キャスターは冷静に今の自分のおかれた状況を考察していた。自分が七番目のサーヴァントであること。自分がすでに聖杯戦争の序盤戦である諜報戦に出遅れてしまっていること。自分のクラスがキャスターであること。しかし、生前、魔術回路を持たなかった自分には魔術の心得がないこと。同じく魔術の心得がないマスター・・・龍之介のこと。
キャスターがいるマンションの一室、そこはまさに地獄と言ってよかった。リビングにはこの一室の持ち主たちであったであろう死体が何体も転がり、壁にはその者達が血しぶきを上げた跡があり、床には自分を召喚するために人の血で描かれた魔法陣があった。正直、その惨状にキャスターは激しい憤りを感じたし、だからこそ問答言わさずギアスをかけたのだ。龍之介以外に唯一生きている人間であるこの家の子供にもギアスをかけた。ゼロの正体を知られたとあっては、仕方のない処置だったが、結果的には男の子は救われたのであろう、家族が目の前で血祭をあげる様を一生忘れられるのだから。男の子はまだ目覚めない。おそらく、明け方まで起きないだろう。子供の処置は後で考えるとして・・・キャスターは自分の奴隷であり自分のマスターである、雨生龍之介のことを考えた。
(自分のマスターにギアスをかけて俺の奴隷とする・・・まず、第一条件はクリアか・・・)
ギアスの効果は生前と変わらなかった。いや決めつけるのは早計だろう、これからギアスの効果や制限を早急に確認しなければならない。一番重要なのは、果たしてサーヴァントにギアスがかかるのかと言うこと。もしかかるのならば、キャスターはほぼ勝利を手にしたと言っていいだろう。他の六人全員と向き合って、ただギアスをかけて自害させればいいのだから・・・
しかし、そう楽観的に考えてしまうのは危険だ。もし効かなければ、自分は無防備のまま過去の英霊と向かうはめになり、確実に殺される。そのためにも、最初は慎重に策を練ってくしかない。
(だが、まさか殺人鬼が俺のマスターになるとはな・・・)
自雨生龍之介を見つめる。龍之介はキャスターの命令により部屋の証拠隠滅に取り掛かっていた。おそらくこれまでも、同じようなことをしていたのであろう。その手際は鮮やかと言ってよかった。__いや、決して褒められたことではないが。
キャスターはテレビを見ていた。ニュースではフユキで起こった連続殺人事件について報道していた。その事件現場には、なにやら紋様のようなものが人の血で描かれていることを報じていた。警察は血眼になって犯人を捜しているだろう。おそらくその犯人にであろう自分のマスター、龍之介に確認をとると、
「へへっ、ちょっとやりすぎちゃった。やっぱり就寝中の一家皆殺しはセンセーショナルすぎたかも。あはははは」
とまるで天使のような笑顔で言うので、キャスターは頭が痛くなる。
(こんなキテレツな有名人と組まなくてはいけないのか・・・)
___そして、次のニュースが流れる、『偉大なる皇帝ルルーシュ陛下に逆らった愚か者たち』を公開処刑にかける見せしめの映像____
(・・・そういえば、この時代では俺も有名人だったな・・・)
ふふ、と嘲るようにキャスターは笑う。先ほどまでは、殺人者に対して罵詈雑言を投げかけていたコメンテーターが反逆者の処刑の報道になった途端に、手のひらを返したかのようにルルーシュを称賛する様は、見ていて滑稽であった。
そして有名度だけで言ったら、田舎の陳腐な殺人鬼など、今や世界の注目の的であるルルーシュにはとうてい敵わない。
(実体化して、おおっぴらに街を歩くことはできないな・・・しかたない、しばらくは、あの龍之介とかいう男を駒として動かすしかないか・・しかし、ここまで劣勢だと、あのカードを切るしか・・・できれば、巻き込みたくなかったが・・・)
しばらく思惑に耽り、そして当面の目標を定める。キャスターは__ここの父親の書斎であろう__部屋に入りそこにあったパソコンの電源をつけ、ここフユキの地図を調べる。
「旦那!なにやっての!?」
片づけが一段落した龍之介がキャスターの横から覗き込む。
「拠点探しだ。まずは寝るところがないと戦うにも戦えないだろ。こんな場所では睡眠すらできない。」
キャスターがリビングを指していう。
「たたかう・・って、旦那の言っていたせいはいせんそう・・だっけ?最後まで勝ち残ればなんでも願いが叶うっていう・・・」
「そうだ。おまえは何か叶えたい願いはあるか?龍之介」
今はキャスターの絶対支配下である龍之介だが、キャスターは念のため聞いておくことにした。
「俺!?・・・ん~~特にないかな。だって俺いま旦那にこき使われているだけでいいもん。そういう、旦那は?なにか叶えたい願いがあるの?」
その回答は以前の龍之介のあり方とはまったく食い違ったものであった。キャスターはその顔を一目見てから_
「そうだな。俺の願いは_______」
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____フユキ教会_____
言峰璃正は__表向きは専任司祭という形で、裏ではフユキで行われる聖杯戦争の監督役として__ここフユキ教会に派遣されている。
その手元には、“霊器盤”と呼ばれる魔導器があった。これは聖杯が招いた英霊の属性を表示するものである。マスターの身元は個々の申告によってしか確かめるしかないが、現界したサーヴァントの数とそのクラスについては、召喚がどこで行われようと、この“霊器盤”によって監督役の把握するところとなる。その“霊器盤”がキャスターのクラスが現界したことを示していた。
璃正は通信機を取り出し、番号を打ち込んだ。
Rrrrrrrrrrrrrr
『・・・はい、父上。』
出たのは彼の息子、綺礼である。
「綺礼、今宵最後のサーヴァントが現界した。これで此度の聖杯戦争のサーヴァントはすべて出揃った。」
『そうですか・・・いよいよですね。』
「例の作戦においてだが・・遠坂邸を監視している使い魔は?」
『はい・・・アサシンによりますと気配の異なるものが四種類だそうです。すくなくとも四人のマスターが監視しているものと・・』
「ふむ・・一人足らんか。」
『おそらく、キャスターのマスターでないかと。』
「ふむ、では使い魔の監視が追加された時点で作戦を実行に、三日経っても追加されないようなら、かまわん、作戦を実行せよ。」
『はい、わかりました。では、そのように・・』
__そこで通信は切れた。
(どうやらこの老骨も、今度こそ奇跡の成就を見届けられそうだな)
言峰璃正はつぶやく
「・・・いよいよ、始まるか・・・第四次聖杯戦争が・・・」