破軍学園フィールド。
今この場ではとある2人が、《七星剣武祭》への出場権をかけて対峙している。今フィールドに立っている選手の人気が高いのと、片方の選手が破軍学園の序列一位なため、観客席は満員だ。恐らくは学園に所属している殆どの生徒が見ているだろう。
両者の性別は違うが、彼ら
ピリピリとした緊張が女性の方から見える。彼女は東堂刀華。破軍学園の序列一位にして、《雷切》の二つ名を持つ学園最強の騎士。
そんな彼女に対する男性、中院冷泉は全くの無名。模擬戦の記録は全て彼の降参で、勝ち星は一度もない。そんな彼は余裕そうに鼻を鳴らしながら、己の
観客達は随分遅くに顕現させたと思う。冷泉が
刀華は緊張を持った表情で、冷泉は余裕を持っているかのように飄々としながら、口元に笑みを浮かべ、両者は開戦のゴングを聞いた。
まず動き出したのは冷泉。《神威》を片手に、袈裟斬りで斬り込む。その速度は速いがそんな単調な攻撃が学園最強にまともに当たるはずもない。観客達は一斉に嘲笑を露わにした。
刀華でさえ何を考えているのだと真剣に考えてしまう。刀華はクロスレンジでは最強と言われる抜刀術を持っている。自慢ではないが刀華自身、クロスレンジでは《七星剣武祭》に参加する者達の中でも、自身の抜刀術は上位に入ると思っている。
鞘から刀を抜く。
刀華の剣速はやはり速い。中の下までの
刀華が一撃で冷泉にケリをつける。誰もがそう思った。だがその予想は覆される。
「ハアアアア!」
気合一閃。もしくは適当に叫んだだけか。いや、そんなことは関係ないしどうでもいい。冷泉は叫び、腕を動かす。高速で《神威》で《鳴神》を弾き、超高速で片足を軸に回転し、刀華の腹部に蹴りを叩き込んだ。
吐瀉物と共に吹き飛ばされる刀華の肉体。冷泉はすぐさま飛び出し、フィールドから出る前に刀華の脚を掴み、反対側へゆっくりと投げ飛ばす。
恐ろしいほどの速度に異常なまでの反射神経。観客達、特に冷泉と同学年の者達は、彼のたった数秒の戦闘で、彼の強さに驚愕する。
「グゥっ・・・!どういう、つもりですか?」
「なぁに、単に俺は貴様の強さを確かめただけだ。貴様がどれだけ強いのか、学園最強の騎士はどの程度なのか、《七星剣武祭》の実力者とは如何様なものか、試していたんだよ」
刀華の睨みつけをものともせずに、口軽く話していく。さっきの蹴りで刀華は意識を失っていた。吹き飛ばされている中、彼女の意識は真っ暗になっていた。だが冷泉はそれに気づき、刀華の脚を掴んだ時に思いっきり、壊れない程度に力を込めて、彼女を起こしたのだ。
それを気になって聞いてみれば、まるで自分を相手にしておらず、尚且つ自身も本気どころか実力など全く出していないような言い草。
「さて、今は無駄話はやめておこう。さて、続きでも始めようか」
「ッ!?」
会話が切られると共に駆け出す冷泉。今度は隙のない斬り上げ。刀華は冷静に《鳴神》を打ち付けることで回避する。それが気に入ったのか、冷泉は二ィッ、と口元を歪ませて、怒涛の連撃を放つ。顔、胴、腕、脚、ありとあらゆる部位を滅多斬りのように切り裂こうとする。
「ハハハハハハハハハハハハ!イイぞいいぞ!まさかここまで打ち合ってくれるとは、貴様のことを舐めていたようだ!」
「クッ!随分と嬉しそうですね」
「ああ!そうだとも!まさか俺の全力の1%と渡り合えるやつがここにいたのだ!これを喜ばずしてなんと言う!」
「な・・・!?」
これが全力でない?刀華はなんの冗談だと思った。刀華は完全な防戦一方に追い詰められている。刀華は抜刀術を得意としているが、その他の技、特に攻守もかなりの練度がある。そんな刀華が、仕切り直すことすらできないほどに追い詰められているのに、追い詰めている本人はこれが全力ではないと言うのだ。
「ぬぅん!」
「グゥッ!お、重すぎる・・・!」
最後の一発とも言える一振りを何とか受け止める。打ち合わせた瞬間に腕は痺れ、脚は折れそうになるほどの衝撃が与えられる。
再度腹部に蹴りが入れられる。だが今度は浅かったようで、刀華自身で踏ん張っている。
形勢は明らかに刀華が不利。だが距離はとることが出来た。今度は慢心などしない。最初から全力の一太刀を、目の前の騎士に叩き込む。
「ほぅ、それが貴様の『雷切』とやらか」
「・・・・・」
「無言、か。まぁ良い。どれ、貴様を試してやろう」
刀華が鞘に《鳴神》を封じたのを見て、冷泉は即座に『雷切』が放たれる可能性を見る。
『雷切』とは東堂刀華を表す刀華の
これを受けて動けた者はいない。文字通り、一撃必殺。
「さぁ、行くぞぉ!」
冷泉が駆け出す。恐らくは初撃と同じ袈裟斬り。だが今回は刀華の『雷切』に合わせるつもりだろう。
「『雷切』!!!」
「ふぅん!」
