常識人は衰退しました   作:makky

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だいじゅうわでしたか?

 一夜明けて修学旅行2日目

 

 麻帆良学園女子中等部3-Aは宿泊している旅館で朝食を摂っていた

 

「うー昨日の清水寺の滝からの記憶がありませんわ」

 

 若干疲れた表情で朝食を摂るのはこの暴走クラス最高のストッパーにしてショタコ…失礼、子ども好きの委員長『雪広あやか』

 昨日清水寺の音羽の滝で不幸にもお酒を飲んでしまい、1日の半分ほどをつぶしてしまった被害者の1人である

 

「せっかく旅行の初日の夜だったのにくやしーっ」

 

 その隣で悔しそうに話すのは父親が麻帆良学園で教師をしている『明石裕奈』

 彼女もまた何者かによって仕組まれた非道()な罠の犠牲者である

 

「今日こそはネギ先生と一緒に――と言いたいところなんですが…」

「あー…うん、言いたいことなんとなく分かる、かな…」

 

 ちらりと2人が目を見やると

 

「……」

 

 目の下に隈を作り、なんとも弱々しい手つきで食事をするクラスメート『長谷川千雨』がいた

 

「は、長谷川さん?何と言いますかその…あまり気分が優れない様子ですが…」

「…あぁ委員長か、大丈夫ただの寝不足だよ」

「いや無理があるでしょそれは?!」

 

 微妙に身体を前後させ、なんとも不気味な彼女の様子に周りのクラスメートたちも声を掛けてよいのかどうか悩んでいた

 

「朝食食べれば元に戻るから…今日の班別行動には問題なく参加できる…心配しないでくれ」

「いえ…まぁ、あまり無理をなされないように…」

 

 本人が大丈夫と言っても全く信用できない様子であり、さしもの委員長も困惑せざるを得なかった

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 結局あの後一睡もできずに夜を明かした

 あの西洋風剣士余計なことしてきやがって

 幸いあの後旅館に襲撃はなかったからよかったものの、委員長たちに心配かけちまった

 

 今日はいよいよ修学旅行のメインイベントの1つ『班別行動』だ

 

 奈良公園を中心として自由に散策するが…あの委員長のことだ、ネギ先生たちと一緒に行動するとか言い出しそうではある

 

 とはいってもほとんどの班が奈良公園に立ち寄るのだから、問題ないと思うが

 

 なんだかんだ言って人生初の奈良観光だ

 せめて今日くらいは平穏無事に終わってほしい

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 出発までにネギ先生がクラスメートにお誘いを受ける以外特に変わったこともなく、あたしたちは無事に奈良公園へと到着した

 テレビや旅行雑誌に載っていた鹿の群れと、非常にうれしくないクラスメートが出迎えてくれた

 

「ここに来るのも随分久しぶりだ、アイツを追ってこの国に来た時以来だから…16年振りか」

「へーそうなんだな何を言ってるのかよく分かんねーけどよかったなありがとうお前の班はあっちだろうがなんであたしのとこに来るんだよ!!」

「ここに鹿がいるからだが?」

 

 いけしゃあしゃあと言いやがって…!

 

「実際ここにたくさん集まっているんだから仕方ないだろうが、ほーら食え食え」

「あっちにだっているだろうが、態々横に来てんじゃねぇよ」

「つれないなぁ、クラスメートとの親睦を深めようと思ってきているというのに」

「あたし以外のクラスメートとまともに話してねぇじゃねぇかよ!」

 

 先日の大停電の日以来ほとんど接触していなかったマクダウェルの奴は、この修学旅行中はやたらとあたしに接触してくる

 幸いほとんどのクラスメートはネギ先生のところに集まっているので、ここにはあたしとマクダウェル、そして絡繰しかいない

 

「ケケケ、ソウ言ウオ前ダッテ他ノ奴ト殆ド話シテネェミタイダガナ?」

 

 …絡繰が抱えているカバンから、見覚えのある人形が話しかけてきているような気がするが気のせいだ、うん

 

「コノ前ハ不戦敗ダッタカラナ、ソノウチリベンジサセテモラウゼ」

「だそうだ、よかったなチャチャゼロに気に入られたぞ」

 

 こいつら…

 

「あぁそうそう、一つ言っておかなければならんことがあってな」

「…何だよ一体」

「あしたの班行動、ぼーや達と一緒にすることにしたのでな」

「いやだからそういうことをあたしに言うなと――」

「大きく動くぞ、明日間違いなく」

 

 ピシャリとそう言い放つマクダウェル

 

「お前も、無関係ではいられなくなるかもしれん…それだけは覚悟しておけ」

「…なんでだよ」

「前にも言ったがな、お前は目立つんだよ」

「それが分かんねぇっつーの」

 

 まあ気を付けろよと持っていた鹿せんべいをあたしに押しつけてきた

 

「ちょ…」

「残りのせんべいは任せる、じゃあな」

「おま、今渡されると…あ、こら寄ってくるんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 のわあああああぁぁぁぁぁあたししかせんべい持ってねぇから周りの鹿全部寄ってきやがる!!あっちいけぇ!!

