そして、前編にて専用機持ち達が解き明かそうとした千冬の謎が明らかに?
小ネタ
この世界のガンダム作品には、幾つか存在しない作品がある。
例
第08小隊
イグルー
他ゲームや漫画等の幾つか
IS学園整備棟宿泊室ロビーにて、七人の男女が設計図や書類が山と積まれたテーブルの上に浮かぶ映像ディスプレイを見ながら、頭を傾げて唸っていた。
「さて、何か言いたい事がある奴は挙手」
「はい、誠一郎先生」
「はい、最近傭平と距離が近い?シャルロット君」
「あ、いや、それはね? 傭平がドム系とグフが好きって言ってたから、僕がケンプファーを勧めて、じゃなくてこれさ、どうなってるの?」
慌てて手を振り、誤魔化そうとしたシャルロットが、それでは誤魔化しきれないと映像ディスプレイを指差した。
「これ、なに?」
「それは、ここの全員の気持ちですわ」
「セシリアの言う通りだ。まるで理解が出来ん」
眉を歪めたシャルロットに、セシリアとラウラが同意の意を示す。
「箒、篠ノ之流剣術に似たような技は無いか?」
「誠一郎、済まないが力になれそうにはない。確かに、織斑先生も篠ノ之流剣術を習っていたし、この映像の太刀筋もそうだ。だが、篠ノ之流剣術は組手甲冑術に近くてな」
「どちらかと言うと、太刀より小太刀術なんだわ。習っていた俺も知ってる」
「組手甲冑術、日本のマーシャルアーツだったか?」
「まあ、頭に古式とか古流とか付くけどね」
近接、主に剣術に特化した箒に誠一郎が心当たりを問うが、箒は心当たりが無いと頭を振った。
同じく剣術を習っていた一夏も頷き、情報を加える。
「組み打ちとかがメインで、実質は剣術というよりは体術が近い」
「一夏の言う通りだ。剣術はその派生からだな」
「だとすると、織斑先生の〝これ〟は篠ノ之流剣術じゃないって事?」
「ああ、私の知る限りだがな」
給湯室に離れていた鈴が全員に茶を配り、配られた面々はその茶で少し渇いた喉を潤す。
「簪は何か解る?」
「ん、ISによる動きじゃないって事が解る」
「いや、まあそれはそうだけど……」
「教官のワンオフ・アビリティの類いではないという事だな」
「織斑先生のワンオフ・アビリティは、一夏の零落白夜の〝筈〟。だとすれば、これはなに? はっきり言って〝異常〟で〝異質〟」
「人の姉にはっきり言うなぁ」
簪がはっきりと言い切り、一夏が苦笑いを浮かべて力無く頭を掻く。
認めたくないが、認めなくてはならない。それが、映像ディスプレイにリピート再生されていた。
「これ、本当にどうなってるのかな?」
シャルロットが、リピート再生される映像を見ながら呟いた。
その映像は、どれもが簪の言う通りに〝異常〟で〝異質〟であった。
「なんで、誰も彼もが織斑先生を探してんのよ……」
鈴の言葉通りに、ディスプレイには現役時代の織斑・千冬の試合映像が流れていた。
一夏も鈴に箒も、現役時代の彼女の試合を見た事がある。
その時は何も思わなかった。ISとは〝それ〟が出来て、千冬が飛び抜けて凄いと思っていたから。
だが、自分達がISについて学び、専用機を持ち、体験すれば理解する。彼女は〝異常〟で〝異質〟だと。
「姉さんに聞いても、勉強は学生の本分だよと言っていたな。……青い顔をしながら」
「あんたの姉さん、ソッコで口封じされたわね……」
「ハイパーセンサーも反応してない。意味が解らないよ」
「ラウラ、ラウラは織斑先生の訓練を受けたんだよね?」
「言っておくが、〝これ〟を訓練でされても訓練にならんぞ?」
第一回、第二回モンド・グロッソを連覇した伝説のブリュンヒルデ。彼女の戦った誰もが、口を揃えてこう言った。
『勝てる訳が無い。だって、彼女は〝居ない〟のだから』
彼女と戦った誰も彼もが、全員がそうだった。気付けば、己はあの白刃に断たれていた。断たれてから、断たれていたと自覚した。
既存のセンサーを超える性能を持つ筈の機械が、同じ機械を身に纏った人間を知覚出来ていなかった。
「織斑先生は、目の前から消える。それも、機械すら知覚出来ない程に」
七人が見詰める映像には、織斑・千冬が眼前に迫っているにも関わらず、彼女を探し続ける相手の恐怖が映し出されていた。
「やあ、皆さン。お待たせしましタ」
「あ、傭平だ。遅かったね?」
「ああ、シャルロットさン。会長の話が長かったんですヨ」
生徒会室から戻ってきた傭平を、シャルロットが逸早く出迎える。
「おう、傭平。どうだった?」
「誠一郎クン。予想通りでス」
「やるのか?」
「やるしかないですネ」
「ねえ、傭平。なにをするつもりなのさ?」
シャルロットが不満そうにして、二人の会話に割り込む。
尖らせた唇で問う先は、誠一郎ではなく傭平一人。
問われた傭平は、一度視線だけを天井に向けた後、テーブルに積まれた資料の上にあるディスプレイを指差した。
「後で説明しますヨ。今は、こっちに集中しましょウ」
「本当に?」
「ええ、本当ですヨ。これには皆さんの協力が必要ですしネ」
では
「これが、俺達の〝課題〟ですカ」
