さてと、傭平は思考を回す。
神楽の舞台は、人工島〝播磨〟で相手は倉持技研。
目的は主たる簪の技術的権威の確保。
その為には簪の活躍と、その作品である打鉄弐式の性能を、今会場に集まる全てに喧伝しなくてはならない。
さて、難しい事だ。
この喧伝、あまりに功績を立て過ぎても、簪の将来にあまり良くない傷を残す事になりかねない。
しかしと言って、傭平や一夏に箒達が、簪よりも目立ち過ぎては、今回のこれを画策した意味が無くなる。
さて、難しい事だ。
「私を前に呆けるか!」
「あ、いやー、少し考え事をしてしまいましテ……」
「なら、考える必要を無くしてやる」
出来る事なら、早々に簪と合流して、彼女の功績確保に動きたいのだが、熱田の圧に紛れて、こちらへ飛び掛かってきた彼女、〝蔵橋〟が厄介極まりない。
「同じ武装腕同士、潔く打ち合え……!」
そうは言うが、傭平としては正直な所、己の功績はさほど欲してはいないのだ。
全ては主たる簪の功績とするならば、今ここで蔵橋を打倒するのは、少々如何なものか。
思考を回すが、中々答えは出ない。しかもその上、蔵橋の右腕がまた厄介だ。
「いや、同じ武装腕と言いますけド、系統が違い過ぎますっテ!」
思考を回すが、中々手が出せない。ヘカトンケイレスと違って、蔵橋の右腕は動きが軽く速い。
対する傭平のヘカトンケイレスは、重く遅い。ある程度は、傭平の仙波の技で賄えているが、同系統の武装で、尚且つキャリアに差があると、反撃をしようにも難しい。
そして、それに加えて、
「また……!」
この〝播磨〟の揺れと、建造物の切断だ。
恐らくではなく、確実に鈴音と熱田の仕業だ。〝播磨〟そのものが激震する力と、遮るものが存在しない切断という概念。
二つの絶対による蹂躙、その結果は〝播磨〟の崩落という形で現れた。
――ちょっと勘弁してくれませんカ……!――
ISに足場は必要無い。元々、宇宙へ至る為の機械だったのだ。災害救助や、医療福祉で使用されているEosとは違う。
地面という足場が無くとも、空中を足場に出来る。中には、傭平の機体の様に走るという行動を、加味した構造の機体も有るが、その様な機体は少ない。
故に、ISは地表で起きた影響を直接受けない。しかし、それはISという飛行機械の話だ。
それを駆る人間は、空を飛ばず地を這う生き物だ。
崩れず歪まず割れぬ筈の地が、その当然の通りにならず、磐石とした姿が崩れれば、それに頼る人間はそれを当然と落ちていく。
「ちっ、あの神も少しは考えてほしいものだ」
「……まったく、キツイですネ」
傭平と蔵橋は、傭平が受ける形で、その右腕同士をぶつけ合い、鋼の軋みを鳴らし鍔競り合う。
崩れかけた〝播磨〟のフレームを足場に、傭平は改めて、蔵橋の右腕を観察する。
機体は打鉄だが、若干装甲が厚く、関節部や露出部が何やら特殊な素材で出来ていそうな、軟質素材のカバーで被われている。
特に右腕側は、厳重に被われていて、傭平の背筋に何かうすら寒い汗が、一筋流れ落ちた。
「さて、お前達は本当に〝神〟に勝てると、思っているのか?」
「古来より、神殺しに化け物殺しは、人間の所業ですヨ」
言いつつ、情報を探る。急ぎ繋いだネットワーク上にある情報には、蔵橋の機体に関する情報は見当たらない。
急拵えとは思えないが、右の武装腕は配線が剥き出しになっている部分も多く、断言は出来そうにない。
しかし、不思議な形だ。武装腕の形式としては、傭平のヘカトンケイレスと同系統の、腕部嵌め込み式だろう。
だが、ヘカトンケイレスより長く細い姿は、折り畳まれた様な形であり、巨大な鉤爪の右手に直結している前腕部は、タンクか何かを納めているかの様に膨れている。
激しく嫌な予感が加速する。
「なら、かの〝剣神〟の前に、この〝火神〟の右腕を越えてみせろ……!」
〝火神〟、その二文字を聞いた傭平の動きは、迅速だった。
ヘカトンケイレスに新たに内蔵されたシールド発振装置を、緊急稼働させ蔵橋の右手を弾き飛ばす。
――二、いや三発装填……!――
掛かる負荷も切り捨て、傭平は爆薬を三発装填し、一発でも致命の一撃となりうるそれを、一斉に起爆し蔵橋に爆炎を叩き付けた。
壁と表現するのも生温い、炎と熱風塊が蔵橋を飲み込み、爆風が周囲の瓦礫を吹き飛ばし、熱が剥き出しの鉄骨を僅かに赤く染める。
赤く焼けた薬莢が三つ排出され、落下の音と共に転がる。
緊急拝熱の白煙を噴き出すヘカトンケイレスを、再び蔵橋へ向ける。
有るのだ。同じ武装腕、ほぼ同時期に作成され、しかし日の目を見る事無く、埋もれていったものが。
「…………」
無言で睨む爆炎が晴れ、残る陽炎が視界を歪ませる中、ぬうっと赤く紅い鉤爪が顔を出した。
「灼き尽くせ、〝ヒノカグツチ〟……!」
構えたヘカトンケイレスからのけたたましい警告と、
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「〝カグツチ〟じゃん。まだ残ってたんだねサカキ」
「ええ、驚きねサカキ」
「ナラ、サル。よく見てみろ。あれは〝カグツチ〟じゃねえよ」
榊原の指摘に、楢原と百日紅は首を傾げるが、すぐに納得したと頷いた。
「そういえば、〝カグツチ〟に手無かったわ。もっと直接的に、バーナーみたいなやつだった」
「それに、あれが〝カグツチ〟なら、そのまま引っ張り出すのは無理だろ」
「榊原先生、その、〝カグツチ〟とは?」
また補習するか、と黛を睨む様に見るが、これに関しては仕方ないかと、榊原は携帯端末を開き、教員用データベースから、情報を幾つか引き出す。
「腕部一体型武装腕〝カグツチ〟、今となっちゃ、設計思想だけが生き残った代物だな。性能はその名の通りに、超高熱による熱量武装だ」
「でも、結局実験段階で、表に出る事は無かったんだ」
「まあ、当然よね。使用者の安全が確保出来ない熱量武装なんて、表に出せないわよ」
「え?」
百日紅の言葉が、黛の耳に届き、爆炎と熱の柱が二本、〝播磨〟に突き刺さった。