捻くれ者と強すぎる艦娘。   作:ラバラペイン

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なんか文量が抑えられない。
当初は一話1000から2000文字くらいかなとか思ってたんだけどなぁ。


提督になる時6

 

 

 さて、鎮守府の港でクルーザーを降りた俺を、一人の艦娘が迎えてくれた。陸に上がって艤装を解除した電もそれに気付いた様で、嬉しそうに駆け寄っていく。

 

「あ、能代さん! ただいま帰投したのです!」

 

「電、お帰りなさい。この方が新しい提督ね?」

 

 能代と呼ばれた少女がこちらを見る。

 

「はじめまして、阿賀野型軽巡の能代です!」

 

 そう言って丁寧なお辞儀をする能代。

 あぁそんなことしたら渓谷が強調されるでしょうが! 何故なら彼女の服装がヤバイ。セーラー服をノースリーブにして胸当てを外した様な外観をしており、その上とても立派な物を持っていらっしゃる為視線が万乳引力により引き寄せられそうになるのだ。頑張れ俺の理性。対由比ヶ浜で鍛えたチラ見力を今こそ活用する時だ! って見ちゃうのかよ。

 

「お、おう。比企谷八幡だ。階級は、えー少佐だ。よろしく頼む」

 

 しどろもどろになりながらも何とか名乗り返す。視線は能代の顔に固定する。少しでも外すと下に落ちていくので俺も必死である。

 

「はい! よろしくお願いします! では早速ですが鎮守府に御案内しますね。あ、電は補給に行ってきてから食堂に来てね」

 

「了解なのです。司令官さん、またあとでお会いしましょう」

 

「おう」

 

 電を見送ってから能代の後ろをついて歩く。草木生い茂る自然の中簡易にコンクリートで舗装された道を歩いて行くと、程なくして島に不釣り合いな真新しい建物が見えてきた。

 

「あれが私達の、そして提督がこれから過ごすことになる鎮守府です! 取り敢えず中の案内は後にして、皆を集めるので自己紹介をお願いします!」

 

 え、マジで?

 嘘だよなと想いながら能代を見るが、彼女はニコッと笑うだけだった。どうやら彼女にぼっち特有の苦悩は分からないようだ。当然すぎた。 

 

 

 

 鎮守府の食堂に連れてこられた。なんでも全員集まれる広さがあるのはここしか無いそうだ。

 俺をここまで案内してくれた能代が館内放送で全員を呼び出す。

 

 それから数分後。食堂に続々と艦娘がやってくる。色んな奴がいるが、海兵繋がりかセーラー服の奴は特に多いな。勿論電もいた。あと能代は割とまともな格好だった。何せそれ紐見えてるよとか、スカート履けよとか、お腹冷えるよとか、それもう水着じゃんとか。突っ込みどころが満載な奴が続々現れたのだ。

 

 そうしてやって来た艦娘は、誰が特に何か言うでもなく整列していく。彼女らに共通するのは、皆俺にいい意味も悪い意味も含めて興味津々といった視線を送ってくることか。

 

 ああ、まずい。何故人を集めるかってそれは俺を紹介する為しかないわけで、つまり俺は多人数相手に自己紹介をしなきゃならない。ヤバい。もう緊張してきた。こればかりはぼっちの性である。注目されたくないのだ(手遅れ)。

 

 ある程度集まったからだろうか。能代が再び側に寄って来て、言う。

 

「今来られる艦娘は全員集まったみたいです。提督、こちらで挨拶をお願いします!」

 

 ついにこの時が来てしまったか。ご丁寧に小さなお立ち台みたいな場所があり、そこに乗せられた。

 少し位置の高くなった視線で見渡せば、ざっと5、60人は居るだろうか。多いのか少ないのか判断は付かないが。

 

 仕方ない、さっさと終わらせよう。

 

「あー、こほん。ヒキッ」←声が裏返った。

 

「ブッフォwww」

 

 おい今笑ったピンクのツインテ顔覚えたからな。

 

「ん"んっ! 比企谷八幡、少佐だ。今日からここの提督になる。よろしく」

 

 よし、成し遂げたぜ。大怪我したけどな! 俺がよろしくとか言うなんて成長しただろ? だろ?

