(・ワ・)ですがたぶんばんがいへんをいちわはさむかのうせいがのうこうです
『…………』
『いつになくむずかしそうなかおをしてます』
『あたらしいおかしのことをかんがえているのかもしれません』
『もっとおいしいおかしがでてくるかもしれないということです?』
『…はぁ…』
『こんどはためいきがでました』
『よほどおいしいおかしのけいかくをたてているということですか』
『これはきたいがふくらみますな』
『受け入れたくねぇ…こんな常識とは程遠い現実…』
――いつからだろう、こいつらと話すのがいつものことになったのは
――お菓子を作るのが当たり前になったのは
――こいつらに頼られて悪い気がしなくなったのは
見て見ぬふりをしてきた麻帆良という町の異常性
そんなものが霞んで見えるような非常識な存在
こいつらのことを受け入れている自分も、本当はそっち側だったのかと悩むことも多かった
――でも、なんだろうな
『…今日は久しぶりにスコーンでも作るか』
『おーにんげんさんのはじめてのおかし!』
『こんかいもきびしくさいてんするです』
『やはりきたいしてただしかったです』
こんな生活も、悪くはないな――
――――――――――――
夜空を切り裂き、それは飛び続ける
ガンナーと中国武術娘、数多の鬼たちの上を
くノ一忍者と犬神少年の上を
そして――世界を滅ぼしつつある鬼神とそれに相対する少年少女の元へ
「…マスター」
「どうした茶々丸!」
「不明な物体が接近しています」
「不明な物体?!」
それは何だと聞き返す間もなく――
――轟音とともにそれは舞台に突き刺さった
「わぁあああ!!」
「な、何事っすか?!」
水飛沫と舞台の破片が降り注ぐ、右手を抑えたネギと肩に乗ってるカモが叫び声をあげる
「な、何よ一体…痛いわね!」
思わずしりもちをついてしまった明日菜、悪態をつきながら顔を上げる
「…おっきな剣?」
――そこにあったのは刀身をむき出しにして突き刺さっている西洋剣だった
『おい!!聞こえてるか?!聞こえてる前提で話すぞ!!』
「え、ええええ?!け、剣が喋った?!」
『ちげぇよ剣が喋るわけ…いやもうそれでいい!!とにかく話を聞け!!』
剣が話しかけている(よく見ると柄の部分に一枚の紙が付いていてそれが喋っているようだが)という状況に混乱する明日菜だったが、声の主はそれを無視して話を進める
『いいか?時間がないから一回しか言わないぞ!』
「いきなり何よアンタ!目の前に突き刺さったと思ったら話しかけてきて!」
『時間がねぇっつってんだろうが!!このくだりやるのも無駄なんだよ?!』
「…茶々丸」
「魔力の類は検出されません、おそらく電子的な通信技術を使って通話しているものかと」
「発生源は…聞くまでもないか、あいつの差し金なら尚更な」
あえて首を突っ込むのか?らしくないな、とエヴァンジェリンは声の主であろう友と呼ぶ少女を思い浮かべる
『今目の前に突き刺さってる剣を抜け!!そしてあいつを思いっきりぶった斬るんだ!!』
「できるわけないでしょあんなおっきな怪物!!ぺちーんって跳ね返されるだけよ!!」
『――
「――あーもう!!意味わかんないけどやればいいんで、しょ!!」
言い合いの果てに声の迫力に気圧され、明日菜は突き刺さった剣を引き抜いた
『テテレテーレーテッテレー』
「なんか効果音鳴ったんだけど?!」
『そういう仕様だ!』
「どういう趣味してんのよー!」
世界滅亡の危機だというのになにしているのかと、この場にいる全員(首謀者の天ヶ崎千草ですら)がそう思っていた
「もー!!どうなっても…知らないんだからねぇ!!」
引き抜いた剣を振りかぶり、光り輝くリョウメンスクナに斬りかかる
「――はへ?」
それは、難なくリョウメンスクナを斬れたことへの驚きか
斬ったリョウメンスクナが霧散するように消えていくことへの驚きか
重力に従って落ちていく自分の状況への驚きか
「あーーーーー!!」
絶叫と激しい着水音とともに、明日菜は湖へとダイブした
「わーアスナ!!」
