過去編であり青葉編です。
過去編が長いと怒られてしまいそうですがすみません。
結構長いです。
〈1年前〉
ども、青葉です!
新しい司令官が着任して約一月が経ちました。今日まで秘書艦をやった艦娘に色々聞いてみましたが、どうやら相当な捻くれ者なようです。
曰く、
会話が発生しなくて辛い。(吹雪談)
新しいご主人様根に持つタイプですよ!(漣談)
案外悪い人じゃないかも(秋津洲談)
腹立つ奴よ。(曙談)
まだ良くわかりません。馬鹿ではないと思います。(加賀談)
意外と胸板がっしりしてたのね!(伊19談)
有り難いことに書類仕事は早いです。(能代談)
仕事はできるようです。ですが何故か警戒されているような……。(大和談)
などなど。証言から分かるのは、最低限のコミュニケーションだけ取る気でいる、ということしょうか? そうだったらなんだか寂しいですが……。ただ19さん秋津洲さんのように押せ押せな艦娘からの評価は悪くないので、強く迫られると拒めないタイプなのかもしれません。強く押さないと反応してくれないとか、非常ベルか何かですかね?
それはともかく。
青葉にもついにこの日がやってきたわけですよ。そう、青葉が秘書艦の日です! 今日は秘書艦の立場を最大限に活用して新しい司令官のことを根掘り葉掘り、隅から隅まで徹底的に、調べ尽くしてみせますよぉ! そして不安がる艦娘達を安心させるのが青葉のミッションです(何かあれば送り返す準備も必要ですし)。
というわけで現在朝四時、青葉は司令官の部屋の前に居ます。
寝起きドッキリです!
嘘です!
今から家捜しを行うのですから起きてもらっては困りますよねぇ。
「では、お邪魔しまぁす……」
音を立てないよう細心の注意を払いながらドアを開きます。あらかじめマスターキーを用意してありましたが……不用心ですねぇ、鍵はかかっていませんでした。
司令官の住む部屋は普通のトイレお風呂付きの1Kです。玄関を通り、まだ歯ブラシセットくらいしか置いてないキッチンを抜けると、司令官が部屋の中央に布団を敷いて寝ているのがわかります。でも今用があるのは司令官本人ではありません。いえ、一応寝顔をパシャリ。……ふむ、綺麗なお顔をしてますね。前に見た時はもっとこう、どんよりしていた気がするんですが……とりあえずパシャパシャパシャと。
……おっとと家捜し家捜し! と言っても、物が無いですからねー。部屋に入った瞬間から分かっていたことですが、ダンボールが二つしかありません。一応先週あたりに本土から取り寄せた私物が届いたはずなんですが。まぁとりあえず中身を確認してみましょう。
えー、一つめのダンボールは……服と、本ですかね。服に関しては基本的には軍服で過ごすので持ってきたのは下着と部屋着だけのようです。それから本は、……これはたしかライトノベルと呼ばれる物でしたっけ。可愛らしい女の子が表紙で、それが数冊。ウチには在籍していませんが秋雲さんあたりと話が合いそうですねぇ。
あとは、写真立てが2つ入っていました。一つは学校の制服姿と思われる司令官と、可愛らしい女の子のツーショット。目以外よく似ているので妹さんですかね? そしてもう一つは、――おやおや、こちらも女の子との写真です。しかもこっちは学び舎と思しき建物の中で女の子2人に囲まれるよう写っています! 意外とおモテになったのでしょうか? 司令官も隅に置けませんねぇ! 女の子は2人とも幸せそうな表情をしています。司令官も恥ずかしそうですが満更ではなさそうですし。どんなご関係なん――
はっ!?
ここで青葉に電流が走ります。
もしやこの女性のうちどちらかが――
――司令官の妻なのでは!?
なるほどそれなら確かに、『艦娘に手を出さない』の要素に信憑性が生まれます!
……いやいや少し待ちましょう流石に早計ですよ青葉。もしかしたら――
――2人とも妻かもしれませんよ!!?
やーん司令官のスケコマシ♪ その魅力で艦娘も手篭めにする気ですね!?
……なんてまぁ、それは無いでしょうが。もしそんな人ならもっと上手く自己紹介できるはずです(失礼)! というか艦娘に手を出すタイプならもっとコミュニケーションを取るでしょう。前に送り返したアレも話術だけは巧みでした。それと比べるのは失礼ですがこの司令官、今日までにまともに会話したことがあるの秘書艦になった艦娘だけですよ!? 流石にもうちょっと絡みましょうよ!
さて、邪推はこの辺にしておいて(手遅れ)、他には何がありますかねー……。
ん、これは、湯呑みですかね。なんとも独特なデザインのパンダが描かれた湯呑みです。まぁこれは土産物か何かでしょう。
ふむ、今のでもう一箱目を見終わってしまいました。次の箱に移ります!
一箱目をどけて、下にある二箱目を開けた青葉ですが、絶句です。マックスコーヒーと印刷された段ボールが3箱、中型段ボールの中にぴっちりと収まっていました。……あの、生活用品は? というかどんだけこの飲み物が好きなんですか! もう半分くらい空なんですけど!? そんなに美味しいものかと一本手に取り内容物を確認します。ええと原材料、加糖練乳、砂糖、コーヒー……。これコーヒーじゃなくてコーヒー味の練乳ですね。これをこのペースで飲んでたら病気になりますよ? 司令官が起きたら注意しなくては。艦娘は大体甘党ですが司令官も大概のようです。
まぁこの乳飲料の話は置いておきましょう。
問題は早くも見る所が無くなってしまったということです。予定ではもっとこう、『うわぁ、何ですかこのえっちぃ本は!?』とか、『これは日記ですね。青葉はいい子なので読んだりしませんよ!(ペラペラ)』とか、『ま、まさか司令官にこんな秘密が……!』みたいな展開を期待していたんですが。これでは紙面の一画しか埋まらないです!
