マイボス マイパートナー   作:ジト民逆脚屋

51 / 52
祭りの最中 配点¦(とりあえず食え!)

「はい、お待たせ」

 

鈴音が湯気の立つ大皿をテーブルに置くと、我先にと地獄の餓鬼の如く生徒が群がり、自身の取り皿に料理を奪う。

その様はなんと言うべきか迷うが、間違いなく華の女子高生の姿ではない事は確かだ。

 

「カロリー、カロリーが欲しい……」

「これやっべ、力入んない……」

 

全身泥やら埃やらに塗れた連中が集まってきた。

どうやら〝播磨〟の方も終わった様だ。

 

「はい、米」

「米だー!」

「ついでにさっき使った油かすとタマゴ」

「直接的なカロリー!」

 

とりあえずカロリーを求めてきたので、炊き立ての白飯にラードを取るために使った脂身をぶっかけて、かに玉用に割って置いた卵もついでぶちこんで櫃ごと渡す。

味付けは屋台村で余った塩やら醤油があるので、それでどうにかするだろう。

 

「こら、あんた達。しゃもじで食うな! ちゃんと取り分けて食べなさい!」

「でも、カーちゃん! 私達もう限界だよ! あぁ、脂と炭水化物と塩気が沁みる……」

「人である事を忘れるな!」

 

仕方ないので、人数分の大きめのスプーンと追加を渡す。

飯櫃に群がって貪る姿は、本当に餓鬼そのものだ。しかもISスーツのままだから余計に情けない。

というか、テーブルに置け。地べたに置いて群がるな。

更に情けなくなる。

 

「鈴、スープが無くなりそうだ」

「オッケ、箒。そのまま味噌とこの豚バラと野菜ぶちこんで、豚汁にしちゃって」

「任せろ」

「鈴さん! 卵余ってません?! 洋食テーブル陥落寸前ですわ!」

「まだ割ってないのならそこにあるから、さっさと持っていきなさい! さっきまではしゃいでた連中が来るわよ!」

 

鈴音の言葉通りに、なにやら禍々しい雰囲気が近付いてくる気配を感じ、セシリアは卵のトレーを台車に乗せると走り去っていった。

 

 

Oまり ¦『レタス余ってるとこー』

あめり¦『あと、コーラの原液』

一季 ¦『鈴、やべえ。このままだと保たん』

龍母 ¦『買い出し部隊編成ー!』

兎軍人¦『とりあえず手隙の者は私に続け! 必要なものを追記!』

牛鬼 ¦『一応、学園島の店舗には連絡したよ?』

侍娘 ¦『とにかく野菜と肉だ!』

一季 ¦『やべえ、来たぞ!』

 

 

最早その群れは女子高生の体を成していなかった。

泥と埃に塗れ、顔色は疲労困憊一色かつ餓鬼の如く窶れていた。しかしその表情はどこか晴れやかで、どう表現するべきか一夏には判断出来なかった。

ただ言える事があるとするなら、今からこの屋台村跡地はもう一度戦場になる。

これだけだった。

 

 

首領飾¦『カーちゃん腹減った』

龍母 ¦『だったらさっさと来なさい!』

 

 

 

 

 

 

 

∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥

 

 

 

 

 

 

 

 

「傭平、大丈夫?」

「あー、大丈夫ですヨ。とりあえず麻酔効いてますシ」

 

シャルロットと二人、喧騒から少し離れたベンチに座り吸入器の煙を吐きながら、傭平はぶら下がった右腕を見る。

 

 

――ちょっと無理し過ぎましたかね

 

 

医療用ナノマシンを使い、完治までの時間を早めているとは言うものの、決戦の時にまで間に合うかはギリギリだ。

しかし、やらねばならない。

 

「傭平。……もう無理しないでよ」

「流石に今回くらいのは無しにしてもらいたいですネ」

「本当にね。あと、前にも言ったけど無理する時は僕も一緒だからね」

「あれ、ちょっと変わってませン?」

「いいの!」

「はあ」

 

しかし、まだ決戦までにやる事は山積みだ。

簪と誠一郎の話によると、今日姿を見せていない者が居るらしい。

アメリカだ。

あの国には少々無視出来ない問題が発生している。故に、そう時間をおかず行動してくる。というのが二人の考えだ。

そうなった時、〝ヘカトンケイレス〟はおろか〝神砕雷〟すら無い自分に何が出来るか。

 

