父親はサラリーマンで母親は専業主婦。
得意科目はなく、苦手科目もなし。ほどほどにできるが、ほどほどにできない男。
良く言えば器用、悪く言えば中途半端。
「が、貴方の評価なのですが」
「ぶっ飛ばすぞ」
辺り一面が真っ暗で、スポットライトのようなものが照らす中、俺は対面の白いワンピースを着た女性に向かってそう言い放った。
的確に評価してくるのはやめろ。精神的にキツイ。
「開口一番悪態とは……。いわゆる荒んだ子供たち、いえ、反抗期ですか」
「知らないやつに出会い頭悪口を言われれば悪態も吐くだろ」
「大丈夫、私は寛大ですから。クソみたいな悪態なんて丸めて投げ返してやります」
「全然寛大じゃねえぞ」
言い合い、俺は両手を挙げて制止する。
これ以上わけの分からない電波に付き合うつもりはない。俺は部屋に戻るぞ!
「前羽の構えですか。いいでしょう、受けて立ちます」
「この動き……。御殿手ッッ」
やってる場合か。
「とりあえず話を進めようぜ。あんたは誰なんだ?」
「神です」
「あ、そ」
「雑い」
突っ込む彼女に俺は「でもさ」と返す。
「いきなり見ず知らずの女が出てきて刃牙ネタを披露した挙句神とか言い出すんだぜ? どう思う?」
「頭おかしいと思いますね」
「だろ?」
「はい」
つまりそういうことだ。
俺は辺りを見回し、様子を窺う。
ホントに真っ暗で何も見えない。
「実は狭間継次さん。貴方は死んでしまいました。享年十八歳です」
「OH……。まあ、なんとなくそんな気がしてた」
「随分と落ち着いてますね。大抵、騒ぐものですが」
「そうなのか?」
「はい。そして騒ぐ奴はウザイと感じてしまうお年頃なので大体速攻転生コースにぶち込みます」
「クールな自分に感謝」
「この空間では老化も死も訪れないのでクールというよりグールですかね。HAHAHA」
着ていた上着を脱ぎ、丸めて振りかぶり、全力で自称神に向かってぶん投げる。
すると、神の姿が一瞬で消え、背後から
「残像だ」
「やかましいわ」
すぐ近くにいたものだから、俺はそのまま彼女の頭頂部にチョップを入れる。
神はチョップを受け入れると、不敵に笑った。
「まさかこれも残像か」
「いえ、本体です」
「ダメじゃねえか」
「意外に痛い」
神は頭をさすりながら元の位置に戻り、キメ顔をする。
「セカンドライフチャンスです」
「というと」
「異世界に転生して魔王を倒そう!」
「あ、知ってる。テンプレ転生とかいうやつだ。無限の剣製くれよ」
俺がそう言うと、神の顔が一気に彫深くなる。
「だが断る」
「神の力存分に使ってんな。作画崩壊してんぞ」
「で、どうです? チャンス使います?」
んー。と唸って悩む。
ファンタジーの世界に興味がないかと問われれば、興味ありありと答えれる十八歳だ。
「特典による」
「チョー強い剣とすんごく可愛い美少女が付いてくる」
「魔王を倒すことこそ我が使命」
「こいつチョロいわ」
草生やすな。
そうすると、神は背中から一本の剣を取り出した。
受け取り、眺める。
見た目はただの大剣だが、鍔が異常に横に長い。背負ったらまるで……。
「十字架じゃねーか」
「名前は”†セイクリッド・インフィニティ・ブレード†”です」
「ダッサ」
名前言うだけで死んでしまいそうな剣だな。
「でも効果はすごいですよ。身体の能力超強化!」
「おお」
「どっかの大総統の如く見切れる目!」
「おおお」
「おまけに剣はなんでも斬れるうえにビームもでる!」
「すごいな。チートじゃん」
「ええ。自信作です」
「名前ダサすぎだけどな」
でもまあ、剣の名前を言う機会なんてないだろうし、ないに等しいデメリットだ。
「まあ剣振るったら”†十字架に散れ†”とか言っちゃうんですけどね」
「は?」
「”†お前の分まで生きよう†”」
「は?」
「”†この十字架がお前の墓標だ†”」
「は?」
ちょっと動悸が激しくなってきた。
なんちゃらブレードを持つ手が震える。
「プフっ。かっくいぃ~」
「ぶっ飛ば――†その原罪を裁く†。アババババァッッ!?」
剣を掲げたところで、口が勝手に開く。
思わず剣を放り投げ、ジタバタと地面を転がりまわった。
恥ずかしすぎる。
「フゥ~!」
「や、やろう……。なんて恐ろしい特典を用意しやがったんだ」
「でも強いですよ?」
「いやだ! こんな厨二武装! 取り換えだ、取り換えを要求する!」
無限の剣製をよこせ!
