次の日、約束通りの時間にラウラがアミリアの家にやってきた。
「おはよーアミリアー。」
「………ああ、おはよう。」
「相変わらず朝は少し弱いね。」
「…いや、昨日の晩に星の観測をしていてな…夜遅くまで起きてしまったんだ。正直、後二時間は寝ていたい気分だ。」
「二時間寝てもいいけど、帰りが遅くなっちゃうよ…買うの色々あるんだし。」
「わかってるよ。…ん?そういえばアイギスはどうしたんだ?見送りぐらいはくるかと思っていたが…」
「友達の家に遊びに行ったよ。『今日こそはあやつに勝つのじゃー!』って意気込んでた。」
「…まあ、元気なのはいいことだな。とりあえず行こうか。ああ、もう父上も母上も仕事でいないから戸締りもしておかないといけないな…」
「あ、もう入ってきたときに鍵はかけといたよ。」
「そうか?じゃあいいか。…ん?フルーパウダーが切れてるな…どこに予備を置いていたかな…」
「たしか食器棚の下の棚じゃなかった?ほら、調味料とかに紛れ込ませてたでしょ?アリシアさんが家に呼んできたマグルの人たちにバレないようにって。」
「ああ、それだ。取ってくるから少し待っててくれ。」
アミリアは食器棚の中をごそごそ漁った。
「あ、父上がいつも隠してるお菓子だ。今度はこんなところに隠してたのか…ん、美味いな。」
「アミリアー、脱線してないー?」
「してはいるが後悔はしていない。怒られたって反省しない。」
「反省はしようよ…」
「わかったよ…これからはバレないようにするさ。」
「反省の方向性が違うんだけど…」
「とりあえずフルーパウダー、入れ物に入れたから暖炉の横に引っ掛けといてくれ。」
「今ごまかしたよね…はいはい、わかったよ。」
ラウラはアミリアからその入れ物を受け取って暖炉の横に引っ掛けた。
「じゃあラウラから行ってくれ。噛むなよ?」
「ううん、アミリアからどうぞ?」
二人は少しの間無言になってからフルーパウダーが入った容器の押し付け合いをはじめた。
「なぜ行こうとしない…?ラウラはこの日を楽しみにしていたはずだろう…!」
「確かにそうだけどアミリアの魂胆はわかってるよ…!どうせ夜の闇横丁とか行って変なの探してくるつもりでしょ…!」
「いやいやラウラは何を言っているんだ…?私にそんな気は…」
「あるでしょどうせ…!」
「「ぐぬぬ……!」」
不毛な争いは三十分ほど続いた。
……………
「…わかった。ラウラがそんなに必死になるなら私が先に行く。それでいいんだな?」
「ふー…ふー…うん、それでいいの…なんでアミリアは疲れてないのかな…」
観念したアミリアはフルーパウダーを片手に掴んで暖炉に入った。
「…コホン…ダイアゴン横丁。」
すると、アミリアの体が緑の炎に包まれた。アミリアがいなくなった後、ラウラはとりあえず暖炉の中に入って、二、三分ほど上や周囲を見て確認してみたがアミリアはどこにもおらず、おかしなところはないようだ。
「…よかった。素直に行ってくれたね。ダイアゴン横丁。」
そうしてラウラも砂を掴んで地面にまいて、暖炉から姿を消した。
……………
「ラウラも大丈夫だったか。少し遅くなかったか?」
「アミリアが色々ごまかしてダイアゴン横丁に行ってないんじゃないかって思ってね…」
「信用ないな…今日は研究とかよりラウラと一緒に居たい気分なんだ。…そう言えば信用してくれるか?」
「え、いや…アミリアはやりたいこと最優先だからそう言ってくれれば信用はできるんだけど…その言い回しなんか少女漫画とかで出てくる気がする…」
「そうか?私はあまり読まないから知らないが…」
「無自覚だね…まあいいや。とりあえず色々買いに行かないと。」
「ああ。まずは向こうからだな。」
暖炉がある建物から出てくるりと方向を変えてアミリアが歩き出そうとした。
「はいストップ。」
「なぜ止める?」
「食べ歩き、行儀悪いよ。」
「…ばれたか…仕方ない、おとなしく教材を見に行こう。」
