捻くれ者と強すぎる艦娘。   作:ラバラペイン

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提督の業務は色々あるよー的なアレ

 書類仕事に戻って一時間半程。

 俺は一向に減らない紙束に辟易しつつ、そろそろ昼飯かなと思い一旦のキリをつけるべく奮闘していた。

 因みに大和曰く、俺の書類処理速度はなかなか早いらしい。理由を考えたが、間違いなく高校の頃一色の仕事を手伝わされまくったおかげである。絶対に感謝などしないが。

 

 飯、飯、マッカン、マッカン、と念じながらハイスピードで作業をしていると、執務室の扉がノックされた。

 

 誰だ……? やけに丁寧なノックだったが。

 

 よし居留守使おう。大丈夫緊急だったらノックも無しに開ける艦娘ばっかだから。

 

 ガチャリ。

 

「あ、なんだ。やっぱり居るんじゃない。提督」

 

 別に緊急じゃなくても開ける艦娘ばっかだしな……。

 こいつはRoma。イタリア生まれの戦艦だそうだ。この鎮守府に来て驚いたのは、日本以外の軍艦も多くいたことだ。『艦娘について』に載っていたのは日本の艦娘だけだったし。

 

「あ、いやほら仕事に集中してて気づかなかったわ」

 

「ふーん。提督がそんなに仕事好きだったなんて、知らなかったわ」

 

「ぐぬ」

 

 表情を殆ど変えずにしれっと毒を混ぜてくるしぶりんみたいな艦娘である。え? しぶりんを知らないって? モグリかよ。

 

「ええと、なんだっけ、そう。なんの用だ?」

 

「演習をしたいから許可と、提督の随伴をお願いしにきたわ」

 

「お前らまだ強くなる気かよ……」

 

 演習。通常は他鎮守府と合同で行うのが基本である。しかしこの艦娘鎮守府はそれに当て嵌まらない。何故か? 相手になる鎮守府が存在しないからである。最悪相手艦娘の心をへし折りかねない。

 なのでウチでは演習相手を募らず、鎮守府内でチームを分けて演習を行っている。そしてアホみたいに強い艦娘同士で鎬を削り合い、更に強くなっていくのだ。インフレしすぎだぞ!

 

「私は後からここに来たから、まだそこまで強くないわ。先に来ていた姉さんに追いつく為にも、もっと強くならなきゃ」

 

「いやお前でも充分強いからな」

 深海棲艦の艦載機を機銃で的確に撃ち落としながら砲撃で敵の顔面ストライクが出来る様になったのにまだ足りないのか。

 

「で、どうなの? 来るの? 来ないの?」

 

「行くよ。優先度はそっちのが高いし」

 

 大将曰く、艦娘の強さが確認できる時はしっかり確認しておいて欲しいらしい。いやもう正直見てわかる領域じゃないんだが。

 

「そ、ならいいの。じゃあついて来て」

 

「あ、ちょっと待て。書き置き残しておくわ」

 

 霞が戻って来た時に俺が居なくてサボり扱いされると困るからな。執務室の隅に置かれていたホワイトボードを引っ張りだし、『比企谷演習付き添い』と書き残した。

 

 

 Romaに連れられて発着場に着く頃にはもう既に複数の艦娘が集まっていた。

 鎮守府の裏手には艦娘の為に用意された発着場があり、そこで艤装を展開し沖に出れば演習場だ。最も俺が海に出てもしょうがないので、発着場から双眼鏡などで様子を見ることになる。

 

「あ! 提督さん遅いっぽい! 早く演習したいっぽい!!」

 

 見れば錚々たるメンバーである。

 今声をかけて来た夕立を筆頭に、練度が高い奴が数多く集まっていた。

 

 夕立、曙、島風、大井、木曽、足柄、龍驤、瑞鶴、加賀、Italia、そしてroma。

 

 うん。

 

 何、これから世界でも滅ぼすの?

 

 そんなアホな事を考えていると、後ろから気の抜けた声が聞こえてきた。

 

「あー、遅くなりましたぁー、望月でぇーす」

 

 そう言いながらも焦ることなく普通に歩いてやって来た。謝罪意欲0である。

 というか、なんでこいつここに居るの?

 

「え、お前演習すんの?」

 

 望月。飄々とした態度であり、遅刻サボりの常習犯。面倒なことは大嫌い。そこ、俺と一緒とか言わない!

