マイボス マイパートナー   作:ジト民逆脚屋

44 / 52
神楽舞いの参加者達 配点¦(さあ、いこう)

「一体、どういうつもりだ?!」

 

怒鳴るというより、最早叫ぶといった糾弾の声が、観覧席に響いた。

 

「どう、とは?」

「しらばっくれるな!」

 

身をすくませる様な叫びだったが、返答の主である誠一郎は、あまり関心を感じさせず、癖毛を掻いた。

 

「お前らに、ただの子供に! あんなものが造れる筈が無い!」

「ああ、成る程。そんな事か」

 

よく言えたものだ。今、この倉持技研の重役は、自分達の置かれた状況と、今の発言の意味が、理解出来ているのだろうか。

 

「そんな事だと?」

「ああ、失礼。まさか、ここが何処で、我々が何者か、そして貴方方のやった事を御理解頂けてないとは、私としても思ってなかったので」

「貴様……!」

 

さて、いっそ激昂でもして、掴み掛かってくれば、話は楽に済むのだが、どうやらそこまでではないらしい。

誠一郎は内心で、深い溜め息を吐くと、モニターに映る簪の戦いに視線を向ける。

 

「では、お答え戴けますか? 私共が何者で、ここが何処で、貴方方が彼女とあの機体に、何をしたのかを」

 

答えは唸りと、それに続く沈黙だった。

まさか、分からないという意味の沈黙ではあるまい。

理解したくない、答えたくない、拒絶の沈黙。だがそれを嘲笑うかの如く、モニターでは簪が倉持側の選手を圧倒し、学園で新たに導入した機構の一つである脚部パイルという、倉持側の心を折る杭を刺した。

機体のSEはまだ残っているが、あの様子では体より先に、心が折れている。

簪が薙刀の刀身を取り換えて、本当に止めの刃を振り下ろそうとした時、誠一郎は驚愕する。

 

「あれは……!」

 

誰の声だったか、それを気にするよりも先に、誠一郎は表示枠を開き、ピットで待機中のセシリアを呼び出す。

 

 

御曹司¦『セシリア!』

セシー¦『見えてますわ! しかし、私は今は出撃は無理です!』

弾薬庫¦『僕もだよ! 武装を積み込み終わるまで待って!』

兎軍人¦『いや、レーゲンなら換装中の装備をパージすれば、動けるが……』

あめり¦『戦えないでしょうね。一組副代表』

御曹司¦『……いや、まだだ』

Oマリ ¦『え? いや、でもピンチなんでしょ?』

 

 

流れの止まない表示枠を、一度閉じて、誠一郎は大きく息を吸って吐く。

相手はあの産みの親殺しのカグツチ、出場メンバーは全員、中近距離系統。手としては、エネルギーの対消滅能力のある一夏か、中距離に於ける火力を持つ簪か箒だ。

だが、

 

 

首領飾¦『傭平、行けるね』

雇われ¦『イエスボス』

弾薬庫¦『傭平、大丈夫だよね』

雇われ¦『任せてくださいヨ』

 

 

腰のハードポイントパーツから、吸入器を取り出し、少し長めに吸い込む。ISを纏った状態なら、あまり気にする必要は無く、この喉も痒み以外に何かある訳でも無いが、それでも不安材料は減らしたい。

 

「傭平、命令は一つ。……勝て、勝って、その右腕を証明しろ」

「マム、イエスマム」

 

では、と傭平は熱線を回避し続ける紅椿から離れ、ヘカトンケイレスを構え、自由落下に近い降下を始める。

 

「では、また後でだ!」

「先に行くぜ!」

 

箒がそう言い残し、簪と一夏を連れて、颯爽と飛び去っていく。

行き先は一つ、燃え盛る神の待つ神楽の舞台だ。

 

 