 

「ええっと、それだけですか?」

 

 だが能代的に不十分だったらしい。

 え、自己紹介ってこうじゃないの?

 

「おう」

 

「そ、そうですか……。(こ、困ったわね。流石にもう少し自分のこと話してくれないと皆を集めた意味が……)」

 

 なんか能代がめっちゃ困った顔してる。ホント申し訳ない。ぼっちに語ることは極めて少ないんだ。

 

「あー、じゃあ質問いいか?」

 

「ん?」

 

 俺が目を向けると手を上げていたのは、眼帯をつけ、セーラー服の上から黒いマントを羽織った艦娘だ。顔は美少女よりはイケメンと言いたくなる程凛々しい。塞がれていない片目からは俺に対する警戒心が見て取れる。3人クズを送られた後だから慎重になるのも当然か。……ところでこいつ見てるとなんか右手が疼くんだけど。くっ、鎮まれ……!

 

「重雷装巡洋艦、球磨型の木曽だ」

 

 木曽はそう名乗ってから、質問を口にする。

 

「お前はどんな人間だ?」

 

「ぼっちだ」

 

 あ、しまった。思ったことをついそのままポロっと言ってしまったが、絶対そういうことが聞きたいんじゃないよねこれ。お互いの間を気まずい空気が流れる。

 

「そ、そうか。なんか、悪いな」

 

 あぁほら、警戒心強めの視線だったのにもう可哀想なものを見る目になっちゃったよ。逆に辛いわ。

 

「いや、こっちこそ悪い。……つってもどういう人間かはお前ら自身で勝手に判断して貰うしかないな。俺が説明しても嘘かもしれないだろ? 自分はこういう人間です、って言う奴に限って言ったことと真逆の奴だったりするもんだ。就活の自己PRとか嘘ばっかだろ。俺就活してないけど」

 

 尚判断出来るほど接触するとは言ってない。

 

「いや、そんなことは無いと思うが……。まぁ変なやつだって事は分かった。質問は以上だ」

 

 ふぅ、やっと終わーー

 

「私は嫌よ! こんなのが司令官なんて」

 

 って無かった。

 俺を鋭い視線で睨みつけてくるのは、灰色の髪を青緑のリボンでサイドテールに纏めた吊りスカート? の艦娘。

 

「おーそうか。お前は?」

 

 軽く流す様な対応をしたからか更に鋭い目付きになった。

 

「駆逐艦、霞よ。あんたみたいに若い人間にマトモな艦隊指揮が出来るわけないじゃない! グズはさっさと荷物まとめて帰りなさい! 遊びじゃないのよ!」

 

 おうおう、随分な言い様である。雪ノ下程じゃないがな。むしろ優しさを感じるまである。しかしこいつの発言で一つ分かったことがある。

 

「あーすまん、なんか齟齬があるな。俺は艦隊指揮するつもり無いぞ」

 

「「「「えぇっ!?」」」」

 

 霞だけでなく他の艦娘まで驚いていた。

 

「なんで驚いてんだよ……。そもそも艦娘側が要求したんじゃねぇか」

 

 俺がそう言うと、能代が更に驚いた様に声を上げる。

 

「えぇっ!? あの要求を満たした方だったんですか!?」

 

「え、何? ダメ元だったの?」

 

 まるで要求が通ったこと自体意外だったかの様な反応である。

 

「それはそうですよ! あくまで私達は艦娘で、兵器なんですから。考案した大和さんも大本営が聞き入れてくれるかは五分五分だと言っていましたし!」

 

「ほーん」

 

 まぁ艦娘の立場で考えてみれば、そう考えるのも分からなくはない、か?

