マイボス マイパートナー   作:ジト民逆脚屋

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龍と神 配点¦(楽しいよな)

「いやはや、これはこれは、流石に予想外であるよ」

「ええ、そうですよ~。流石に予想外ですよ~」

「喧しいぞ。別に何時かは至る場所に今至っただけだ」

 

演者は二柱だけの舞台となった〝播磨〟を、モニター越しに眺めながら絶対の第一世代と呼ばれた〝世界最強〟は軽い溜め息を吐いた。

 

「情けない話だ。本当なら私達がやらなきゃならん事を、子供らにやらせるとは」

「しかし、どうしようもない事である」

「そうですよ~。どうしようもないですよ~」

「ああ、そうだ。私達よりも熱田の持つ神格は別格だ。故に私達は結果的にあいつを一人にしてしまった」

 

どうしようもないと理解していても、千冬の愚痴には納得しかない。

神格持ちというのは、この世界の特異点だ。人の身で人ならざる力を振るい、人の理から外れた存在。

ISというものは、そんな者達に形と器を与えた。

その中でも、熱田が抱える神格は完全なる別格。日本で産まれた願望器は、熱田という名から熱田の格を辿り、遂に姿形を与えてしまった。熱田神宮に連なるこの国に伝わる神々、熱田・雪路とは抑える事すら悠久の時を必要とする荒魂となった。

結果、熱田はあの日々に取り残され一人になってしまった。

〝世界最強〟と言えど、立場やしがらみには抗えない。他の者達も同じく、自身の国や立場、退き時には抗えなかった。

 

「しかし、まったく情けない話であるね。私は年齢で退いた。だが、今となっては退くべきではなかったと思える」

「と言っても、ナジェーリアさんは軍人ですから~、仕方ないですよ~」

「それでもであるよ、同志山田。我々は何かと理由をつけて、彼女を一人置いて行ってしまったのだ。本当は、まだ共に騒ぎたかったのに」

「ナジェーリア、それを言うな。それは一番最初に退いてしまった私の台詞だ」

 

絶対の第一世代、その中で一番最初に現役から退いたのは千冬だった。

モンド・グロッソの二連覇、本来なら出場する事すら叶わなかった大会に無理に出場したのは、千冬自身の強さの現れでもあったが、それ以上にある願いの為でもあった。

だが、その願いは千冬が退いた後にも叶う事は無かった。

 

「はっはっはっ、儘ならないものであるよ」

 

ISとは願望器としての側面を持つ。

であるなら、その叶えた願望とは一体何なのか。

千冬が願った願望とは一体何だったのか。

答えは目の前に広がり、嘗ての日々の中にあった。

 

「済まない、熱田。だが、お前はもう一人ではないぞ」

 

何時の間にか紫煙を燻らせていたナジェーリアの横で、千冬は悔恨の色を僅かに顔に滲ませ、ただ終わりの時を待った。

願わくば、この戦いが一人ぼっちの神への答えとならん事を祈りながら。

 

 

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 

 

──マジで良い、マジで良すぎる話だぜ。これは……!!

 

 

斬っても斬れない。吹き荒ぶ暴風の中で、この感覚は久し振りの事だった。

互角に斬り結べたのは〝世界最強〟織斑・千冬

共に踊れたのは〝斉天大聖〟楊・麗々

最後まで届かなかったのは〝将軍〟ナジェーリア・リトリア

翻弄されたのは〝銃央矛塵〟山田・真弥

正面からぶつかれたのは〝闘匠〟イーリス・コーリング

堂々と張り合ってきたのは〝鬼〟榊原・理子

 

嘗ての日々、もう二度と訪れないと思っていた歓喜の時間。

それが今、目の前に広がっている。

 

「はっ、はははははは! やっとだ! やっと、来やがった……!!」

「随分待たせたみたいね」

「ああ、待った。待ったぜ、どうしようもなくなあ!」

 

