酷い揺れでした。
僕の体にすっぽりと収納された内蔵が口から飛び出るかと錯覚するほどの揺れと、すさまじいGでした。今、僕は白衣姿のままで真っ白い殺風景な狭い部屋に閉じ込められて、部屋ごと超高速回転させられています。
皆様が不快にならぬよう上品に言います。嘔吐物を撒き散らしました。
……上品でもなかったですね。でも露骨にゲロと言わなかっただけマシですよね。
とにかく、
乗り心地は最悪の一言でした。
研究者であり博士号も取った僕。素直に実験台にならずに記録係にまわればよかった。
後悔。ただそれだけ。
タイムマシンがこんな物だと知らされていれば、辞退したのに。
そもそも子供の夢を潰すような真似はしないで欲しい。普通タイムマシンといえば某青いたぬきが乗っていたようなものだろう。何故こんな何一つない真っ白で殺風景な部屋がタイムマシンなのだ。しかも人一人しか乗れないだなんて。
僕の純粋だった頃の夢を返せ。
しかも乗り心地最悪。
タイムマシンというより悪魔の箱とでも言いましょうか。
ああぁぁ……ゾンビみたいな奇声をあげても容赦はないなこの悪魔の箱。
中の様子を映すカメラもあまりの回転速度で転げ落ち、僕の嘔吐物を被っている。
モニターにはどう映っているだろうか。想像したら、また吐き気。
そして僕は嘔吐物と共に、ついには意識も体外に吐き出してしまうのでした。
気絶してからどれくらい経っただろうか。
起き上がる。
歩く。
こける。
三半規管の破壊には成功したようですね、博士。これからは拷問器具として売り捌きましょう。
それはさておき。部屋の中はなんという有様。辺りには汚物が散らばったり強力な遠心力によるGによって壁に付着して……地獄絵図。
さしもの僕も焦りましたよ。
すぐにドアに手を掛けましたよ。
そしてドアを開けましたよ。
「開いた……すみません、お忙しいところ失礼します。調停事務所の方から来たものですが……この建造物はどのような許可を得て建てられたのでしょうか?」
そしたら、金髪の超ロン毛で背が高い女が目の前に立っていました。現代ではちょっと古いカラフルな服を着て。
そしてロン毛ノッポの後ろに広がるはアルプス顔負けの山々。
何処だここ。
しばらく返事をせずにぽけっとしていると、ロン毛ノッポの顔がこわばってきた。相当緊張しているのでしょうか。
とりあえず信じたくない仮説がやっとこさ出来上がった所でロン毛ノッポに確認
「すみません。ここは一体どこですか? ……あ、それともう一つ。今は西暦何年ですか?」
ロン毛は怪訝そうな顔をしたあとにこう答えた。
「えーと……ここは楠の里の調停官事務所の真隣に突如現れたホワイトボックスルームです。しかし、西暦というもの以前に年号というものは、新人類である妖精さんの存在が認められた時点で廃止されていますよ? どうかいたしました……ってうわっ! 大丈夫ですか………」
ロン毛ノッポの声が遠のいていく。
これは夢だ。
そうさ夢。
悪い夢。
悪夢。
夢。
僕は情けないことに気絶しました。
これが、未来人との初めての接触でした。
初めての接触がなんと呆気ないことでしょうか。
これじゃ先が思いやられますね。