「やっぱり…」
○
何度かお菓子屋にアミリアが釣られかけたが、二時間ほどで大体の場所を周って教材を買い揃えていった。
「で、最後に杖な訳なのだが…」
「どうしたの?」
「いや…少し荷物が多くてな。教科書は最後にすべきだった。」
「重い?」
「いや、別に重くはないんだがそう思うなら何か持ってくれてもいいんじゃないか?」
「じゃあ鍋持つよ。かさばってて邪魔になってそうだし。」
「ああ、そうしてくれると助かる。」
ちなみにアミリアは今二人分の全ての教科書に加えてなんとなく気になった本も数冊買っているため、積み上げればゆうに1メートル超えるぐらいの本を持っている。その量を子供が持っているので割と注目を集めている。
「うん、これでだいぶ楽になった。正直鍋が一番面倒だったんだ。」
「…この鍋だけでも結構重いんだけど…アミリア大丈夫なの?教科書…」
「そうか?まあ、私の感覚が麻痺してることは否めないが…」
そんな話をしながら片手をなんとか空けてラウラが杖屋の扉を開いた。入り口には『オリバンダーの店』と書いている。
「いらっしゃいませ。杖をお買い…あー、ひとまずお荷物はそちらにどうぞ。」
「あ、ありがとうございます。アミリア、ここだって。」
「ああ、わかった。」
「そう、確かに今年じゃ…お二人ももう杖を持つ歳になって…つい先日、あなた方のご両親が杖を買って行ったと思っておったが、早いものじゃ。」
「ん?私たちはオリバンダーさんと面識あったか?」
「んー…多分なかったと思うけど。」
「お二人とも…特にフラムさんはここでは有名じゃ…」
「あー、なるほど。」
ラウラはアミリアの方を少し苦笑いしながら見つめた。
「そんなに問題を起こしたような気はしないのだがな…まあ、何かしらやるたびに手が空いてたり昼をとってる闇祓いの人たちに追いかけられるが…」
「いや、三年もそんなことやってたら有名にもなるよ…」
「まあ、その話は置いておくとしましょう…さて、杖というものは数百、数千と数があり、それと同じだけ性格がある。杖が使い手を選ぶのじゃ…フラムさんなら、お父上の杖を使う時に少し違和感を覚えられたのでは?」
「まあ…確かにすんなり魔法が使えないこともありました。」
「確かめるのは杖を持って振るだけってお母さんは言ってたけど…」
「ええ、その通りです。では…まずはフラムさんから…確か杖腕は右でしたな。すでに適当なものを見繕っておりますので少しお待ちを…」
オリバンダーはそう言うと店の奥に行き、一分もしないうちに戻ってきた。
「こちらです。桜の木、39センチと大きく少し重いですがとても丈夫…芯にはドラゴンの逆鱗を加工したものを使っています。振ってみてくだされ。」
アミリアが杖を持つと、なんとも言えない不思議な高揚感に包まれた。
「…なるほど、馴染む杖というのはこういう…ルーモス。」
「うわっ、まぶし!…いきなり魔法使わないでよ…」
「うん、素晴らしくすんなり使える。」
「ブラボー!その杖はあっているようですな。一、二週間に一度はアミリア様が魔法を使うところを見ておりましたから、おおよそどの杖が合うか予想しておりました。」
「………アミリア、こっちにきてるのは一ヶ月に一回ぐらいとか言ってなかった?」
「言ったか?」
「言ってたよ?私ちゃんと覚えてるからね?」
「まあいいじゃないか。私は忘れた。人間は忘れる生き物だからな。うん、仕方ない。だから私は悪くない。」
「その言い方絶対覚えてるよね…」
「まぁまぁ…アゾフ海より深く反省してるから、な?」
「ん?…うん、まあどこか知らないけど海より深く反省してるならいいや。」
「よし、とりあえず次はラウラの番だな?」
「あ、うんそうだね。」
二人がそうして話している間にいつの間にか裏手から杖の箱を持ってきていたオリバンダーが中から一本の杖をラウラに差し出した。
