捻くれ者と強すぎる艦娘。   作:ラバラペイン

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遅くなりましたぁ!
続きをどうぞ。


青葉のーと そのすりー

 いやー、流石は鳳翔さん。食後の満足度が凄まじいです。

 

「俺が今まで食ってたスクランブルエッグはただの崩れた卵焼きだった……。絶対鳳翔さん艦娘じゃないでしょ、料理マンガのラスボス張れるよ……」

 

 司令官も鳳翔さんの腕前に戦慄しているご様子。

 

「じゃあお腹もくちくなった所で、インタビューの続きと参りましょうか!」

 

 青葉が切り出すと、司令官はげんなりとした顔を隠そうともしません。

 

「あー、まだ続いてたのかそれ……。もう今度にしようぜ?」

 

 いやそこまで嫌ですかね!? 今度とか言って、絶対無かったことにする気満々なやつですよこれ!

 

「まだも何も一つしか質問してませんよ! そんなこと言うなら今夜食堂で、他の艦娘に囲まれた状態でやりますか?」

 

 仕方ないので脅し文句を――こんなのが脅しというのもおかしな話ですが――チラつかせます。静かなのが好きな司令官にはお辛いでしょう。

 

「さぁ何が聞きたいんだ? 答えられる範囲で答えるぞ!」

 

 ニッと爽やかにおぞましい笑顔を浮かべながら促す司令官。……司令官は作り笑顔が苦手、と。

 

「……その答えを期待していたとはいえどんだけコミュニケーション苦手なんですか。もっと色んな艦娘とお話しても良いのでは?」

 

 思わずジトっとした視線を送ってしまいますが司令官は気にした風もありません。

 

「それが出来たらぼっちなんてやってないんだよ」

 

 むしろ誇らしげにそんなことを宣うのです。青葉とは普通に受け答え出来てるので大丈夫だと思うんですがねー。ともあれ答える体勢に入ったっぽいので、質問に入ります。

 

「ではそうですね、二つ目の質問はまだ軽めで行きましょうか。――司令官は艦娘をその目で見て、どう思いました?」

 

 少し問いがふんわりし過ぎたかもしれません。案の定質問された司令官はやや困った様な表情になり、

 

「え、これ軽め? 重くない……? ――どう思うも何も、まだ艦娘自体何かよくわかってないんだがな。大体たった一月で何が分かるんだって話だ。聞くのが半年は早い。だからこの質問はパス」

 

 いきなり出鼻をくじいてきました。

 

「そ、そんなぁ! 今の印象で良いですからぁ!」

 

 流石にこれは答えて欲しいので青葉は必死にお願いします。

 

「だからその印象がすぐ変わるかもって言って…………わかった、わかった言うからそんな目で見んなよ」

 

 青葉渾身の涙目は通用したようで何よりです。勿論演技ですよ? 決してさっきから話の腰を折られすぎているせいで実は心が挫けかけてたとかではないです。ないですって!

 司令官はしゃあねぇなと言いながらテーブルの上で両手を組み、頭の中を整理する様に目を瞑りました。青葉も話しかけたりせず、考えが纏まるのを待ちます。

 1分か、2分くらいでしょうか。少しの沈黙が続いた後、彼は口を開きました。

 

「……艦娘、艦娘ねぇ。俺は他所にいる普通の艦娘をまだ直接見たことが無いから、あくまでここにいる艦娘だけの印象になるが」

 

「構いません」

 

 むしろそれが聞きたいのです。一月とはいえ実際に艦娘を、それもココの艦娘を見た感想が。

 続きを促すと、司令官は青葉の目を見て言いました。

 

「バカみたいに真っ直ぐで気持ち悪いくらいに純粋な奴ら、だな」

 

 司令官の答えは意外にも内面についてのものでした。

 

「き、気持ち悪いですか……」

 

 青葉が思わずそう溢すと慌てたように、

 

「あぁいやすまん、言葉が悪かったな。……なんつーの? 人間じゃあり得ないくらい素直なんだよ。お前ら艦娘は」

 

 口下手なのでしょう。視線をあちらこちらに移しつつも、言葉を選びながら続けていきます。

 

「それは思ったことを正直に口にするって意味の素直じゃなくて……、お前らの互いの対等さ、っつーのかね。誰も無理をしていない。穿たず、素直に信頼し合っているように見える。それが俺にはその、なんだ……本物に見えた」

 

 今のところはな、とあくまで今後印象が変わる可能性を念頭に置かせる司令官。

 本物、ですか。口調からそれが司令官にとって特別な意味を持つことが感じ取れます。青葉達艦娘が、司令官の言う本物の関係を築けているように見えたなら、それはとても嬉しいことです。

 とはいえたった一月でそこまで分かるものですか……!?

