マイボス マイパートナー   作:ジト民逆脚屋

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やあ、皆、鈴カーちゃんに新しい名前が追加されるかもよ?

エイプキラー鈴が


一年四組の二人

仙波・傭平は両親を知らない。〝傭平〟という名前以外に、知らない両親との繋がりが無い。

唯一、僅かに記憶に残っているのは、多分幼稚園に入るかどうかの年齢だった筈の頃、前も見えない激しい雨の中、橋の上から増水した川に自分を投げ捨てる人物のシルエット。

 

寒い、痛い、熱い、苦しい、ありとあらゆる感覚や感情がない交ぜになり、訳も解らないままに岸に打ち上がっていた。

体から何かが抜けていく。何も解らない。悲しいとか憎いとかは無かった。多分、体から抜けていった何かが、そういうものだったのかもしれない。

 

気付けば、自分は見知らぬ場所に居た。〝更識〟というその場所は、彼を迎え入れ、そして、その場所で〝傭平〟は〝仙波〟を得て〝仙波・傭平〟となった。

 

「傭平、レンチ」

「アイアイマム」

 

名前を、自分を得た傭平は、更識で生きて仙波として終わるつもりだった。

特にこれといってやりたい事も無かったから、それでもいいかと無気力に構えていた。

だが、ある時からそれは反対になった。

 

「ボス、これどうしまス?」

「それは一度外す」

「アイマム」

 

自分と同じ時間を育ってきた更識の娘の簪が、国家代表候補生となり、専用機を得る事になった。

無論、これだけなら男である傭平の立場が逆転する事はない。

高校進学が決まる受験が終わった時期に、有り得ない事が起きた。

本来、男には動かす事が出来ない機械〝インフィニット・ストラトス〟を動かした男が現れたのだ。全世界で一斉に男に対する検査が行われ、二人目の早瀬・誠一郎が見付かり、そして、三人目として仙波・傭平が見付かった。

 

まさか自分がという思いもあり、呆けたりもしたが、現実に変わりはなく事実だけが、そこにあった。

更識も仙波も、自分にとても良くしてくれる。

それに

 

『あなた、だれ?』

『……ようへイ』

『ようへい? うちにやとわれたひと?』

『たぶんそウ』

『じゃぁ、わたしがボス』

『え?』

 

今にして思えば、どんな子供だと言いたくなるが、まあいいかと思ってしまうのは、自分が更識に染まったからだろうか。

しかし、〝ボス〟が付いてこいと言ったからには、雇われた傭平としては付いていくしかない。

 

喉の痛みに似た痒みを抑える為に、電子タバコ型の吸入器を口の端に挟み吸う。

甘いフレーバーが薬の嫌な味を消してくる。

 

「傭平、ここは禁煙」

「タバコじゃないですって」

「知ってる」

「左様で」

「傭平」

「なんです? ボス」

「完成するかな?」

「完成するでしょ」

 

簪が問えば、傭平は当然を返す。

 

「完成するよね?」

「完成させるんでしょ」

 

物言わぬ欠けた鉄の鎧を前に、二人はゆっくりと作業を続ける。

 

「完成させよう」

「そうしましょ」

 

今まで、更識・簪が、彼女の専用機が開発中止となり二人で組み上げると決めた日から、幾度となく繰り返された応答。

それは言葉を変えて二度三度続いて終わる。

 

「ボス」

「なに?」

「今日は上がりましょう。時間もいい感じですし」

 

傭平が言うと、簪は眼鏡型のディスプレイを鼻上に直しながら、壁に掛けられた時計を見る。

時刻は昼前、鈴達との約束までまだ余裕はあるが、今から準備をしていないと間に合わない。そんな時間だ。

 

「そうしよう」

「アイマム」

 

二人は立ち上がると、欠けた鎧を見る。

〝打鉄弐式〟、未だ完成の目を見ない鎧が、何も発する事無く鎮座していた。

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

「待った?」

「うんにゃ、こっちも今来た」

「誠一郎は?」

「まだみたいですね」

 

簪、傭平、一夏、鈴の四人がショッピングモール〝レゾナンス〟一階中央広間にある休憩所に集まっていた。

 