「杖腕は左であったはずですが、この杖はいかがかな?ほれ、振ってみなされ。」
「あ、はい。えっと…振るんだけだよね?えいっ!」
と、ラウラが杖を振ると机の上に置いてあったランプが破裂した。
「む、いかん…あっておらんようですな。」
「オリバンダーさんが知っている人にあっている杖を渡せないのも珍しいな…」
「そうなの?」
「私が思うに、杖に関しては魔法界の中で一番腕も目もいい人だ。」
「ああ、確かに杖はオリバンダーのお店でってよく言われるもんね。」
「次はこれでどうですかな。」
続いて2本目、ラウラが杖を振ると突然爆発のような大きな音がなった。
「ぐぁ…み、耳が…!」
「うぅ…ご、ごめん、アミリアなんて?耳がキーンってしてて聞こえない…」
「な、なんだって?聞こえないぞ…」
「こ、これもあっておらんようですな…ならば…」
そう言ってフラフラと新しい杖を取ってきてラウラに3本目を手渡した。
「わっ、この杖なんか違う。」
「ん?どういうことだ?」
「んー、なんかね、フワーッて。杖振ったら花とか咲かせられそう。」
「…いや、もう咲いてるな。杖の先から花束が出てるな。」
「おお、これは振る前に杖が応えたということじゃ。最高の相性と言えるでしょう。」
「あ、そういえばこれ材料ってなんなのかな?アミリアのはさっき聞いたけど。」
「22センチで木は桃の木で柔軟、芯にはバジリスクの牙の一部が使われております。」
「バジリスク?」
「蛇の怪物だな。………そんな材料がどうやって…?…オリバンダーさん、気になるので教えてほしいのですが…」
「フム…20年ほど前でしたかな…人の手を渡ってきたものなのでどこの誰が取ったものかはわかりませんが…その材料が売られてきたのじゃ…」
「20年前…まあ、心当たりなんてないからなんとも言えないが…あ、お代を渡さないと…私のが7、ラウラのは8ガリオンでしたか。」
「ええ、合わせて15ガリオン。」
「これで。」
「…ちょうどですな。」
「じゃあラウラ、行こうか。」
「うん。」
「それでは。個人的にも応援しておりますぞ。」
「ありがと、オリバンダーさん!」
そうして二人はオリバンダーの店を後にして昼食をとることにした。
……………
昼過ぎですでにほとんど人がはけた飲食店に入った。店の前には『光の河』と書かれた看板がおいている。
「お父さん、お母さん!」
「お、ラウラ、買い物は終わったのか。」
「うん!ほら、私の杖!」
「いらっしゃいませ〜。」
「こんにちは、ランディさん、エミリーさん。」
「よかったな。あー、アミリア。とりあえずそっちの席にでも荷物は置いといていいぜ。この時間はあんまりお客さんも来ないからな。」
「何名様でしょうか〜?」
「あー…二人ですエミリーさん。」
「はーい、カウンター席でよろしいですかー?」
「お母さん…まあいいや。カウンター行こ、アミリア。」
「ああ、そうしようか。」
そうして二人はカウンターに置いてある椅子に座った。
「これが今日のメニューだ。何食べる?」
「うーん…お父さーん、今日パンケーキないのー?」
「パンケーキは日曜日だけしか作ってないからな。材料もないから作れないぞ?…ってか、昼なんだから普通のご飯にしとけ。な?」
「わかったよ〜…じゃあオムライス。」
「オムライスな。アミリアはどうする?」
「ローストビーフとサラダとピザ…サラダは多めで。あー、珍しいから唐揚げと味噌汁もほしいかな…」
「ん、わかった。ちょっと待っててくれな。」
そう言って店主のランディはカウンターを挟んだ所にある厨房で料理を作り始めた。
「アミリア、食べる量多いね相変わらず…よく太らないよねー…」
「頭を使ったり体を動かしたりしてたら太らなくないか?それに私にはこれぐらいで腹八分目ぐらいだからこれでちょうどいいんだ」
「…どこにそんな量入るの?」
「それは当たり前だが胃とか腸とか…」
「いや、そういうことじゃなくてね…」
