捻くれ者と強すぎる艦娘。   作:ラバラペイン

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まだ説明回です。


提督になる時3

 大将は一呼吸置いてから再び話し始める。

 

「先月の話だ。年齢的に厳しくなっていた前元帥が退役してな。色々引き継ぎを行ってから田舎に隠居した。その引き継いだ物の中には当然艦娘も含まれていた訳だが、そいつらが少々厄介でな……」

 

「厄介?」

 

 なんだろう。滅茶苦茶性格が悪いとかだろうか。いやまぁ艦娘が実際どういうものかまだよく分かっていないが。

 

「彼女達は長年優秀な元帥に付き従がっていたのもあってか、指示なしでも凄まじいまでの連携力と指揮力が備わっていてな。生半可な提督の指示には従うことは出来ないと言い出したのさ」

 

「え、それってありなんですか?」

 

 ストライキみたいなもんだろそれ。

 

「普通なら当然無しだ。だが先も言ったが、彼女達は指揮力連携力、更に練度が凄まじい。そんなことを言い出しても文句が言えない実積があるのさ。 彼女達がもし居なければ日本が滅んでいるかもしれないくらいにはな」

 

 成る程、そんなに優秀ならクビにするには惜しいと思うのもわかる。

 

「そこまで凄い奴らなら、別に提督居なくてもいいんじゃないですか?」

 

 そして出来ればこの話は無かったことに。艦娘の提督になるのは契約だから仕方ないが、元帥の引き継ぎは重すぎると思うの。

 

「それがそうもいかん。妖精さん曰く『提督』が居ないと徐々に弱体化していくらしい」

 

 私が直接聞いた訳じゃないがな、と言いながら大将は苦笑した。

 どうやら艦娘は戦う以外も色々と人間離れしているらしい。

 

「んじゃあ普通に優秀な提督を当てれば……、いやそれは普通試しますよね。その上で何か問題でもあったんですか?」

 

「あぁ。当時の海軍には新たに提督に出来る人材は4人居た」

 

 少なっ。

 

「その中の一人が任命されたんだが……資料を見ればわかる通り、艦娘も見た目は年若い美少女だろう? 提督の権限を利用して無理矢理襲おうとしたらしい」

 

 何やってんだそいつ馬鹿なのか……。

 

「うわぁ……。でも襲おうとした、ってことは未然に防げたんですよね?」

 

「その通りだ。愚かな提督は襲おうとした瞬間の映像データと共に定期便で簀巻き状態で送り返された。そいつは今や牢屋の中だ。これがまず一人目」

 

 初犯なのに映像データまで残されるって、艦娘優秀すぎない?

 

「……まず一人目、ってことはまさか……」

 

「ご想像の通り、4人中3人が外れだったよ。同じ軍人として情けないがな。あぁ、全員が全員艦娘に襲いかかった訳じゃないぞ? 2人目は艦娘を使って日本を滅茶苦茶にしようとしていたらしいし、3人目は軍を力で操ろうとしていた。どちらもあの艦娘達が素直に言うことを聞くなら不可能じゃない。まぁ、両方艦娘によって事前に察知され、阻止されたがな」

 

 艦娘が優秀すぎて怖い。

 

「4人目は?」

 

「あぁ、4人目は別に悪いことはしていない。ただ艦娘の提示する艦隊指揮の作戦が完璧すぎて、自信を無くしてしまってな。自分はこの艦隊の提督に相応しくないと言って辞退してしまった。今は艦隊指揮の猛勉強中だとさ」

 

 本来自分の仕事である艦隊指揮を、艦娘が自分より完璧にこなしてしまったら、自信も無くすか。

 

「短期間で何度も提督を入れ替えさせられた艦娘側も良い加減うんざりしたのか、大本営側に要望を出した。これこれこういう人が提督だと望ましい、ってな」

 

 まぁ、流石にそうなるよな。襲われかけた艦娘からしたらトラウマもんだろうし。

 

「その要望ってのが、『艦娘に手を出すような人間じゃない』『艦娘のやり方に口を出さない』『艦娘を他者に利用させない』。この三つを守れる人間を要求してきた訳だ。大本営側も流石にクズを3人も送り出した手前文句が言えなくてな。後は軍側から『野心がないこと』という条件を追加して、提督探しが始まった訳だ」

 

 軍を操ろうとしていた提督が怖かったんですねわかります。

 

「はぁ、成る程……。で、それがなんで俺が提督になるなんて話に繋がるんです?」

 

「簡単だ。妖精が見える人間は居ても、さっき上げた4つの項目を満たせる人間がいなかったのさ。特に野心が無いの部分」

 

「まぁ自分で努力して軍人になったなら当然出世欲くらいはあるでしょうしね」

 

「そういうことだ。その点、君には野心などないだろう? 給料については私が保証する約束だし、そもそも面倒なことは嫌いな質なはずだ」

 

 確かに嫌いだ。嫌いすぎて働きたく無いほどに。

 

「いやほら、俺も男ですから、何か間違いを起こしてしまうかもしれませんよ?」

 

 いやしないけど。無駄だとわかってはいるが抵抗せずにはいられない。しかし俺の抵抗は一刀両断された。

 

「それは無いな」

 

「何故断言?!」

 

 いやほんとなんで!?

 余りにズバッと言うものだから思わず大声を出してしまった俺に対し大将は致命の一撃を打ち込んだ。

 

「何故も何も君はヘタレだろう」

 

「ぐっ……」

 

「なんだったら仮に彼女が出来ても3カ月は手を出せなさそうだ」

 

「ぐはっ……モウヤメテクダサイ」

 

 俺、轟沈である。

 




次話あたりで孤島に送られます。多分。

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