条の戦い方ではなく、北条の理由にあった。

 

「先輩、そう言えば何で、今回の相対を仕掛けてきたんだ?」

「……富嶽百剣は倉持所属だからね? 明らかに離反の動きがあるなら、牽制するのは当たり前だよ?」

 

 

一季 ¦『誠一郎ー!』

御曹司¦『迷わず来すぎだ。だが、話はある』

龍母 ¦『流石、どんな話?』

御曹司¦『北条・督乃の実家は、製鉄に関して、高い技術力を持つ鉄工所だった』

弾薬庫¦『だったって?』

御曹司¦『分かるだろう。高い技術力を持つ鉄工所の令嬢が、今は国有企業所属のテスター。つまりは』

 

 

「そういう事か」

「人の事を嗅ぎ回るのは感心しないよ?」

「情報通が居るもんでな」

 

単純な話だ。中小企業が高い技術力に目をつけられ、強い力を持つ企業に買われる。

よくある話だ。北条はISのハイパーセンサーにより、広かった視界で、背後の武装群を見る。

〝富嶽百剣〟は倉持技研作成の準第三世代武装ではない。

〝富嶽百剣〟は、背後の刀剣群と射出コンテナ、武者髑髏〝百鬼石燕〟と今の改造機体、これらが揃って初めて、〝富嶽百剣〟となる。

代々続く北条鉄鋼が鍛造した、新時代の刀と具足。しかしそれは、意図も容易く奪われた。

 

――兄さん――

 

必ず、必ず証明してみせる。この全ては、倉持ではなく北条の銘が刻まれるべきだと。

その為なら、憎き怨敵の名を語りもするし、後塵も拝するし、

 

「後輩の願いも潰すよ?」

「そうそう簡単に潰れる後輩かよ? そこんとこどうよ?」

「なら、それを潰せば証明になるかな?」

 

大刀の一撃を受け止め、飛び込む動きで受け流す。散る火花を尻目に、スラスターの出力任せに加速。

振り抜く。しかし、止められる避けられる。

動きの質が違う。一夏が直線型なら、北条は流線型、一夏の動きに沿う様にして、一瞬で懐に入り込む。

 

「ちっ」

「あれ? よく受けたね?」

 

雪片弐型自体は問題無いが、それを覆う機殻が軋みだした。これが終わったら、データの取り直しか。

ならばと、一夏は柄にあるトリガーを引いた。

 

「大袈裟な機殻(カウル)はその為?」

「他にも色々あるぜ!」

 

機殻の刀身部の峰に仕込まれたスラスターにより、一気に加速した雪片で、一夏は迫り来る剣林を薙ぎ払っていく。

動きに加減は無く、振り始めから終わりまで、常に全力で動いていた。

機体も体も軋み、大剣を振る腕から熱を感じる。推進剤も体も、そう長くは保たない。

短期決戦、一夏はそのつもりで動き、北条もその空気を感じ取った。

 

「せっかちだね?」

「生憎、やる事が山積みでな。遅れてちゃ、青春は待ってくれねえのさ」

「そうなんだ? なら、遅刻しちゃえ?」

 

百鬼石燕が両手に刀を握り、まだ開いていなかったコンテナのロックが開く。

今までとは比較にならない密度の刀剣が射出され、大刀の一撃も重さを増した。ここが勝負の分かれ道だ。一夏は歯を食い縛り、迫る刃の嵐の中を、雪片を頼りに突き進む。

 

「自分の願いを叶えるには、他人の願いを潰すしかないよ?」

「随分と、マイナスな考え方だな」

「じゃあ、どうするのかな? もしかして、他人の願いも抱える気かな?」

 

そんな事が出来る訳が無い。

願いとは、願望とは、言ってしまえば欲望だ。

ああなりたい。

こうしたい。

なら、どうしたらいい。

その為には、あれをしなくては。

そうするには、これをしなくては。

欲望を叶える為には、何かを犠牲しなければならない。

そして、その犠牲は己からか、または他人からか。

それを選んで、

選んで

選んで

選んで

選んで捨て去った先に、願望が見えてくる。

不純物を捨て去った果ての、欲望すら引き剥がした純粋なもの。

それが願望なら、今の自分が抱いているものは、引き剥がすべき不純物なのだろうか。

 

「……問うよ? 君は、ISが無ければ、こんな事にはならなかったって思う?」

「またいきなりな話だな。でもまあ、そんなもんだろ。後になって、あの時こうしてればって思うんだ。誰だってそうだ」

「随分と軽いね?」

「そうでもしなきゃ、やってらんねえだろ」

「そっか? ……でも、私は思うんだ。ISが無かったら、私はこうじゃなかったかもって?」

 

