(・ワ・)ときのながれというのははやいものですな
(・ワ・)だからものをなげないでほしいです
~~ネギたちが炫毘古社で犬耳の少年―犬上小太郎と戦っていたころ~~
(最悪だ…)
冷や汗を流しながらあたしはこの現状を憂いていた
昨日奈良でエヴァンジェリンが言っていたように、ネギ先生は何か別の用事で動いていてそれに神楽坂もついて行ったようだ
あたし自身はそれにかかわるつもりは全くなかったからあたしの班――3班と一緒に太秦シネマ村へと来ていた
映画の撮影に使われるセットや小道具なんかがあって(自分で言うのもあれだが)珍しく楽しんでいた
――ネギ先生と神楽坂、あと宮崎のいない5班とついでに桜咲に遭遇しなければこのまま1日を無事に終えられたと思うくらいには
6班にいるはずの桜咲がここにいる理由は1つ、間違いなく近衛の護衛だろう
ネギ先生がいない以上どうあっても近衛のそばに誰かがいなければならない
つい一昨日誘拐されかけたのだから当然と言えば当然だ
とは言ったものの――
「このか様をかけて決闘を申し込ませて頂きます――30分後場所はシネマ村正門横『日本橋』にて――」
さすがにその誘拐犯一味の1人が白昼堂々近衛をよこせと言ってくるとは思わなかった
(見つかるわけにはいかねぇな…)
物陰から見ていた3班のさらに後ろからこっそりと現場を覗き見てそう思う
ただでさえあの時こちらに気が付いた素振りを思いきり見せてきた相手の目の前に出ていくなんて自殺行為でしかない
幸いあのメガネ剣士は近衛と桜咲にしか興味がないようでこちらを見る様子はない
ひとまず安心だが、この後起こるであろう事に考えを巡らせると頭痛がしてくる
(委員長や早乙女が近衛のピンチを見逃すわけねぇし、朝倉がこんな面白そうなことに関わらないなんてことはもっとあり得ねぇし…)
「逃げたらあきまへんえー…『刹那先輩』♡」
一通り伝えることは伝えたのかメガネ剣士はくるりと乗ってきた馬車に向かう
それを見届けてあたしは小さく溜息を吐く
気が付かれていないーー思わず出た安心の溜息
――ぞわりと背筋が何かをなでる
「――――ッ!!」
思わず叫びそうになるのを堪え、目線だけを戻せば――
――瞳孔の開ききった眼で回りを見渡すメガネ剣士がいた
「…なんだ?」
桜咲が怪訝そうに問いかける
「いえ…別件で探している方がおりまして、近くに居りはるような気がしたんですが」
"気のせいでしたわー"とにこやかな笑顔のまま乗ってきた馬車に乗り込み、今度こそメガネ剣士は離れていった
「……ッはぁッはぁッはぁッ」
一般人相手にしていい目じゃねぇだろうがクソ!
完全にターゲットにされている事実に冷や汗が止まらないが、顔も性別もましてや桜咲や近衛と同じ学校の生徒ということもバレていないのは不幸中の幸いだった
修学旅行中に面と向かって遭遇するようなことがなければ何とかなるだろう
というか何とかならないとあたしの人生が終わる、何としても避けなければ
――後ろで桜咲と近衛の関係を勘違いして盛り上がっているクラスメートたちをしり目に、あたしはそう決心した
――――――――――――――――――――
「ぬおぉぉぉぉぉおおおおおお!!ふざけんなよマジで!!」
決心はもろくも崩れ去ろうとしていた、主に変態妖怪のせいで
見つからないようにとは言ったものの、さすがに桜咲や近衛を見捨ててそのまま逃げるというのは後味が悪すぎる
何かあったら遺留物で手助けを、と思い後ろのほうからこっそり覗いていたのだが――
「何が百鬼夜行だ!!流れるように非常識なことしてんじゃねぇぞ!!」
ここは麻帆良じゃなくて京都だぞ!!一般人の目の前で何やってんだあのメガネ剣士!!
…いや麻帆良でもダメだろ!!混乱して変なこと考えてねぇかあたし?!
何が起こったかと聞かれればあのメガネ剣士、桜咲と一対一の決闘をするために他メンバー足止め用として妖怪(かなりデフォルメされている)をどこからともなく呼び寄せやがった
しかもなぜかそいつらがスカートめくりをしてくる、なんでそんなスケベな奴呼び寄せてんだよ!!
「いいんちょがヤラれたーー!?みんなーー弔い合戦だよーー!!」
早乙女が告げたクラスメート最大戦力退場の知らせに、着物をめくろうとしてきた妖怪を蹴り飛ばしながらあたしは頭を抱えそうになる
いつの間にか隣にいたレイニーデイも一緒になって妖怪を退治して――おい妖怪でジャグリングするな、ほんと器用だな
橋の上はすでに大乱戦、襲い掛かってくる妖怪をクラスメートたちが投げ飛ばしたり模造刀で殴ったり――
――そんなカオスな現場とは真逆に、剣士2人の戦いは熾烈なものだった
互いに得物――おそらく真剣だろう――を振りかざし斬りあう
素人のあたしじゃ目で追うのが精いっぱいの動き
近衛をめぐってここまで熾烈な戦いを――ってあれ?