俺の要求むなしく、神はその端正な顔をにんまりと歪めると、首を横に振った。
「残念ながら取り換えはできません。それが貴方の半身です」
「なんてこったい。……というか美少女はどこだよ!」
「大丈夫です、送られた世界の先にいますので。仲良くやってください」
クッ、こうなったら美少女に癒しを求めるしかない。
俺は渋々なんちゃらブレードを背中に装着したケースに入れて観念する。
「†十字架を背負って生きて往け†」
「ぶっ飛ばすぞ」
「あ、ちなみに美少女の名前はアクアと言います。覚えておいてください」
「無理は言わない。せめて癒し系美少女であってくれ」
諦観のため息を吐いた俺の足元が光り、宙へと浮かぶ。
ちょっとこの浮遊感気持ち悪いんですけど。
「ドナドナド~ナ~……。厨二を乗せて~」
「殺す!」
「魔王倒したらなんでも願い事が叶うから頑張ってください」
「魔王を倒すのが先か俺の精神が死ぬのが先か」
「精神が崩壊して聖騎士☆継次が爆誕するに2000ペリカ」
「やめろ」
縁起でもないことを言うな。
しょうもない掛け合いをしている内に、俺は宙に浮かぶ光の中へと吸い込まれた。
1
目が覚めたら高さ三メートルから落下した。
「エグイッ」
ビタンと地面に叩きつけられて呻く。
俺のそんな様を他所に、空中の魔法陣から顔を出した神が
「あ、これこの世界のお金です。女でも買ってください」
「そこは服とか装備じゃないのか」
「女を買えるだけのお金が入っているという私なりのメッセージです」
「分かり難いわ」
手に持った麻袋を神は俺に向けて投げ―――ってすんごい速い!
「ウボァッ!?」
「ハハ、ストラーイク」
「サイコパスじゃねーか……」
「今更気付いたんですか」
「自覚してるとか最悪やんけ……」
「いや、サイコパスは自分がサイコだとは思わないと聞きます。つまり私はサイコパスではない可能性が微粒子レベルで存在している……?」
「ねーよ」
ないない。
手を顔の前で振り、オーバーに否定する。
そして受け取った麻袋の中身を見てみると、金貨がどっさりと入っていた。
「おー、いったい幾ら入ってるんだ?」
「999エリスです」
「微妙過ぎぃ」
「ちなみに冒険者登録料は1000エリスです」
「足りてねえじゃねえか!」
俺がクレームを入れると神は「やかましい!」と一喝した。
急にキレるなこいつ……。
「1エリスも稼げんのかこの猿ゥ!」
「か、稼げるわい!」
「じゃあやるがヨロシ、カスが」
「ちょっと傷つく」
「ごめんね」
「許す」
「やさしい世界」
言い終わると、神は魔法陣の中へと消えていく。
髪とか逆さまで消えていくとかちょっとホラーだな。
「じゃあ後は頑張ってください。バイビー」
「それ死語」
「一周回って再び流行る」
「流行ってないし流行らせない」
「鉄の意志を感じる―――」
そう言って神は空へと消えていった。
冷静になって辺りを見回してみると、木ばかり。
後ろの方に山が見えるものの、街らしき影は見えない。
まるで自殺志願者御用達の樹海みたいだぁ……(直喩)
「そ、遭難……?」
俺の頬に冷汗が一筋、流れる。
すると割と近くから人の声のようなものが聞こえる。
そっちの方向を注視してみると、木々の隙間を縫って視界が動き、少女たちと光沢を放つ漆黒の巨躯が見えた。
すげーな厨二ソード。想像以上にブースト掛かってる。
ってそうじゃない。あれはまさか……。
「黒人がロリを襲おうとしている!」
2
木々の隙間を縫うように駆け抜け、性犯罪一歩手前の黒人へと接近する。
やべえ、超早い。ちょっと気持ち悪くなってきた。
「へっ、繋がった。ようやく繋がったぜ!」
「繋がらせるか―――!」
厨二剣を抜くことに一瞬戸惑うが、無垢なるロリを守るため、俺は羞恥心を捨てるぜ!