「すごい勢いで落ちましたよ?!」
「あれ頭から落ちてなかった?明日菜大丈夫だと思うゆえっち?」
「…ただでさえこの状況を飲み込むのに脳をフル回転しているので、まともな返答は出来かねます朝倉さん」
「ゆ、ゆえー!しっかりしてー!」
「…マスター」
「くふ、くふふふ、あいつめ、とんでもないものを投げてよこしたものだな」
「なんや…なにが起こっとるんや…」
それまで神々しく光り輝いていたリョウメンスクナノカミは、まるで初めからそこにいなかったかのように消えつつあった
「あんたら一体何を…」
「…さぁな、聞いてもあいつは答えんだろうが――」
――とんでもないことを平然とやってのける知り合いがいるだけさ
「…あんたの呪いを解いたのも、その知り合いって事かい」
「答えないでおこう、あいつに嫌われるのは困るからな」
「はっ、もう答え言うとるがな」
「それで?まだ何か隠し玉があるなら早めに出しておけ」
「…もうなにもないわ、ウチの用意してた策は全部出し切ったわ」
「…お前の境遇がどういうものかは興味もないが、この私を出し抜いた手腕は認めてやろう」
「ほんま、いけすかん吸血鬼やわ…」
「まあ貴様は諦めても
自身の背後の水たまりから現れ、石化の魔法を放とうとしていた白髪の少年にエヴァンジェリンは掴み掛った
「え、エヴァンジェリンさん!!」
「こちらに構うな桜咲!!それより坊やをどうにかしろ!!」
「ね、ネギ先生を?」
「この小僧の石化の魔法を受けている!急がないと全身石になるぞ!」
「な?!しかし…」
「私ではどうすることもできん!!だが1人だけどうにかできるやつがいるだろう!!」
「!!そ、れは…」
「早くしろ桜咲!!」
「――っ」
「――おどろいた、あなたがそこまで他人を気遣う人物だとは知らなかった」
「生意気な口を利くなよ小僧、勝敗は決したのだから貴様にも洗いざらい吐いてもらうぞ、今ここでな」
「それは困るね、ここに来たのは下見のつもりなのだから」
「…やはり貴様裏に何か隠しているな?
「いいことを教えてあげよう
――世界はあなたが思うほどよくできてはいないのさ」
ぱしゃん、と――顔を掴まれたままでありながら、少年は水となって消え去った
「――――」
水滴のみが残った右手を眺めながら、エヴァンジェリンは苦虫を噛み潰したような顔をしていた
「始まりに過ぎないということか?どこの誰が…」
――思考を妨げるように明日菜たちが自身を呼ぶ声が聞こえてくる
「じじい、だけでは足りないか…最悪向こうのあいつにも話を持っていかんとな」
あいつと話すのは面倒なんだがな、と一人の男を思い浮かべながらエヴァンジェリンは明日菜たちの方へと向かった
――――――――――――
エヴァンジェリンが少年を掴み上げていた時、明日菜たちのパニックは頂点に達していた
「――このままではネギ先生は窒息してしまいます」
横たわり少しずつ半身が石化するネギを抱きかかえ、絡繰茶々丸はネギの状況を冷静に伝える
ネギ自身の魔法抵抗力の高さ故に全身が石化するのを防いでいたが、それがかえって石化の進行で窒息してしまう状況を生み出していた
「ど、どうにかできないの?!そうだエヴァちゃんなら何とか!!」
「…マスターは不死身です、そのため治癒系の魔法行使は不得手とおっしゃっていました」
「そんな!!」
「昼に着くっていう応援部隊なら治せるだろうが、間に合わねぇ!」
右往左往するしかない明日菜たち、そこに刹那が戻ってきて木乃香に何かを話していた
そんな彼女たちを遠巻きに見ていた合流組も状況がよくないのは理解していた
(ど、どうしましょう…このままじゃネギ先生が)
この修学旅行で正式に仮契約者となった少女、宮崎のどかは胸ポケットの中を覗き込む
(よ、妖精さん!!なにかありませんか?!)
(そういわれましてもいますぐつかえるものはないですなー)
こそこそとポケットの中の『妖精さん』と話すのどかだったが、残念ながらいい手を持ち合わせていないようだった
(さっき私たちを助けてくれた道具があればネギ先生を救えるんです!)
