インターセプト成功……!
京極は、内心で冷や汗を滂沱と流しながら、しかし表情には涼しさを貼り付けて、いまだ気を立たせた熱田を案内していた。
――いやあこれは無理無理マジな話無理な話だって――
トップ中のトップ、織斑千冬や他ヴァルキリークラスになれば、得たワンオフアビリティーの一部を、機体無しでも行使出来ると、最早何かの都市伝説めいた話を聞いた事がある。
だが、それを事実とは、欠片も思っていなかった。
――そりゃ無理もない話でしょうよ。完全に漫画やらの世界になるよ――
発達し過ぎた科学や技術は、魔法と区別がつかないという。この都市伝説もそういった類いだろうと、高を括っていたら、目の前で起きた現実は、小賢しい小娘の常識を容易く斬り捨てた。
――カッターで機殻剣両断はちょっと……――
人の世界に居るなら、人の常識で行動してほしい。切にそう願うが、それが出来るならあんな事は起こっていない。
「んで、何処に案内してくれんだ?」
「熱田さんは学園の卒業生ですしあまりまどろっこしいのはお嫌いでしょう?」
「ああ、当然だな」
ではと、京極は言葉を置いて、空間ディスプレイを開く。
長口上¦『という訳で今から神様入ります』
約全員¦『おい待てふざけんな!』
長口上¦『いやもう正直限界マジ無理。背中に臨界寸前の核融合炉背負ってる気分だから……!』
である¦『同志京極、入りますとは言うが、何処に入る気かね?』
長口上¦『え〝播磨〟』
あめり¦『それはまた、いきなりね』
長口上¦『だってもうどうしようもないよ? この〝剣神〟様かなり鶏冠に来てるよ』
Oまり¦『もうちょっと、どうにかならない?』
長口上¦『私がAパーツBパーツに分離していいなら』
である¦『同志早瀬、如何するかね?』
御曹司¦『……出場者は全員、〝播磨〟に集合。条件確認を終え次第、相対を開始する。あと、鹿島主任はどうしている?』
である¦『鹿島主任なら、同志達が〝播磨〟への案内を開始している。……エスパーダ社に関しては、まあ御愁傷様としか言いようがないね』
あめり¦『一つ聞きたいのだけど、エスパーダ社の機殻剣は本当に粗末な出来だったの?』
アメリアの問いに、少し間が空いて返答がある。
である¦『現場を目撃した同志の話では、カタログスペックでは上の下、しかし、かの〝神〟が言う様になまくらだとは思えない。だそうである』
首領飾¦『加えるなら、最近の量産品としては、最良の部類に入る。だけど、〝鹿島〟の鍛造した刀剣を知る〝剣神〟には、数打ち以下のなまくら』
Oまり¦『ワオ、それはかなり頭沸いてるわね!』
弾薬庫¦『頭沸いてるで済むのかな?』
雇われ¦『済むんじゃないですかネ』
長口上¦『あとね私かなり吹いてるから半端な面子だとキレられるよ』
約全員¦『お前ホントマジで待て……!』
ディスプレイ内が騒がしいが、誠一郎にとっては、まだ予想の範囲内だ。
問題は今の〝剣神〟熱田が、どこまで本気を出してくるかだ。
御曹司¦『京極はそのまま、適当に時間を稼ぎながら、〝播磨〟へ向かってくれ。……簪、鈴音』
首領飾¦『既に待機済み。傭平、シャルロットも』
雇われ¦『いやあ、装備の最終点検で先に、現場入りしていてよかったですネ』
弾薬庫¦『頼むよ二人共、今回僕は控えなんだから』
一季 ¦『ははは、まあ任せとけ』
龍母 ¦『吹いてるって言っても、私がそいつに勝つとかそんなんでしょ。今回はガチの本気でいくから、そんなに気負う事無いわ』
うわ頼もしい。
京極は感心しながら、五組のメンバーから届くメールを確認する。どうやら、倉持から来た出場者も、見つけ次第〝播磨〟へ送っている様だ。
さて、残るは自分だけだが、まったくままならない。
「おいおい、なんか面白そうな話してんな」
「あら興味がおありで?」
――マジままならない……!――
横や後ろから見えない様に、フィルターを掛けていた筈なのに、当たり前にディスプレイの内容を読んできた。
「ちょっと貸せ」
「あちょっ……」
剣神 ¦『生きのいいのがいるじゃねえか』
龍母 ¦『あら、お山の大将がどうかしたのかしら?』
挑発するなー!
背後から掛かる圧が、更に強まった。
お前はそうでも、こっちはただの一般生徒なんだ。ちょっとのあれで、あれだぞ。真っ二つなんだぞ。
そんな京極の声無き叫びなど、二人に聞こえる筈も無く、二人のやり取りは続く。
剣神 ¦『いいないいな、私にんな口聞くガキは居なかった』
龍母 ¦『へえ、根性無しばかりだったのね』
剣神 ¦『ああ、そうさ。本当につまらねえ、つまらねえ奴ばかりだって話だ。〝神〟に並ぶどころか、挑む事すらしねえ』
龍母 ¦『なら、
京極が聞いたのは、確かに笑いだった。場を和ます感情表現の筈のそれが、周囲一帯を凍りつかせた。
「いいな、マジでいい。萎えた話が滾ってきた」
静かな、熱を感じさせない口調。しかし、周囲には焼けた鉄の様な、その熱さを通り越えた冷たさが、直近の京極の身を焼く。
死んだと、京極は覚悟した。しかし、想像した感覚は来なかった。
「案内しろ」
「……何処へ?」
「祭、私に奉納する祭があるんだろ?」
さあ、案内しろよ。
狂喜を剥き出しにした〝神〟の進む道には、その歩みを妨げるものは何も無く、遠くに微かに聞こえる祭囃子が迎えていた。
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
さてと、簪は視線を上げる。上げた視線の先には、物言わぬ甲冑が鎮座している。
〝打鉄弐式〟
簪達が鍛造した鎧は、簪の視線に何かを返す事は無い。手を添えれば、ただ冷たい鉄の感触。熱は無い。
「弐式、いよいよだね」
返事は無い。当たり前の事だ。だが、簪は言葉を投げ掛ける事を止めない。簪だけではない。傭平、シャルロットに鈴音、セシリアや箒にラウラ、一夏と誠一郎。他にも専用機持ちは、誰しもが愛機に言葉を投げ掛ける。
それは何故か。数式の様な、明確な答えがある訳ではない。機体の性能が上がる訳でもない。
だが誰もが、機体に言葉を投げ掛ける。
何時か、かの博士が言った。
〝ISには意思がり、人格がある〟
今はまだ、僅かにしか明確な例は確認されていないが、それでも確かに意思はある。
「あなたはどう思っているのか。私には聞こえない」
意思があるなら、人はそれを無視出来ない。そこに人格があり、命を預けるなら尚更だ。
「もしかしたら、あなたは戦いたくない。そう思っているかもしれない」
だけど
「私は何もしないで、あなたを奪われるのは嫌」
だから
「少しでもいいから、力を貸して」
触れた手に、ほんの少しだけ暖かさがあった。錯覚だろうが、それでも構わない。
「ボス、そろそろです」
「……分かった」
口の端に吸入器を咥えた傭平が、ピットの出入口で呼び掛ける。
まずは世界の前に神だ。
己達が先へ進む為に、己達の覚悟を捧げ納め、己達を認めさせる。