ーー作戦室ーー
雑魚狩りの作戦会議のはずが、いつの間にか海域拡大のブリーフィングになっていた。どうせそこまで行くならついでに海域確保してもよくない? 的なノリらしい。ぶっちゃけ会議に俺要らないけど、何故か参加を強いられるのである。
「以上が、今作戦の概要です。提督、何か質問はありますか?」
そう聞いてきたのは日本を代表する戦艦と言っても過言では無い、大和。あまりこっちを見ないで頂きたい。美人すぎて緊張する。駆逐艦は相手しやすいんだけどなぁ。
「いや、特に無い。つーか毎度思うが元帥の教えすげぇな。無駄が全く無いというか、洗練されてるのが分かる。ほとんど素人の俺がそう思えるのはすげぇことなんだろうな」
彼女らが要望に『艦娘のやり方に口を出さない』としたのは、前提督である元帥の教えに誇りを持っていたからだった。最初こそ「口出しするなって作戦とかどうすんだ」と思っていたが、蓋を開けてみれば要らぬ心配だったわけだ。そして実際その教えは実践的で無駄が無い。艦娘自体の能力が高いのも相まって、深海棲艦が頑張って頑張って漸く小破が一人二人出るくらいである。ここ最前線なのに。
あまりにサクっと勝ってくる、いや狩ってくるものだから他の鎮守府では苦戦を強いられるらしい姫級、鬼級の危険度が未だ実感出来ていない。
「ふんっ、凄い凄いばっか言ってても学ばなきゃ意味ないのよ。そこんとこ分かってんのクソ提督?」
やはりつっかかって来たのは曙だ。だが、
「にやけてんの隠せてねぇぞぼのたん」
元帥の教えを褒められて嬉しいのが隠せていない。ほっぺたが緩々である。隠れお爺ちゃんっ子だったんだろうか。
「ぼっ、ぼのたん言うなこのっ、クソ提督!!」
そう言いながら足を蹴ってくる。痛い痛い。艤装を付けてないから子供の脚力だけどな。逆に艤装つけてたら俺の足は消し飛んでる。そんなことしてたら大和に注意された。
「はいはいブリーフィング中ですよ。それで提督、何かありませんか? 口を出さない様お願いはしましたが疑問点なんかは別に構いませんよ? むしろ別の視点からも意見がある方が視野が広がりますから」
そう言われてもな。俺もまだ戦術は勉強中の身だし、今回の作戦に問題は見当たらない。だが……。
「そうだな、強いて言うなら疲れとか大丈夫なのか? ここまで連戦しているが」
実はこの海域を広げる侵攻は、4連戦目になる。それぞれの作戦の間に休みは取って居るし、片道に何日もかかるのが海の世界だから毎日戦闘尽くしという訳ではないが、それでもいささかハイペース過ぎる気もする。疲れとか感じさせないから実際は分からないが。
「ふむ。まだまだ行ける、余裕だ、と言いたいところだがこれは戦艦基準だしな。駆逐艦辺りにはそろそろ休みを与えても良いかもしれない。疲労は見えない所に溜まるものだしな」
そう言ったのは大和と同じく日本を代表する戦艦の一隻、長門。正直あまり話したことがないからレスポンスが長門から来て少し焦った。
「そこの所、駆逐艦としてはどうだ? 吹雪」
「え、えぇっ!? 私ですか!? そ、そうですね、そういえば皆少し疲れてるように見えた、かもしれないです」
いきなり話を振られてテンパったのは、えーと、特型駆逐艦の吹雪。特型はやばい。まだほとんど見分けがつかない。
「そうか。では海域確保は少し遅らせても良いかもしれないな。一応前回までの侵攻で粗方この辺りは掃除出来たはずだろう?」
そう大和に確認する長門。
「えぇ、元々次の作戦は可能であれば、と言うものですからね。ここまで一気に進撃出来ただけでも充分な成果かと。
ーーでは海域確保は行わず、当初の予定通り発見された敵艦隊の殲滅のみを行い、すぐ帰投するということでよろしいでしょうか?」
『異議なし!』
あ、そうだ。
「さっき言ってた雑魚狩りは川内辺りに任せたらどうだ? いい加減夜がうるさい。夜戦して良いって言えば飛びつくだろ」
川内型軽巡洋艦、川内。通称夜戦バカと言われる程の夜戦好きである。夜戦が長いこと出来ないと夜中騒ぐのだ。子どもかっ。
あ、ところでこれって口出ししたことになるのだろうか。
『異議なし!!!』
……満場一致だから大丈夫か。
最前線の維持はこいつらだけでなんとかなるレベル。
しかし一定以上進むと敵の湧きがやばくなり進みにくい模様。