あの日、全て消えてしまったと思っていた。

だが、それは違った。

あの日、全て終わってしまったと思っていた。

だが、それは違った。

あの日、全て無くしてしまったと思っていた。

だが、それは違った。

 

「楽しいの? 神様」

「ああ、楽しいね! あの日以来だ!」

 

あの日、織斑・千冬が一線を退いてから、同期達は次々と周りから去っていった。

何故だ。

まだやれるだろう。

どうして自身の願いを否定してまで、後進に道を譲る。

もっとだ。もっと遊ぼう。

熱田が叫んでも、誰もが困った顔で背を向けて去っていく。

気付いたら熱田は一人だけになっていた。鹿島は長く熱田と関わり、〝フツノ〟を鍛えた繋がりから格を持つが、鹿島では熱田の隣に立てても、熱田と共には踊れない。

鹿島とのじゃれ合いは楽しいが、しかし足りない。

簪達との戦いも楽しかったが、それでもやはり足りないのだ。

熱田が心の底から求め望むのは、対等に渡り合い斬り結べる相手。

そして、待ち望んだそれは今日現れた。

 

「やっと、やっとだ! ずっと待ってたんだよ私は……!!」

「なら、待たせた分楽しみなさい!」

 

新たに実装された打撃装甲〝乾坤圏〟に覆われた拳を、熱田の〝フツノ〟にぶつける。

鈴音も同じだ。一夏達に出会うまで、ずっと一人だった。

ただ、熱田と鈴音との違いは求めたものだけ。

熱田は対等に戦える相手。

鈴音は対等に過ごせる相手。

同じく対等な相手を望んでも、神格持ちの最上位の熱田と対等に戦える相手は、熱田の前から離れていった。

 

「おお? 〝フツノ〟が軋みやがった! いいぞ、良すぎる! やっぱ良すぎる話だ!」

 

熱田の感情は喜の一色のみ。

過ぎ去った日々の中に思いを馳せ、漸く手に入れた歓喜に心を滾らせる。

 

 

──ねえ、一人ぼっちの神様

 

 

こいつは寂しがりだ。本当は誰かと居たいだけなのに、自身の力がそうはさせない。

〝剣神〟という人の理から外れた存在故に、一人ぼっちになるしかなかった寂しがりの子供。

それが今漸く、対等に遊べる相手と再会してはしゃいでいる。

なら、鈴音に出来る事は一つだ。

 

 

──甲龍、トバすわよ……!!

 

 

──・感情反応型縮退炉〝雷公鞭〟超過駆動開始

 

 

熱田に対する鈴音の感情は、断じて憐れみや同情等ではない。

ならば、この感情を名付けるとして、どの様な名を付ければ良いだろうか。

否、名付けなど要らない。今日は祭りの日、感情を名付け縛る事は必要ない。

喜怒哀楽が入り雑じり、ただ純然たる感情という概念を滾らせる。

ただそれだけでいい。

祭りとは踊りだ。古来より人が、理解の外に在るものに対して行ってきた純粋な感情の奉納。

 

「さあ、往くわよ」

 

胸に感情を、拳に激情を。

ただひたすらに、自らをぶつける。

近付けば弾かれ、触れれば消し飛ぶ剛拳の乱打が始まった。

 

「お? おお……?!!」

 

驚きの声に反して、鈴音の拳の雨を捌く熱田の顔には驚愕の色は見えない。

ただただ嬉しい、楽しい。

もっと遊びたい。

もっと騒ぎたい。

子供だけが持ちうる純粋無垢な喜の感情だけが、熱田の顔には浮かんでいた。

 

「良い顔してるじゃない」

「ああ、楽しくて楽しくて仕方ねえ。もっとだ。もっと来いよ。来てくれよ、凰・鈴音……!!」

「ええ、ご要望に御応えするわ……!!」

 

瞬間、鈴音の拳が灼熱した。

龍は龍であるが故に強く、己が身以外を必要としない。

だから、剣も槍も無く、火砲すら捨てた。

これが本来の姿、己が身一つで奇跡を起こす。

 

