捻くれ者と強すぎる艦娘。   作:ラバラペイン

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無理やり島に到着。
書きたいことが多すぎるんじゃあ!


提督になる時5

 戸塚並みの天使オーラを受け、不覚にも固まってしまった。俺とした事が。

 

 この娘が電という駆逐艦の艦娘らしいが、本当に兵器なのだろうか。人間にしか見えないし、むしろ戸塚のような、『ザ・人畜無害!』な雰囲気をひしひしと感じる。あれ、むしろ戸塚が艦娘だった? いやいや戸塚は男だから違うか。……男だったよな? ……女の子の様な気がしてきた。やっぱり艦娘? いや男だってば(以下ループ)。

 

 頭の中でしょうもないことをグルグルと考えていたら、再び電が口を開いた。

 

「あの、新しい司令官さん、寝不足ですか? 目がすごいことになっているのです。お体は大事にしなきゃだめですよ?」

 

 ぐはっ……。

 何だこれ純粋な優しさが目に染みる!

 なんだったら浄化してる気さえする。え、してない? ……そう。

 

「あ、あぁ、この目はデフォルトだから、気にしないでくれ」

 

 俺がそう言うと電はわたわたと慌てた。

 

「そ、そうなのですか!? はわわ、ごめんなさいなのです!」

 

 許す。超許す。だって天使だもん。

 

「挨拶はもういいかな?」

 

「あっはい」

 

 大将のことを忘れていた(迅速)。

 

「うむ、色々と心の準備は有ると思うが、このクルーザーに乗った瞬間から、君は正式に提督となる。階級は少佐。だが特例で提督になって貰った為、暫く昇格は無いと思ってくれ」

 

 まぁそれは仕方ないな。そもそも給料は大将が用意しているし、昇格とかして目立ちたくもないしな。そんなことよりもだ。

 

「なんか先程からはぐらかされてますが、結局俺はどこに向かうんです?」

 

 これに尽きる。クルーザーということは少なくとも本土じゃないだろうが、一体どこに送られるというのか。大島?

 

「安心したまえ、あの艦娘達がいる限り、そこは世界一安全な場所だよ」

 

「はぁ、そりゃ結構なことで。……いやそうじゃなくてですね?」

 

 勿論安全なのは嬉しいが、いい加減こう、ズバっと地名を教えて欲しい。

 

「場所は説明しにくい。元は太平洋のど真ん中の無人島だからな」

 

「……………………は?」

 

 ……この人は、今なんと?

 

「片道普通の船なら7日掛かるが、艦娘に曳航して貰うからもう少し速く着くか。まぁそんな所だから、正式な名称は未だない。みんな艦娘鎮守府とか呼んでるしな!」

 

 そう言ってハッハッハと笑う大将。うわ笑い方先輩とそっくりだなー。

 そんな現実逃避していたらいつの間にかクルーザーに乗っていた。あれ!?

 どうやら呆然とした一瞬を突いて乗せられたらしい。上官の指示に体が勝手に動いたとも言う。

 

「ちょっ、待って下さい! 聞いてないですよ!? まさか年単位で帰れないとか言うんじゃないでしょうね!?」

 

 マグロ漁船みたいに!

 

「安心しろ、最低3カ月に一回は報告に帰ってきて貰う」

 

 思いの外多かった。

 

「や、ほら! 俺クルーザー運転出来ませんし!」

 

「さっきも言ったが電が曳航していくから君は中に居るだけでいい。あぁ、食料はクルーザーに積んであるから心配はいらないぞ!」

 

 心配ごとがズレてんだよなぁ! ワザとか!? ワザとなのか!? ……そういやこの人大将だった。ワザとだわこれ。

 つまり、余計な心配をせずにさっさと行けということか。わかってますよ。

 

「その他鎮守府に着いてからの注意事項はさっき渡した資料の後半に粗方書いてある、熟読するといい。電、準備はいいかね?」

 

「いつでもいけるのです!」

 

 声の出どころを見れば、電はクルーザーの前の海面に『両足で立って』おり、腕には砲塔、背中には機関部を背負っていた。いつ出した。あれが艤装というやつだろうか。クルーザーの先頭からは太いワイヤーが伸びており、それを電が掴んでいた(あれで引っ張る気か)。

 俺は貰った資料をちらりと見て、溜息をついた。もう覚悟を決めよう。結構帰って来れるみたいだし。

 

「……比企谷八幡、了解しました!!」

 

「うむ。頑張りたまえ!」

 

 そう言った大将の気風の良い笑顔はどこぞの結婚出来ない先生と被って見えた。

 

「あ、最後に一つ」

 

 俺は脳内でズッコケた。今いい感じに出発しそうだったじゃん!