御曹司¦『傭平』

雇われ¦『早瀬クン、どうかしましたか?』

御曹司¦『簪も言っていたが、兎に角勝て。あのカグツチが出てから、倉持の年寄りが五月蝿い』

雇われ¦『カグツチじゃなくて、ヒノカグツチらしいですよ』

御曹司¦『ヒノカグツチ? 成る程、また面倒な事を』

弾薬庫¦『傭平、敵熱量増大。デカイのくるよ!』

 

シャルロットの警告と同時に、機体からもけたたましい警報が鳴り始め、蔵橋から熱線というよりも、熱塊といった熱量が、傭平に向けて振るわれる。

 

『ごんぶとビームサーベルだー!!』

 

――いや、ホントにビームサーベルですよ……!――

 

真正面から振り下ろされる熱塊、一体どういう出力で発熱すれば、こんな出鱈目な熱を保持出来るのか。

 

「火神の前に倒れ伏せ! 千手巨人!」

 

斜めの袈裟懸けに振り下ろされる軌道から、恐らくは返す刀で、飛び去った三人を狙っているのだろう。

だが、それをさせない為に、火神を打ち倒し、この身も神に届くと、世界に知らしめる為に、仙波・傭平はこの場に残った。

これは従者に必要無い戦果か。否、更識・簪の右腕として、必要不可欠な戦果だ。

 

――ならば、ここが気合いの見せ所……!――

 

迫る熱塊に、傭平はヘカトンケイレスを叩き付ける。

瞬間、機体からヘカトンケイレスから、異常なまでの警告が鳴り響き、内蔵型のシールド発振装置から、空になったバッテリーパッケージが、次々と排出される。

SEに守られている筈なのに、それでも身に感じる脅威の熱量。

 

「私は貴様を倒す。そして、私は証明する。カグツチは、ヒノカグツチは、産みの親殺しの駄作などではないと……!!」

 

更に上がる圧に歯を食い縛り、右腕に力を送る。

産みの親殺しのカグツチの事は、ISの歴史に残る痛ましい事故の一つとして、傭平も知っている。

開発者とテスター、他作業員数名。多数の重軽傷者、そして二人の死者を出してしまった武装腕。

開発は中断され、試作されていたカグツチ二番機も、破棄される予定だったという。

ヘカトンケイレスも同じだ。人が、只人が神々に挑み勝つ為に、その負担を無視してありとあらゆるものを、無理矢理詰め込んだ。

その結果、神挑みの巨人の腕は、日の目を見る事無く、学園の奥深くへと封じられた。

 

まったく同じではないが、同じだ。ただ違うのは、今の立場。

挑む者と、挑まれる者。

ヘカトンケイレスとヒノカグツチ、日陰に追いやられ、否定された者達。

 

「勝つぞ。勝って、世界に知らしめる! 父さんと姉さんは……、二人が造ったカグツチの価値を……!」

 

なら、己に何が出来る。

 

「貴様を倒し、仲間を倒し、あの龍と剣神を倒し、火神こそがと、証明する為に倒れろ……!」

 

火神の熱塊に押され、膝をつく己に何が出来る。

一度、知らずに否定され、しかし肯定されて、仙波・傭平の名を、居場所を与えられた己。

肯定され期待され、それに応えて前へ進み、理不尽に否定された主。

そして、己を呼び続け、隣に居てくれる人。

さあ、仙波・傭平。その二人の為に己は何が出来る。

 

簡単だ。

 

「お……!」

 

右腕の、全身の筋肉が隆起し、右腕の排熱板からは絶え間無く、高熱が吐き出され、機体各所からも耐熱限界を報せる警報が止まない。

だから、どうした。

 

「あぁ……!」

 

吠える。

吼えて、巨人の右腕を振り抜き、火神の焔を弾く。

驚愕に止まるなら、次の動きの暇は与えない。

 

「貴様」

「……俺も同じですよ」

 

巨人の拳を、火神の爪が受け止め、火花が鳴り止まず飛び散る。

 

