『はぁ……。おい、実況』
『っはぁ! 申し訳ありません! 私、あまりの光景に言葉がありませんでした! 結果をお知らせします。今回の相対戦、〝小暴龍〟凰・鈴音の勝利です……!!』
終わったなあ。
熱田は天を仰ぎ見る。
祭りが終わった。終わってしまった。
やっと、ようやく、あの日々に帰れたと思ったが、それももう終わりだ。
「……呆気ねぇもんだ」
しかしまさか、〝フツノ〟が折れるとは思わなかった。
〝世界最強〟とも鍔競り合った刀、〝剣神〟そのものと言ってもいい刀。
それが遂に折れた。
――この辺が潮時ってやつか?
「まあ、それも悪くねぇ……」
「いやいや、何を感傷に浸ってるのよ」
「あ?」
熱田は結果に納得しようとした。しかし、それを鈴音が止めた。
これ以上、何かあるのか。
確かに鈴音は無事だが、他の面子に至っては満身創痍。装備も業も全て斬った上、神砕雷の持ち主はミイラにされている。
まさか、まだあるのか。
「今日は祭りよ。一人ぼっちだった寂しがりの神様に捧げる、ね」
「あ? じゃあまさか、まだやるってのか? おいおい、良い話だ。マジで良い話だぜ!」
半ばで折れた〝フツノ〟を構え直す。
機体は限界を越えているが、知った事ではない。
〝剣神〟の権能を使えば、この程度の損傷は有って無い様なものだ。
「おい、構えろよ。ガス欠じゃねえだろ?」
「残念ながら、私はこれから用があるのよ」
「あ? じゃあ誰だよ? 千冬の弟か? それとも三人目が来るのかよ?」
一夏が口を横にしつつ、鈴音が首を振る。
では、誰だ。
イギリスは弾切れ、フランスはミイラを担いで退いている。日本のはやれやれと肩をすくめている。
ドイツは新人の方はやる気充分と立ち上がり、先任に止められている。
「なら……」
先程から懐かしい気配がする将軍か鬼でも来るのかと、熱田が言葉を続けようとした時だった。
崩れた足元から、ひょこりと頭が出てきた。
「どうも、IS学園建築物愛好会です」
「は? 誰だ……」
よ。とは続かなかった。
「ほら、来たわよ。騒ぐのが大好きで、神だろうが巻き込むバカ達が」
「建物の恨み思い知れー!!」
言うなり、辺りが爆発した。
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「あの、あれ良いんですかー」
「ルールには抵触していないな」
「でもー、わらわら向かってますよー」
山田が千冬に問うも、問題無いとしか返ってこない。
相対戦自体は終わったのだ。
〝フツノ〟が折れた今、これ以上は蛇足にしかならないだろうに。
「これは荒んだ神に捧げる祭りだ。しかも、特級に喧嘩が好きな荒御霊。なら、騒ぐのは道理だ」
「はっはっはっ、しかし千冬。懐かしいではないか。私達もそうだった」
「ああ、そうだ。私達もそうだった」
『おーっと! ここでIS学園が誇る異常性愛者集団の建築物愛好会の乱入! 建物の恨みと叫びなから建物を爆破解体だー!』
『お、航空部も来たな。炸薬愛好会の連中積んでるな』
『爆撃! IS学園航空部による炸薬愛好会主導の絨毯爆撃です! 普段発散出来ない欲求をここぞとばかりに発散しています!』
『あ、サカキ。刀剣同好会とたたら製鉄愛好会も来たよ』
『あら、暗器研究会と同士討ち始めたわね』
誠一郎はどう収めるか思案したが、すぐに諦めた。
まず、止める手立てが無い上に、焚き付けた側なのだ。
下手に止めようとすれば、こちらに被害が出かねない。
それに、IS学園生徒は飽きたら辞めるという習性がある。
つまり、燃料が尽きるまで燃やせばいい。
どうせ、今回は日陰者達のガス抜きも兼ねているのだ。隠し持っている危険物、ここで大いに発散してもらって素寒貧になってもらい、学園自治の助けになってもらう。
「一応聞くけど、大丈夫なのかい?」
「まあ、普段より爆発してるだけなんでどうにでもなります」
