【文アル×結界】なくしたものはなんだったのだろう【有島+成長利守】 作:駒由李
お題は晩霞(http://www11.plala.or.jp/harutake/banka/banka_top.html
▼書いたあとで「これ別に元作家の創作司書でよかったんじゃね」「寧ろ利守じゃなくてよかったよね」「っていうか特務司書設定いる?」って思ったけど「成長利守と有島先生で書きたかったしこの2人だからこそこの話と設定が浮かんだから」という答えが浮かんだので自己完結
▼そのうちまたこの設定で書きたい この2人で書きたい
pixivからの転載
娯楽小説の棚に「墨村修史」の名があった。本の背に指をかけ、結局取らない。内容は実家にいたときに読んだから知っている。隣に目をやった。
同じ名字に並んだ本が数冊、収蔵されている。それに眉間を顰める。もう葬った過去だと思ったのに。
「その本、君と同じ名前だな」
「――有島先生。驚かせないでください」
慌てて手を引っ込める。しかし穏やかな紅色の目は、利守が見ていた本を見咎めていた。この助手は普段ぼんやりとしているようで中々油断ができない。内心で舌打ちしそうになっていると有島は追撃する。
「君の名前はあまり当世風ではないだろう」
「悪かったですね、古くさくて」
「いい名前だと思う」
褒めてから尚もいう。
「それで君の名前とその本は無関係とも思えないが。それに隣の……すみむらしゅうじ、かな。その作家の本も見ようとしていたようだが」
「どこから見てたんですか」
「話しかけにくい空気だったからな」
「…………僕の作品ですよ」
根負けする。淡々と駒を詰められ王手を掛けられた気分だ。眉間を顰めると墨色の双眸も伏せられる。そして再び本の背の群れを見た。作家としての活動期間の問題で、墨村修史の作品は多い。翻って、隣の墨村利守の作品は少ない。寡作なのではない。それは作者の利守自身がよく知っていた。痛みと共に。
「高校生から大学初期の頃に書いてたんです」
「君は作家なのか」
「だった、というべきでしょうね。今は断筆しました」
した、と言い切ると有島が傷付いたような顔をする。あなたがする表情じゃないと、そういうには利守の口は硬かった。
「よくある理由です。書けなくなったんですよ。それで成人した頃に筆を折ったんです」
「まだ若いじゃないか」
「もともと、ろくな理由で筆を執った訳じゃなかったですから」
「……?」
有島が首を傾げる。彼の穏やかな目がつらい。すべてを話すには覚悟が足らない。
母がいなくなったあと。自分は生涯父の側を離れまいと決めた。そのためには家から離れずに済む仕事がいいと思った。文筆には自信があったから、試しに小説を書いた。デビューできた。
しかし、自分は思ったよりも小説を書くことが好きだった。書けなくなってもなお好きだった。だから父に嫉妬した。父は売れるようになった今も昔も、楽しそうに小説を書く。それが妬ましくなったのはいつからだろう。だから筆を折った。父に嫉妬したくなかった。けれど、父の傍にいるのが耐えられなくなった――そして今、自分は特務司書として図書館に住み込んでいる。
最後に帰ったのは、「母の七回忌」の盆以来だ。もうすぐまた盆がやって来る。それが憂鬱だった。――母は失踪後7年。利守が高校2年生のときに死亡したことになった。帰れば父を哀れむ自分が蘇る。父の傍で筆を執れたらと思ってしまう。それができないから帰りたくない。本当のことをいえば、文豪の彼らと接することも最初は苦痛だったのだ。彼らは作家として名を馳せたからこそここに転生してきたのだから。
――そこではたと、思い出す。顔を上げた先の有島は静かだった。静かに、小説を愛したがゆえに筆を折った若い作家を見ていた。その目はかなしそうで優しい。その理由は彼の生前の最後にあった。
「どちらにせよ、書きたかったものが書けなくなるのはつらいことだろう」
「――そうですね」
あなたもそうだったんですか。そう尋ね返すのは憚られた。掠れた声は労りに満ちていた。20才の頃の自分が少しだけ慰められた。
なくしたものはなんだったのだろう
了