 

「よ、よく見てますねぇ。名前は覚えていない様ですが」

 

 青葉が動揺を隠す様にチクリと皮肉を刺せば、

 

「見てるだけだからな。むしろそれしかしてないまである。なんならそこら辺は遠征の編成を色々変えて帰って来た時の反応を見たりしてたし。どんな組み合わせでも仲がいいのは本当に驚いたわ」

 

 さらりと流しつつ逆に信じられない物を見るような目で見られてしまいました。

 

「艦娘からしたら普通なんですが……」

 

 皆個性強いですが悪い子は居ませんし。

 

「ま、だから凄いって話なんだがな。人間じゃまず無理だぞ。ここまでの人数がいて、性格や性能で明確に差があって、しかも全員女? そんなん普通派閥戦争起こるわ」

 

 淀んだ目を更にどんよりさせながら司令官は吐き捨てらように言います。

 

「そ、それは流石に大袈裟なのでは……。それに、司令官が見落としているだけで、もしかしたら性格が悪いことを隠しているだけかもしれませんよ?」

 

「あー、それは無いな」

 

 まさかの断言に少し嬉しくなります。でも何故そう思ったのでしょうか。

 

「どうして断言出来るんですか?」

 

 何かそう思わせるエピソードでもあったのでしょうか。

 

「そりゃ簡単だ。俺が一月経った今、まだ提督をやれているからだ」

 

 んん?

 

「んん? どういうことでしょう」

 

 よくわからないので思ったままの声が出てしまいます。

 

「俺みたいな目をしてる奴は、キモがられなかったとしても相当警戒はされていたはずだ。そもそも俺の前にもたった一月で4回提督が入れ替わってるらしいし、ここの艦娘は情報収集において極めて優秀なことがわかる。俺程度の情報がどこまで手に入れられるかはわからんが、それでももし性格が悪かったり悪意があったなら、今頃俺は弱みで脅されたり提督をクビになってるだろうな」

 

 語られた理由は予想外にネガティブなものでした!

 ……実際送り返した元司令官ズは、大淀さんが平均2日で弱みを握っていましたが、それはさて置き。

 

「司令官には聞かれて困る弱みがあるんですか?」

 

 無ければその理論は破綻しているのですが……。

 

「いやそれ本人に聞いちゃうのかよ……。まぁ犯罪に手を出したことはないしヤバい弱みは無い、と思う。ただ何が弱みになるかなんて本人は気付けなかったりするもんだし、枕に顔を埋めて叫びたくなるような恥ずかしい黒歴史ならあるし……」

 

 確かに本人の気付かない弱みというのはありますね。が、青葉はそれよりも面白そうなネタに食いつきました。

 

「黒歴史? ほほぅそれは一体どんな歴史でしょうか!?」

 

 思わず訊ねた青葉の目が、興味津々に輝いていることが自分でも分かります。恥ずかしい黒歴史、青葉気になります!

 

「いや言わねぇよ!? 恥ずかしいっつってんじゃん」

 

 にべもないです。

 しかし司令官、なかなか鋭いですね。

 確かに大淀さん(諜報の鬼)の功績によって、司令官の情報はおよそ入手してあります。が、司令官がつい最近(2年前)まで一般人だった為大した情報は無かったらしく、個人の動向については遡っても中学が限界だったそうです。故に手元にあるのは、少し調べれば出てくる程度の個人情報のみでした。

 

「まぁ明確な弱みが無いというのはいいことです。見かけによらず真っさらで汚点の無い司令官ということですからね。願わくば、このまま清い司令官でいて下さいね!」

 

「因みに恩師曰く、俺はリスクリターンの計算に長けた小悪党だそうだ」

 

「なんで今それを言いました!?」

 

 小悪党って! そのまま清い司令官の印象で居させて欲しかったです!