仕方がないので起きるのを待つとしますかねぇ。青葉は司令官の布団のそばに座ります。この人の実態は、お仕事をしつつ確認していくしかなさそうです。青葉はまだ、おっきいネタを諦めませんよ!
…………。
………………。
早く来すぎたせいで起きるまで暇ですね。
[約2時間後]
時刻はそろそろ午前6時になろうかというところ。青葉は脳内で新聞のネタをまとめながら司令官が起きるのを待っています。そろそろ起きるんじゃないでしょうか? 枕元に置いてある目覚まし時計は午前6時にセットしてあり、鳴るまでもはや秒読みです。
<ピピピピピピ!!!!>
<ガッ>
鳴った瞬間にタオルケットから腕が現れ、素早くアラームを止めました。そしてそのまま目覚まし時計を掴み、寝ぼけ眼で時間を確認する司令官。
「…………」
そして再び目覚ましをセットし、二度寝に、ってちょいちゃいちょい!!
「司令官!? 朝です! おはようございます!」
青葉に気づきもせず二度寝なんかさせません!
「………………あぁ?」
思わず声を上げた青葉の方にのっそりと顔を向ける司令官。まだ寝ぼけているのか動作が緩慢です。しかし少しずつその意識は覚醒し、現状を認識してきたようです。
「……あー、…………え誰?」
悲報です、青葉知られてませんでした。
確かにマイナーな艦ではありますが……。
いえ落ち込んでる場合じゃありません。まずは自己紹介です。
「重巡洋艦、青葉です。今日は青葉が秘書艦なので、起こしにきましたよ!」
「あぁどうも、こりゃご丁寧に。……いや待てそうじゃ無い。なんで部屋に……鍵は?」
戸惑うようにそう聞いてくる司令官ですが、それに関して青葉に非はありません。
「え? 開いてましたよ?」
しれっと青葉がそう言うと愕然とする司令官。
まぁよしんば開いてなくても開けて入りましたがそれはそれ、黙っておきます。
「うわマジか、やらかしたなー……部屋とか漁ってないだろうな?」
ギックゥ!?
「あささあさあさっ、漁ってませんよ!? 司令官に2人の妻が居るとか、見てませんから!!」
「滅茶苦茶漁ってる奴の反応じゃねぇか。って妻!? 何の話だ!?」
「しらばっくれても無駄ですよ! 2人の女性に囲まれてる写真があったじゃないですか!」
こうなったらもう堂々としてやりますよ!
「こいつ開き直りやがったな……。てかあの写真か。あいつらはそんなんじゃない。ただの、その、なんだ、と、友達だ」
ただ友達と言うだけで何をそんなに照れながら吃っているのでしょう。怪しいです!
「ぼっちじゃないじゃないですか」
青葉がそう突っ込むと、司令官は何故か居心地が悪そうにしながら話します。
「あー、まぁ、な。あいつらは高校の頃に出来た友達でな。高校卒業後の軍学校じゃ、やっぱぼっちだったぞ。今じゃこんなとこ住んでるからあいつらとほとんど連絡も取れねーし……。ってなんでこんな事初対面のお前に話してんだ俺」
むむ、いい感じに話を聞けそうだったのに我に返ってしまいました。
「いえいえ、お気になさらず続きをどうぞ!」
青葉が続きを促すも、司令官はもう話す気は無いようで。
「いや続けねーよ。ほら、とにかく帰った帰った。仕事の時間には間に合わせるから、二度寝させろ」
司令官なかなか手強いです。というか二度寝させろって……。
ですが事前情報で押しに弱いのは知っています。
青葉、押します!
「まーまー! せっかく早く起きたんですから、間宮食堂で朝ごはんでも食べましょうよ! 今ならちょうど皆居ますから!」
「いやそれ聞いて行く気無くなったんだけど……。俺飯は静かに食べたいタイプだから」
ありゃ、不知火さんや早霜さんタイプでしたかー。
では方向転換です。
「むむむ、そうですか。じゃあ鳳翔さんのところはどうでしょう? 夜居酒屋なのはご存知の通りですが、実は朝もやってるんですよ。間宮券が使えないので朝は空いてますし、この時間でも軽い食事くらいなら用意してくれると思います。多分」
「ほーん(居酒屋なんてあったのか)。まぁ行かないけど」
くぅこのぼっち! でも青葉諦めません!
「なんでですか! せっかく青葉が秘書艦なんですからお話しましょうよぉ!」
もうヤケです。司令官の腕を掴んでぶんぶん振ります。頷くまで離しません!
「わ、わかった、わかった行くから離れてくれ。頼むから」
よわっ!
押しに弱すぎません!?
もう少し粘ると思っていたのに拍子抜けです。いえ押しに弱いというかボディタッチに弱いのかもしれませんね。それなら19さんから高評価なのも頷けます。
「本当ですか? 良かったです! じゃあ早速向かいましょうか。おっと、司令官はまだパジャマでしたね! 部屋の前でお待ちしてますので、準備してきてくださいね! 二度寝しちゃ嫌ですよ?」
司令官の気が変わらない内にそそくさと部屋を出ます。
背後から「なんなんだあいつ……」と聞こえてきましたがスルーですよ。
さて、これで当初の予定が達成出来そうです。
鳳翔さんのお店でご飯を食べながら、尋もゲフンゲフン、質問コーナーです。
最低でもこれからここの艦娘をどうするかぐらいは聞き出しますよ!
それが青葉の、今回のお仕事ですから。
青葉編は後2、3話あります。
八幡と青葉が無駄話ばっかするんです……
あ、次はすぐ上げますよー。