それから数日後の九月一日、つまり学校へ向かう汽車に乗る日になった。発車まではまだ二時間は時間があるが、アミリアとラウラを見送るためにこの時間に来ることになった。
「アミリア、あまり先生方に迷惑はかけないようにな。」
「基本はそのつもりだから大丈夫だよ、父上。」
「…基本、なぁ…」
「まあ、いいじゃないダールト。アミリア、ラウラ。せっかくだから思い出はたくさん作るのよ。」
「ラウラ、なんかあったら手紙を送ってこいよ。」
「うん、わかったよ。…あ、お母さん⁉︎そっち危ないよ!」
「待ってー、鳥さーん。」
「あっ…ちょっと捕まえて来る。」
「はは…いつも通りだな、エミリーさんは。」
「う、うん…まあね…」
「ラウラ。ラウラよ。」
「ん?どうしたの、アイギス。」
ラウラに話しかけたのは前にも話に出てきていたアイギスだ。ラウラは話しかけられてなんとなく頭に手を置いた。一つしか歳は違わないが、アイギスの方が一回り背が低い。その上、去年から背がほとんど伸びなかったのもあって本人は割と気にしている。
「む…頭に手を置くでない。ラウラ、妾はラウラと変わらんぐらいの歳なのじゃぞ?」
「あはは、ごめんごめん。それでどうしたの?」
「むぅ…やはり子供扱いしておるな…妾も来年からは通う学校なのじゃ。雰囲気だけでも、来年帰ってきた時に教えて欲しいと思っての。」
「なんだ、それぐらいならお安いご用だよ。任せといてよ、帰ってきたらたくさん話してあげるね!」
「ああ、そうだアイギス。一応私の母上に頼んではいるんだが仕事で忙しくなるかもしれないから私の箒の手入れを頼んでもいいか?」
「うむ、任せるのじゃ。何回かはアミリアが手入れしておるところを見ておったし問題はないのじゃ。」
「ん、もうこんな時間か…じゃあ、アミリア、ラウラ、私とアリシアは仕事があるからそろそろ行くよ。」
「あ、見送りありがと、ダールトさん!アリシアさん、」
「父上、母上、行ってきます。」
「ああ、行ってらっしゃい。」
「気をつけるのよ。アミリア、クリスマスにはケーキを送ってあげるわね。」
そう言って、ダールトとアリシアは駅のホームから立ち去った。それから入れ替わるようにエミリーを確保したランディが戻ってきた。
「あ、ダールトのやつもう行ったのか。まあ、俺たちもそろそろ行って店の準備しないといけない時間か。じゃあ二人とも、頑張ってこいよ。」
「アミリア、ラウラ、楽しんで来てね〜。」
「うん!」
「わかってます。じゃあ、アイギスもまたな。寂しくなっても泣くんじゃないぞ?」
「アミリア…お主まで妾を子供扱いするのかの?確かに背は低いがの…」
「まあ、冗談だ。ほら、ランディさんたちに置いてかれるぞ?」
「…来年に帰って来る頃には絶対にアミリアの背を抜かしておくのじゃ。」
「はは…楽しみにしておくよ。」
「じゃあ、またね、アイギス!」
「うむ、行ってらっしゃい、じゃ。」
そうして、ホームにはアミリアとラウラだけが残った。時間も早いので他の生徒もまだ来ていないようだ。
「まあ、少し早いが混んで来る前に荷物とか置きに行くか。席も埋まる前にとっておけばいい。」
「まあ、汽車はもう来てるからね。」
二人は汽車に乗り込んで荷物を指定されていた車両に置き、周りに人がいなかったのでとりあえず先に着替えておいた。ラウラはそこから一年の車両に行こうとしたが、アミリアは先頭車両の方に向かおうとしていた。
「あ、アミリアどこ行くの?そっちは学年が違うとこだよ?」
「あまり汽車に馴染みもないし、どこかに魔法まえが使われてるかもしれないから気になってな。少し動力とかを覗いてみようかと。」
「いや、ああいうとこって普通立ち入り禁止じゃない?」
「ならば尚更気になる。」