 

「するわけないじゃーん。今日は司令官の横でF作業しながら流れ弾の処理係だよぉ」

 

 そして艦娘鎮守府においての最古参の1人であり、同時に『最も強い駆逐艦』である。

 

「ああ、今回は望月が流れ弾係か。つってもあいつら流れ弾とか寄越したこと無いけどなぁ」

 

 俺に流れ弾が来たらマズイので一応用意される流れ弾係だが、あいつらは戦闘しながら遠方であるここに気を配れるのだ。

 

「まぁねぇ。でも万が一ってやつがあるからね。みんなも気をつけてねぇ、ここで砲撃撃ったら魚逃げちゃうからー」

 

 って気にする所そこかよ。呆れを通り越して清々しい。艦娘達も苦笑いである。

 そんな中、元気に突っかかってくる艦娘がいた。そう、ぼのたんである。

 

「クソ提督! ちゃんと見てなさいよ? 私たちが何が得意で何が苦手なのか、そういうのも提督は把握してなきゃならないんだから!」

 

 曙は真面目だなー。

 

「おう。今日は潜水艦居ないから楽勝だろ?」

 

 曙は艦だった頃の記憶もあり潜水艦が苦手なのである。とは言え、一般的な艦娘と比べるべくもないが。

 

「えっ!? ふ、ふん、勿論よ!!」

 

 まぁ本当に楽勝かはチーム分け次第だろうがな。

 

「チーム分けはどうする? 人数で半々に分けるか?」

 

 まさにその事を考えていた時に木曽が俺に質問してきた。答えたのは望月だったが。

 

「んーとぉ、曙、夕立、木曽、加賀でチームA、それ以外でチームBね」

 

 とんでもない編成を言いやがる。

 ほら、曙がえっ!? て顔してるぞ。

 

「4対7かよ。いやでもメンバー見る限り、実力は拮抗してるのかこれ。加賀と木曽も古参組だし」

 

 俺がそう言うも望月が否定する。

 

「んーん、流石にチームBの方がちょっと有利だよ。でもまぁ、勝負にはなるんじゃないかなぁ」

 

 それでもちょっとしか差が無いらしい。

 やはり最古参達の強さは特におかしいようだ。そしてそんな艦娘達を目標に頑張るものだから周りの艦娘もメキメキ強くなるという。レベルの上限どこに落として来たんですか?

 チームBを見れば『お前らは7隻がかりで4隻を相手にしろ』と言われたにも関わらず、怒ったりせず、むしろやる気に燃えている。特に瑞鶴。

 

「今日こそ一航戦をぶっ潰す!!」

 

 瑞鶴ちゃん、言葉遣いが悪いわよ。

 

「……やってみなさい、五航戦」

 

 加賀さん、目が怖いわよ。

 

 あの2人は放っておこう。パッと見たら仲が良い様には見えないし演習でもガチで潰し合うが、実戦だと屈指の連携力を持つ2人だったりする。喧嘩する程仲が良いとはこの2人の為にあるような言葉だろう。ぼっちには眩しいね、全く。

 

「提督、お昼はもう食べたかしら。カツサンド食べる?」

 

 そう言って側に来たのは足柄だ。近い近い。見るとその腕にはバスケットを抱えている。中にカツサンドが詰まっているのだろう。

 

「め、飯はまだだが、俺は養われても施しは受けないと決めている」

 

「そう? じゃあ勝利のゲンを担ぐのに協力してくれないかしら?」

 

「いや俺は片方だけ応援する気は無いんだが」

 

「いいのいいの、こういうのは気持ちが大事なんだから!」

 

 むしろ両方応援しなさい、と言ってカツサンドを渡してくる足柄。むぅ、俺の捻くれを鮮やかに躱すとは、これが大人の余裕って奴か。俺も大人の筈なんだがなぁ。なお艦娘の年齢について深く考えると頭がおかしくなって死ぬ。

 

「あ、あたしもカツサンド食べたい。足柄ぁ、くれー」

 

 カツサンドを受け取ると、横で俺と足柄のやり取りを見ていた望月がねだる。

 

「勿論みんなの分持って来たわ! はい、望月!」

 

 望月は受け取った直後にかぶりついた。

 

「うぁー、うめー」

 

 望月さん自由すぎませんかね。

 

「じゃあ他のみんなにも配ってくるわね!」

 

 これ食べて勝つわよー! と艦娘達の中に戻っていく足柄。なんとなく見送っていると今度は大井と木曽が寄って来た。あ、いや大井はそこまで近寄ってこないわ。良いことだ。

 逆に木曽は凄く近い、って肩組んで来た!? マジで近い近い柔らかい良い匂い!