「おい、近衛はどこ行った?」
いつの間にか渦中の近衛がいなくなっていることに気が付いた
まさかメガネ剣士の仲間に――?!
――ツンツン
「んぁ?」
後ろからレイニーデイがつついてくる
「あそこ」
「え?――あぁっ!?」
レイニーデイが少し離れた天守閣の上を指さしたので見てみれば――
――先日近衛をさらった長髪の女の妖怪が近衛とネギ先生に弓矢を向けている場面だった
「は?え?なんでネギ先生が…?いやそれより!」
マクダウェルと一緒に別行動しているはずのネギ先生がいることもおかしいが、それ以上に状況が非常にピンチだ
(なにやらふわふわしていますな)
(そこにいるけどいないてきな)
(ほんとうはべつのばしょにいていしきだけここにいるかんじ)
(えんきょりつうしんみたいですな)
あいつらが頭の中で話し合っているが今はそれどころじゃねぇ
(くそっ何とかしねぇと近衛とネギ先生どっちもやられちまうぞ!!)
だが今遺留物を出せば高確率で隣にいるレイニーデイにバレる、そのリスクを冒す覚悟が――
(――だぁぁああ!!悩んでる場合じゃねぇだろ!!)
――そんな猶予はどこにもなかった
(おい!!なんか無いのか!!あそこにいる2人を助けられる遺留物!!)
(むずかしいちゅうもんですな)
(となりのかたにはばれないほうがいいかんじ?)
(にんげんさんてきにはそのほうがいいかんじ)
(それならいいかんじのやつあります)
(にんげんさんにがんばってもらいますけどなんとかなるかんじ?)
(あんがいうまくいくかもかも)
そう言うといつも通りあたしの手の中に遺留物が現れる
円形の薄い物体、真ん中に四角状の穴が開いていて――
(…小銭?)
(そのなも『なげせん』)
(ひょいっとなげればひゃっぱつひゃくちゅう)
(なげてもかえってくるのであんしんあんぜん)
(いまだけおとくにろくまいせっと)
(六文銭じゃねぇか!!縁起でもねぇ!!)
だが今一番欲しい遺留物だ、これを使えば――
「――あ」
――それが自分から漏れた声だと認識した
屋根の上に立った近衛とネギ先生が風でよろめく
それを見た妖怪が、矢を放つ
一瞬の出来事、考えをまとめるより早くあたしは
――遺留物を思いっきり放り投げた
(――あーあ、何やってんだろあたし)
あれだけ関わり合いになるのを避けておきながら
あれだけ目立つことを忌避しながら
あれだけ――陰に隠れることを良しとしておきながら
現実はこれだ、クラスメートのためとはいえ、あっさりと自分の決心を放り投げて
きっとあたしが何かしなくても世界は変わらないのに
きっとあたしが黙っていても世界は回り続けるのに
――見過ごすことなんてできなかった
お人よしが過ぎるな、なんて自分を冷笑して
飛んで行った古銭が矢にあたりわずかに軌道がそれる
だが完全に勢いを止めることは叶わず
ネギ先生の右手を貫いて
近衛の右足に向かって飛んでいき
桜咲が身代わりとなって貫かれ――
――奇跡が起きた
――――――――――――――――――――
自分のしたことに意味があったのか――きっと大した意味なんてなかったのだろう
あの後矢を受け止めて天守閣から落ちていく桜咲を追って近衛は飛び降りた
そしてまばゆい光を放って――2人は何事もなかったかのように着地した
何が起こったのかさっぱりわからなかったが、つまりは近衛も
隣にいたレイニーデイに何かを聞かれるのを嫌って、あたしは歓声を上げる観光客に紛れて現場から逃げ出した
――心の整理がつかない
中途半端に踏み込んでいい恰好しようとして
それが大した意味のなかった行為なんだと自覚してしまい
結局あたしはどこまで行っても半端者なのだろうかと勝手に落ち込んで
(いやーおどろきましたな)
(けがをあっさりなおしてしまうとは)
(ちめいしょうはさけていたっぽい?)
(しかしいたいことにかわりはないですな)
(ぴかぴかひかるとにんげんさんはけががなおるです?)
こんな時でも能天気にさっきの光景の考察してやがる
お気楽な性格が今はうらやましく――
「――あ?」
――突然違和感を感じた
なんだ?何かが違う?
普段のこいつらと何かが――
「――おい、ちょっと待て」
頭の中に複数いても、だれが何を言っているのかは分かる
だから、今更それに気が付いたことに――
「クリストファーはどうした?」
――自分の愚かさを痛感せずにはいられなかった
『投げ銭』
昔使われていた古銭をかたどった遺留物
形状としては寛永通宝が最も近いが表面、裏面ともに無地
投げると狙ったところに必ず飛んでいき、そして返ってくる
作中ではサービスとして6枚組で渡されたがもともと6枚1セットでの運用を想定して開発された、らしい