「龍の息吹か?!」

「さあ火加減は如何かしら?」

「まだ足りねえよ……!!」

 

灼熱した鈴音の拳は、確かに熱田の神鉄の装甲を破壊している。だが、それでも熱田は止まらない。

止まる筈が無い。嘗ての日々で、この程度で止まる者は居なかった。

 

「〝八咫鏡〟の防御抜いた程度で、私に届くか!!」

「なら届かせてやるわよ!!」

 

一撃でもかすれば人が死ぬ致死の雨を、熱田は一切の防御を捨てて、己が業と剣のみで突き進む。

 

 

──嗚呼、やっぱりだ。私はこうでなくちゃいけねえ!

 

 

楽しい。楽しくて仕方がない。

勾玉も鏡も必要無く、ただ己が業と剣だけで生きる。

それが熱田・雪路だ。

 

「これはどうだ?!」

「これで私が斬れると?!」

 

袈裟懸けに振り下ろした〝フツノ〟が、簡単に止まる。

斬れない。最高だ。こいつはあいつらの同じだ。

 

「はっ! はははははは!」

 

息も切れ、全身に傷と汚れの無い箇所は無い。

有り体に言えば満身創痍、だが熱田に疲労も消耗も見られない。

剣神はただ笑う。愉快で楽しくて、ただ笑う。

もう一人ぼっちではないと、嬉しさに突き進む。

 

「これならどうだ!」

 

無造作な横一閃、だが鈴音には解る。

この一撃は致命の一撃、当たれば只では済まない。

しかし、

 

「言ったでしょ。全部受けてあげるって……!」

 

鈴音は〝フツノ〟の刃を拳で受け止めた。

ナックルガードである〝乾坤圏〟が両断され、〝盤古幡〟の防御すら断たれる。

神格同士の激突に、神器の防御は脆い。だが、鈴音は避けない。

 

「……その程度なの?!」

「んなわきゃねえだろ!!」

 

唐竹、片手の晴眼に構えられた〝フツノ〟に鈴音は拳を叩き付ける。

轟音というにも生易しい音が響き、周囲の破砕の音を飲み込んでいく。

熱田も鈴音も全身に傷を負い、それでも止まらない。

止まる必要は無い。

最早、神鉄は鎧としての役割を果たさず、甲龍も新たな体を千々に斬り刻まれている。

 

「楽しい。楽しいぜ。楽しいよな、凰・鈴音」

「ええ、そうね。本当に楽しいわ、熱田・雪路」

 

もうじき、この楽しい時間も終わる。

二人はそれを理解している。

だから、

 

「〝小暴龍〟凰・鈴音、もう終わりか?」

「〝剣神〟熱田・雪路、そろそろ終わりかしら?」

 

鈴音が右拳を握れば、熱田も〝フツノ〟を居合いに構える。

 

「最後の最後だ。本気で斬るぜ」

「そう。なら、来なさい。全部、受けてあげる」

 

逃げも隠れもしない。

全身全霊全力の一撃で、この喧嘩祭りの締めとする。

双方が機を窺う最中、神と龍の神楽を観る観客達も固唾を飲んでそれを見守る。

 

「……熱田」

「心配ですか?」

「いや、……心配というより安堵だね。あのバカが漸く満ち足りてる」

 

誠一郎が鹿島の隣で問うと、少し困った表情で答えが返る。

鹿島は、一番近い場所で長く熱田の苦悩を見続けた。

どれ程望んでも叶わぬ願い、〝刀工神〟鹿島として〝剣神〟熱田の願いを叶えてやりたかった。

そして、その願いは鹿島も同じだ。

〝フツノ〟を打ち鍛え、この世に並ぶ剣は〝世界最強〟が持つ雪片のみとなり、鹿島はそれ以上の刀を打てなくなった。

自身の限界を自分自身で決めてしまったのだ。

 