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ひ、酷い目にあったぜ…」

 

 あの後持っていた鹿せんべい全部食べられるまで鹿に群がられ、悪い意味で忘れられない思い出ができた

 

「いつか仕返ししてやる…」

 

 沸々と復讐を心に誓い旅館に戻ってくると、ロビーでネギ先生が頭を抱えたり四つん這いになったり床を転がったりと奇妙なことをしていた

 どうやらほかのクラスメートも気になったようで声を掛けたんだが…

 

「告白…告白ねぇ」

 

 動揺してはいたが聞いた限り誰かに告白されたらしい

 誰にされたかは言わなかったが、まあここで出てきてしまったのが

 

「学園報道部突撃班にして3-A公式カメラマン朝倉和美にお任せあれ!!スクープあらば即参上!」

 

 知ってた

 …心の中でこっそり「出歯亀パパラッチ」と呼んでいることは秘密にしておこう

 

 つっても今のネギ先生に告白しそうなの、今朝勇気を振り絞って班別行動のお誘いしていたあいつ位なもんじゃね?

 むしろ他に該当者が思い浮かばないんだが

 

 というわけで朝倉は取材に向かっていった

 

 …なぜかその後ネギ先生と一緒に風呂入っていたとかでクラスメートの鉄拳制裁食らっていたが

 

「何やってんだあいつ…」

 

 碌でもないこと企んでいたのか知らんが、心の底からどうでもいいことには違いない

 今日は疲れた、早いとこ休むことにしよう――

 

 

 

「――ではゲーム開始!!」

 

 それがどうしてこうなった

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 状況を整理しよう

 昨夜と打って変わって大騒ぎしてしまった3-Aクラス

 案の定引率で来ていた学園広域生活指導員の新田先生に注意を受ける

 そして朝まで各班の部屋からの退出禁止令が下り

 突然朝倉が言い出した「くちびる争奪!!修学旅行でネギ先生とラブラブキッス大作戦♡」に委員長のパートナーとして駆り出された

 

 うん、全く意味が分からん

 

 おかしいな?部屋からの退出禁止令が出ているのにな?

 

 つーか委員長が率先して禁止事項に参加すんじゃねーよ…

 

 ルール説明?真面目に取り組む気無いから話半分で聞き流したが?

 枕で相手をノックアウトしろって言うのだけは分かった

 

 …まあどうにも唯々ゲームで盛り上がろうっていう魂胆ではなさそうだが

 

 さて肝心の参加者なんだが

 

 1班代表:鳴滝風香  鳴滝史伽

 2班代表:古菲    長瀬楓

 3班代表:雪広あやか 長谷川千雨

 4班代表:明石裕奈  佐々木まき絵

 5班代表:綾瀬夕映  宮崎のどか

 6班代表:不参加

 

 …まぁ…なんだ…

 これもう2班の優勝でいいんじゃねーの?

 

 

(にんげんさんふぁいとですぞ)

(しかしごうかけいひんとはいったいなんでしょうな?)

(おかしですととてもはっぴー)

(断言するがお菓子ではねーぞ)

(それはざんねんです…)

 

 あの朝倉がお菓子で釣るなんて考えられねぇからな

 というかマクダウェル達の班不参加だし

 

「そういうところはちゃっかりしてるよなぁあいつら…」

「千雨さん!もうゲームは始まってますわよ!しっかり周りを注意してくださいまし!」

「へーへー・・・」

 

 委員長はもうネギ先生とキスすることしか頭にねーみたいだし

 目的地はネギ先生のいる教員部屋

 他の班の代表も間違いなく教員部屋に向かうだろう

 …行き方に違いはあれど

 

 猛烈に帰りたいと思いながら、どこか隙を見て抜け出す決意をしていると

 

 廊下の曲がり角で4班代表に遭遇した

 

「――っ!いいんちょ!?」

「まき絵さん、勝負ですわっ!!」

 

 早速戦闘を開始する委員長と佐々木の2人

 

 初撃はお互いいい感じに顔面にあたり相打ち

 そのまま後ろで待機していた明石が委員長にとどめを刺そうとしたので足を引っかけて転ばせておく

 

(ま、参加した以上最低限は働くけどな)

 

 そんな風に考えていたら階段の方から何やら足音が

 見てみると優勝候補の2班代表古菲がこちらに向かってきていた

 

 両手と左足、そして口に枕を咥えて

 