 

「なんすか」

 

 だから返事が雑になってしまった俺は悪くない。

 

「その資料に書いてある艦娘の情報は、一般的な艦娘を基準とした物でな、君の行く鎮守府では役に立たないと思ってくれ」

 

 悲報、『艦娘について』の艦娘のページが役立たずになった模様。いや深海棲艦の情報とかあるけどさぁ……。もうこれ艦娘についてじゃないじゃん。

 

「わかりました……」

 

「うむ。では電、出発してくれ。比企谷君、いや比企谷少佐を頼んだ!」

 

「お任せ下さいなのです! 出発なのです!」

 

 クルーザーが動き出す(すげぇ)。俺が大将に敬礼をすると、大将も答礼で返してくれた。

 そうして、俺を乗せたクルーザーは電に曳航されつつ本土を離れたのだった。

 

 

 〼

 

 

 クルーザーの上から双眼鏡で遠くを見渡すーーちなみにこの双眼鏡はクルーザーの中にあったものだーーと、当然の様に360度海しか無いことが確認できる。

 別に周囲の警戒のために見ているわけではない。

 

 やることが無いのだ。

 

 電がクルーザーを引いている時は位置関係的に会話しにくい為、必然的に会話が出来るのは船を止めて周囲を警戒している夜だけになる。そうなると当然、頑張って引っ張っている電には申し訳ないが朝昼は暇になる。そして今は本土を出発して3日目、いよいよ退屈も極まってきたとこだ。

 

 ゴロゴロ。

 

 ダラダラ。

 

 クルーザー内に戻り簡易ベッドで限界までだらける。気分は太公望か双葉杏か川村ヒデオか。

 こんな生活も悪く無い。幸い俺は船酔いとは無縁な身体だったし。

 

 そんな怠惰状態でいたら正午頃、急にクルーザーの動きが止まる。何事かと思い船の甲板に出る。

 

「どうしたー!? 何か有ったのか!?」

 

 船の先頭ギリギリまで出ても電とはやや距離がある為、柄じゃないが声を張り上げ訊ねる。電も報告があるのかクルーザーに寄ってきた。

 

「1時の方向に敵艦なのです! 構成は軽巡ト級1隻のみで、ソナーにも反応が無いので潜水艦も居ないようです。はぐれなのです」

 

 じょ、情報集めが早過ぎる……。言われた通り1時の方向を双眼鏡で見てみると、確かに黒い異形の存在が確認出来た。資料で見た時に感じた大きさよりふた回りは大きく感じる。正直言って怖い。

 

「このまま進むと鉢合わせしてしまうのです。敵は一体だけなので、ここで動かなけれはやり過ごせるかもしれないのです。司令官さん、どうしますか?」

 

 まぁ戦わなくて済むのならそうしたい。だが。

 

「いや、やり過ごしたい気持ちは山々だが、どうやらそうも行かなさそうだ。向こうもこっちに気付いたぞ」

 

 双眼鏡の向こうで、軽巡ト級は明らかにこちらに気付き、俺たちの方向に向かってきていた。今は射程外だが、直ぐにでも砲撃が開始されるだろう。

 

「ッ! 戦闘に入るのです! 司令官さんはクルーザーの中に! 並みの戦艦よりも頑丈に作ったらしいのです!」

 

 マジかよこれそんな凄いのか。

 だが戻る前に聞く事がある。

 

「お前一人で倒せるのか? 正直言って強そうには見えない。無理そうなら、俺を置いて……」

 

 逃げていい、と言おうとしたら電は急に笑い出した。

 

「ふふふっ。司令官さんを置いて逃げるなんて出来ないのです。……大丈夫です。これでも結構強いのですよ?」

 

 そう冗談めかして言うその目には自信があった。慢心や油断ではない、見ているだけで安心出来るような確固たる自信が。となると、俺の心配はむしろ失礼に当たる。

 

「そう、か。……よく知らないで変なこと言って悪かったな。まぁ、その、なんだ。…………頑張れ」

 

 俺が慣れないセリフを途切れ途切れに言えば。

 電は少し驚いた顔をした後、こちらが赤面する程の良い笑顔を見せて、言った。

 

「電の本気を、見るのです!」

 

 

 

 戦闘は一瞬だった。

 敵艦が行動を行う前に電が先制して砲撃を行なった訳だが、その砲撃は吸い込まれるように敵艦の魚雷発射管に命中し、誘爆を起こした。大ダメージを受けた軽巡ト級は、そのまま海底へと沈んでいった。電は「まぐれなのです」と言っていたが、はてさて。

 

 敵を退けたことで俺たちは再び進行を開始し、その翌日の朝、目的地である島に到着した。……大将は船で7日とか言っていた筈だが4日で着いてしまった。

 クルーザーの速度計が70ノットとか叩き出しているのはバグじゃ無かったらしい。

 




次話で過去編1は終わりの予定です。
……キャラ達の雑談が盛り上がり過ぎなければですが。

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