「まったく、どうしようもない性だね」

「鹿島さん。貴方にはまだ満足してもらっては困ります」

「ああ、楽しい時間は終わらない。それを今日理解したよ」

 

 

 

首領飾¦『これはとんでもないね』

一季 ¦『鈴、カッコいいぞ!』

セシー¦『惚れた弱みですわね』

侍娘 ¦『しかし剣術が意味を為さない存在はビビった』

あめり¦『端的に頭おかしいわね』

Oまり¦『アメリア、オブラートオブラート』

である¦『しかし大丈夫なのかね? こう、常識は』

長口上¦『オブラートって直接殴る事だっけ?』

兎軍人¦『なんにせよ、これで全て決まるぞ』

弾薬庫¦『鈴、頼むよ』

雇われ¦『頼みます、凰さン……!』

首領飾¦『時に傭平、右腕はそれ大丈夫なのかね? 肩とか群青と濃紫のコラボみたいになってるが』

雇われ¦『え? あ……』

弾薬庫¦『傭平?! 救急車ー!!』

 

 

とりあえず、誠一郎は表示枠を叩き割った。

想定より損害は少ない。傭平の右腕に関しては、傭平自身が頑丈だしナノマシン治療でどうにか間に合うだろう。

しかし問題がある。

 

 

──中国、ロシア。あ、イタリアもこっそり来てるが、アメリカが見当たらない

 

 

IS競技の強豪国の代表でもあるアメリカが、この会場に姿を見せていない。

 

「心配事かい?」

「ああ、いや大した事ではありません。こちらから言うのも難ですが、鹿島さんこそ立場とか大丈夫ですか?」

「ははは、僕は篝火主任の下だからね。元々、倉持には場所が無いのさ」

 

それより、

 

「始まるよ。これまでの決着とこれからの始発が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 

 

 

居合いは人の業だ。元々、熱田には必要無く、熱田は剣術の類いを一切修めていない。

だが、剣の神である熱田に神の剣である〝フツノ〟が伝えてくる。

凰・鈴音を斬るなら、これが一番良いと。

熱田とは〝フツノ〟であり、〝フツノ〟とは熱田である。刃身一体の極みにある熱田は、故にこの構えを取った。

 

「さあ、斬るぜ」

「全部受けてあげるから、遠慮せず来なさい」

 

対する鈴音は腰を深く落とし、右拳を握り締め大きく後ろに引いた。

真正面からの正拳、それ以外の行動全てを捨てた構えだ。

 

「崩拳じゃねえのかよ」

「こっちの方が殴ってる感強めなのよ」

「良いな。真っ二つにしてやる」

「なら、正面から叩き潰してあげる」

 

最早船体としての機能を、最低限に残すのみとなった〝播磨〟の上で、神と龍が対峙する。

次の一瞬でこの祭りは終わる。

熱田と鈴音は数秒の無言の中で静止する。

機は一瞬、一瞬で全てが決まる。

周囲から音が消え去り、無限に続くかの様な世界で、二人は互いに笑んだ。

 

刹那、空気が弾けた。

二人が動いたのだ。

音を越えた二人は衝撃波で瓦礫を吹き飛ばし、一瞬の内に間合いに入る。

 

 

──凰・鈴音……!

──熱田・雪路……!

 

 

瞬時に〝フツノ〟と鈴音は激突する。

音も世界も置き去りにした最後、その決着は一瞬。

 

「熱田……?!」

 

遠く、鹿島の声が聞こえた気がした。

負は無い。全て喜の感情だけが熱田の胸の内に満ちていた。

 

「……まさか、まさかの話だ」

 

〝フツノ〟は折れた。

半ばから折れた刀身を眺め、熱田は鈴音に笑った。

 

「しゃーねえ、新人に褒美をくれてやる」

「……そうね。貰っておくわ」

 

幕切れだ。

〝剣神〟に〝小暴龍〟が勝った。

 

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