「熱田」
「おう、鹿島」
ISスーツから着替え、いつもの白衣姿の熱田を鹿島は出迎えた。
「いや、良い話だった。良い話だったぜ」
「そうか、随分楽しそうだったな」
「ああ、こいつも最後まで楽しんだだろうよ」
肩に担いだ〝フツノ〟を掲げる。半ばで折れ、それでも剣神の手に納まった神剣。
「……まだ、脈動しているのか」
「あ? 私が居るんだ。こいつが死ぬかよ」
打ち鍛えた鹿島だからこそ解る。
〝フツノ〟はまだ死んでいない。まだ、剣の神の剣としてあろうと脈動している。
「熱田、すまない」
「けっ、すまないってんならこいつを鍛え治せ。刀工神」
「判ったよ、剣神。お前に耐えられる剣に鍛えよう」
熱田から〝フツノ〟を受け取り、事前に回収されていた機殻に収める。
今は眠る様な脈動だが、すぐに目を覚ます。
いまだに力を強める剣神の剣として。
「で、これだけか?」
「いや、どうやら〝HAl〟の次期代表から話があるらしい」
「お、それは良い話か?」
「どうだろうな」
剣神 ¦『おい、凰・鈴音』
龍母 ¦『話があるならさっさと来なさい』
剣神 ¦『良い話か?』
龍母 ¦『さあ? でも、騒げる話なのは確かね』
剣神 ¦『それは良い話だ。良い話だぜ』
龍母 ¦『だったら来なさい。飯あるわよ』
一季 ¦『鈴! 鈴! 炭! 炭足りねえ!』
龍母 ¦『たたら製鉄研究会が隠してるから奪いなさい』
あめり¦『……よこしなさい』
たたら¦『はい……』
Oまり¦『アメリ、だいたーん』
空間投影ディスプレイを眺め、笑みを深くする。
嗚呼、良い話だ。
今日、帰らずはしゃいで良かった。
一人ぼっちの寂しがりの神は、まだまだ続く祭り囃子に誘われる様にして、相棒と共に歩みを進めた。
∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥
しかし、騒げるもんだ。
一夏は焼けた鉄板に野菜と肉をぶちまけながら、喧騒を眺めた。
「結構、体力使ったと思うんだが、そこんとこどうよ?」
「あら、この程度で音をあげるの?」
「まさか。俺より皆の話だ」
「普段と変わらないでしょ」
「それもそうか」
見ればキャンプファイヤー宜しく火を焚き始めている。
監督役の榊原は山田を捕まえ、なにやらジョッキを傾けているが、あれ酒ではなかろうか。
「それにね、一夏」
中華鍋を豪快に振り、鈴音が特盛が霞む量の炒飯を大皿に盛り付けながら言う。
「これからやろうとしてる事に比べたら、これくらい前座よ」
「そりゃそうか」
火を囲み、皿やら何かの棒を持ち踊り始めた学友達を二人で眺める。
アフリカから来た生徒はあれ、泥男なマスクを被って呪術的な歌を歌い出したし、北欧系の生徒は何故か斧を振り回している。
「なあ、鈴」
「前座よ前座」
「なあ、マルファがアカい旗振り始めた」
「見なさい。京極が止めたわ」
「なあ、なんかシャーマン的な祭りになってね?」
「そんなもんよ」
「そんなもんか」
とりあえず巻き込まれたくないので、視線を鉄板に戻す。
何故か野菜と肉が減っている。
まだ麺は入れてないし、取り分けてもない筈だ。
「飯……」
「カロリー……」
「あの、せめて箸で直取りはやめてくんね?」
航空部の面々が二人の屋台の前で、半死半生といった様子で焼けた肉と野菜を箸で奪い取っていた。
「あんな高高度、久し振りに飛んだから……」
「炸薬愛好会が背中で暴れるから……」
「とにかくカロリー……、死ぬ……」
「あのテロリストもどき共め……」
まだ味付けもしてない肉野菜を箸で奪いながら、航空部は命を繋ごうと必死に抗っている。
だが、件の炸薬愛好会はキャンプファイヤーの周りで踊っていた。