(むーたすけてくれたにんげんさんのおんにむくいたいのはやまやまですが、もちあわせがありませんでして)
どこか抜けている空気を醸し出す『妖精さん』に、のどかの必死な思いは伝わってはいた
しかし持っていた道具とやらも1つだけだったようで、どうすることもできないと返す
「――ウチ、ネギ君にちゅーしてもええ?」
「えぇ?」
「ぱくてぃおー、やったっけ?せっちゃんがそれならネギ君助けられるかもって…」
その話題が出た瞬間、思わずネギたちの方に顔を向けたのどか
その一瞬で胸ポケットに小さな穴が開いて――
「ぴ――」
「…あれ?妖精さん?」
――『妖精さん』は姿を消してしまった
そして同時に、リョウメンスクナを切り裂いた西洋剣も、誰にも気づかれずに消え去ってしまっていた
――――――――――――
事件の舞台となった湖から少し離れた森の中
地べたに膝をついて手鏡を覗いている少女がいた
ここまで走ってきたのか息を切らし汗を流していたが、それを気にも留めず一心不乱に『ハンドミラー』と呼ばれる遺留物を覗き込んでいた
足元には先ほど明日菜に送り付けた聖遺物『でんせつのつるぎ』と、それを運んだ『送り状』が置いてある
ふと少女の視線が止まる
間髪入れずにハンドミラーに手を入れ、そのまま引き抜くと
その手には小さな海賊帽のような帽子をかぶった小さな生き物が握られていた
「ぴーー!…あれ」
「もどってきましたです」
「どこであそびあるいていたです?」
「われわれしんぱいしました」
「でもにんげんさんにいわれるまできがつかなかったような」
「にんげんさんはわれわれをよくみておられますな」
周りにはその生き物と同じような――まるで妖精のような生き物があふれかえっていた
「……」
「に、にんげんさん」
握ったまま少女は何も言わない、俯いているためその妖精からは少女の顔も見えない
「れんらくしなかったのはもうしわけなかったです、でもわれわれでんぱにめっぽうよわいので――」
「……めん」
ぽたり、と地面に何かが落ちる
「ごめん…ごめんクリストファー…!!あたし…あたし、お前がいなくなってるのに気が付かなくて…あんな…あんな危険な目に巻き込まれているなんて思いもしなかった…!!」
少女――長谷川千雨は妖精『クリストファー』を握ったままただただ泣いて謝っていた
「いやーたしかにすごかったですな」
「せかいのきばんがゆらぐかんかく」
「しんせんでした」
「でももうあじわいたくはありませんね」
「おかしがたべられなくなるのはじゅうだいなそんしつですゆえ」
「にんげんさんにんげんさん」
「…うん」
「にんげんさんはなにもわるくないのです、じぶんもこうしてぶじにかえってこれましたので」
「うん…」
「ほんのすきなにんげんさんとのであいもいいものでした、これはいいけいけんになります」
「…ほんと、お人よしだよお前ら…」
「にんげんさんのおかしがまちどおしいのではやくかえりましょう」
「あぁ…帰ろう、みんなで」
大嫌いで、大好きなあの町に――
「…修学旅行は今日までだから帰り着くのは夕方になるけどな」
「「「「「の、のぞみがたたれた…」」」」」
「大げさだなまったく」
涙を拭い足に付いた土を払って、元来た道を戻りながら千雨は笑った
『でんせつのつるぎ』
鍛え上げられた西洋剣の見た目をした遺留物
魔王でさえ斬れるといううたい文句だが、一度地面に突き刺してから引き抜かないとなにも斬れないという制約がある
さらに一度斬ると元のなまくら剣に戻ってしまうので、正直使い勝手は悪い
『送り状』
宅配便に付けられる配達用のタグに似た遺留物
行き先を書いて思いっきりぶん投げると書いた場所に送ることができる
なお字が汚いと勢いよく戻ってくるらしい
『ハンドミラー』
手鏡状の遺留物
遠い場所が見え鏡に手を入れて物を掴むこともできる
ただし見える範囲は手鏡と同じなので、以前紹介した「うぉっちゃー」と組み合わせて使った方が効率がいい