次の休みに買い物と映画へ行こう。

そう約束をしていたのだが、時間になっても早瀬・誠一郎が現れない。

一体、どうしたのかと、一夏が携帯電話で連絡をいれようとした時、丁度よくメールが入った。

 

〝すまない。家の仕事で新しいパッケージのテストが急に入った。今日は行けそうにない。本当にすまない。他の皆も新型パッケージのテストらしくて連れてかれた〟

 

「だとさ」

「なんかビミョーにネタくさい謝罪メールね」

「ある意味、誠一郎らしい」

「まあ、早瀬クンも悪気は無いんですシ」

「どうする? 先に映画に行くか?」

「〝THE・学天測〟ですネ」

「今回はリメイク版らしいけど、旧版は泣けたわ……」

「そんなに?」

「ええ、特に最後のシーンは涙無しには見られないわよ」

 

全員が携帯を見れば、他の面々からの謝罪メールが届いていた。

なんか嘘くさいが、まあ信じる事にした。

 

「鈴、なんか足りない物あったか?」

「シャンプーに化粧水、あとは学園の購買でも買えるものね。あ、なんだったら、秋冬用の服見てみる?」

「いいな。二人もそれでいいか?」

「いいですヨ。ボスは?」

「構わない」

 

四人で並んで歩いていると、人だかりが出来ているのが、遠くに見えた。

よく見てみると、映画館がある位置に人だかりが出来ている。何かあったのかと、近くに居た野次馬の一人に傭平が聞いてみた。

 

「あの~、何かあったんですカ?」

「ん? ああ、詳しくは知らんが、なにやら機材のトラブルらしくて、今日は上映出来ないんだとさ」

「じゃあ、この人だかりは払い戻しかなにかデ?」

「多分だがな。えらくもたついているのは、データが飛んじまって、紙媒体の記録引っ張り出しているかららしいな。さっき、払い戻しが終わった奴が言ってたのを聞いたよ」

「有難う御座いまス」

 

傭平は三人の元に戻ると、聞いた通りの事を伝えた。

鈴は少しガッカリしていたが、事故ならしょうがないと割り切り、空いた時間で買い物をして、フードコートで食事をした後で、DVDでも借りて帰ろうという話になった。

 

「しかし、今週のインフィニット・ストライプス読んだけど、分かってないな」

「何がでス?」

 

急に何かを言い始めた一夏が目を閉じ、宙を両手で捏ねながら傭平に答えた。

 

「美尻美脚特集だったんだがな。鈴の尻のナイスアングルは、こう……、斜め下からの……」

「もう! なに言ってんのよ!」

 

鈴のアッパー気味のフックで、一夏の体が浮いた。肉を打ち骨が砕ける音が聞こえた気がしたが、気のせいだと簪と傭平は知らぬ顔をした。




〝THE・学天測〟

ヒロインの亡き科学者の父が造り上げた飛翔する学天測が、魔人加藤が仕掛けた悪魔召喚陣を破壊する為に、学天測ドリルで空中戦を繰り広げる。

航空学者の父を持つ主人公は、ヒロインに出合い、魔人加藤との戦いに巻き込まれ、その野望を阻止しようとする。
しかし、後一歩の所で学天測は半壊し撤退。
次、飛べば二度と帰っては来られない。それでも主人公とヒロインは、学天測に乗り込み、最後の戦いに挑もうとした時、学天測の姿はなかった。
何処に行ったのかと辺りを見渡せば、主人公の亡き父が造り上げた上昇速度と最高速度しか考慮していない機体に、己を括り付けている学天測がいた。

止めようとする二人に喋る機能が無い筈の学天測が、二人の亡き父の声で

「お前達は幸せになれ。あとは年寄りの役目だ」

と、言い残し、最後の戦いに挑んだ。
崩れていく体、薄れていく意識、そんな中でもはっきりと分かるものがある。

「お互いに駄目な、父親だったなぁ」
「全くだ。だから」
「ああ、そうだ。だから」
「「俺達の子供の幸せは邪魔させねぇ……」」

何故だろうか。
消えていく意識の中、何故か自分達が孫を抱き上げているのが見える。
ああ、そうか。

幸せにおなり

召喚陣が砕けていく空に、そんな声が聞こえた気がした。
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