全員が頷き、傭平が見詰めるディスプレイには、恐れ逃げ惑い、斬られてから千冬を知覚した各国ヴァルキリーや選手との試合映像が流れていた。
彼はそれを見て、何やら手振りをしながら首を傾げる。
何をしているのかと、誠一郎が怪訝な顔をするが、簪がそれを手を挙げて制した。
「傭平に任せる」
「いや、それはそうだ。この中で生身で一番は傭平なんだからな」
動きが早くなり、両手を剣の柄を握る形にすると、何かに納得した様に頷いた。
「織斑クン、少し手伝ってもらえますカ?」
「ん? おお、いいぞ」
傭平に応じて立ち上がった一夏が、ロビー中央辺りで傭平と向かい合う。
「では、皆さン。これから織斑先生の〝それ〟を、俺なりに再現してみますから、よく見ていてくださイ」
「は?」
驚愕を他所に、傭平は一夏に向けて歩き出した。
ゆっくりと傭平は一夏に近付いていくが、簪達は何が起きているのか理解が追い付かない。
一夏が驚愕に目を見開き、傭平を探しているのだ。
傭平が目の前から、真っ直ぐに歩いて近付いて来ているにも関わらず、一夏は傭平の姿を認識出来ていない。
映像で見た千冬の動きが、そこに再現されていた。
そして
「はい、これで、ト」
「うえ?!」
傭平のチョップが、一夏の額に軽い音を立てて当たり、一夏がそこで漸く傭平を認識した。
何が起きているのか、まるで理解出来ていない様子の一夏。しかしそれは、傭平以外の全員が同じであり、全員が傭平を見た。
「傭平、今のどうやったの?」
「種が解れば簡単な事でス、シャルロットさん。ほら、マジシャンの人達がトランプマジックで使うミスディレクション」
「え?」
一夏の隣に居た筈の傭平が、驚くシャルロットの隣に居たのだ。
「まあ、これが一番近い表現でス」
「え~と、傭平? 近いよ?」
「おっと、これは失礼ヲ」
「ミスディレクションって確か、タイミングをズラしたり意識を一点に集中させてってやつよね?」
「正確に言えば、織斑先生の〝これ〟はまるで違いますが、あくまで一番近い表現という事でス」
嫌な顔をした傭平が、上着の胸ポケットから電子タバコ型の吸入器を取り出し、口の端に噛む。
「織斑先生のは、つまりこうです」
傭平がシャルロットの眼前に人差し指を立てる。今、シャルロットの視界は傭平の立てた人差し指が中心となっている。
彼は人差し指の位置を変えぬまま、体をズラす。
「では、シャルロットさん。俺が今見えてますカ?」
「え、もしかしてそう言う事なの?」
目を見開くシャルロットの視界に、傭平の姿は無い。無論、シャルロットが少し視界をズラせば、傭平の姿を確認出来る。
「相手に解らない程度に、視界から外れる?」
「それだけではないだろう。教官はISからも認識されていなかった。つまり、視覚だけじゃなく聴覚や嗅覚と味覚触覚、ありとあらゆる感覚を相手の知覚から外しているんだ」
「滅茶苦茶じゃない……」
人間、生物を遥かに超える性能の機械を超える性能を持つ筈のIS。
それからもすら、織斑・千冬は認識を外す。
「これ、お姉ちゃんは気づいてる?」
「御当主なら当然ですネ。だから、進級して生徒会長になってるんですシ」
「他の二年三年の専用機持ちも同じか」
鼓動、息遣い、瞬き、ありとあらゆる感覚から、織斑・千冬は己を外す。
「しかも、相手が織斑先生に集中すればする程、感覚をズラしやすくなりまス。零落白夜なんて一撃必殺持った相手が、目の前から消える訳ですから、その集中は並みじゃありませン」
「対峙した瞬間から、あの人は相手からズレてるのか……」
相手の技量が高ければ高い程、相手の集中が深ければ深い程、織斑・千冬は相手の知覚からズレ易くなる。
速度や力、機体の性能も関係無い。知覚出来ないという事は、そこに〝居ない〟という事なのだ。
「まだ〝異常〟な話がありまして、これ、タイミングをよく知るシャルロットさんや織斑クン相手だから再現出来たんですよネ」
「だけど、織斑先生はほぼ初対面の相手に知覚されてませんでしたわ」
「映像だから認識出来ているが、下手をすると映像でも認識出来なくなる可能性もあるぞ」
「ま、まあ、あれだ。〝課題〟の第一行程はクリアだ。俺達は進級出来る」
専用機持ち達に出された〝課題〟、それは現役時代の織斑千冬の〝技〟を解き、一撃を入れるというもの。
いま、一夏達は進級する為の課題である〝技〟を解いた。後は、卒業する為に彼女の〝技〟を越えて、一撃を入れるだけだ。
早目に卒業を確定させたい。
「しかし、我が姉ながらキッツイなぁ……」
千冬の〝技〟をどう越えるかの算段を、各々が考えている時、一夏が呟いた。
「キッツイって、何がよ?」
「まあ、これを越えて一撃入れるってのはキツいがな」
「いやまあ、それもそうなんだが。これさ、見方を変えたら」
一息入れて、冷めた茶を飲んで口を湿す。
「相手を見ず、向き合わず、全てから逃げる技だぜ」
キッツイなぁ。一夏の呟きがロビーのテーブルに落ちた。
次回
「それで、傭平は何をしようとしているのかな?」
怖い笑顔で迫るシャルロット
それに対し、傭平は
「倉持技研、潰しましょウ」