 馴れ馴れしい! この娘凄く馴れ馴れしい! 男みたいな気安さの癖に凄く良いモノ持ってる自覚が無いのが困る! 困りすぎる!

 

「あにょ木曽さん? ちちち近くないですかね」

 

 引き剥がそうと抵抗するも全く上手くいかない。あれ、肩を組むってのは何かの技だったっけ?

 

「なんだぁ? 遠慮するな、俺とお前の仲じゃないか」

 

 どんな仲だよ!

 

「お、俺はお前とそこまで仲良くなった覚えは無いぞ」

 

「ははっ、釣れないねぇ! ま、直接的にはそうかもな。だが少なくとも俺はお前のことをそれなりに認めているぞ。お前は分かりにくいが艦娘のことをよく見ている。じゃなきゃ駆逐艦からは慕われねぇよ」

 

 慕われてんのかねぇ? 俺踏まれて来たばっかなんだけど。あと離せ。柔らかいってば。

 俺が無駄な抵抗を続けていると、大井が話しかけて来た。

 

「そんなことより提督、北上さんはいつ来るのかしら」

 

 来ねえよ。ってかうちに北上居ねぇよ。

 そう言おうと思ったが大井の目を見たらストレートに告げる勇気なんか吹き飛んだ。これがハイライトの無い目って奴か……。

 

「えぇと、うちには北上さんは居ないです、はい」

 

「知ってます。だから早く建造しなさい」

 

 あ、そこは知ってたか、良かった。幻覚見えてたらどうしようかと。

 

「け、建造は今許可が下りてなくてな?」

 

 一応建造システムはうちの鎮守府にもあるらしいが使ったことは無い。

 

「そもそもなんで建造するのは妖精さんなのに大本営の許可がいるのよ全く……。許可が降り次第すぐお願いしますね!!」

 

「お、おう」

 

 建造許可がなかなか下りないのはお前らが強すぎるからだけどな。

 

「なんか、姉さんが悪いな……」

 

 あまりの必死さに木曽もドン引きだった。

 

 

 

「司令官、観戦の準備せんでええんかー?」

 

 そう龍驤に言われて思いだす。すっかり忘れてたわ。

 

「おー、忘れてた。すぐ取って来るわ」

 

「あ、司令官釣り竿もよろしくー」

 

 俺は小走りでとある所に向かう。と言っても発着場の側にある物置だからすぐ着くが。ってか望月しれっと人をパシリやがった。

 物置の中は広くない。中には望月が言っていた釣り竿と、そして演習を観戦するのに必須となっているカメラ付きドローンと、その映像をリアルタイムで写すためのモニタが複数置いてある。俺は釣り竿とドローン、それからモニタを持ってから足早に戻った。

 

 望月に釣り竿を渡すと彼女はいそいそと釣りの準備を始めた。やる気満々っすね。

 俺もドローンとモニタのセッティングをさっと終わらせ、これでいよいよ準備が整った。

 

「提督、早く始めようよー、おっそーい!」

 

「ん、悪いな。すぐ始めていいぞ」

 

 俺は声の方を見ないようにしながら謝る。島風の服装は目に毒だ。おい飛び跳ねるな、スカート捲れてるから!

 

 鉄の意志で視線を逸らした先にはRomaとItaliaが居た。合流したあと居なくなったと思ったら姉妹で会話していたようだ。

 

「姉さん、今日の演習は共闘のようね」

 

「ええ、楽しみね! 一緒に頑張りましょう!」

 

 平和な会話で何よりである。

 

 

 それから程なくして、発着場の海上に皆艤装を付けてチームごとに向かい合うように立つ。

 

Aチーム

木曽改二

夕立改二

曙改

加賀改

 

Bチーム

大井改二

Italia

Roma改

足柄改二

島風改

龍驤改二

瑞鶴改二甲

 

 うーん、こうして見るとAチームいじめにしか見えないが、実際はそこまで両チームに差が無いってのが恐ろしい。特に木曽と加賀は競馬で言うなら6馬身くらい突き抜けてるからな。何それブッチギリ。どう動くか楽しみだ。

 

「じゃあこれより演習を開始する」

 

「さぁ、ステキなパーティ、始めましょう?」

 

 その言葉を合図に、双方とも初期位置に向かう。

 

 

 しかしいいとこ持ってったなぁ夕立。いや良いけど。

 




ものぐさな望月を天才ポジにしたかったんや……!

あんま喋らなかった子はバトルでグリグリ動かす予定。

因みに極めて実弾に近い演習弾なので轟沈はしませんがガチな中大破します。
あと常識的な戦闘は期待しないように。

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