「ラウラ、出かけるぞ!」
飛行訓練があった日の夜中にアミリアが突然ノリノリな上に満面の笑みでそんなことを言い出した。どうせ無理矢理起こされるのだろうと半分諦めているが、ラウラはむしろ布団にこもる。当然布団はすぐに引き剥がされる。
「…なんでいきなり?」
「気になったからだ。ほら、まだ行ってないところがあるだろ?」
「…はぁ…ついに言い出したんだね…」
アミリアは例の立ち入り禁止の廊下を探検しようと言いたいらしい。いつ言い出すかと戦々恐々としていたが、いよいよ年貢の納め時らしい。
○
「よし、この廊下だな…」
「…ホントに行くの?」
「当然だ。今更何を言っているんだ?」
「何を言ってるんだって私が言いたいんだけどね…」
「ここまで来たんだ。諦めろ。」
当然校則違反であるが、アミリアは気にせず、姿を消していながらも堂々と歩いて行く。その後ろを、同じく姿を消したラウラがついて行くと、至って普通の木の扉があった。
「この部屋か?」
「…何か聞こえてくるよ?やっぱりやめた方が…」
「…何かの寝息だな。まぁ、何が待っていようと開けんことには始まらないな。」
「あっ…」
制止の声は届かず、アミリアが扉を開けると、そこには大きな黒い塊があった。
「…ふむ。」
アミリアはそっと扉を閉じた。
「何がいたの?」
「…ケルベロスだ。学校の中にいてはいけないとは思うが準備をしないことにはこれはどうしようもないな。」
「ケル…え?」
「三頭犬だ。寝ていたが起こすと厄介だ。鼻も耳もいいから部屋に入ったら気がつかれる。」
「なんでそんなのが…」
「わからん。何か意味があるのかもしれないがこの部屋に何があったかも見れてない…これでも動揺してるんだ…とにかく、そろそろフィルチの猫が回ってくる時間だ。本当なら部屋に入ってごまかす気だったが入れないなら仕方ない…急いで帰ろう。」
「う、うん、わかった!」
そそくさと退散を始めたアミリアの後ろをラウラは来る時と同じように後ろについて歩いて行った。
○
部屋までたどり着くや否や、ラウラはベッドに倒れこんだ。
「…あー…なんとか誰にも見つからずに帰ってこれた…」
「ケルベロス…ふむ…どんな生態だったか…数年前に読んだっきりで覚えてないな…」
「アミリア、まだあそこに行く気なの?私もう行きたくないんだけど…」
「え?あ、ああ、もしかして、少し無理をさせていたか?」
「私は元々反対だったんだけど…」
「そ、そうだったか?すまない、少しテンションが上がってしまってな…その…」
アミリアがあたふたと説明を始めるが、割といつものことなのでとりあえず止める。
「別に責めてるわけじゃないからいいけど…どうしてそんなに気になるの?」
「校長が注意したときに、普段校長が理由もなしに立ち入り禁止にするのは珍しいと聞こえたからな。どんな理由があるのか知りたいんだ。」
「あ、あの時ちゃんと聞いてたんだ。てっきり持ってたお肉を食べるのに夢中になってたと思ってた。」
「いや、流石に聞いてたぞ。少し心外だな…」
「だってアミリアだし…」
「むぅ…否定できないのがな…」
「まあとにかく、気になるのはわかるけどもう夜も遅いしできることもないでしょ?そろそろ寝ようよ。」
「あー、そうだな。じゃあ…ん?」
アミリアがベッドに向かおうとするとラウラに袖を引かれた。
「なんだ?」
「…怖いから…一緒に寝て…?」
「ケルベロスは幽霊とかじゃないぞ?」
「それでも怖いから!い、いいじゃない1日ぐらい!お願いだから!」
「まあ、無理に連れて行ってしまったからな…」
「じゃあお邪魔しまーす。」
「…いや、くっつくなとは言わないが抱きつくのは…少し暑いんだが…」
「………」
「…わかったよ…そんな目で見ないでくれ。」
○
次の休日、ラウラとハリーが中庭で話をしていた。
「…それで、ハリーがやるシーカーって言うのがある意味一番重要で、シーカーがスニッチを取るまで試合が終わらないんだ。しかも取ったら150点で、普通ならスニッチを取った方が勝つことが多いかな。アミリア曰く、『舞台で言うならビーターやチェイサーはあくまで脇役、シーカーが主役といった感じだな。だからといって他が重要じゃないかと言われればそうじゃないが、一番注目されるのは間違いない。まあ、頑張れよ。』って。」
