ネフィリムさん 作:モサモサ
○月○日
前回日記を書いてから二年近く期間が開いているが、久々に日記を書く。
前回書いてからしばらくの間、特に特筆すべき事がなかったために後回しにしていたが、いつの間にかこの日記の存在自体を忘れ去っていた。しかし今日になってこの日記の事をふと思い出し、久しぶりに書き始める事にした。
現在の俺は中学年に進学しており、高校受験を間近に控えていている。そのため、いつもはうるさいネッさんも最近は割りと静かだ。
美味い飯は母が作ってくれるし、最近になってようやくネッさんに慣れてきた父が餌付け感覚で菓子を買って来てネッさんに与えている。でも味のある食事は結局は俺の体限定だから、頻繁に買って来るのはちょっと勘弁して欲しい。晩飯が食えん。
○月※日
ここのところ、ネッさんがパソコンを一心不乱に見つめている。初めはグルメサイトでも見ているのかと思ったが、どうもそうではない。
何やら変化し続けるグラフような物を眺め続け、時折思い出したようにパソコンを動かす。話しかけても返事すらろくに帰って来ず、昼も夜も関係なく、ひたすらこの繰り返しである。
○月%日
ネッさんのやっている事について、父に相談してみた所、何やら慌てた様子でネッさんの所へ行ってしまった。その後二人は色々と話し込んでいたようだか、肝心の内容については分からないままだ。確か、株がどうとか言ってたが、農業でも始めるのだろうか?
○月〒日
ネッさんの貯金が凄い事になってた。この間父と話していた株とかいうのを使って稼いだらしく、これで全国食べ歩き旅行に行こうと言われた。受験勉強の息抜きには丁度いいかもしれないな。
今はもう夏休みはもう終わっているが、時期に冬休みになる。その時にでも行くとしよう。
○月‡日
今日の俺は凄くツイている!何とデパートの福引きでアメリカ旅行のチケットを手に入れたのだ!ただし一人用だったが。
時期的にも冬休み中の期間だから、問題無く行ける。ここ最近の学校の成績も良く、両親も行って良いと許可してくれた。バレなきゃ問題無いし、ネッさんも誘って行くとしよう。
○月「」日
今日から旅行でアメリカに行く。食事なんかの代金はネッさんが持ってくれるそうなので、思う存分遊びつくそう。ネッさんではないが、今からご当地グルメが楽しみである。
○月()日
帰りたい。
◇◇◇
アメリカ某所にある聖遺物研究所。ここでは現在、巨大な白い怪物が暴れまわっていた。
「■■■■ーーーッッッ!!」
この怪物の名は、アルビノ・ネフィリム。完全聖遺物『ネフィリム』を、正規の手段を用いずに起動した結果、暴走した姿である。
そんな怪物の前に、一人の少女が立ち塞がる。彼女はセレナ・カデンツァヴナ・イヴ。この研究所の被験者の一人であり、聖遺物『アガートラーム』のシンフォギア装者だ。彼女は暴走するアルビノ・ネフィリムを止めるため、命を捨てる覚悟でここに立っていた。
「Gatrandis babel ziggurat edenal Emust──きゃあっ!?」
突如として施設全体が激しく揺れ、同時に実験場の壁が轟音と共に崩れ去った事で、セレナは絶唱を途中で止めざるを得なくなる。
「見ィィつけたァッ!!」
壁をぶち抜いて現れたのは、黒の半袖にジーンズというラフな格好の少年。しかしその顔に被った虫の様なお面が、少年の不審者感を際立てている。少年は室内へ侵入すると同時にアルビノ・ネフィリムへ飛び蹴りをかまし、着地と同時にファイティングポーズを取った。
「ちょっ、ネッさぁぁぁんッ!それ俺の体ぁッ!!」
続いて壁の穴から現れたのは、丁度目の前に居るアルビノ・ネフィリムを大型犬程に小さくしたような、黒いネフィリム。そして黒いネフィリムが入って来るや否や、先程まで暴走していたアルビノ・ネフィリムは、明確な意思を持って黒いネフィリムを攻撃し始めた。
「うおっ!いきなり何しやがる!?」
黒いネフィリムがアルビノ・ネフィリムの攻撃を避けると、少年が隙だらけのアルビノ・ネフィリムを後ろから蹴り飛ばした。