「ダメだってば…」
「大丈夫だ。バレなければ問題はない。」
そう言うと、アミリアは杖を振った。すると姿がぼやけていき、十秒もすると見えなくなった。
「あ、アミリア⁉︎…もう!迷惑かけちゃダメだよ!先に席取ってるから!」
姿が見えなくなったのでラウラはアミリアが離れてたとしても聞こえるように大声で話した。事情を知らなければ変な目で見られるような光景だが、今は人がいないのである意味助かっていた。
○
「はあ…アミリアってば…いつものこととはいえ…」
汽車は出発したが、いまだにアミリアは帰って来ておらず、今いるコンパートメントはラウラ一人だ。何人かは声をかけて来ようとしていたようだが、アミリアがいなくなってからしばらくはどことなく暗い雰囲気を出していたため、結局誰も話しかけてこなかった。だが、もう汽車は出発していてほとんどの席は埋まっているだろう。そのうえにラウラの気分も多少は戻っていて雰囲気が普段のものに戻ってきたのもあってか、ラウラに声をかけてくる男の子がいた。
「ごめん、ここの席空いてるかな?」
「ん?あ、空いてるよー。どうぞどうぞ。」
「ありがとう。…あれ?荷物が二つあるけど…」
「ああ、私の友達のだよ。乗り込むなり、この汽車が魔法とかで普通の汽車と違ったりするところがあるのか気になるからって先頭車両の方に行っちゃったんだ。」
「そ、そうなんだ…なんだか変わってる…のかな?魔法界だと普通なの?」
「魔法界の中でも変わってるんじゃないかなぁ。マグルのことにも興味があるし。あ、そう言うってことはもしかして最近魔法界について知ったって感じなの?」
「うん、そうなんだ。パパとママは両方魔法使いだったらしいんだけど、叔父さんと叔母さんはそのことを話してくれてなかったんだ。」
「なんだか少しややこしいことになってるんだね…あ、そういえば自己紹介とかまだだった…」
「ん?どうしたんだラウラ?」
自己紹介をしようとしたところでちょうどアミリアが扉を開けてきた。
「あ、アミリア遅いよ!二時間も何してたの⁉︎」
「ラウラには言っておいただろう?で、君は誰だ?」
「えっと、僕は…」
「今から自己紹介しようとしてたんだよ。まあ、とりあえずアミリアも入りなよ。」
「それもそうか。…ん?」
「な、何?」
「…間違ってたら悪いんだが、もしかして、ハリー・ポッターか?」
「え、なんで…」
「魔法界では有名だからな。ほら、その額の傷だよ。まあ、こんな反応はもう飽き飽きしてるだろうし、一方的に知られてるのも気持ち悪いだろうが…ああ、私はアミリア・フラムだ。」
「あ、私が先に自己紹介って言ってたのに…」
「ん?なんだまだやってなかったのか?」
「アミリアがいきなり入ってきたからね…私はラウラ・ブライトフォードだよ。よろしくね、ハリー。」
「うん、よろしく、二人と…」
ハリーがそこまで言おうとしたところで少し遠慮がちに扉が開いた。
「ごめん、そこの一席空いてるかな?もうどこも空いてないんだ…」
「うん、もちろん。二人もいいよね?」
「ああ、大丈夫だ。」
「僕もいいよ。」
「ありがとう。」
そう言って、赤毛の男の子がハリーの隣に座った。アミリアがなんとなくその子の顔を見ると、どことなく知っているような気がした。
「えっと、一応私たち一通り自己紹介したんだけど、どうしよ?」
「あ、じゃあ名前がわかってないと呼びにくいと思うしとりあえず僕が言うよ。僕はロン・ウィーズリー。よろしく。」
「よろしく、ロン。私はラウラ・ブライトフォードっていうんだ。」
「ウィーズリー…ああ、もしかしてアーサーさんのとこの?」
「パパを知ってるの?」