それはと、一夏の問い掛けは言葉にならず、意識外からの飛び込みで、北条と鍔競り合う。

 

「ISが無ければ、倉持に目をつけられなかった?」

「何を?」

「ISが無ければ、倉持に目をつけられなくて、北条は北条で居られた? ……ねえ、答えてよ?」

 

百鬼石燕の横薙ぎが、白式の左背部スラスターを破壊する。まだ右が残っていれば、白式の出力なら機動に問題は無い。

問題は北条だ。

 

「私達から、奪っていくISは、一体何なのさ……!?」

 

慟哭と言っても、何ら差し支えない叫び。そして、それと共に放たれる斬撃。

重い。このまま受け続けるのは困難だ。力に任せ、刀を押し返し、スラスターで加速した逆袈裟を叩き込む。

 

「おいおい、マジかよ」

 

今まで、北条の動きに追随するだけだった百鬼石燕が、大刀で雪片を止めていた。

 

「だからね、私は証明するよ? 倉持の名に汚されようが、敗者の戯れ言だと嗤われようが、……〝富嶽百剣〟は北条の銘が刻まれるべき刀だと!」

 

飲まれる。北条の気迫に、雪片を振るう腕の動きが僅かに鈍る。

そして、その隙を見逃す北条ではない。

 

「〝常陸〟、〝陸奥〟、国を興せ!」

 

浮かぶコンテナ群から、百鬼石燕が振るう大刀数十本が、一夏へ向けて放たれる。

ただ放たれるだけでなく、偏差射撃の様にタイミングをずらして、一夏を押し潰していく。

 

「おああ……!」

 

だが、一夏も止まらない。元より、一夏と白式に余裕は無い。なら、前へ出るしかない。

大刀群を打ち砕きながら、目を閉じた北条へと突き進む。

 

「〝越前〟、〝越中〟、〝越後〟、国を富ませ!」

 

大刀群を突き抜ければ、次は北条が残って太刀の群だった。コンテナ三つから射出される太刀は、確実に一夏を削り取っていく。

 

「〝備前〟、〝備中〟、〝備後〟、国を守れ!」

 

スラスターの加速による強引な威力増強、そして残る右背部スラスターを用いた瞬間時加速で、一気に北条へ肉薄するが、刀剣を射出し終えたコンテナ群により、防がれ弾き返される。

 

「〝丹波〟、〝但馬〟、敵を討て!」

 

大刀と太刀、それぞれの群が放たれ、一夏を飲み込む。

眼下にはアリーナ中に突き立ち、鈍い光を放つ刀剣群が林を作っている。

終わった。これを足掛かりに、倉持に認めさせ、そして世界に刻み付ける。

そう思っていた北条のディスプレイに、一つの名前が浮かんだ。

 

 

龍母 ¦『何処へ行く気かしら?』

牛鬼 ¦『おや? 次は君かな? 敵討ち?』

龍母 ¦『はあ? まだ終わってないのに、試合放棄するの?』

 

 

有り得ない。北条は否定するが、現実は希望的観測を否定する。

 

 

龍母 ¦『一夏は私の男よ。諦めは悪いし、バカみたいに頑丈だし、……問われたら答える男よ』

 

 

「〝筑前〟、〝筑後〟!」

 

残るコンテナから刀剣群を射出する。狙いは一夏が埋まっているだろう剣の林。

着弾は一瞬で、剣の林を砕き散らし、光を反射する雨粒として降り注がせる。

 

「まだ、まだぁ……!」

 

装甲は砕け、所々刀が突き刺さった機体で、一夏は大剣を振るい、出鱈目な加速で北条へと迫った。

予想外の速度に北条の反応が遅れる。だがそれでも、有利なのは北条だった。

 

「〝扶桑〟、〝武蔵〟、国を閉ざせ!」

 

数少ない、残るコンテナ群の中で、一際長大な二本の刀が射出される。

全長十メートル以上の長大な刀、しかし、刃には一切の曇りは無く、歪みも傷すら無い。これ程の業物、鍛造した者達の腕と、それを振るう北条の腕。

箒は見入り、ポツリと口にした。

 

 

侍娘 ¦『あれに斬られるなら本望』

弾薬庫¦『箒が物騒な事言ったー!』

 

 

喧しい。

一夏は迫り来る二本の巨大刀に向かい、雪片の柄を握り直す。

 

「まあ、色々あったけど、今の楽しさならいけんだろ。白式!」

『イケルノー』

 

