「・・・・・」
ボロボロの姿、そして女のような外見をしている彼は佇んでいた。
この世の地獄に。
彼の周囲は、数え切れないほどの血痕、肉片、臓物、そして、大きな傷が刻まれた死体。体を食い漁られた死体。四肢をもぎ取られた死体。頭の無い死体。下半身が無い死体。真っ黒に焼け焦げた死体。体の水分が完全に抜け木乃伊と化した死体。もはや原型の無い肉塊と化した死体。死体死体死体死体死体。絶望を多分に含んだ濃い死臭。人も魔物も関係なしに死体が並んでいる。常人であれば狂わずにいられない光景が彼の周囲に広がっていた。
そんな死体に一人囲まれている彼は、
ただそこに佇んでいた。
視線を、頭の無い女の死体に固定しながら。
「……………」
彼には分からない。今自分がどんな思いで女の死体を見ているのか。なにもわからない。
思考することができない。完全に止まっている。からだがうごかない。ウゴケナイ。
「ああ…」
結局こうなるのか。どんなに足掻いて足掻いて足掻いて足掻いても。結果はこれなのか。
どうにもならないのか?どうにかできなかったのか?
「あぁ…」
ただ1人を救いたかった。周りなんてどうでもいい。ただ、あなたがいてくれれば、ただ、ただ、俺はあなただけを…
救いたかった!!!生きて欲しかった!!!
**と共に生きていたかった!!!
それ、なのに…
彼の視線の先には道端のゴミのように転がっている頭の無い死体。
訪れる虚無。
そして
「あああああああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああぁァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
絶叫。悲しみ、怒り、どす黒く濁った憎悪。その全てが篭った叫びが響く。
いつまでも、いつまでも、叫ぶ。声が枯れ、口からは血が吐き出され、胃の中を空っぽにしながら叫ぶ。
やがてその慟哭は止んだ。
「…………」
暗く昏い。何も写っていない虚ろな目。
だが、それでも視線は女の死体へ。
「………………」
「こ……ろ…………す。」
もはや声らしい声もでない掠れた喉で
「ころ……す…………こ……ろ…す。
ころす……ころす…………………殺す。」
呪詛を撒き散らす。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロス殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。」
「必ず殺す。」
「おい…いるんだろう?」
何もない空間に話し掛ける。
返事は返ってこない。
「チッ!まぁいい。どうせ聞いてるんだろうし。…お前の目的。手伝ってあげるよ。」
その言葉を発したと同時に
背後にナニカの気配がした。
「………君は…………ナンダ?」
ナニカから問われる。
「ハッ!そんなのどうでもいい事だろう?
お前の目的は1つのはずだ。その目的、僕も混ぜろ。」
「………」
ナニカは何も喋らない。
「だんまりか。なんだ?僕が怖いとか?
ハハハハハ!!!笑えないな。この地獄を創り出した張本人の癖に……まぁそれもあのゴミ屑に誘導されていたんだろうけど。」
「…………君が救われる事はないぞ?」
ナニカが言葉を発したと思ったら随分と素っ頓狂な事を。
「はぁ?なにを言ってんだか。
そんなのどうでもいい。
僕はもう決めたんだ。」
そう、決まった。
「神を…殺す。」
こんな自分をみたら、**、怒るだろうなぁ。でも。それでも。止まれない。もう止まることができない。この憎悪の矛先が、死にゆくまで。
これはあり得る未来。どこかであったかもしれない未来。希望のない、絶望で満たされた未来。
この未来の彼は……………
真に救われることはないだろう。