「私の父上の友人だ。私の父上も魔法省勤務だからな。まあ、闇祓いだからちょくちょく出て行ってると思うが…ああ、私の名前はアミリア・フラムだ。」
「あれ?フラムってことは、アミリアのパパってダールト・フラム?」
「まあ、そういうことだ。」
「おっどろきー…」
「ん?ダールトさんって有名なの?」
「…まあ、マッドアイ・ムーディーと並ぶぐらいだと思うぞ?」
「…そっちも知らないや…」
「マッドアイの方なら新聞とかによく載ってるだろう…それよりこっちの方が驚くと思うけどな。」
「え、僕?」
アミリアが視線を送りながらそう言うと、ロンはハリーに注目した。
「えっと、僕ハリー。ハリー・ポッター。」
「…なんか、僕頭が追いつかないや。あ、じゃああれあるの?ほら、額の…」
「ああ、うん。ほら。」
「すっげー…」
「車内販売はいかが?」
ロンがそうして驚いていると、車内販売が回ってきた。
「あー、僕はいいや。持ってきてる。」
「…まさかとは思うけどアミリア…」
「「全部ください(ちょうだい)。」」
「ハリーまで⁉︎」
アミリアとハリーは二人揃って金貨を数枚取り出しながら車内販売のお菓子を買い占めた。当然ロンは驚きラウラはアミリアに呆れていた。
……………
「いろんなお菓子があるんだね…」
「これなんか楽しいぜ。百味ビーンズ。」
「味がたくさんあるの?」
「ああ、数百はある。美味いのに当たればいいが、大概は予想外の味が口に広がるぞ。例えばこれだ。この赤色は何味だと思う?」
「うーん…イチゴ味?」
「残念ながら不正解。ロンはわかるか?」
「ううん、僕にもさっぱりだ。アミリアはわかるの?」
「だいたいはな。ついでにこれは生レバ味だ。」
「イチゴだと思って食べるとギャップで大変なことになるよね…」
「もしかしてアミリアって百味ビーンズを見分けられるのかい?」
「ああ、数年レベルで食べてるお菓子なんだ。九割はわかるぞ。」
「おっどろきー…」
「あ、ハリー!その箱開けるの少し待って!」
「えっ?どうして?」
「それ蛙チョコって言うんだけど、魔法で動くんだ。よく逃げられるんだよ。」
「開けるときはすぐ捕まえて食べないといけないんだ。僕の双子の兄貴はそのチョコをイタズラに使ったりするけど。」
「そうなんだ…わかった、気をつけるよ。」
ハリーは慎重に蓋を開けて、すぐに蛙を掴んだ。
「ウワッ、これ結構暴れる!」
「ハリー、上に蛙を投げてくれ。」
言われるままにハリーは真上に蛙を投げた。アミリアはその時には杖を構えていた。
「フリペンド!」
呪文を唱えると青い光が杖から出て蛙に当たった。蛙は机に落ちてぐったりしている。
「気をつけていてもこうして暴れるから、少しダメージを与えて弱らせた方がゆっくり食べれるんだ。」
「あ、ありがとアミリア。…やっぱり学校に行く前から少しでも魔法を使えるのが普通なの?」
「ううん、そんなことはないよ。ハリーみたいに魔法界のことを知らない人だってたくさん来るって私のお父さん言ってたし。」
「私は昔色々あって使えそうな魔法を練習したことがあるだけだよ。」
「ロンとラウラは使えるの?」
「私は…普段使うような魔法はできないかな…」
「僕は一応教えてもらったのはあるんだけど…」
「そうなの?」
「でも、なんとなく呪文じゃないような気がしてるんだ。魔法をかけたやつが黄色になる魔法なんだけど、黄色い物を唱えるだけなんだ。」
「まあ、魔法には想像力も関わって来るからあながち間違ってもいないと思うが…」
「あれ、これってカード?」
「魔法使いカードだよ。僕、コンプリート目指してるんだけど、まだなんだ。アグリッパとプトレマイオスが手に入らなくて。」
「この人がダンブルドアなんだ!」
「僕6枚持ってる。」