他愛もない雑談で時間を潰して十分ほど経つと、ランディが魔法で浮かせて料理を並べていった。
「あいよ、お待たせ。…うん?エミリー、水は?」
「あ、ごめんなさーい、忘れてたわ〜。」
「…身内だからまだいいけど、この季節水を渡すのは忘れないでくれよな…今夏で暑いんだから…」
「あ、ラウラとアミリアだー。おかえりー。杖とか買えた〜?」
「お母さん聞いてあげてよ…お父さんが落ち込んでる…」
「…いや、エミリーだからな。マイペース過ぎるのがデフォだから仕方ない…特に今日はなんか眠いらしくてたまに寝ぼけてる時もある…まあとりあえず冷めないうちに食べちまえ。」
多少げんなりしているランディに促されて、二人は昼食を取り始めた。
「相変わらず美味しいな…私も作れればな…いや、やめておこう…」
「あ、そういえばお父さん、私たちが学校行った後ぐらいにお母さんと旅に出るって言ってたけど今度はどこに行くの?」
「そうなんですか?ランディさん。」
「そういえばまだ二人には言ってなかったか?前はアメリカに行ったから、今度は中国まで行くって計画を立ててるんだ。」
「そうなんだ。じゃあ、中華料理もこのお店のレパートリーに入るの?」
「そのつもりではいる。まあ、そうは言っても材料的に作れそうならって感じだけどな。」
「中華料理……麻婆豆腐……チャーハン……ラーメン…………イイな……」
「あ、まただよ…アミリア、アーミーリーアー?」
「………ん?呼んだかラウラ?」
「なんか意識が旅立ってたよ?」
「気のせいだろう。」
「まあ、ラーメンとかチャーハンなら一応日本に行ったことはあるからそっちの方のは作れるけど、どうせなら本場のやつってのを作ってみたいからな。…まあ、こっちの人に合うようにはするが。特に…なんて言ったかな…四川だっけか?あそこのは辛いのが多いらしいからな。」
「そういえばアイギスはどうするんですか?」
と、アミリアがラウラの一つ下の妹のアイギスのことを気にする。口調は少し変わっているが、まあそれも含めていい子だとアミリアは思っている。
「前の時と同じでダールトとアリシアに任せることになるかなぁ…ホントは連れて行ってやりたいんだが、旅であって旅行じゃないからな。店を長く開けるわけにもいかないし、かなり強行軍になっちまうんだ。今度はラウラとアミリアもいないのも不安なところだな。」
「んー…まあ、アイギスなら大丈夫だと思うよ。意外と一人の時でも何かしら遊んでたりしてるし、もし寂しくなっても友達を呼んできたりするんじゃないかな。」
「そういえば仲がいい子がいたな。私はあまり話したことはないが…」
「私もかなー。名前も聞いた覚えないかも。」
「そうなのか?姉妹のラウラになら話に出たりするものだと思ってたが。」
「アミリアといる時と変わらないよ。家も隣だし、ほとんど家族みたいなものでしょ、私たち。」
「それもそうか。さて、とりあえず食べ終わったし…」
「えっ、もう食べたの?ちょっと待ってて!」
「いや、急がなくてもいいが…この後用事もないんだし。」
「というか、いつも思うけど食べるの早くない?」
「美味しいと止まらなくてな。ランディさん、ごちそうさまでした。」
「あいよー。」
「……ふぅ、ごちそうさまでした。あ、お母さんお水ちょうだい。」
「わかったわ〜。…ふわぁっ!」
その時、エミリーが水を持っていこうとすると何もないところでつまずいた。水が入ったコップが宙を舞う。
「よっと。」
しかし、ランディがそれに自然な動作で杖を向け、軽く振るとコップとその中の水が浮いた。
「相変わらず慣れてるね…お父さん…」
「まあ、日に何回かはあることだからな…料理を運んでる時につまずいたり転んだりすると何故か綺麗に配膳されるけど、さすがにこぼれるのはやばい。」
「ごめんねー、ランディ、ラウラ。」
「「慣れてるからいいよ…」」
「相変わらずだな、ブライトフォード家は…」