「何だと?」

「俺も、証明しなくてはならない。我が主と友、そして俺自身を。未来を得る為に……!」

 

叫び吼え、爆発が蔵橋を飲み込む。単純な熱とは違う、爆発という力の叩き付け。

今まで、一撃に敵を打ち倒してきた巨人の怒りだが、相手は火神〝ヒノカグツチ〟。

そう簡単には倒れない。

 

「……なら、その未来とやら、私が刈り取ろう」

 

最早、陽炎というには、あまりに過ぎた熱気が蔵橋の周囲を歪ませる。

煌々と、灼々と、朱々と、煮えたぎる様に燃え盛る右腕は、触れるもの全てを照らす様に、焼き融かしていく。

 

「なら、俺は刈り取られる前に、貴女を砕きましょう」

 

両者、一歩前へ出る。

両者、二歩前へ。

両者、三歩更に前へ。

両者、対峙し、双方共に巨腕を構える。

 

「倒れろ……!」

 

どちらの言葉だったか。その言葉を掻き消す様に、爆発と熱塊の柱が、〝播磨〟に突き立った。

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

「あー、ホントに最高の気分だ」

「あら、楽しめている様で何よりだわ」

 

黒い刀身を肩に担ぎながら、紫煙を吐くと、触れるもの全て破壊する前蹴りが、熱田の足元を粉砕する。

瓦礫が吹き飛び、砕け散り、数千人規模の人々の負荷に、耐えうる筈の頑強な船体のフレームは、既にその役割を放棄し始めていた。

最早、〝播磨〟船上に無事な箇所など残っておらず、その様相はさながら、天災が重複した様に荒れ果てていた。

 

「だけど、まだ楽しみは続くわよ」

「あ? おいおい、マジか。マジの話してるか? それはいい話だ。ああ、いい話だぜ」

 

熱田が肩に担いだフツノを、叩き付ける様にして、鈴音へと振り抜く。

剣の術も技も何も無い、ただ刃物を振り回している。そうとしか見えないそれが、剣技を修めた者を戦慄させる。

 

 

牛鬼 ¦『やっぱり、出鱈目だよね?』

あめり¦『私達が磨いて積み上げて、そうして必死に繋げてきた技術が、本当は剣にとっては不純物でしかない。ある意味、悪夢ね』

 

 

剣士ではない。しかし、アメリアにも理解出来る。

あれは、剣神は、人が届いていい域ではない。

そして、

 

 

Oマリ ¦『それなら、鈴音もある意味悪夢よ』

 

 

全てを断ち斬る熱田に対し、鈴音もまた全てを打ち砕く。剣神の刃を受けても傷一つ負わず、平気な顔で、致命の打撃を雨霰と見舞う。

 

〝播磨〟が歪み、海だけでなく学園島にまで、その力を伝え、見る者を畏怖させる。

誰もが思うだろう。あの様になりたいと、絶対者としての力が欲しいと。

だが、現実はそうはならないから現実なのだ。

 

「外野がうるせえが、関係無いよな」

「外野は外野でしょ」

「じゃあ、お前はどうだ!」

 

居合、に近い構えで、横薙ぎにフツノを振る。

フツノに触れるもの、延長線にあるもの、全て抵抗せず、剣神の刃の元にするりと落ちていく。

頑強な鉄筋コンクリートも、鉄骨も合金フレームも、何もかもが初めからそうだったと、二つに分かたれていく。

 

「まだ分からない?」

「ホンット、最高だ。最高な話だよ、お前」

 

剣の神の前に、全ては断たれ倒れるのみ。

それが絶対のルールだ。

今までもそうで、これからもそうだ。

だが、今と嘗てはそうではない。

 

「あいつら以来だ。ああ、そうさ、あいつら以来だ」

 

