「あの、シャルロットさン?」
回収された傭平は、次々に口に放り込まれる携帯食や経口補水液の間を縫い、口に放り込んでくるシャルロットに声を掛ける。
だが、当のシャルロットはその呼び掛けに答えず、目を弓にした笑みのまま、傭平の口に次のエナジーバーを詰め込む。
「シャル……、シャルロ、シャルロットさン」
「……傭平、僕言ったよね?」
――あ、これキレてますネ――
短い付き合いではあるが、シャルロットがこの作り笑顔を崩さない時は、間違いなくキレている時だと分かる。
だが、傭平にはシャルロットが何故キレているのか、皆目検討がつかない。
「言っタ?」
仙波・傭平は分からない。
だが、目の前の人に涙を流させてはいけない。それだけは分かる。
しかし、それが何故なのかは分からない。
「傭平、傭平が何かをしたい時は、ちゃんと言って」
「…………」
「一人で、何かをしようとしないで。一人で何処かに行こうとしないで。傭平が行くなら、僕も一緒に行くから」
「シャルロットさン……」
何を言えばいいのだろう。どう言えばいいのだろう。
傭平は答えを知らない。
だが、だからこそ、この人を泣かせてはいけない。この人に涙を流させてはいけない。
傭平の壊れた心が、そう叫んだ。
「シャルロットさン」
「傭平」
「……祭りに行きませんカ」
「どんなお祭りなのかな?」
「荒ぶる神を鎮め奉る祭りでス」
「一人じゃ無理なのかな?」
「一人でやろうとしたら、見事に弾かれまして、ちょっと一人じゃ無理みたいですネ」
莫大な熱量の光を背景に、二人は微笑む。
傭平は迷いながら、シャルロットは仕方ないと苦笑を交えて、不器用な二人は立ち上がった。
「それじゃ、お祭りの前に準備しないとね」
「準備ですカ?」
「そ、準備。ラウラ」
「……言いたい事はあるが、今はやめてやろう」
見ればラウラが居た。
しかし、ラウラは、いや、シャルロットも今回の試合では控えだった筈だ。
何故ここに、という疑問と同時に傭平は漸くある事に気付いた。
今、自分は何処に居るのだろうか。
空が見え、蔵橋の熱線が嵐の様に吹き荒れている事から、ピットではない事は確かだ。
だが、〝播磨〟船上にこんな甲板の様な場所は無かった筈だ。
それに加えラウラは機体ごと、この甲板のカタパルトの様な器具に固定されている。
現状を把握しきれていない傭平に、更に追い討ちをかけるのは、謎の浮遊感と甲板から次々に飛び出す武装群だった。
「セシリア、もう少しエレガントな躁船は出来ないのか?」
「言ってくれますわね! 今回が初航行ですのよ!」
「いや、あの、これ何ですかカ?!」
「傭平、こっち来て」
「あ、全部スルーする流れですネ」
「あはは、傭平。僕はまだ許してないからね」
「あ、はい」
「ほら、ヘカトンケイレスこっち向けて」
シャルロットの貼り付けた笑みに、傭平は何も言えず、言われるままにシャルロットの側に寄る。
シャルロットが背部ラッチに搭載していたボックスを下ろし、ヘカトンケイレスに何か作業をしているのを見ながら、傭平は今居る場所を観察する。
そこはまるで空母の甲板と言っても過言ではない。
傭平はふと、甲板の外側を見た。甲板と思っていたのは、大型のウエポンラックでその下部には、何処かで見覚えのある大型の剣状機構が搭載されていた。
「……あの、シャルロットさン。これ、デンドロ……」
「傭平」
黙った。そしてまた、ちらりと甲板にマウントされたラウラの後方下部にセンサーを向ける。
とても見覚えのある推進装置があった。
「………あの、シャルロットさン。これ、ディープスト……」
「……傭平、言っちゃいけない事もあるんだ」
とりあえず黙った。見ればラウラも気まずい顔をしている。
「英国製対神格用拠点型試製武装〝アヴァロン〟、対神格武装を要求したら、まさかのこれが来ましたの……」
「ちなみに慣熟航行は今だぞ」
「降ろしてください」
「はっはっはっ、駄目だな」
熱線がアヴァロンを掠めた。
損傷らしい損傷が見当たらないのは、流石対神格武装というべきか。
だが、問題がある。このアヴァロン、セシリアをコアとする形で、補給場を兼ねた甲板兼ウエポンラックと大型推進装置と、その両側に大型剣状機構が取り付けられており、甲板は機体を展開したラウラとシャルロットに、傭平を乗せてもまだスペースに余裕がある。
つまり、機体サイズが大きすぎる。
「的がデカイな!!」
下から聞こえる蔵橋の声の通り、アヴァロンは武装として規格外な巨大さ故に、的として最適な状態であり、何時落とされても不思議ではない。
だが、