御曹司¦『つー訳だからよろしく』
長口上¦『というか早くこっち来てくれないと屋台村の方は末期戦なんだけど』
である¦『同志京極、三年の重装甲屋台である! こちらは中装甲屋台しかない!』
長口上¦『二組の中華料理研究会の屋台を前面に三組四組の高機動屋台で削って一組の突撃屋台を突っ込ませて!』
侍娘 ¦『知らん日本語だ』
兎軍人¦『二組の装甲屋台なら側面を遮蔽に隠して、正面装甲で受けろ。おそらく、三年の重装甲屋台は足回りが弱いからそこから崩せ』
弾薬庫¦『そっちもだけど、こっちも大丈夫なの? なんかアニメか映画でしか見た事ない爆発だけど』
一季 ¦『あ、これスルーする感じ?』
雇われ¦『あ、爆発斬れましたヨ』
セシー¦『というか皆さん、はしゃぎすぎでは?』
あめり¦『というか巻き込まないでほしいのだけど』
Oまり ¦『いや、そっち?』
龍母 ¦『それよりあんた達も手伝いなさい。ほら、屋台はこうやって殴れば解決よ』
約全員¦『それお前だけだよ!』
炸薬愛好会が秘蔵の榴弾を炸裂させ、建築物愛好会が次々に建物を倒壊させては熱田に向かわせる。
刀剣同好会とたたら製鉄愛好会は、暗器研究会と同士討ちしつつも熱田に対して攻撃している。
「わあ! 多摩ちゃんが斬れた!」
「ああ? 多摩川で取れた砂鉄でも使ったか?」
「多摩川の水で鍛えた多摩ちゃんだ! 二度と間違えるな!」
向かってきた生徒の
他も同様だ。
そして、それは熱田にとって懐かしさになる。
あの日、まだ人が神と同じ場で遊べていた日々。そこで同じ様に人は神に挑み、負けてはまた挑んできた。
嗚呼、これは本当に祭りだ。
人が神に捧げ、神が人と踊り、人と神が対等に騒ぐ。
熱田が待ち続け求め続けた日々だ。
「まいどー! シークァーサー愛好会です! おら果汁!」
「お前らもうちょっと節操ってもんを覚えろ!」
斬る。
もう〝フツノ〟から声は聞こえない。死んだのか。
否、〝フツノ〟とは熱田で熱田とは〝フツノ〟だ。
熱田が昂っている今、〝フツノ〟が死んだというのはあり得ない。
――寝てんなこいつ
まあ、いい。今日は許そう。
こんなにも良い日なのだ。祭りの日に騒ぎ疲れて寝る奴が居てもいい。
龍母¦『どうかしら剣神。楽しんでる?』
剣神¦『こいつは良い、良い話だぜ』
龍母¦『そう、良かったわ。じゃあ、騒ぎ終わったら校庭集合ね』
剣神¦『お、まだなんかあんのか? それは良い話だぜ?』
龍母¦『遊んだ後はご飯よ。山程拵えてあげるから、お腹空かせてきなさい』
剣神¦『カーちゃんかよ』
龍母¦『失礼ね。あんたみたいなやんちゃな子は生んだ覚えないわよ』
まったく、良い話だ。
今日は本当に良い日だ。
良すぎる。
この日々が続けばもっと良い話になる。
だが、
「おいおい、弾切れか? 祭りでまだ続く話だ、ぞ?」
攻勢が緩み、熱田が辺りを見ると、よく判らんものが立っていた。
「うっ! ふぅ……」
「ノブたん。大丈夫?」
「大丈夫、コニたん。ちょっと情熱が溢れただけ……」
おそらく抱き枕カバー。それが二つ立っていた。
学園での騒ぎに慣れている熱田でも、あれは見た事が無い。
というか、あの柄は確か鹿島の娘が好きとか言っていたアニメのプリントではなかったか。
いや、それよりもカバーから見えている足は生身なのだが、まさか機体に乗らずにここに来たのか。
熱田が止まった一瞬、抱き枕カバーの一体がプリントの顔部分を赤く染め、それを見た片方が振るえると二体がこっちを見た。
「「新しい価値観……!!」」
「人間語で喋れ! バカヤロウ……!!」
怪異を軽く蹴り飛ばし、辺りをもう一度見ればまた新しいバカ達が騒ぎに来ている。
龍母¦『剣神、楽しんでる?』
剣神¦『ああ、楽しいぜ。本当に良い話だ……!!』
こんな日々が続けばいい。
いや、今日から続かせればいい。