 というか大和居んのここ。俺でも知ってる戦艦だぞ。

 

「まぁいいや。そういう訳で、俺は艦隊指揮とか全く分からないから、口出しはしない。お前らで勝手にやってくれ。雑用くらいならやらんでもない」

 

 高い給料貰ってるしな。ここじゃ殆ど使い道無いけど。

 

「そう、じゃそれは理解したわ。でもあんた個人が信用出来ない」

 

 まぁそうだろうな。霞がそういうのも理解できるし警戒心が高いのは良いことである。しかしどうしたもんか……。

 ……あ、そうだ。

 

「俺が選ばれたのはお前らの要求を全部満たしていたのもあるが、妖精に好かれやすいのも理由の一つらしいな」

 

 選ばれたのは八幡でしたってか。(目が)濁ってるし。あ、濁りじゃくて腐りなのでダメですかそうですか。

 

「あんたが妖精に好かれてるとは思えないんだけど……」

 

「んじゃ証拠見せるわ」

 

 訝しげな霞を尻目に俺は人差し指を立て、顔の前に掲げる。そして少しテンション高めに言う。

 

「妖精さん、集まれー!」

 

 ……………………。

 

 …………。

 

 ……あれ?

 

「ブハッwwwあの目でっwwwあの目で妖精さっwww集まっwwwゲホッゲホッ」

 

 笑い死にしてるピンクのツインテは絶対許さない。

 

 しかし、よく考えたらこれ皆見てる。黒歴史確定じゃん死のう、とそう思った瞬間。

 

 ザワッと。

 

 俺の上半身が大量の妖精さんで埋め尽くされた。いや指に来いよ。

 

「なっ」

 

 これは霞の声。

 

「司令官さん、凄いのです!」

 

 おお、これは天使電の声だ!

 

「す、凄い。これなら提督の素質充分ですね」

 

 これは能代か。艦隊指揮しないけどな。

 

「ここまで妖精に好かれてちゃ、流石に悪人ってことはない、か。妖精は本質を見抜くからな」

 

 この声は木曽だっけ? てか妖精さん凄いな。

 

 っといつ迄も声だけで判断してられん。俺は顔に引っ付いている妖精を引き剥がしつつ、霞に言う。

 

「とりあえずこんなもんだ。まぁいきなり信用しろとか言わない。むしろ俺が無理だ。他人不信だからな。だがまぁ、こんなのでも判断の切っ掛けになればいいとは思う」

 

 艦娘にとって妖精さんは特別な存在らしいし。

 

「……分かったわ。あなたを司令官と認めます。その代わり雑用だけなんて許さない。きっちり仕事して貰うわよ! 別に艦隊指揮以外にも仕事はたくさんあるんだから!」

 

 えぇー。

 

「言っとくけど、サボったら承知しないから」

 

 霞から放たれる威圧感が一段階上がった。怖い。あと怖い。

 

「わ、わーったわーった。……んで、質問は終わりか?」

 

 俺がそう聞くと能代が答える。

 

「そうですね、ではそろそろいい時間なのでこのくらいにしておきましょうか」

 

 そう言うと他の艦娘からブーイング。

 

「まだまだ聞きたいことあるっぽい!」

 

「青葉ももっと色々聞きたいですねぇ」

 

 わいわいガヤガヤと。堰を切ったように騒ぎ出す艦娘。それを能代が手を叩いて静める。

 

「はい、残りの質問は秘書艦になってから聞いて下さい!」

 

「秘書艦?」

 

 なんだそれ。

 

「あっはい、秘書艦は提督のお仕事をサポートする艦娘のことです! 皆が仕事を覚えるようにうちでは日替わりで、今日は能代でした」

 

 なるほどね、だから能代が仕切ってたのか。

 

「では提督、この後は鎮守府内部をご案内します!」

 

「おう、頼む」

 

「はい! あ、因みに明日の秘書艦は漣ですよ!」

 

 誰だよ。まぁ適当にやろう。

 

 

 

 次の日メチャクチャ仕返しした。

 




余談

○遠征から帰ってきた曙

 執務室に戻る途中、初めて見る艦娘に捕まった。

「あ! あんたが新しい提督? その目で? ホント冗談じゃないわ。辞めたら?」

 あー、うん。

「その流れは着任した時もうやったからパスで」

 俺は執務室に戻った。

「は、はぁ!? パスって何よパスって! この、ちょ、待ちなさい、くっ、クソ提督ー!!」

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