これが格差か、と一夏は黙って焼けた鉄板に塩コショウとソースを投入しつつ、肉と野菜を屋台の正面へ少し寄せてやる。
肉と野菜の減るペースが上がったが、知った事かと麺を投入。追加で水を入れて軽い蒸し焼き状態にして、水が減ったら再度ソース。
「ほら、皿。取ってけ」
「うあー……」
もうこれ、女子高生じゃなくてゾンビかなんかだろ。
箸で持ち上げずに、引き摺りこむように皿にではなく、直に口に持っていってる。
「ああ、塩気が沁みる……」
「ほう? では私もいただこう」
ゾンビが死に体で引き摺りこむ焼きそばを、突然現れた簪が横から奪う。
上品に一掴みではなく、箸で掴めるだけの山を。
「あー、うーあー……」
「やや? これはどうした事か。何やら見覚えのある航空部のゾンビがたむろしているね」
「簪、お前そのゾンビにとどめ刺そうとしてるけど、そこんとこどうよ?」
「ふむ、仮にこの屋台にへばりついているゾンビの群れが学友ならば、とどめを刺してやるのが情けではないかね?」
ああ言えばこう言うとはこの事か。
少し離れた所で傭平が軽く頭を下げ、シャルロットも呆れている。その隣には蔵橋だったかが、訝しげにこちらを見ている。
全員疲れが見えるが、いつもの屁理屈に一夏は安堵する。
「で、どうなの?」
「ははは、鈴。何がどうなのかは判らないが、順調だと言おう」
「そうね。でないと困るわ」
一段落ついたのか、中華鍋を置いて鈴音は水の入ったボトルを傾けながら言う。
そう、順調でなければ困るのだ。
これからやろうとしている事は、今の世界を変える事になる。
いや、変えるというのは少し違う。本来、そうなる筈だった形にする。
その為に剣神という、今尚君臨する神に挑んだのだ。
「榊原先生はこちら側、いや、IS学園はこちら側だね」
「でないと困る。流石に相手が増えるのは勘弁だ」
「しかし、まだやる事がありますヨ」
「そうなのよね」
兎軍人¦『おい、ファンタが無いぞ』
セシー¦『そこにあるのはなんですの?』
兎軍人¦『〝HAl〟製の塩鮭サイダーだ』
セシー¦『……なんでちょっとピンク色ですの?』
兎軍人¦『ははは、塩鮭なんだからサーモンピンクだろう。……誰だ、こんなもの買ってきた奴は?!』
あめり¦『ほんと、これすごいわね。ゾンビの動きが止まったわ』
Oまり¦『アメリアメリ、オブラート、オブラートだよ』
牛鬼 ¦『うわ、確かにこれは凄いね? 口の中が塩鮭とサイダーだよ? ほら、どうかな? ん? 先輩命令だよ?』
侍娘 ¦『……はい。……すごいな、これ甘しょっぱいし鮭だし炭酸だ。……セシリア、紅茶あるか? 気が遠く……』
セシー¦『箒さん? 箒さん?! お気を確かに! 今淹れますわ!』
牛鬼 ¦『ん? どうしたのかな? ほら、皆も飲みなよ? 我々剣道部は一蓮托生、道連れだよ?』
約全員¦『被害を増やすな!』
とりあえず見なかった事にしつつ、現状は落ち着いたとする。
これからの話、皆がどう受け止めるか。
「おう、凰・鈴音」
「あら、剣神。随分ゆっくりね」
「ああ、鹿島がトロくてな」
「お待たせしてすまない。おや、〝HAl〟次期代表は?」
熱田と鹿島も揃い、これからの事を話す時だ。
しかし、肝心の誠一郎の姿が無い。
御曹司¦『やっと終わった……。あの、すみません。飯、まだありますか?』
約全員¦『お前早く来いよ!』
御曹司¦『はあ? お前ら、人に面倒臭い交渉押し付けてそれか?!』
セシー¦『誠一郎さん、お食事はご用意してますわ』
侍娘 ¦『……すまん、誠一郎。私は無力だ』
御曹司¦『……骨は拾ってくれ』
セシー¦『どういう意味ですの?!』
約全員¦『そういう意味だよ』
セシー¦『一体どういう意味ですのー!?』
鈴音は、とりあえずは揃いそうなのでよしとした。
誠一郎の安否は知らん。