「対神格武装を甘く見ないでくださいまし!」
一喝と共にセシリアが、ウエポンラックからあるものを投下する。
円柱状のボックス、簡易推進装置の着いたそれはラックから投下されると、真っ直ぐに蔵橋目掛けて落下する。
「こんなものが……っ?!」
すぐさま熱線で応戦し、ボックスを破壊する蔵橋だったが、破壊したボックスから放出された粉塵に、すぐにその顔色が代わる。
「IS学園山火事研究同好会に、緊急で用意して戴いた対炎熱用冷却材と、消火剤のシャワーですわ……!!」
「ははは、例え神格持ちになったとしても、成り立てには効くだろう!」
急激な冷却による蒸気に埋もれる蔵橋に、セシリアとラウラの笑いが届く。
蔵橋は厄介を感じた。この戦い、千手巨人との戦いで神格を得た蔵橋だったが、それはまだ〝ヒノカグツチ〟だけに止まる。
つまり、蔵橋と蔵橋の機体自体はまだ人の内に納まっている。
その結果、蔵橋の機体は急激な冷却により罅割れ、急速に稼働率を低下させていった。
「小癪な……!」
「新米の神には丁度よいでしょう!」
機体の機能回復は行われているだろうが、急激なダメージはどうにもならない。
しかし、相手は成り立てとはいえ神格持ち。セシリアは油断無く次弾を叩き込む。
「さ、お二人共お早く!」
「待って、これでヨシ!」
「あの、なんか良くないヨシ!が聞こえましたけド?!」
「気のせいだよ。傭平、どう?」
取り外されたコアブロックは、ヘカトンケイレス最大火力であった爆発機構とは、その姿を大きく変えていた。
放熱板と圧縮火薬を搭載した円柱状のコアは輪胴弾倉となり、コアブロックと一体のハンドパーツは、より鋭利な鈎爪の様になっていた。
「シャルロットさん、これ……」
「弾体はたたら製鉄同好会と世界刀剣研究会の合作で六発だけ、コアブロックは電磁加速発展部と炸薬愛好会が好き勝手したよ」
「不安しかありませんヨー!」
「大丈夫、元はヘカトンケイレスに搭載予定だった機能を無理矢理再現したやつだから。……多分」
「多分! 多分って言いましたよネ……?!」
「おい、早く降りろ。我々はさっさと一夏達の援護に向かわねばならない」
一季 ¦『正直、ちょっと急いでくんね?』
兎軍人¦『まあ、そう急くな。せっかくの祭り、楽しめ』
一季 ¦『言ってる場合じゃねえんだが、まあせっかくだし楽しむか』
兎軍人¦『ははは、私達もすぐ行く』
侍娘 ¦『来るなら早く来てくれ。参った。本当に刃が通らん』
剣神 ¦『束の妹! 束みてえなのらくらした剣つかうんじゃねえ……!』
侍娘 ¦『ははは、ごめん被る!』
剣神 ¦『だったら、さっさと仲間を連れて来いや!』
首領飾¦『はっはっはっ、祭りで急くと嫌われるよ?』
どうやら、鈴音が一時ダウンしたお蔭で、一夏と箒と簪の三人で熱田の相手をしているらしい。
他の倉持側の選手は全員リタイアしたのか。観客席の倉持役員が何やら騒いでいるのが見える。
御曹司¦『ざまぁ!』
である¦『中中楽しそうであるね?』
長口上¦『いやこれ大丈夫? かなり頭に血が上ってるみたいだけど』
御曹司¦『ルールに関する書類をちゃんと確認しないのが悪い。俺はちゃんと記載したぞ。場合によってはリザーバーを含む生徒全員が参加すると』
あめり¦『物は言い様ね。私も祭りの現場に着いたから、今から踊るわね』
Oまり¦『よしよし、やっちゃえアメリア!』
新しくなったヘカトンケイレスを眺め、傭平は空いた左手を何も言わずシャルロットに差し出す。
シャルロットも何も言わず、傭平の手を取る。
「……一緒に来てくれますカ?」
「一緒に行こうよ。じゃないと、先に行っちゃうよ?」
「それはいけません。俺が先に行きます」
「じゃあ」
「一緒に」
傭平とシャルロットは手を取り合い、アヴァロンから降りた。
いまだ熱線が吹き荒ぶ中、ISの浮遊機能を使わずの自由落下。だが、何故か当たらない。これは何故だろう。
理由は判らない。いや、理由なんて無いのだろう。
だって、これは戦いではなく祭りだ。
祭りの演者が会場に立てない事は有り得ない。
「来たか。千手巨人」
「来ました。ヒノカグツチ」
ヒノカグツチを構える蔵橋はもう目の前、ならこれを披露する瞬間は今しかない。
機体のスラスターを全開で吹かし、傭平はヘカトンケイレスを蔵橋に向けた。
「火神よ、照覧あれ。いまだ未完成なれど、嘗て神挑みの巨人が手にしようとした雷を……!」
蔵橋の目が驚愕に見開かれる。その姿を見ながら、傭平はシャルロットに支えられ、いまだ至らぬ雷を叫んだ。
「〝
爆音という言葉すら生温い衝撃が〝播磨〟を打撃した。