「ああ、そういえばハリーは魔法界のこと知らなかったからダンブルドアを知らなかったのか。誰かから名前は聞いていたのか?」
「ハグリッド…あー、ホグワーツで森番をしてる人が凄い人だって。あれ?消えちゃったよ…?」
「そりゃ、一日中そこにいるわけないよ!」
「あ、ハリーはマグルの写真しか見たことないもんね。魔法界の写真は動くんだ。こういうカードだと、普段その人がいるところ以外にいるといなくなったりするんだ。」
「ちょっといい?ヒキガエルを見なかった?ネビルの蛙が逃げ出したの。」
そうして雑談しているとコンパートメントの扉が開いた。そこには一人の女子が立っていて、探し物をしていたようだ。
「あら、あなた魔法を使うの?」
「ん?私か?」
「だって杖出してるじゃない。」
「ああ、さっき蛙チョコを弱らせるために簡単な魔法を使ったんだ。」
「あら、そうなのね。私はハーマイオニー・グレンジャー。私も一応少し魔法を練習してみたの。例えばこれ。」
ハーマイオニーはハリーのメガネに杖を向けた。ハリーはさっき見たアミリアの魔法が攻撃するものだったので少し身構えてしまう。
「オキュラス・レパロ。」
その魔法によって、ハリーのかけていたメガネが新品同様の輝きを取り戻した。
「あら、あなたハリー・ポッターね?本で読んだわ。」
ハリーがメガネを外してそれを見ていると、外すときに少し前髪がめくれ上がっていたようでハーマイオニーがそう言った。
「そういえばハーマイオニー、カエル探してるんだよね?あ、私はラウラ・ブライトフォードって言うの。よろしくね。」
「ええ、よろしく。何か心当たりある?」
「ううん、私は見てないよ。アミリアならなんとかできない?」
「私に丸投げか…少し待ってくれ。」
アミリアは杖で水平に円を描くと、その範囲がほんのり青く光り、中心あたりを杖で上から叩くと波紋が生まれ、波が穏やかになると赤色の点がいくつも乗っていた。
「なんだい、これ?」
「一定範囲…まあ、この車両内ぐらいの生物に反応している。この真ん中の五つが私たちだ。生物だから一応カエルにも反応はするはずなんだが…わかりにくいな…」
「あ、これじゃないかな?他のに比べて小さい赤色のがあるよ。」
「二つ隣のコンパートメントの入り口近くか?ハーマイオニー、見てきてくれないか?」
そう言われてハーマイオニーはその場所を覗きに行った。
「僕そんな魔法見たことないけど、それって?」
「ああ、私が作った魔法だ。」
「へー…えっ⁉︎」
「私の趣味は魔法の研究だからな。まあ、変わってるのはわかってはいるんだが昔に始めたことだからやめるにやめられなくてな。」
「…今日は何度驚いたらいいんだろう…」
ハリーと会っただけでも驚いていたのに、とロンは思っていた。
「ありがとう!アミリアだったわよね。さっきの魔法で出た通りの場所で見つけたわ!」
「上手くいったなら良かったよ。…しかしこれは改良が必要だな…今のままではわかりにくい…要求していた基準を…」
「…ラウラ?アミリアはどうしたの?」
「…しばらくこのままだから放っておいていいよ…うん。」
「いつものことなの?」
「…まあ、たまにあるんだよ。特に自分で考えた魔法を使った時とかはね…あ、そういえばそろそろ着替えといた方がいいんじゃない?まだ少し時間はあるけど、話してたら割とすぐだと思うし。…アミリアは私が引っ張り出すから。」
「え?あ、うん…」
「あ、私はネビルにカエルを連れていくわ。また学校で会いましょう。」
「…しかしアレだって即効性もないといざという時…」
ハーマイオニーがいなくなった後もまだブツブツと呟き続けるアミリアをラウラはコンパートメントから引っ張り出した。アミリア本人は外に出されてもお構い無しに色々と考え事をしていた。