風神、虎神、氷帝、闘匠、熾天使、銃央無塵、鬼。そして、戦乙女。

この誰もが、剣神の刃で断てなかった。

嬉しかった。

楽しかった。

そして、もうあんな満ち足りた日々は来ないと、諦めていた。

しかし、現実はどうだ。

 

神に成れず、絶対者にも為れない。そうなれない者達が、今、己の前に来る。立っている。

 

「ああ、いいよな。いいよな、鹿島。……〝抜く〟ぜ」

 

爆炎と熱塊の柱を背にして、熱田は鈴音に向かい合う。

 

「あー、鳳・鈴音」

「何かしら?」

「今からフツノを〝抜く〟。まあ、あれだ? 死ぬなよ?」

「は?」

 

熱田はフツノを、己の前に構え、刀身の峰を掴んだ。

フツノは機殻剣(カウリングソード)であり、その機殻(カウル)の内には、芯となる本体がある。

そも、機殻剣は通常の刀剣に、強度や装甲、一夏の雪片弐型の加速スラスターの様な、特殊な機能を追加した装備だ。

そう、機殻剣の機殻は鞘ではない。

刀剣を納める鞘ではないのだ。

その筈だった。

 

「……え?」

 

誰だっただろう。

熱田が機殻から、フツノを抜いた時、一瞬遅れて、そんな呆けた声を漏らした。

派手な音も、動きも何も無い。ただ、刀を鞘から抜いて、その動きで熱田が頭上を薙いだ。

ただそれだけで、空が〝斬れた〟。

雲が断たれ、風が斬られ、青のみが残る。

その下で、熱田が剣神として、フツノを握る。

 

「とくとご覧じろ。神刀フツノの本当の姿だ」

 

飾りも刃紋も、鍔すら無く、有るのは柄と刀身だけの、ただ斬るという意志以外を放棄した姿。

それは、この空の向こうよりも、更に深く黒く、その中で刃だけが、星の様に光を反射していた。

 

「さてと、だ。鳳・鈴音、お前は人か龍か?」

「問答がしたいの? なら、答えはこうよ」

 

自然体でフツノを握る熱田に対し、鈴音は大きく両腕を広げた。

 

「来なさい。全部、受けてあげる」

「ああ、お前はそうだ。そういう最高な奴だって話だ……!」

 

瞬間、〝播磨〟が割れた。比喩ではなく、物理的に割れた。

限界を超えた船体が、その部分を放棄する様に、砕かれ斬られ、海へと落ちる。

 

「斬れてねえよな!?」

「斬れると思ってるの!?」

 

鈴音の右ストレートに合わせて、熱田が袈裟懸けに斬りつける。しかし、フツノの刃は通らず、鈴音は左手で熱田を掴み、頭突きを食らわせる。

音がモニター越しでなく、直に学園島にまで響く。

 

「あ、は」

「は、はは」

 

それは笑みだった。

歓喜の笑みだった。

崩れ、崩壊の始まった神楽の舞台で、神と龍の舞いが始まった。

 

「あっちも漸く、覚悟が決まったみたいだしよ。トバすぞ……!」

 

避ける、守るを捨てた、剣と拳の入り交じる致命の嵐。

互いに装甲が割れ、潰れひしゃげ撓み、切り落とされるが、そんな事は知らないと、応酬は続く。

 

「なら、こっちもトバすわ、よ……?」

 

一瞬だった。ほんの一瞬、否、一瞬にも満たない刹那、鈴音の動きが鈍った。

 

「こ、の、バカ野郎……!」

 

機体各所がバーストし、甲龍が瓦解する。

まさか、だった。

 

「鈴……!」

 

一夏が離れた空から叫ぶ声が聞こえる。

 

「鳳・鈴音」

「何? 手加減のつもり?」

「いや、……じゃあな」

 

鈴音が生身の拳を振り抜くのと、フツノが鈴音を斬るのは同時だった。




次回
巨人と火神 配点¦(だからこその証明)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。