YESロリータNOタッチビーム!
「えっ、おまっ、ぬわ―――っ!?」
剣を抜き、下から掬うようにして剣を振りぬく。
オーラを纏った剣から光が奔り、地面と黒人を抉って空へと消えた。
許せ、マッチョメン。この小説はR-15だ。
てか結構エグイ技だな。エクスカリバーかなにか?
と必死でデメリットから思考を逸らす。
土煙が収まってきたころに、俺の口が勝手に開いた。
OH神よ。
多くは望まないからせめて引かれない言葉を選んでおくれ。
「†光に消えろ†」
人前でこれとか自害待ったなしだぜ。
少女たちの方を見てみると、やけにキラキラした目を向けられていた。
「か」
「か?」
「かっこいい……」
「コフッ(吐血)」
まるで戦隊モノのヒーローショーでも見るが如くの視線を向ける少女はウィッチハットにマント、そして十字架が刺繍された眼帯をしていた。眼帯をしていた。
大事なことなので二回言いました。
「アー……。きみは左目が不自由?」
俺がそう問うと、ハッとしてから「フッ」と不敵に笑った。
「これは我が強大なる魔力を抑えるマズィックアイテェム」
おーっと、異世界ライフ開始早々から同族に出会ってしまったぞ。
これはヤバイ。
俺の心がブレイクする前に逃げ出したいところだが、こんな山の麓で人に出会うことはほぼない。
つまり、耐えて街まで連れて行ってもらうしかない。
大丈夫、無垢な子供の厨二ごっこを耐えることなんて容易いはずさ。
俺のメンタルは一人で焼肉食うレベルまで高まっているのだから。
「おっと……。私としたことが、申し遅れました」
と思っていたがなんだ、自己紹介してくれるなんて割としっかりしている子なんじゃないか?
「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の天才にして爆裂魔法を愛する者……!」
キメポーズにドヤ? と目を向けてくる彼女に、俺はニッコリ笑って内心に吐血した。
ソウルネームとかいうやつですか、お嬢さん。
「さあゆんゆん! あなたもやるんですよ!」
「えぇっ!? わ、私も!? う、うぅ……。わ、我が名はゆんゆん! やがては紅魔族の長となる者……」
「コフッ(二回目)」
黒髪をお下げにした真面目そうな風貌の彼女も、キメポーズをしながら顔を赤くして自己紹介する。
お嬢さんや、恥ずかしいならやらなくてもええんやで。
「それで、お兄さんの名前はなんと?」
「え、ああ……。俺は継次。狭間継次」
「……」
至って普通の自己紹介をすると、めぐみんと名乗った彼女がジッと俺の顔を見つめる。
子供は好きだが、厨二的言動を強いられている現在の俺的に、彼女に見つめられると胃が痛い。
「キメポーズは?」
「ないです」
「なぜっ!?」
「普通はない!」
前途多難である。
続く……訳がないッッ