 

「バッカお前、俺が清いとか真っさらで汚点が無いとか、流石に早計すぎるだろ。まだ提督として何もしてないんだから」

 

「えー褒めてるんですよ?」

 

 弱みや汚点が無いことがどれだけ軍部でメリットがあるか理解していないのでしょうか。たった一月でも、汚点がある人はあるんですから。

 

「見当違いの方向に褒められてもな。それならこの腐った目に言及された方が安心できるまである。これは俺のアイデンティティだからな」

 

「司令官めんどくさいですね」

 

 ドMなんでしょうか。

 

「ほっとけ、これが俺だ」

 

 ふぅむ、どうも司令官は自分を低く見て貰いたがるきらいがあるようです。自虐を言う時は妙に饒舌になりますし。

 そういえば司令官は大将にスカウトされたのでしたっけ。だから精神が軍部に染まっていないのでしょう。青葉も始めて見るタイプの人間です。送り返した3人とも、前司令官(元帥)とも違います。気難しいと言うより、捻くれていますね。この性格だと、人によって合う合わないが激しそうです。

 

 閑話休題。

 

「えぇと話を戻しますと、司令官から見て艦娘に悪い娘はいないと思って頂けた、ということで良いのでしょうか?」

 

「あくまで現状はだぞ、現状は。まだ一ヶ月だ、秘書艦が日替わりとはいえ半分も見れてないだろ。ってか全部で何人居たっけ?」

 

「72人ですよー」

 

 大淀さんを除く。

 

「えっ、そんなにいたの? まだ見たことない奴もざらにいそうだな……。まぁとにかく、今後見る艦娘しだいだな」

 

 そうは言いつつも、もうそれほど警戒しているようには見えません

 

「ご安心下さい、悪い娘はいませんから! 濃い子は居ますが……」

 

 19さんとか。漣さんとか。挙げればキリがありません。

 

「あぁ、まぁ、うん。それは今まさに体感してるわ……」

 

 …………ん?

 

「今、……ってえぇっ!? 青葉は濃くないですよぅ!」

 

 失礼な!

 

「またまたぁ」

 

「いやそんなご冗談をみたいに言わないで欲しいです! ………………え、うそ、ホントですか?」

 

「自覚無かったのか……。安心しろ、俺も存在感は薄いがキャラは濃いらしいから」

 

「フォローがフォローの体を成してないですよ!?」

 

 何に安心すれば良いんですか!

 

「いきなり朝枕元に現れた挙句居酒屋に連れ込んで記者紛いの質問攻めをしといてフォローも何もあるかよ。しかもほぼ初対面でよ」

 

 ガガーン!!

 そ、そう並べ立てられると言い訳出来ないです。

 

「あうっ、それは…………そんなっ、青葉が濃い側の艦娘だったなんて……」

 

 周囲が濃い中、自分はまともだと思っていた青葉は愕然として頭を抱えます。

 

「まぁ何だ、周りが超ギタしか居なかったらギタギタの自分がまともだと思っても仕方ないしな、元気だせよ。冷めたコーヒーいるか?」

 

 司令官がわけの分からないことを言いながらスッと手元のコーヒーを渡してきます。

 

「それ司令官の飲みかけじゃないですかぁ!」

 

 というか殆ど残ってますが!

 

「いやほら、苦くて」

 

「砂糖三つも入れたのに!?」

 

 舌大丈夫なんですかこの人!

 

「だから砂糖5つは欲しかったんだが……」

 

「そんなに入れたら溶けきらずにジャリジャリしそうです……」

 

「その最後のジャリジャリを飲むのが甘党のジャスティスだろ」

 

 だろ、と言われても知りませんが。

 

「もういいです砂糖でも食べてて下さいよ」

 

「辛辣に諦められた……」

 

 全く、虫歯になっても知りませんからね? 

 




青葉編長いよ!
ヘビィな質問どこいった!

作者もそう思います。
すまんな、青葉編はもうちっとだけ続くんじゃ

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