龍之介はあっけにとられていた。いきなり煙の中から背丈の高い人物が現れたこともそうだが、自分の目の前にいるのが、あの英雄ゼロであることに。特に期待していたのではない、しかしそれは龍之介が思っていた悪魔の姿とは、かけ離れていた。しばらくして頭をかいてから龍之介は自己紹介をすることにした。
「えーと、自分は雨生龍之介です。職業フリーター。好きなものは子供とか若い女とかです。・・・お兄さんは・・・ええと、ゼロ?」
龍之介が混乱しているのを知ってか知らずか、仮面の男はさらに言う。
「ふ、まさかこの時代に召喚されるとはな、難儀なものだ・・・龍之介とかいったか?お前が私のマスターで相違ないな?」
「ええと、お兄さん・・・マスターってなに?」
龍之介が先ほども耳にした言葉の意味を目の前の人物に尋ねる。
(!? ・・・まさか、こいつ・・・)
「お前、聖杯戦争のことをしらないのか?」
「せい・・・はい?」
何のことだかすぐにはわからず、龍之介は小首を傾げた。そういえば確かに、土蔵で見つけた書物にそのような内容が記述されてあった気がする。つまらない箇所なので読み飛ばしていたのだが。
「お前、魔術師ではないのか?」
「ま・・じゅつし!?」
さらに意味不明な単語によって龍之介の頭は完全に追いつかなくなった。
それを見た仮面の男が頭を抱える。
「我々が最後の一組か・・・情報戦での遅れは致命的と言っていい・・さらにマスターは魔術師の自覚がない、俺の武器も・・・つまりもうすでに我々は圧倒的不利な立場と言っていい・・」
仮面の男がなにやら思惑に耽っているのをみて、龍之介は相手と意思の疎通がとれていないことを理解したのだろう。
「あのさ、お兄さん・・・まあ、小難しい話は置いといて、サ」
龍之介は軽剽に手を振って、部屋の片隅に転がしてある子供を顎で指す。
「俺 趣味が人殺しなんですけど、とりあえず、一献どうですか。アレ、食べない?」
あるいはその提案は龍之介なりのフレンドリーシップだったのだろう。自分が悪魔として召喚しようとした人物への。
仮面の男はそれを聞くと縛り上げられた子供と龍之介とを見比べる。人間の血で描かれた魔法陣や死体の転がったあたりを見回し、周囲の状況を理解し終えると、なんのためらいもなく仮面をはずした。
「!!!!」
そこに現れたのは端正な顔立ち、美形な少年、それだけでなくその顔は、今や全世界を掌握し全世界から憎悪を向けられている人物、ルルーシュ.ヴィ.ブリタニア。その人であった。
「ええ!!ちょ・・マジで!!!ええ!・・・なんでゼロがルルーシュ・・・皇帝陛下!?」
龍之介がさらに混乱するのを尻目に、キャスターの目が禍々しく赤く光る。
「ルルーシュ.ヴィ.ブリタニアが命じる。貴様は私の奴隷となれ!」
発せられたのは絶対の命令。ギアス。人を操る禁断の力。
「__ああ、わかったよ。陛下。」
そうして、雨生龍之介という人物、人格、性格、理念、理想、目的、思い、のすべては破壊された。ここから先はキャスターの奴隷としての人生の始まりだった。
「陛下はやめろ、俺の正体がバレる。」
「そっか、わかったよ。旦那」
「・・・まあ、それでいい」
キャスターが納得すると、今度は床に転がった少年へと、目をむけた。
それまでの異様な光景、やりとりを見ていることしかできなかった男の子の瞳が__何度目になるだろう__恐怖におびえていた。キャスターが少年に向かって歩み寄ると、少年は必死の様子で身を捩った。
「__怖がらなくていい。」
キャスターは優しい声で男の子に語りかけると、男の子は暴れるのを止め、相手の表情を窺う。そしてキャスターは男の子に手を伸ばし、縛めのロープと口を封じていたガムテープを解いて外していく。
その様子を龍之介は何の感慨もなく見ていた。
「立てるか?」
まだ半分腰の抜けたような有様の男の子を助け起こす。少年は自分が助かるのか半信半疑のまま、目の前の男の顔を見る。男は悲痛そうに男の子を見つめ__
「いい子だ・・・それから__」
そして命じた。
「君は今日ここで起こったことを忘れるんだ。いいね?」
次の瞬間、男の子が気づくと病院のベッドに横たわっていた。そして看護婦が気づき警察が来て説明を受けるまで、自分とその家族に何が起こったのか男の子は知るよしもなかった。