「あっぶねぇ!!」

 

 ギリギリで避けはしたが委員長と明石が枕の餌食になる

 

 そのまま三つ巴の乱戦を始め、手出しができなくなる

 

「あーあ、どうすんだよこれ」

「いやはや、古はああなると周りが見えなくなるでござるからな」

 

 だったらどうにかしろ似非忍者

 

「…ん?」

 

 どったんばったん大騒ぎをしていると、奥の方から足音が聞こえる

 

「おーっと新田先生のお出ましかなこりゃ」

「え、ほんと?」

「逃げますわよ皆さん!」

 

 蜘蛛の子を散らすように逃げていくが、古菲が逃げる時跳び箱の要領で明石を踏み台にしてしまい第一犠牲者となってしまった

 

 そしていい感じに委員長たちとはぐれたので離脱を決意

 すまないな委員長、だが必要最低限度の仕事はこなしたぜ

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 …どうやら今日はあたしにとっての厄日だったようだ

 

 新田先生の監視網を抜けて自室に戻る

 修正の必要もないほど完璧な計画だったのに

 なのに…なのに…

 

「千雨さん…」

「あー…」

 

 もうちょっとで帰り着くって時に廊下でばったりと出会ってしまった

 

「キスしても…いいですか?」

 

 …見る奴が見れば大層ロマンチックなシチュエーションだ

 ロマンチックすぎて狂喜乱舞するくらいには

 

「…まあそういう小説を読んだこともあるにはあるけどなぁ」

 

 一体全体どうしてこうなったのかさっぱりわからねぇが

 

「ま、やることは1つってな」

 

 そのまま先生の前に行き――

 

「千雨さ――」

「そういうのは、10年早いぜ先生?」

 

 右手に持っていた枕で思いっきりはたき倒してやった

 

「って言ってもあたしとそんなに変わんねーんだけどな」

 

 倒れたネギ先生()()が何かを言って爆発する

 

 

 

 

『ちさめちゃん!』

 

 

 

「――あたしもいつか、また誰かを信じることができるようになれるかな」

 

 

 

 小さくそう呟いて、今度こそ自室へと向かって歩き始める

 

 夜はまだ更け始めたばかり――

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 結果から言おう、あたしは幸い新田先生につかまらずに済んだ

 あれ以外にもネギ先生擬きが5人現れていたようで、他の参加メンバーとの間で色々とあったらしい

 そして最終的に勝者なし――かと思ったら最後の最後に大どんでん返し、と言う程ではないが宮崎が見事キスをして単独優勝

 

 ――まあそのあとネギ先生と今回の主犯朝倉と一緒に朝まで正座コース強制参加となったわけだが

 

 さすがに新田先生もそこまで鬼ではなかったようで、日付が変わって1時を回る前頃には全員を部屋に帰していた

 朝まで正座させていると翌日の自由行動に響くと判断したのだろう

 鬼にも血と涙は流れていたって感じか

 

「さて、今日は自由行動だが…」

 

 委員長たちはシネマ村に行きたいとか言っていたな

 

「つーことは京都散策が中心か…うーん」

 

 あたしだって京都は初めてなんだ、色々と見て回りたい

 

「しかしシネマ村によるとなると結構時間食うよなぁ…行きたいところ絞ってぇ?!」

 

 強烈な頭部への痛みと視界に散りばめられる光に思考が中断する

 

「いっっっ……てぇぇぇぇぇ……」

 

 何かに頭をぶつけてしまったらしい

 

「あ、あうう…お、お星さまが見えますぅ…」

「おおおぉぉぉ…そ、その声は宮崎か…すまん前をよく見ていなかった」

 

 壁際に立っていた宮崎に気が付かずぶつかっちまったらしい

 

「は、長谷川さん…い、いえ…私も不注意でした」

「大丈夫か、怪我してねぇか?」

「だ、だいじょうぶです」

 

 お互い頭を押さえながら話す

 

「本当に悪かった宮崎…ん?何持ってるんだそれ?」

「え?!えぇっとそのぉ何と言うか…」

 

 なんだか非常に歯切れが悪い

 

「あ、悪いちょっと気になっただけだ、無理して答えなくていい」

「は、はい」

 

 とか言ってると反対側から綾瀬がやってくるのが見える

 

「ほんと悪かったじゃあな」

「あっ…」

「どうしたのですかのどか」

「あっ夕映…」

 

 後ろから聞こえてくる話に耳を傾けず、あたしは委員長たちの下へと急いだ

 

 

 ――ああ、そうだ

 この時、気が付いていればよかったんだ

 大事な大事な落とし物に――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんがすきなにんげんさんです?」

 

「え…?」

 

 

 

 

 

 




(・ワ・)きょうもいりゅうぶつこーなーはおやすみです

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