将来の夢はマダオ。   作:ら!

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第四十二話 AIBOU

 

 

「......はぁ。どうしよう.........」

 

 

その日はあむのため息から始まった。

 

 

--------------

 

 

ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲だとかいう雪だるまをつくって、ロイヤルガーデンで女装してる唯世たちをみて、なかなかハートフルな一日のおわり。

 

帰宅したあむはあったかい自分の部屋へと向かう。

 

 

どういうわけか、手負いの猫、否、猫人間が倒れていた。

 

 

なんやかんやで猫人間こと、月詠イクトをかくまうことになったあむ。

 

本来、月詠イクトはイースター側の人間で、自分たちガーディアンの敵。ロイヤルガーデンのお茶会で、イクトのことを報告しようとしたが、言い出せなかった。

 

そんなわけで冒頭のため息である。

 

「......どうしよう...はぁ......」

 

場所は【学び舎 16時の記憶】と囁かれる春日率いるものつくり部の部室。由来は至るところから仕掛けられたトラップから抜け出せず、目が覚めたら16時、また入口からのスタート、保健室へ運ばれた勇者(生徒)は数知れず......という一連の流れがダンジョン攻略みたいだからだとのこと。ちなみに何故ならば16時なのかというと、入り口の壁時計が16時を示したままであるから。春日に電池交換の選択は今のところない。

 

「おや?

 

 

 

日奈森じゃないか」

 

重々しい雰囲気であむが目をあわせた。

 

 

「......あぁ、久我くん。

 

 

 

......なんて注ぎかたしてんの!?」

 

春日が紅茶のポットを高く持ち上げ、カップに注ぐところだった。今日はどことなく紳士的にみえる。

 

「よぉ!暇か?」

 

「暇にみえます?」

 

銀時をちらりと一瞥して、春日はチェスの駒を並べる。

 

 

「......みえねぇな。たまにはコーヒー牛乳でも飲むか」

 

 

ガララと勢いよく扉があき、なぎひこがやってきた。

 

「妙ですねぇ......君がここに来るなんて、まるで梅干しが入ってないおにぎりじゃないか」

 

「いや、なにも問題ないよ、そのおにぎり!!むしろ、食べやすくなってるよ!!」

 

春日は優雅に紅茶(砂糖五杯)を口に含み、ざらざらとした舌触りのそれをあじわった。

 

 

「それより、日奈森。何か悩んでるみたいだな。そうだ!藤咲君に頼んで、君の親友とやらの藤咲なでしこにきいてもらったらどうだい?」

 

妙に紳士ぶった春日が名案とばかりに言う。

 

「な、なんでぼくが......」

 

「なでしこ!?」

 

あむの沈んだ気持ちが沸き上がった。あむのキラキラとした目がなぎひこに向けられる。

 

 

「ハハ。細かいことが気になるのがぼくの悪い癖。さあ、日奈森。話してみろ。安心しろ。彼がなでしこになってきいてやる」

 

 

「お言葉を返すようだけど、久我くんの茶番劇に付き合わされるこっちの身にもなってもらいたいよ......」

 

 

「はいィ?」

 

あきらめた表情でなぎひこは自身の長い髪をひとつに束ねた。

 

ポツリポツリとあむが話し出す。

 

なぎひこはタイムリーな話題すぎて、なんとも言えない。なぎひこも自分がなでしこと双子だと周囲に嘘をついているから。実際は同一人物だが。

 

 

「した方は忘れても、 された方はいつまでも傷となる。」

 

ボソッと言った春日の言葉があむとなぎひこのハートを突き刺す。あむの心中は唯世への懺悔が溢れ始めた。

 

 

 

「たとえ嘘がばれなかったとしても、幸せになれなかったと思う。偽りで始まったものは、その後もずっと偽りの人生でしかないのだから。」

 

 

 

春日のその言葉は自身に向けて言った。お忘れかも知れないが、春日の前世云々も含めて、春日は嘘をつきすぎた。また、なぎひこも思うところがあるのか、なにも言い返せない。

 

重苦しい空気が漂うなか、春日が突然声をあげた。

 

「ぼくとしたことが!大事なことを見落としていました!!」

 

 

 

「そんなにあわててどうしたの、久我くん。」

あむが心配そうに声をかける。

 

 

 

「おぅ、最後にひとつだけ。藤咲にちょっと......」

 

「ぼくがなんだって?」

 

「......いや、なでしこのな、その、よかれと思ってアイツのプロマイドで一儲け......ゲフン、ゲフン、まぁ懐があったかくなって」

 

「......へぇ」

 

心なしかなぎひこの目が笑っていない。

 

「お前とアイツさすが双子だよなー。そっくりだなぁ、こりゃ、もうひとつ、いや二つ!もうけれるな!」

 

「おんどりゃァァァァァァァァ!!!」

 

それからははやかった。あまりの突然のことにあむも何が起こったのか頭が追い付かない。ただ、すべてを終えたなぎひこの顔は晴れやかだった。

 

 

【学び舎 16時の記憶】と呼ばれる部屋の前で気絶した春日の姿が目撃された。

 

 

どうしてそんな事態にいたったのか。

 

 

誰もわからない。

 

 

 

真実は闇に葬り出された。

 

 


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