「傭平」

「どうしましタ? シャルロットさん」

「絶対に言ってね。じゃないと、どこまでも追いかけるよ」

「一緒に言いましたし、ちゃんと言いますヨ」

「そうだよ、ちゃんと言って。一人じゃ無理でも二人なら出来るよ」

「そうですネ」

 

そうだ。一人で居る必要はない。

今日の戦いで何故、簪が自分を引き連れなかったのか、何故シャルロットが熱田へと向かわず自分の元へ来たのか。

ほんの少しだけだが、傭平にも判ってきた。

 

「では、まずは腕を治さないト」

「だね」

「ならば、良い医者を知っている」

 

二人の会話に割り込んできたのは、全身に包帯を巻いた蔵橋だった。 

 

「あの、えっとー……」

「蔵橋だ。名乗ってなかった?。腕の具合は?」

「あ、関節がちょっと……」

「なら、この医者に罹れ。武装腕を扱うパイロットお抱えだ」

 

渡されたメモには、傭平も知っている名前があった。

 

「……ああ、恩を売って倉持に引き入れようとか無い。安心して」

「あの、貴女は倉持技研のパイロットなんですよね?」

「一応な。まあ、思い入れも義理も無い場所だ」

「では、何故?」

 

傭平とシャルロットの問に蔵橋は少し疲れの見える表情を向けた。

 

「私の装備、〝ヒノカグツチ〟の元となった〝カグツチ〟は私の父と姉が造ったものだ」

 

そして

 

「私から二人を奪ったものでもある」

 

蔵橋の言葉に二人は言葉を失う。

ISだけでなく、技術の発展の裏には必ず何かの犠牲がある。特にシャルロットはその事を理解しているが、それでも直に聞くのは初めてに近い。

 

「言った手前あれだが、そう気にしないで」

「いや、そうは言われましてモ……」

 

流石の傭平も言葉が出てこない。今日、あの戦いをした相手の過去、どう言葉を返せばいいか。

 

「もういいんだ。今日、燻っていた残り火は消えた」

 

蔵橋は特に厳重に包帯の巻かれた右腕を撫でる。

今日の戦いは証明にはならなかったかもしれない。

だが、

 

「父さんも姉さんも、〝カグツチ〟を親殺しのままにはしたくなかった筈だ」

 

蔵橋の父と姉は〝カグツチ〟のテスト中の事故で焔の中に消えていった。

遺骨すら残らない業火の中、二人が何を思い考えたのかは分からない。

しかし、二人が〝カグツチ〟を自慢気に話していた事だけは覚えている。

 

「決着は着いた。仙波・傭平、シャルロット・デュノア。手間を掛けさせた」

 

蔵橋が頭を下げた。

 

「い、いやいや、こちらこソ?」

「そ、そうですよ。僕も途中からだし?」

「ははは、気にしないでよ。二人に関係無い私怨をぶつけたんだし」

「え、いや、でも……。というか、なんか感じが違い過ぎませン?」

「こっちが素だよ。気を張ってたんだ」

 

苦笑する蔵橋に、あの張り詰めた雰囲気はなかった。

疲れは見えるが憑き物が落ちた様な顔だ。

 

「さて、私はこれで。次を考えないと」

「これからどうされるんデ?」

「もう倉持に居場所は無いし、倉持も保たない。まあ、パイロットからは降りるかな?」

「ふむ、なら私達と騒ごうではないか」

「ボス?!」

「簪?!」

 

簪が突然現れた。

手にはうどんが入った器を持ち、それを勢いよく啜っている。

前々から思っていたが、この日本代表候補生はちょっとマイペースが過ぎないだろうか。

一頻り麺を啜ると、簪は言葉を続けた。

 

「剣神ではないが、これから騒ぐにはいい話をしようとしてるのでね」

「それは……」

「なに、悪い話にはならんよ。というか正直に言って、我々はとにかく手札が欲しいのだ」

「手札?」

「そう、手札だ。バカで立場に酔った連中を殴れる。そんな大馬鹿者達が」

 

それに

 

「君もまだ騒ぎ足りないだろう? どうかね、私達と騒ごうではないか」

「……話だけは聞こう」

「ふむ、であるならば傭平、シャルロット」

 

二人が簪に向く。

簪は器を傾け出汁を飲み干すと、言葉を息と共に吐く。

 

「これからの事を話そう」

「その前にボス」

「なにかな? 傭平」

「着替えたらどうでス? スーツのままじゃないですカ」

「……失念していたね」

 

どうにも締まらない。

シャルロットと蔵橋は溜め息を吐いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。