クロスレンジ最強の雷速の一撃と力任せの袈裟斬りがぶつかり合う。その衝撃は観客席にまで響き、暴風となって襲いかかる。最高の技とただの切りつけ。どちらが強いかなど、本来なら誰にでも分かることだ。だが冷泉はそれを覆す。
「なっ———!?」
《雷切》が《神威》に弾かれる。最高の冴えを持つ努力の結晶である技は、力任せの一撃に敗れたのだ。
『雷切』が弾かれたことによって刀華は後ろへ後退してしまう。だが冷泉は追撃をしない。先程までとは違う、冷めたような目で刀華を見ている。
いや、あの目は東堂刀華を東堂刀華として見ていない。そこらの塵芥と同程度としか思っていない。
それはまるで別人のような・・・。
誰も知らない。冷泉だけが知っている。己の本能が目覚めかけたのだと。己の破壊衝動が、とある因子が目覚めたのだと。冷泉はそれを咎めようとも抑えようともしない。それが自分なのだ、それが中院冷泉なのだと思っている。
「はぁ、所詮はこの程度か・・・」
「何を・・・」
「雷を刀身に纏わせて高速の抜刀を放つ?なぜそのような無駄をする?己の力だけで行えばいいものを、なぜそのような塵に頼って行おうとする?全くもって度し難い。
ああ、そう言えばヴァーミリオンとかいう塵は赤い塵を刀身に纏わせていたな。
本当に、貴様らは小賢しいな。雑魚は雑魚らしくしてればいいものを、少しでも見てくれを良くしたいから、塵のようなものに頼るとは。全く、貴様らの神経はどうかしておる。
弱いから、詰まらぬから、物珍しげな設定を捻り出して、頭がいいとでも言わせたいのか。それだけで貴様らは卵を立てたような気持ちになりおって。
そんな塵に頼るから、貴様ら
やりよう次第で、弱者であっても強者を斃せるとでも言うように。
そのほうが、さも高尚な戦であるかのように演出して悦に入る。
嘆かわしい。くだらない。なんと女々しい。王道とは程遠い。
絶望が足りぬ。怒りが足りぬ。強さにかける想いが純粋に雑魚なのよ。
貴様らのごとき、小理屈をこねる輩が横溢するようになって以来、圧倒的というものがとんと見当たらなくなってしまった。
故に、特殊な力を使わん俺が最強で、使う貴様らが雑魚なのだ。徹頭徹尾最強無敵、誰であろうと滅尽滅相。———力、ただ力!!
簡単な理屈だろう?
これをつまらんと思うなら、それはそやつがつまらんのだ。
能無しどもが、熊を素手で撲殺する程度の膂力もない分際で、際物めいた一芸さえあれば山をも崩せると迷妄に耽りおる。
本当に救いようがないゴミ共だよ、貴様ら
「では、この詰まらぬ戦に幕をひこう」
「なっ、速———いっ、ああああああああああああ!!!」
「遅いわ、このノロマが!」
「そんな・・・《鳴神》が・・・」
超高速で移動した冷泉が、刀華の脚に刃を突き立て、そのまま抉る。刀華は叫び声を上げながら冷泉に向けて《鳴神》を振るうが、冷泉の振るわれた拳でいとも容易く、豆腐の様に砕け散る。その光景を見て刀華は絶望するが、そんなことは冷泉の知ったことではない。
「まずはその腕だ!」
ザシュッ
軽い音と共に、刀華の両腕が胴から離れる。明らかなやり過ぎ、オーバーアタック。だがそれを咎めようとも、止めようとするものもいない。皆が自然と冷泉を恐れている。脚がすくんで動けない。それはこの学園の理事長であり、
いや、正確には冷泉の後ろにいると錯覚している三眼に。
「終わりだ、畜生」
「刀華から離れろォ!!!」
「うた・・・くん」
ただ1人、動ける者がいた。刀華と同じく生徒会に所属し、刀華と同じ施設で育った幼馴染みの御祓泡沫。泡沫は己の
いい加減イラついてきたのか、冷泉は行動に入る。
「いい加減うっとおしいぞ、塵」
「え?あ———」
血飛沫がまう。その血が誰のか、簡単に分かってしまった。泡沫の物だ。泡沫が心臓から、脇腹から、首から、頭から血を流している。それはもうIPSカプセルに入れても無駄だと分かるほど、酷く、惨く、残酷な殺し方だ、
冷泉は泡沫が斬りかかってきた瞬間、足技で移動し、脇腹を切り裂き、そこから流れるように心臓へ到達すると《神威》を押し込んで心臓を破壊し、《神威》を引き抜いて首に刺し、そこから脳天まで切り裂いたのだ。
「嘘だよね・・・?ねぇ、いつもみたいに笑ってよ、うた君」
観客席から聞こえてくる嗚咽音を無視して、刀華は泡沫だった物に話しかける。だが反応はない。当然だ。そうなるように斬ったのだから。
「本当に、貴様らは詰まらんよ」
泡沫の死体を抱き上げる刀華を、虫を見るような目で見下ろし、冷泉は《神威》を振い落す。次の瞬間、刀華の意識は永久に黒へと変わっていった。
これが近い内に、《七星剣武祭》で戦った相手を死亡、もしくはマトモに生きられないような後遺症を残し、後に魔王と呼ばれた男の、片鱗を見せた試合であった。