「おう相棒。ようやく来たか」
「『ようやく来たか』、じゃねえよ!いい加減俺の体返しやがれ!お前の体と違って脆いの!扱いには気を付けんかバッキャロー!」
「分かった分かった。そう急くなっと!」
アルビノ・ネフィリムの腕による凪ぎ払いを、かがんで回避する二人。しかし回避行動がワンテンポ遅れた黒いネフィリムの頭を僅かに擦っていった。
「危ねえッ!今擦ったぞ!大体何だよこの白くて巨大なネッさんは!?さっきから俺ばっか狙ってんだけど!」
「いつぞや話した俺の同胞だ!完全体になるために、俺の体を狙っているんだろう!」
「傍迷惑!てかさっさと体返せぇ!」
などというやり取りを繰り広げながらも、アルビノ・ネフィリムの攻撃を尽く回避し、カウンターまで食らわせていく二人。しかし少年の方はともかくとして、黒いネフィリムの方は動きがどこか拙い部分が多く、見ていて危なっかしい。現に、少年は上手く躱すことができた一撃を、黒いネフィリムは正面から食らってしまった。
「へぶっ!」
「相棒!?」
黒いネフィリムを吹っ飛ばしたアルビノ・ネフィリムは、邪魔だとばかりに今度は少年を攻撃しようとする。
即座に回避行動を取ろうとする少年だったが、すぐ後ろに居たセレナの存在に気付き、動きを止める。
「ええいくそっ!」
「きゃっ!」
僅かな逡巡の後に少年はセレナを抱えると、大急ぎで部屋の端へと跳んだ。アルビノ・ネフィリムの拳が二人が先程まで居た場所を穿ったのは、その直後だった。
少年は壁際でセレナを下ろすと、ダメージから復活した黒いネフィリムと並び立った。
「何でこんな所に女の子が居るんだよ。保護者どこ行った!?」
「上で見てるあいつらじゃないのか?」
そう言って少年が指差したのは、上の階からガラス越しに少年達を興味深く観察している科学者達。誰一人として助けに来ようとする様子は無い。
「このマッドどもめ!」
黒いネフィリムはそう吐き捨てると、セレナをここから逃がす為に、少年と共にアルビノ・ネフィリムへと向かっていく。
「合わせろネッさん!」
「任せろ!」
二人はアルビノ・ネフィリムの攻撃を掻い潜って懐に飛び込むと、強烈なツープラトンキックを叩き込んだ。それを受けたアルビノ・ネフィリムは大きく後退し、そこに黒いネフィリムが追撃にタックルを仕掛けて壁に叩き付けて押さえ込む。その間に少年はセレナを抱き抱えて、自分達が入って来た穴から外へと運びだした。
「邪魔だから外に出てな。気が散ってしょうがねえ」
セレナを部屋の外へ連れ出すと、少年は再び室内へと戻って行く。その後室内から暫しの間激しい戦闘音が鳴り響くと、大型犬程だった先程とは変わり、熊程に大きくなった黒いネフィリムが、穴を更に大きくぶち抜いて飛び出して来た。
「ぐえっ」
「目的は果たした!帰るぞ!というか逃げるぞ!」
「ちょっ、首しまっ……」
黒いネフィリムは少年の襟首をくわえており、首が締まっている事に気付かずに走り去って行く。
「えっ、あのっ!」
セレナが声をかけたが既に遅く、少年達は施設に侵入する際にぶち抜いて来た天井から去った後だった。
嵐の様に去って行った彼等にしばしの間呆然としていたセレナだったが、ハッと我に返り、アルビノ・ネフィリムがどうなったのかを確認するために穴へと近づく。
「!!」
恐る恐る部屋を覗いたセレナが見た物は、片腕を半ば程で無くし、全身の所々に食い千切られた跡のある、機能停止したアルビノ・ネフィリムの姿だった。
「セレナ!」
「姉さん!」
セレナが死に体のアルビノ・ネフィリムを見つめていると、いの一番に駆けつけた、セレナの姉であるマリアが抱き着く。
「良かった……!無事で、本当に良かった……!」
泣きじゃくる姉を抱き締め返し、セレナはポツリと呟いた。
「姉さん。私、好きな人が出来たの」
「…………えっ?」
この日、セレナ・カデンツァヴナ・イヴは、生まれて初めての恋をした。
その相手が、実は少年と体を入れ替えていたネフィリムであるという真実を知らない事が、良かったのか、あるいは悪かったのかは、誰にも分からない。