異様に似ているアミリアのモノマネをしつつ、ラウラはハリーにクィディッチの、特にポジションの説明をしていく。二人はクィディッチの三種四つのボールを取りに行ったアミリアとウッドを中庭で待っていた。
「…僕にできるのかな…自信ないよ…二人がやった方が…」
「大丈夫だよ、ハリーなら。アミリアは…うん、まあ、アレだけど、少なくとも私よりも上手く箒に乗れるようになるよ。初めてであれだけ飛べたんだから。」
「アミリアがどうかしたの?」
「んー…あれは別で…目標にはしない方がいいかな。人に飛べないような飛び方するから。血は争えないっていうかなんていうか…」
「私がどうかしたのか?」
話題になっている本人がやってきた。ちょうどボールを持ってきたところらしい。
「アミリアの箒の飛び方はおかしいって話だよ。」
「まあ…自覚はあるがあの乗り方はする気は無いぞ。あれは母上を追いかける時用だ。普段からあそこまでやってると体が持たない。」
「アミリアとラウラはクィディッチについては大体わかってる?」
「一応自分用の箒を持ってるぐらいですし、ルールも大丈夫ですよ。」
「まだ届いてないけどね…お母さんたちにお手紙出したばっかりだから。」
「なら、軽くでいいからチェイサーの実演をしてくれないか?クァッフルを渡すよ。」
「わかりました。」
ウッドからチェイサーが扱う一見形が変わっているだけのボールを受け取り、アミリアとラウラは学校の備品の箒に乗って浮かび上がり、軽くパスをし始めた。
「懐かしいな。最後に二人で箒に乗って遊んだのはいつだったか。」
「一年ぐらいじゃないかな?あの時は普通のボール使ってたけど。そういえば初めて持ったけどクァッフルってなんだか持ちやすいね。」
「魔法で持ちやすくしてるとかなんとかだったかな?」
「そうなの?それは知らなかったよ。」
「…しかし、チェイサーは私たち二人だけだから厳しい試合になるだろうな。」
「来年はアイギスも入ってくるから一緒にやりたいね。」
「…そうだな。やれやれ、アイギスに子どもだとからかうことはあっても、離れられないのは私たちなのかもしれないな。前の夜のラウラのこともあるし。…ん、手招きしてるな。とりあえずこれでいいらしい。行こうラウラ。」
地上に降り、ハリーとウッドのところに戻ってきた。
「とりあえず、ハリーがスニッチを探してる下ではチェイサーがこうやってボールを相手のゴールにシュートしようって頑張ってるかんじだよ。」
「基本的にはスニッチを探すのに集中すれば問題ない。ただ、このブラッジャーには気をつけてな。」
「ブラッジャー?」
「暴れ玉だよ。みんな離れて。ハリー、これを持って。」
そう言われて、ハリーは一見木でできた棒のようなものを渡された。ウッドが先程から震えているボール、ブラッジャーの拘束を外すと空に大きく上がってからUターンしてきた。
「構えて。」
ハリーは言われるままに構え、ブラッジャーを思い切り打ち返すと綺麗な放物線を描いて飛んで行った。
「おお、すごい。」
「やるじゃないか。いいビーターになれる。」
「ハリー、もう少し離れていた方がいい。」
しばらくすると戻ってきたブラッジャーを、ウッドがなんとかキャッチして箱にしまい直した。
「これが二つ、試合中は無差別に選手たちを狙うんだ。スニッチを探すのに夢中で当たるって人もいるから気をつけてね。」
「当たりどころによっては骨も折れるからな。」
「そして、最後がこれ。さっきから二人が言ってるスニッチってのがこのゴールデンスニッチのことだ。これを取れば150点で試合終了。コイツはとにかくすばしっこい。動き方も機敏だから見失うことも多いんだ。」
そう言ってウッドがスニッチを解放すると素早い動きで空を飛んで行った。
アミリアは前作に比べて破天荒な感じ。その影響でラウラが少し苦労人ポジションになってます。