今回からお話がジワリと動き出します。
後、ちょっとした悲劇が起きます。
晴天のアリーナ、そこに二人の男女が向かい合っていた。
一人、男は白の鎧に身を包み
一人、女は朱と黒の鎧に身を包んでいた。
「よっし、それじゃいくぞ?」
「どっからでも来なさいな」
「これで六回目、頼むぞ、成功してくれ~」
何か拝む仕草を見せる白、織斑・一夏。彼の機体〝白式〟は近接特化の高機動型、ヒットアンドアウェイを基本としているが、その白い装甲には幾つもの打撃跡があった。
「一夏、本当に成功したの?」
「おう、誠一郎に協力してもらってな。……一回だが」
「一回……、それも誠一郎に協力してもらってね。それ違うんじゃない?」
「一応、コツは掴んだと思ったんだがなぁ。やっぱり、なんか違うのか?」
頭を悩ませる二人。向かい合い共に頭を傾げる様子は中々に滑稽だが、このアリーナには二人以外は誰も居ない。
「う~ん、なにとは言えないけど、何か違うのよね。一夏のは対処出来るもの」
「だよなぁ。千冬姉のは対処も何も無いって感じだったし、やっぱり何か足りないのか?」
「どうにも、厳しいわね」
新たな打撃跡を刻んだ白式と打撃跡を刻み付けた甲龍。
甲龍にも幾つか傷が刻まれているが、明らかに白式の方がダメージが深い。
一夏は得物である雪片弐型を一度肩に担うと、その柄で頭を掻いた。
体力、機体共にまだ余裕はあるが、頭に余裕が無い。
本来、一夏も鈴も細かく考えて動くタイプではない。そういうのは、簪と傭平や誠一郎達に任せている。
だが、今回は自分達で考えて動かなくてはならない。
だから考えているのだが、一向に答えが出る気配は無い。
「なんだろうなあ?」
「なにかしらねえ?」
腕を組み考えるが、一向に答えは出ない。
二人が悩んでいるものはなんなのか。それは、一年専用機持ちだけでなく、学園に所属する専用機持ち全員に課せられた〝課題〟である。
「あ~、考えても埒が開かない。休憩だ休憩」
一夏が手に持っていた雪片を拡張領域に納め、背筋を伸ばし首と肩を回す。
「お、おぉぉ~、鳴るな~」
「それだけ、姿勢が固まってたって事よ」
「これじゃ、〝再現〟は無理だな」
「そうね」
鈴も一夏と同じく軽いストレッチをして、幾らか体の凝りが軽くなったら、二人は同じピットへ向かい、そこで待っていた一人に口を開いた。
「どうだった?」
「ダメだな、あれじゃ、ただ加速して回り込んでるだけだ」
「それじゃぁ、誠一郎。あんた達の方はどうだったの?」
鈴の言葉に、茶髪の少年早瀬・誠一郎は両手を挙げて、盛大に溜め息を吐いた。
「偉そうに言ったが、こっちもだよ。俺の機体のワンオフ使えば似たような事は出来るが」
「全然ダメ?」
「ああ、傭平のセントリーガンと
もう一つ、盛大に溜め息を吐いて、誠一郎は続ける。
「一夏とコツは掴んだと思ったんだがなぁ」
「まるで違う、似て非なるものだった訳だ」
「そういえば、傭平達は?」
「ん? ああ、簪が整備室に缶詰になってな。セシリア達はそっちに、傭平は会長に呼ばれて生徒会室」
「……何故かしら? 嫌な予感しかしないわね」
「右に同じ」
「以下同文」
三人同時に肩を落とす。
専用機持ち達に課された〝課題〟、これをクリアしなければ卒業が出来ない。
いや、下手をすると進級すら危うい。
「取り敢えず、セシリア達に合流しよう」
「ああ、じゃあ、いつもの整備棟に行こうぜ。そこで合流する予定だったしな」
簪の専用機開発の関係もあり、一年専用機持ち達の溜まり場は基本整備棟となっている。
各国の代表候補生達が、未完成の機体に関して議論し、学園にある部品や装備の試験の算段を試案し、打鉄弐式に組み込むかを設計図を片手に悩む。そんな場となっていた。
「じゃあ、今日は泊まり?」
「ああ、そうだな。今のところはそのつもりだ」
「なら、後で着替えを取りに行くか」
「そうね。あ、傭平には言ったの?」
「会長に呼ばれる前に言ってるよ。しっかし……」
二人の着替えを待つ誠一郎は、ロッカールームがある方向に歩いていく二人の背を見ながら呟いた。
「倉持と傭平はなに考えてんのかね?」
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「では、やはリ?」
「手回しと根回しが早くてね。というか、あれは最初からね」
「ははは、流石、国営企業。喧嘩売るのが上手イ」
言うと、清涼感のある匂いの水蒸気の煙を吐き出す。
一拍置いて、彼の右手から何かが割れる音が聞こえた。
「〝御当主〟、仙波家次期当主として問いまス。このまま捨て置くつもりデ?」
「ま、さ、か? そんなつもりがある訳ないじゃない。自分の仕事もまともにしない、更識嘗めくさった真似をした。累積罪が天元突破よ!」
余裕のある猫の様な笑みが、獰猛で狡猾な肉食獣のそれに変わる。
くつくつとした笑いが生徒会室に響く。
「傭平、仙波傭平。準備は?」
「進んでますヨ。というか、また無理させますネ?」
「〝更識の右腕〟の次期当主が何言ってんだか。で、どこまで進んでるのかしら?」
「武装に装甲、モーターも全取り替え、残ったのはラファールのフレームのみですヨ」
「間に合う?」
「貴女が選んで、貴女が準備させた人員でしょウ?」
「そうね、愚問だったわ」
くつくつとした暗い笑いが、ケラケラとした軽い笑いに変わり、生徒会長更識・楯無は書類の束を手に取る。
図面と数値とグラフが並び、彼女は一枚目と二枚目を見比べる。
「フレームも一部延長して、関節並びにフレーム強度増強の為に部品変更、各部モーターも安定性から出力重視に切り換え、ラファールが影も形も無い機体になるわね」
「俺の要求と御当主の要求を合わせたら、こうなりましたからネ?」
「色も変更なのね」
「えエ」
傭平が頷き、楯無が設計図を机に置いた。
そこに描かれた図面は、傭平の機体〝ラファールExtra-04〟とは似ても似つかぬ機体が描かれていた。
更識・楯無は少し冷めた紅茶を口に運び、唇を軽く湿してから、仙波・傭平を真っ直ぐ見て言った。
「〝更識の右腕〟〝更識の暴力〟、仙波家次期当主仙波・傭平、更識当主更識・楯無が命じます。更識を侮辱し、国家を欺き務めを放棄した倉持技研に鉄鎚を下しなさい」
「仙波・傭平、拝命致します」
「……後、これはただの更識・刀奈として、仙波・傭平にお願い」
「なんですカ?」
彼女は一度目を閉じ、更識当主としてではなく、更識・簪の姉の更識・刀奈として傭平を見る。
「簪ちゃんを、あの子の夢を守って……」
傭平はその言葉に、ただの仙波・傭平として答えた。
「だ~いじょうぶ、任せてヨ刀奈姉。ボスとボスの夢は俺が守るヨ」
悲劇
ラファールExtra-04、出番も無しに解体。