加減は捨てた。一夏は柄を握り締め、トリガーを引き、リミッターを外したスラスターの加速と、再びの瞬間時加速で、巨大刀に突撃する。

 

「北条先輩! ISが無かったら、こうじゃなかったって言ってたけどよ! じゃあ、ISが無かった先輩はどうだったんだよ!」

「は?」

 

意味が分からない。ISが無かったらどうだった。

そんな事は決まっている。普通の中小企業の社長令嬢として、普通に学生をして、普通に就職するか家を継いで働いて、何時かは結婚して、そして終わる。

それだけだ。なのに、北条は言葉に出来なかった。

 

「それは、今と何か違うのかよ?!」

「知った、口を?!」

「今だって、少し変わってるけど学生して、そして就職する! そしたら俺は、鈴と結婚だ! 幸せ全開だぞ! どうしてくれる!」

 

 

龍母 ¦『あらやだ、一夏ったら。……どうしてくれるって、どういう意味?』

御曹司¦『恐らく、衝撃が脳にまで達したんだ。ああなっては、もう……』

龍母 ¦『何言ってんのよあんたはー!』

 

 

「だから、何を言ってるのかな?」

「分かれよ!」

 

分かるか。

早く終わらせよう。北条は百鬼石燕に残る大刀を握らせ、追い討ちとしようとした。その瞬間だった。

二本の巨大刀が、飛沫くように砕け散ったのは。

 

「ISが有っても無くても、俺は普通に学生やって、鈴と恋して、就職して二人で生きて、幸せになる!」

「変わらないって言いたいのかな?」

 

なら、私は?

自問するが、答えは返ってこない。北条の答えは、ISさえ無ければなのだ。

認めたくない。

だから、否定の一振りを放った。

 

「なら、私は何なのさ!?」

 

最高とは言い難い、感情に任せた稚拙な居合いだった。

だからだろうか。今まで、刃こぼれ一つしなかった愛刀が折れたのは。

 

「それは、あんたが決めるんだ。普通なのか、奪われたのか。あんたの今はどうなんだ?!」

 

呆然とする北条に、一夏は雪片を振り下ろす。

このままいけば当たる。だが、北条も学生とはいえ、剣を修めた身。反射的に、腰の鞘を抜き防ぐ。半ばまで割られながらも、鞘は雪片を受け止めた。

 

「答えが出ないなら、ここはあんた〝が〟負けろ」

「わた、しは……」

「……飛沫け、雪片!」

 

北条が受け止めた雪片弐型の機殻、そのブレードを固定する両側の装甲が開き、白い極光が叩き付けられた。

その光が何か。理解する前に、機体からのアラートが鳴り響く。

SEが見る見る間に消えていく。こんな事が可能なものは、世界に一つしかない。零落白夜だ。機殻内部で、刀身を形成させず、ただのエネルギーの塊として、吐き出したのだ。

 

墜ちる。負ける。

負ければ、証明出来ない。

北条の名を、刻めない。

 

「う、あ、……〝百鬼石燕〟……!」

 

苦し紛れだった。まだ刀を持つ武者髑髏の名を呼んだのは。

しかし、百鬼石燕は動いた。

動き、再び刀を振るい、一夏を斬るのではなく、雪片を防いだ。

何故、北条が疑問する。残るもう一刀で一夏を断てと、そう指示を出すが、武者髑髏はそうは動かず、刀を捨て、北条を飛沫く極光から守る様にかき抱いた。

 

そして、機体からのアラートが鳴り止んだ。

SEを示すグラフは0の数字を明滅させ、己をかき抱いていた武者髑髏も、最早動かない。

 

相対の結果は決まった。

 

『北条・督乃、SE残量0! この相対、織斑・一夏の勝利!』

 

審判による宣言を聞き、一夏は手の雪片を見た。

 

――結局、北条先輩には一太刀も、か――

 

最後の一撃、あれは当たる筈だった。否、最後だけでなく、肉薄し迫った時の全ての攻撃がそうだった。

だが、結果は零落白夜の飛沫を当てただけ。

 

「あんたがって言ったけど、成る程な」

 

もし物に意志があるなら、つまりはそういう事だ。

北条は、例え刀折れて、鎧が砕け武者が倒れたとしても、

 

「あんた〝が〟無事なら勝ち、か」

「え?」

「……さ、行こうぜ。俺らの情報通が、きっといい話を持ってる」

 

いまだ呆けたままの北条に手を貸し、一夏は観客席を見る。何故か、椅子やら何やらがひっくり返った観客席で、誠一郎が親指を立てていた。

 

「ま、成るように成るさ」

 

そう言う一夏を、北条は不思議そうに見ていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。